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貴公子の争い

村長の家が月夜に占領されて数日、咲命の国の兵士がそれぞれ交代しながら村長の家を巡視している。

何度か村長が自分の家を解放するように兵士に伝えるも追い返され、村の男と兵士の間で軽いいざこざが起こるも家が解放されることは無かった。

その間月夜はと言うと、村の誰とも会うこともなければ村長の自宅から出てくることもなかった。

その姿を見たのは、惨劇が起こった日が最後であり安否すら分からない状態が続いている。

造もあれから家に篭もりっぱなしで村に顔を出すことは無かった。


村では暗い空気が流れ続け、造の家には花束がよく置かれていた。

そんなある日、また黄色の貴公子の1人が兵士を数名連れて、月夜を訪ねて村に訪問した。


「久しぶりだな、村長。息災か?月夜に逢いに来た。そなたの家に住んでいると聞いている。案内(あない)せえ。」


村長が貴公子を出迎えると月夜への案内を指示する。

村長は案内しても恐らく会えない、誰ともあれから会っていないと伝えるも問題ないと返し、家の前まで連れていくことを望んだ。


月夜が居る村長の家に着くと、巡視中の兵士に月夜に出てくるように伝えた。

巡視していた兵士は、村長の家の中に入っていくと、数分後に月夜が変わらぬ姿で家の中から出てきたのだ。


「月夜…!!無事じゃったのか!?」


村長はまさか本当に変わらぬ姿で出てくるとは思わなかったので驚いた。

月夜は、変わらず健康体のまま肌ツヤも良い状態だったが、やはり以前と中身は変わり果ててしまっている。

村長や周りには見向きもせず、黄色の貴公子の前まで歩いていき、変わらず単調な口調で話しかけはじめた。


「随分と時間のかかっているな?そなたが1番早いぞ。まだ誰も私の求めているものは持ってきておらんからな。さぁ、見せてみよ。そなたが持ってきたものが本物かどうか確かめよう。」


貴公子は自信ありげな様子で兵士に合図する。

後ろに控えていた兵士は布でおおわれた物を差し出すと、月夜がその布をどかした。

布の中には、少し形は歪な形をしているが、なんとも美しい輝きを放つ宝玉の玉があった。


「探すのに苦労したぞ。これがそなたの求めていた竜の首の玉で相違ない。さぁ、我が番となるがよい。」


嬉しそうに貴公子が月夜を眺めている中、月夜は冷静に宝玉に触れたり見たりして確認していた。

そして、数秒後月夜は若干ガッカリしたのが分かるような様子で貴公子に冷たく答えた。


「これが、竜の首の玉…?私を軽んじているのか?このゴミからは、なんのエネルギーも感じない!!こんなもの本物ではない!!」


口調は単調だったが、若干語尾が徐々に強くなっており、最近では珍しく怒りの感情を感じるような言い方だった。

黄色の貴公子は、そんな月夜を見ていたが引かなかった。それが本物であると言い張って譲らないのだ。

見かねた月夜は、話にならないと伝え村長の家に下がろうとするも黄色の貴公子が月夜の腕を掴み、動きを止めた。

すると、月夜の後ろに控えていた巡視中の兵士が黄色の貴公子に刀を抜く。


「…?なんの真似だ…?下級兵士ごときが私に刃を向けるとは。」


物凄い殺気を飛ばしながら黄色の貴公子が、兵士を睨みつける。貴公子の直属兵も後方から刃を抜いて一触即発の状況へと発展した。


「おやめ下さい。私は車持皇子様(くらもちこうし)(貴公子の1人)の命により、月夜様の護衛を任されております。これまでの状況を鑑みて、月夜様へのこれ以上の干渉は許されるものでは無いと判断いたしました。」


月夜には、貴公子達からそれぞれ公平に護衛用の兵士を数名ずつ付けられていた。

それは貴公子同士、月夜を番にする上での公平な戦いを望んでいたからだ。

誰一人抜けがけは許さない、力による支配を許さないという強い想いからそうなっている。

よって、今のこの状況下で月夜に手を出すことは貴公子達の公平性に掛ける横暴な行為であると巡視兵に判断された。

分かってはいるが、面白くない貴公子は生意気な巡視兵をこの場で処刑したくて仕方ない。


「私は何も不正はしていない。しかし、貴様は私を侮辱した。許し難き。車持皇子には事故で死んだと伝えよう。」


貴公子は、そういうと自らも剣を抜いて巡視兵に剣を向けた。

巡視兵には緊張が走る。他の貴公子の付けた巡視兵達も駆けつけて、もはや戦争でも起きるのではないかという状況にまで発展する。


「石作皇子様!!落ち着いてくださいませ!!我々はそれぞれ命を受けてここに居ます。明らかに先程の行動は貴公子様同士の盟約違反でございますぞ!!」


「黙れえええ!!!貴様ら、どいつもこいつも私の邪魔をする気か!!私はこやつの求める宝玉を持ってきた!!それで私の番ならぬ、こやつが悪いのだ!!!私の邪魔をするのであれば、貴様ら全員ここで打首にするぞ!!!」


怒号が飛び交う。もはや取り返しのつかない事態になり始めた時、馬の足音と共に石作達の後ろから大きな声が聞こえる。


「静まれえええ!!!互いに抜いた刀剣を戻すのだ!!車持皇子様(貴公子の1人)の参上であるぞ!!」


後ろを振り返ると、武装した兵士を引き連れた車持皇子が馬に乗りその場で状況を見ていた。

石作皇子達と巡視兵は車持皇子と目が合うとそれぞれ刀剣を収めた。

石作皇子は少し汗をかきながら、車持皇子とは目線を合わせない。

車持皇子は静かに馬からおりると、月夜達の方へ歩きながら石作皇子を牽制する。


「月夜姫との取引については、我々の中で盟約があったと思うが。我々の絆を無に帰すつもりですかな?これは、実に由々しき事態だと思うのだが。石作皇子、どうお考えだ?」


車持皇子は、冷静に笑顔で石作を問い詰める。

表情はニコニコしているが、目が笑っておらず、その心中は怒りで満たされているのがわかった。


「車持皇子、久しいですな…。すまなかった。私とした事が頭に血が登り、我を見失っていたらしい。許してくれ、友よ。」


冷静になった石作皇子は、自身の非を認めると謝罪をして大人しくなる。

場が収まった事で、双方の兵士たちの緊張状態も無くなり、次は車持皇子が月夜と話し始めた。


「お騒がせした。見目麗しい月夜姫よ、そなたが我々に課した課題。月夜姫の求める6つの宝物をそれぞれの貴公子が持っていくこと、1番早く本物を届けた者が月夜姫の番へとなる権利を有する。これはとても困難で難しいものでしたぞ?」


車持皇子も石作皇子同様に、月夜に課せられていた宝物の1つを持ってきているようだった。


「フン…。それで、持ってきたのか?先程の奴と同様に偽物で私の貴重な時間を使わせるでないぞ?私はそなたに火鼠の衣を用意するように伝えたと思うが。」


月夜が疑いの目を向けながら、車持皇子の後ろに控えている兵士を見る。

車持皇子は少し自信があるのか、自身の後方に控えた兵士を前に出し、手に持っている布を月夜に見せた。


「月夜姫よ。これがそなたの求める火鼠の衣と呼ばれる物だ。本物かどうかその目で確かめよ。」



目の前には、細かい繊維がしっかりと縫い込まれた貴重そうな生地が出される。

月夜は、その生地を見て触り、近くにあった灯火から火のついた薪を1つ取り出すとその生地に押し当てた。

持っていた兵士は火の熱さに思わずその場で生地を落としてしまう。すると、生地に火が移り地面で大きく燃え上がった。


「これが、火鼠の衣?火鼠の衣と言うのは決して燃えることの無い物だと伝え聞いていたが?そなたの持ってきた物もどうやら本物ではないようだぞ。」


月夜は呆れた口調で、車持皇子に問いかける。

車持皇子が兵士にどうなっている?と問い詰めると、どうやら本物の火鼠の衣も見つからなかったようで、国の最高級の絹織物の職人に急遽用意してもらったものを本日持ってきたとの事だった。


「申し訳ございませぬ!!私の実力不足により、貴方様の顔に泥を塗る行為をしてしまいました。どのような罰も謹んでお受けいたしまする!!」


顔を真っ青にした兵士がその場で土下座をする。

しかし、車持皇子は特に憤慨する様子は無い。

兵士に頭をあげるように伝えると、二度としないようにと注意のみを行った。

月夜達が黙って見ていると、車持皇子はその場で乗ってきた馬に乗り、月夜達に背を向けた。


「月夜姫、偽物を持ってきてすまなかったな。また来る。石作皇子、そなたも我々と一緒に出直そうでは無いか。ここに居ては面目丸つぶれですぞ?」


石作皇子はそれに同意すると、兵士を連れて国に帰り始めた。

そして車持皇子は、石作皇子と共にその場を去って行った。

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