女と貴公子
2025-10-10 誤字修正
造達の住む村から山を越え15里程(約7.5km)離れた土地にそれはそれは大きな国があった。
その国の名は、咲命の国という。
とても豊かな国で、インフラもしっかりと整っている国だ。
国を通る整地された道には、穏やかで透き通るような輝きを持つ川が流れており、民の暮らす住居は木造建てで、一つ一つの造形がとても美しいものとなっている。
民一人ひとりの生活水準は高く、身につける衣服も村民と比べると明らかに違う。白く汚れた布でできた地味な衣服を着ている村人とは違い、美しく華やかな着物を着ているからだ。
そんな咲命の国は、五人の貴公子と呼ばれる男性貴族達によって統治されている。
五人の貴公子は貴族でありながら、端麗な顔立ちで有名だ。街中を歩くと女性からの視線や歓声を思うがままにしていた。
普段から仕事もこなせて、女性にも困らない5人は毎日の退屈な日々を送っていたが、そんな退屈な日々の中で宮殿内にあるうわさが流れ始めた。
「あの例の噂の事をあんたも知っておるのか?隣の村の!」
「知っとるぞ!もんのスゴイべっぴんな女子がおるらしいでな!?一目会ってみたいもんだ!」
宮中で隣村の村娘の噂があちらこちらで話されていた。
どこから発信されたのか分からないその噂は、すぐに宮中で流行りに流行り、とうとう5人の貴公子に伝わる事となる。
「なに?隣村の女子が美しいだと?咲命の国の中にも女子は五万といる。いくら美しかろうと、所詮は汚れた村娘であろう?」
「その通り。いくら美しかろうて、我々の見てきた女子達と大差はないであろう。興味をくすぐられぬな。」
噂を聞いた貴公子達の反応は薄く、興味をあまり示さなかった。
これまでの女子達との違いを噂のみでは感じないからだ。
噂を貴公子に伝えた側近の者は、その興味の無い姿があまり面白くないようで、貴公子達に食い下がった。
「しかしですね、皆様の想像を優に超える美貌の持ち主だと私は思いますぞ。相見えれば、必ずや妻に娶りたいと感じるはず。」
自信に満ち溢れたその言葉に貴公子達は、各々が反応を示した。
その反応の仕方は、側近の想像を超えて、急に命の危機を感じるほどの物へと変わり始める。
「ほぅ…。そこまで言うのであれば、我々5人で村にまで向かい、直接この目で見てしんぜよう。しかしもし、そちの話すことが偽りであれば、その首が飛ぶことを覚悟するが良い。」
不敵な笑みを浮かべながら、5人の貴公子達は身支度を整えると屋敷を出て、籠に乗って村へと早速向かった。
場面は変わり、村のある畑で作業するおなごが居た。
お爺さんと一緒に野菜を刈り取り、大変そうにしているが、とても笑顔で楽しそうな様子だ。
「お爺さま!わたしの取った作物、すっごく大きい!!見てみて!!お婆様も喜んでくれるかなぁ。」
「おっほっ。こりゃあ、よく育ってるなあ!お婆さんも喜ぶぞ。月夜がよく愛情込めて育ててくれたからじゃ。ありがたやありがたや。」
大きく美しく育った月夜(20歳)は、造と一緒に農業をしたり、自宅では紫に家事を習ったりして穏やかに過ごしていた。
たまに村に降りると、その美貌の影響か村の男たちがすぐに群がってきて月夜に求婚してきた。その為、その様子が面白くない村娘達には良からぬ噂を立てられて、同性の友達が出来ることは叶わなかった。
1日通してずっと家にいる事が殆どになってしまった月夜は、高齢な両親を支えるべく日々仕事に奮闘するようになった。
「わりぃなぁ。月夜にはもっと色々な景色を見せてあげたかった。こんな事になっちまうなんてなあ。わしらの子がこんなにも美しく育った事については、誇らしいのじゃが。。」
「村娘達は、月夜に嫉妬しておるからなぁ。あんだけ毎回村に降りるたびに大騒動になると、困っちまうなぁ。こんなしょぼくれた家でずっと仕事をするよりも、たくさんの事を経験してもらいたいんじゃが…。」
造と紫は毎日、辺鄙な土地で自分達のお手伝いをしてくれる月夜に感謝しつつも、自由にさせてあげられないことに対して、申し訳なさと不甲斐なさを感じていた。
自分達がこんなに老いていなければ、村の男たちも退けられるし、月夜と一緒に咲命の国にでも行って、美しい着物等を買ってめかしこんであげられたのに。
そういう気持ちでいっぱいだった。
その気持ちを察していた月夜は、2人に申し訳なく感じさせないようにしていた。
「ううん。記憶も身寄りもない私をこんなに立派に育ててくれた2人には感謝しかないよ。それに、私は私が手伝うことで、2人の身体が少しでも楽になってくれるならそれが嬉しい!別に他の場所なんて見たくもないから大丈夫だよ!」
そんな月夜の優しさに触れて、造と紫は月夜と神に感謝をしつつ毎日を過ごしていた。
そんな時、村にある訪問者達が現れた。
「控えおろう!皆の者、頭を下げよ!!ここにおらせられるは、咲命の国を治めておられる貴公子様方であらせられる。」
5000人程の大軍を引き連れて、やってきたその者達は、咲命の国の貴公子を名乗る者だった。
村の門から突然として入ってきた軍に村人達は唖然とする。
なんの連絡も情報も無かった為、なぜこんな村に国のお偉い方が?というのが正直なところだ。
「おいおい…!貴公子様だって!?なんだってこんな村に!?村長から何か聞いてるか!?」
「し、知らねぇよ!他のみんなだって聞いてないはずだ!」
村人達が、皆その場にて頭を垂れて何が起こるのか分からない状況に怯えている中、村の奥から杖をついて歩く老人がゆっくりゆっくりと大軍の前まで歩を進める。
「そこの老人!止まれ!!何者だ!?」
杖を持った老人は、ゆっくりと兵士の前に立つと、その場で頭を垂れた。
「ワシはこの村の長をしているものでございまする。かの咲命ノ国の貴公子様方がこのような辺鄙な村にどのようなご要件でご来訪されたのでしょうか?」
村長は、自らの事を説明すると慎重に兵士にお伺いを立てた。
すると、奥の方にある5つの牛車の中からそれぞれ美しい装いをした青年が5人現れた。
「ふむ…。この村の村長か。いつも世話になっておるな。そう固くならずともよい。我々はちょっとした噂に興味があってここに参った次第だ。」
貴公子達5人が現れると、顔を伏せていた村娘達が少し騒ぎ始めた。
顔を伏せつつも、普段絶対に謁見のできない様な方々の訪問だった為、興味本位で見てしまったのだ。
顔を見た村娘達は、芋臭い村の男達とは違う、なんとも麗しい見た目の貴公子達に一瞬で心を奪われてしまった。
(なんて美しい方々…。これこそ神の作りし人間の美…。)
(あぁ…。あんな方々に妻に娶ってもらえたら、なんと幸せな事だろうか…。)
村娘達が密かにそのようなことを思っていると、先程とは別の赤い装いの貴公子が噂について語り始めた。
「なに、我々も来る気は無かったのだがな、この村にそれはそれは美しい美貌を持つ女子がおると言う噂を聞きつけてな。一目だけでも見て帰ろうという事でやってきたのだ。」
村長はその噂の事になると、ピクっと反応した。
村長と造と紫は同年代で、とても仲の良い長年の友であった。
彼らに待望の赤子が授かった事と、その噂の女子が彼らの子を示していると知っていた村長は、貴公子にその真実を告げるかどうか迷ったのだ。
なぜなら、貴公子達は大層な女子好きと言う噂が立っており、貴公子の元に行った女子は皆、数日後に傷を負わされて捨てられてしまうと言われているからだ。
友の大切な娘をこのような人間に明け渡す訳にはいかなかった。
「悪いようにはせぬ。いくら美しい女子だろうと我々は幾万の女子を見てきた。何も感じぬに決まっておる。そう心配せずとも良い。」
貴公子は、村長を安心させるように優しい言葉を並べるも、村長は気が気でならなかった。
(どうしたもんかのぅ…。造…ワシは月夜を守り切れるか分からんぞ…。)
村長と貴公子達のやり取りは、激しさを増す。




