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造と紫

紫と月夜がいつもの如く家の中で、藁を編んでいると竹取に向かっていた造が大急ぎで帰ってきた。

額には大粒の汗を大量にかき、息切れも起こしている。

老体で無理して走ったようで、顔面蒼白になっていた造を見た月夜と紫が心配して駆け寄った。


「爺さんや!?どうしたぁ?!珍しく走って帰ってくるなんて。もう若くないんよ?身体に悪いからやめなされ。」


「お父様!?どうしたのですか?!こんなにやつれてしまわれて…。」


造は、口をパクパクさせて何かを言おうとするが、声がかすれて出ない。

かなり急いでいる事が2人に伝わったので、すぐにお水を用意して一旦落ち着かせることにする。

手渡された500㎖程の水を一気にゴクゴクと飲み干し、一呼吸を置いて息も整えた造は、2人に何が起こったのかを告げた。


「2人とも大変なんじゃ…!!今竹取から帰ってくる時なんじゃが、帰りに村に寄ろうとしたら咲命の国の軍が大軍で押し寄せおった!!隠れて話を聞いておるとな、どうやら貴公子様が月夜を探してるらしい!!」


「貴公子様が…!?そ、そんな…!!よりにもよってあの貴公子様に話がいってしまうとは…!!」


「お父様、お母様。その貴公子様という方はどなたなのでしょうか…?私は、存じておりませぬ。」


咲命の国も去ることながら、周辺の村でも悪名高い貴公子達にとうとう目をつけられてしまった事に絶望する紫。そんな紫を見て都の事情を知らぬ月夜は少し貴公子という人間に興味を持つ。

聞いたことも見たこともない人間が、自身のことをなぜ知っているのか?何か自身に関係のある人物なのか?月夜の興味は尽きない。

そんな月夜を見かねて、造が貴公子の説明をする。


「月夜。落ち着いて聞くんじゃぞ。咲命の国にはな…。」


貴公子達の女癖の悪さや、冷酷さ。伝え聞いた噂を簡潔に月夜に伝えた。

最初は、興味本位で聞いている様子だった月夜だが、話が進むにつれて顔から余裕が消える。

造が伝えた内容は若い月夜にとってかなり恐怖を煽るような内容だった。

少し青ざめる月夜を見て申し訳なくなりつつも、造と紫は急いで村を出る準備を始めた。


「爺さんや!!これとこれは必要じゃけん持ってくぞ!?あと、これとこれも…。」


「婆さんや!?隣村までは距離がある!そんなに持ってくとワシらじゃ辿り着くのに何日もかかるぞ!?」


2人が急いで準備を他所に、月夜がふと外の様子を伺うと自宅の前の木々を超えた先から、村娘と馬に乗った兵士、その後ろから咲命の国の軍と思われる大軍が押し寄せているのを見つける。

その軍の数は月夜が想像していたものよりも遥かに多いものだった。


(大変…!!!もうそこまで…!!このままじゃすぐにここに着いてしまう!!!)


月夜は、アタフタしてる2人を無理やり家の外に連れ出すと一目散に走り出す。

造と紫は高齢により足腰は強いが体力が少ない。

走り始めるもすぐに息切れしてしまう始末だった。

励ましながら2人の背中を押して行くも、なかなか進まないので、一旦仕方なく茂みなどに身を隠してこの場をやり過ごす事にした。


「お父様!お母さま!!ここで一旦やり過ごしましょう!!このままでは、どちらにせよ…」


3人が家の近くの茂みに隠れていると、村娘を先頭にやってきた兵士が家の前で月夜を呼び始めた。


「お尋ねする!!ここにおられるわ、月夜という女子か!!おるのであれば、外に出てくるが良い。咲命の国の貴公子様がおいでである。姿を見せよ!!」



馬に乗った兵士は家の前で高らかに月夜を呼ぶが、家からの返答は無い。

兵士に続いて、村娘も月夜を呼ぶ。


「月夜!!出てきな!!あんたを天下の貴公子様がお呼びだよ!!早くしな!!」


またしても返答が無かった為、すこし焦った様子で村娘が家の中に許可なく入っていった。

家の中は、つい先刻まで居たであろう形跡が残っており、村娘は月夜達が軍に気づいて逃げたことを察する。

家から急いで出てくると、兵士に月夜が逃げたことを告げた。


「もぬけの殻になってる!!あんたらに気づいて逃げたんだと思うわ!!今なら間に合う!早くここら辺周辺を軍総出で捜索して!!多分遠くには行ってない!!」


村娘の言葉に、兵士は少し疑いを持ちながらも言われた通り軍に周辺の捜索を通達する。

全軍は月夜達の家の周辺の林、山などくまなく捜索を始めた。

5000人の兵士が捜索を始めた事により、月夜達が見つかるのも時間の問題となる。

造と紫は、それでも月夜を守ることを諦めきれない。2人は月夜を1番茂みの深い場所に追いやると「月夜。ここに居なさい。」と伝え、自分達の家に戻りはじめた。


「お父様!!お母様!?なにを!!!」


造と紫は、家に着くとそれに気づいた村娘と兵士の前に立つ。


「あれあれ、何事ですかな?大勢の兵の皆さんがこんな老いぼれの住まいに足を運ばれて。お婆さん、何か知っておるか?」


「知らないね。私らに何か御用ですか?ここには何もありませんよ。」


2人は兵士に気づかれないように、会話を合わせていく。


「あんたら!!月夜はどこよ!?あんたらに用はないの!!月夜を出して!!」


2人の様子を伺う兵士とは裏腹に村娘は叫ぶ。

先程からずっと月夜が見つからず徐々にイライラが募ってきているようだ。

しかし、造と紫はその問に対しては何も答えない。

「月夜?それはどなたの事かな?」「知りませんねぇ。」

と2人は知らぬ存ぜぬを突き通す。

その問答がしばらく続くも、お互いに引くことは無かった。

ずっと様子を伺っていた兵士が会話を聴いて、突然拍手をはじめる。


「いやはや、素晴らしいな。覚悟のある表情をしていると思い話を聞いていると、私の予想よりも遥かに覚悟を決めているようだ。」


感心した様子を見せつつ、ゆっくりと刀を抜いて造と紫に刃を向ける。


「ここまでの覚悟と決意を出来る者は少ない。誇って良いぞ。だが、我々にも立場があるのでな、教えてもらうぞ?月夜とやらの居場所を。」


兵士は造と紫に刃を向けながら近づく。

緊張感漂うこの状況でも、2人は表情1つ変えない。

距離にして1m。兵士の刀が造と紫に触れそうになった時、後方から声が轟く。


小野上(おのがみ)将軍、やめよ。そこの老夫婦よ、我々の話を聞くが良い。」


将軍の後ろに並んで居た5つの牛車の中から、貴公子が現れる。


(あれが貴公子様か…!!なんという神々しさ…!)


その姿を初めて見る造と紫はその場に頭を垂れた。

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