村娘の暴走
2025-10-11 誤字修正
5人の貴公子は、村長と対話しながら地面にひれ伏す村人達を見回す。
村人総勢およそ百人のほとんどがその場でひれ伏しており、貴公子たちは、どの女子が噂の女子なのかを確かめようとしていた。
「して、我々の探している女子はどこにおる?この場にひれ伏す誰かか?答えよ。」
先頭に立つ青色の装いをした貴公子は、村長に問う。
村長は、出来る限り月夜を守ろうと画策する。
「貴公子様、私はそのような都で流れておる噂については存じ上げておりませぬ。その噂の女子の特徴などについては聞いておりませぬか?」
月夜を守る為には、貴公子の持ちえている月夜に対する情報を探ることだ。
もし情報が乏しければ、月夜を隠し通すことも可能になる。
慎重を期しながらバレないように探り始める。
「我々の知る情報はあまりない。そのような存在が居る可能性があると我々は聞いてきただけだからな。」
案の定、貴公子達の持ちえた情報は少なかった。
そもそも、存在があるのかどうかすら怪しんでいるように思える。
これを好機とした村長は、そのような女子はこの村には居ないという方向に話を持っていく。
「左様でございますか。今都合よくこの村の女子達は、皆この場に集まっておりまする。直接確かめられてはいかがですかな?」
「ふむ…。」
貴公子達は少し考えると、村人の女子達のみをその場で立たせて、一人一人顔を確認することにした。
その頃女子達は、村長と貴公子達の会話があまり聞こえていない。
急に女子だけが立たされて一人ひとりの顔を近くで見つめられる事に、皆が興奮していた。
なぜならば、貴公子の顔を拝むことなど本来は出来ぬ上に、至近距離で見つめ合うなど恐れ多いことだからだ。
そんな女子達の中には、この顔の確認作業に関して、もしかすると村人の女子の中から夫婦にする子を見定めているのではないか?と淡い期待するものも少なくない。
あわよくば、貴公子のお眼鏡に叶うことを願っていた。
(貴公子様達が、こんなちんけな村の私達を真剣な眼差しで見つめられるなんて…!これは、私達にとって、この上ないチャンスかも!)
並んでいた女子は皆、自分なりのキメ顔や色気を存分に発揮して、貴公子の確認を待つ。
それから、数分の時が経った。
貴公子達は、村人全員の顔を確認し終わると、皆で顔を見合せる。
「………。プッ…!!」
すると、先程とは別の黄色い装いをした貴公子が急に吹き出してしまう。
他の貴公子達も笑いを堪えているようだった。
村長以外の村人達は突然吹き出す貴公子の意味がわからず、その様子を怪訝な顔で見つめる。
すると、青色の貴公子がニヤケながらも話し始めた。
「そうか…フフッ…。所詮噂は噂。我々も愚かなものだ。こんな事、鼻から承知の上であったのに…。」
紫色の装いの貴公子も続く。
「ハッハッハ!これで大臣の斬首が決まりましたな。さぁ!皆、都へと戻りましょう。今宵は大臣の首を添えて、宴といこうではありませぬか。」
紫色の装いの貴公子がそういうと乗ってきた籠に向かって歩き出す。
中央にいた黄色い装い貴公子以外の他の貴公子もそれに続いた。
村長はそんな姿を見て安堵する。
貴公子の期待に添えなかった村娘達には申し訳ないが、これで月夜を守れたと感じたからだ。
(皆帰って行きよるな…。よかった。造、紫。おぬしらの子はこれでしばらくは安心じゃぞ…。)
そんな事を考えていると、その場に居続けた黄色い装いの貴公子は
ニヤケながら村娘達の事を大声で馬鹿にするような発言を始める。
「この村に居るという噂の美しい女子。まさか、そなたらではあるまいて!我々の目には、そなたらは芋と同じに見えるぞ。ハハハハハッッ!!」
突然わけも分からず馬鹿にされた女子達は、お互いに顔を見合せて、次第に皆が顔を赤く染め上げていく。
それは、恥ずかしさと怒りからくるものだった。
(私達の顔が芋…?いくら貴公子様だとしても、なんという侮辱か!!まさか、このようなお方達だとは!!)
(美しい女子の噂って…!月夜のことじゃない!!またあの子なのね!!いつも、私達はこうやって忌々しい噂のせいでバカにされる。いつもいつも、あの子のせいで…!!!)…
馬鹿にされた村娘達の怒りは、次第に罪のない月夜に向けられていく。
これまでも噂を聞き付けた国に住む男たちが、こぞってこの村に来ていた。
来る度に村娘達は容姿を馬鹿にされ、プライドを傷つけられた挙句、村に住む男たちにすら日常的に冷やかされ続けていた。
もはや、村娘達にとって月夜は敵でしかなかったのだ。
(あの子のせいで…!!あの子さえいなければ…!!!)
村娘達の月夜に対する憎悪は、貴公子の笑い声と共に肥大していく。
唇を噛み締めて、耐えていると村娘達の中で動きがあった。
黙っていた1人の村娘が笑う貴公子に向かって歩き始めたのだ。
黄色の装いの貴公子は、大笑いしていたが、村娘が近づいていくと次第にその笑いをやめる。
(え!?あの子なにやってるの…!?許可なく貴公子様に向かって歩き始めるなんて…!?処罰されるわよ!?)
村娘達は、その恐ろしい光景に生唾を飲む。
貴公子の許可を得ることなく、近づくことや、歩くといった行動することは、貴公子に対しての無礼である。
最悪の場合処刑されてしまう恐れのある行為なのだ。
黙っている貴公子の後ろから、将軍らしき人物と歩兵2名が刀を構えて近づく村娘の前に立ち塞がる。
「……その歩みを止めろ。そこからさらに近づくと言うのなら、貴様の首をこの場で飛ばすぞ。」
キィィィィィンッッ!!!
将軍の勢いよく抜刀した刀剣が音を鳴らし、近づいてきていた村娘の喉元に突きつけられる。
同じくして、村娘の背後に回った歩兵2名も抜刀を行う。
しかし、村娘はそれに対して動じることは無かった。
動きを停められた村娘は、その場で黙って見ている貴公子達の方を睨みつけると、その場で一言のみを呟いた。
「あたいは、あんたらの求めている女子を知っている。」
その一言に、将軍、貴公子、村長は三者三葉の反応を見せた。
目の前にいた黄色の装いの貴公子は、村娘に近づき、顎をクイッと持ち上げると険しい表情で問い詰めた。
「…貴様…何を言っている?命乞いのつもりか?」
村娘が怒りで正気をなくしたと感じている貴公子は、目の前の無礼極まりない者の反応次第で、即斬首にする予定だ。
その場に緊張が走る。
村娘は、予想以上に食いつく貴公子が面白いのかその場で貴公子を嘲笑った。
「アハハハハッッ!!!あたいらを馬鹿にして笑ってた天下の貴公子様が、わざわざここまで来た理由の女に会えないなんて、笑えるわね!そうでしょ?!みんな!!」
背後で様子を見ていた村娘達だが、1人の村娘の行動に一部の人間が呼応する。
小言ではあるが、「そうよそうよ!!」や「フフ…ッ情けない」と言った声がチラチラと散見し始めたのだ。
その様子に、将軍を含む五千人の軍勢が動き出すこととなる。




