輝かしき乙女
月夜が紫の死を目の当たりにした時、絶望と悲しみで彼女の視界はブラックアウトした。
すると、大きな精神的ショックからか彼女の身体に変化が起きる。
身体の全身が直視できないほど光り輝き始め、意識の無い彼女の脳に覚えのない膨大な知識と記憶が流れてきたのだ。
その知識は宇宙的な知識で、何者かに無理矢理与えられたような、この世の全ての知識が集約されていた物だった。
そして、竹取月夜にとって全く覚えのない記憶。
それは、地球とは違う遠い星で【ツフィア・リリアル・ファレ・クロノア】という名での人生の記憶。
月夜はツフィアとして過去に、この地球の生態系の調査で来ていた。
しかし数年前に訪れた際、搭乗していた機体にトラブルが発生し、そのまま墜落。
墜落時の衝突のエネルギーは凄まじく、月夜が生きていたのが不思議なくらいの物だった。
月夜の身体機能は著しく低下し、本来の肉体での生命活動の維持が困難な状況で、且つ頭部を物凄い衝撃でぶつけた影響で記憶障害を引き起こしてしまう事態となる。
死の間際をさまよっていた時、1人の老人が月夜が倒れている山に入ってきたことで事態が急変する。
なんと機体の身体再構築装置の一部が奇跡的に生きており、機体の主である月夜の生命維持を継続させようと老人の身体構造を瞬時にスキャニングし、月夜の身体構造を再構築しだしたのだ。
そして、人間としての身体を手に入れた月夜は、造と紫という人間によって育てられることとなって現在に至る。
「全てを思い出した。なぜこのような原始的な所に居座ってしまったのか。父上…様…。迎えが来る…。兄妹達が…来る。」
月夜は呟く。空高く見上げると空からその場にいる全員の頭に響くように何者かの声が鳴り響いた。
【見つけたぞ…。ツフィア。我が魂よ。】
男とも女とも取れる謎の声。
声が聞こえたと同時に爆発音のような地響きが鳴り、大地が大きく揺れ始めた。
まるで、地球全体が震えているような状態だ。
月夜以外、皆立ってられずに倒れてしまう。
造は悲しみで周りが見えなくなっていたが、謎の声が聞こえ我を取り戻す。
月夜の姿を確認しようと顔を上げた時、自らの知る月夜とは明らかに違う月夜が目の前に居ることに気づく。
「月…夜?お前は月夜なのか…?」
震えた声で恐る恐る目の前の娘に声をかける。
月夜だと信じたいがどうしても胸騒ぎがしてならない。
まるで、見た目だけが月夜で中身は別人のようなそんな存在に。
いつもの月夜だと信じたかった造は、心の中で神に祈りながら月夜に問う。
しかし、返ってきた返答は造の望むのでは無かった。
「私を育てた、この星の原始な民のオスよ。私の本当の名はツフィア・リリアル・ファレ・クロノアだ。私の名を月夜などという汚らしい名で呼ぶな。」
感情の欠片も感じない無機質でなんとも言えない声で月夜は答えた。
表情1つ変えず、目の中の輝きは無い。まるで機械のような姿だ。
造は、一瞬の間に変わり果てた姿になった月夜を見てまた絶望する。
月夜は冗談でこのような事をする子ではないと知っていたからこそ、この月夜は本気で言っていると確信していた。
「何を…言ってるんじゃ…!!月夜や…。この一瞬で一体なにがあったんじゃ…?お前の名は月夜じゃ。婆さんとワシで付けた大切な名を忘れたのか…?!」
造は、月夜の身に起こった出来事を理解出来ぬままその場に力無く座り込んだ。
しばらくして大地の揺れが徐々に収まってくると謎の声の主の気配も消えた。
月夜は、声の主の気配が消えてからもずっと表情を変えずに空を見続けていた。
超常現象で地を張っていた貴公子達と咲命の軍の兵士達は揺れが落ち着くと皆フラフラになりながら立ち上がる。
「奴は……あの女子は物の怪ではあるまいな…?なんだったのだ先程のおぞましい声と大地の揺れは…。」
将軍が言うと将軍の肩にポンポンっと手を乗せる貴公子が居た。なぜかかなりの上機嫌な貴公子達は笑顔で将軍を退かすと月夜を見つめる。
「美しさは正義だ。私はあのような神の造形を持つ女子を見たことがない。想像以上だ。美しき乙女にそのような不躾な事を言うな。」
黄色い装いの貴公子は、我先にとニヤニヤしながら月夜の前にまで行くと、目の前で地面に膝をつき月夜の事を見上げるように見つめ、声をかけた。
「あの生意気な村娘の言っていたことは事実であったか!いやはや、これは驚いた!お初にお目にかかりまする。私は咲命の国の貴公子が1人、石作と申しまする。お美しき乙女よ、そなたの名をお聞かせ願いたい。」
月夜は、空を見上げたまま動かない。
貴公子に対して興味の欠片も示さないどころか、反応すらしなかったのだ。
黄色の貴公子が静かに月夜の反応を待ってる間に他の貴公子達も続々と膝をつき名を名乗り始めた。
数分後、6人の貴公子が全員名乗り終わるが空を見続けて動かない月夜に将軍が痺れをきらす。
「おい!咲命の国の貴公子様が全員で跪いてそなたに名乗りを行っているのだぞ!?そんな貴公子様達を無視するとは不敬極まりない!!直ちに反応を示し、頭を垂れろ!!これは命令だ!!!」
将軍からの怒号を受けると、月夜はゆっくりと貴公子達に振り返る。
美しい顔、風でなびきながら輝きを放つ長く美しい黒髪。
もはや貴公子達は、自らが無視をされていることを気にすることは無かった。
それよりもなによりも目の前の女子を己の物にしたいという欲求で目がくらんでいるからだ。
貴公子達がお互いを牽制している中、月夜が口を開く。
「…私を物にしたいか?私にとって、そなたらは有象無象に蔓延る原始的な民と相違ない。手に入れたくば1度自らの国に帰り、私の求める物をそれぞれ持ってくるがいい。」
無表情で貴公子達を見下しながら物を申す月夜に将軍が怒り、刀で切りかかろうとする。
しかし、直ぐに貴公子達に止められることとなる。
「なんとも気高き女子よ。美しさも去ることながら、我々に対してのその態度。そなたを手に入れた暁には、この世の全てが虚無に感じるであろう。」
6人の貴公子は、皆膝をついていたが起き上がる。
そして、月夜の求めるものをそれぞれが聞くのであった。
「さて、では聞こう。私達6人の貴公子にそなたは何を望む?そなたの望むものを最も早く持って来た者と番になるがよい。」
造が「なっ!?番に!?いくら貴公子様であろうとも、そんなの許せませんぞ!!?」と強ばった顔で言うが月夜は違う。
やはりなんの表情も浮かべぬまま、人形のように一言だけ答えた。
「良かろう。」と。




