いわくのパンタさん
「これ、どうするよ…。」
幸達は、飲食店の個室の席に座る1つの人形を見て吐露する。
少し前のこと、老鋪のおもちゃ専門店にて、店主の仙さんにショーケース内の人形を譲ってもらうことになった。
「お嬢ちゃん、この子が欲しいんだろ?いいよ。お嬢ちゃんのように、素直な気持ちでこの子を迎え入れたいという子は久しぶりに出会った。ワシはこの子を君に引き取って欲しい。」
仙さんは、ノノカの純粋で優しい気持ちに惹かれたのか、人形を譲ると言い出した。
人形の本体価格は、表記上8万6000円(税込)となっている。
こんなもの、幸達の現在の経済力では、とうてい手の出せない代物だ。
幸と癒菜は、そんな物引き取れないと、断った。
高価な代物であると同時に、なんだかこの人形は、いわくがついてそうな雰囲気がプンプンしているから、引き取りたくないのだ。
「仙爺さん、こんな高価な人形貰えないよ!!8万だよ!?むりむり!」
「竹取くんの言う通りです!!私たち、まだ学生なので、そんなお礼もできないですし、こんな高価な物受け取れないです!」
2人は、上手く受け取る流れを回避しようとするも、仙さんは、もう既に譲る気マンマン状態だった。
「お礼も金も良いんだよ。ワシはね、おもちゃを大切にしてくれる子供が大好きだ。この子は、きっと本当にこの人形を大切にしてくれる。ワシの直感だがな。だから、こんな売れ残りの人形だけど、この子に譲りたい。それが、この人形の望みでもあると思うから。」
仙さんは、そういうと、ウキウキしてるノノカの前でしゃがんで、ノノカの背丈と同じくらいの大きさの人形を手渡した。
「この子、名前はパンタって言うんだ。パンタ・ロマーリエ。これからは、君がパンタのお姉ちゃんになってあげておくれ。」
ノノカは、パンタを受け取るとその場で思い切っきり抱きしめた。
嬉しさのあまり、パンタの顔に何度もちゅーして、「やったあー!!おじさん!ありがとっ!っ」と言いつつ、仙さんの頬にもちゅーをする。
仙さんは、あまり感情を表に出す人ではないが、その時は顔がほころんだ。
「パンタ!もう寂しくないからね。ノノは、パンタのお友達だよ。これからずっと一緒だね。」
ノノカは、パンタをよしよししながら、なだめており、もう手放す気はないようだ。
幸と癒菜も、流石に受け取るしかない気配だったので、半ば諦めて受け取ることにした。
しかし、その時に幸だけはパンタの異変に気づく。
なんと、ノノカの腕に抱かれているパンタの瞳に、1粒の涙のようなものが流れていたのだ。
そして、現在に戻る。
あれから、おもちゃ専門店を後にして、そのままショッピングモールをウロウロとウィンドウショッピングした後に、その場で、お昼ご飯を食べることになった。
ショッピングモール内の和食料理店で、個室の席に座ることが出来たので、ノノカとパンタと癒菜。向かい側には幸が座るという構図で現在座っている。
「いらっしゃいませ。当店へようこそ。ご注文が決まりましたら、お呼びくださいませ。」
店員さんが、お水とおしぼりを持ってくる。
ノノカは、喉が渇いていたのか、その場ですぐにお水を飲み干してしまい、トイレに行きたくなる。
「おトイレ行きたい…!!漏れちゃう…!!」
ノノカは、その場でモジモジしだしたので、急遽、癒菜がトイレに連れていくことになった。
「竹取くん!私ノノちゃんを、おトイレ連れてくから、メニューなにか選んでて!!」
それから、癒菜とノノカは、パンタを置いてその場を離れる。
個室の中には現在、パンタと幸の2人のみとなっていた。
幸は、先程のパンタの涙はきっと気のせいだろうと思うことにして、気にせずにメニューを開いて見始める。
パラパラとメニュー表をめくって見ていると、唐突に、ノノカ達側の水の入ったコップが次々と倒れ始めた。
「へっ…!?」
幸は、その時何が起こったのか分からなかった。
自分でも気づかないような地震が今起こったのかと思い、こぼれた水を布巾で拭き始めた。
すると次に、席に常備されていたお箸やフォーク、スプーンが突然宙に浮き始めた。
「ふぇ…!??」
またしても、なにが起こったのか分からない幸は、宙に浮かぶお箸類をただ見つめた。
次の瞬間、お箸とフォークとスプーンが幸に向かって勢いよく飛んできた。
「うおおおおおあああ…!!!」
幸は、変な声を出しながら、飛んできたものを避ける。
お箸達の勢いは凄まじく、幸の身体の周囲の壁などに思い切っきり突き刺さった。
幸は身動きが取れなくなり、その場で固まると、目の前のパンタからおぞましいオーラが出ていることに気づく。
パンタの周囲には、紫と黒の混じったようなオーラが出ており、幸は何かの間違いだろうと目を擦って見返す。
何度も見返してみたが、オーラは間違いなく出ていて、幸は恐怖した。
その時、外からノノカと癒菜の話す声が聞こえて来た。
トイレから帰ってきたのだ。
幸は、喜びのあまり涙が出そうになる。
ノノカが個室の扉を開けると、パンタのおぞましいオーラはピタッと消えた。
「あれー?さちなにしてるの?なんで身体の周りにお箸とか刺して、変なポーズしてるの?」
幸の情けないポーズと、お箸達が突き刺さっているのを見て、ノノカは、変なものでも見ているような目で幸を見た。
癒菜も、その後にその場を見て、同じような目で幸を見た。
「夢坂さん、ちょっといい?ノノカは、パンタと一緒にメニュー見ててくれる?」
幸は周りのお箸達を床や壁から抜いた後に、癒菜を連れて、一旦個室の外に出た。
癒菜は、わけも分からないまま外に連れ出されて、事の内容を聞かされることになる。
「竹取くん、どうしたの?私達がトイレに行ってる時に何かあった?」
癒菜が問いかけると、幸は、青ざめた表情で答える。
「あの人形…パンタ!!あれ、スーパーハンパねぇんだけど…!?ヤバすぎるぞあれ!?」
幸の語彙力が欠落していた。
なにが、スーパー半端ないのか、全然分からない癒菜は、どういう事?となる。
幸は、少しずつ落ち着いて、話を続けた。
「ノノカと夢坂さんが居なくなった途端に、あいつの周囲から、なんかどす黒いオーラ見たいなのが出てきてさ…。」
「え…?」
話を聞いてると、癒菜の全身が震えてきて、身体中に鳥肌が立つ。
癒菜は、ものすごい怖がりだった。お化け屋敷や、心霊系の物がとことん嫌いで、絶対にそのワードを出さない。
今、幸から伝えられる話は、間違いなく癒菜が嫌いな心霊現象についてだと察した癒菜は、幸の話を急いで遮る。
「待って!!竹取くん!!その話、私ちょっと…」
その瞬間、個室から女の子の叫び声が聞こえてきた。
”きゃあああああああ!!!”
幸と癒菜が何事!?と固まると、どこからともなく現れた石作が、幸達が利用していた個室の扉を開けた。
「ノノカ様…!!!ご無事ですか!?」
石作が叫ぶ。
石作とネンネは年中無休で、ノノカの護衛をしている。
ショッピングモールなどの多人数の一般人がいる場所は、ネンネが目立ちすぎてしまう為、石作の担当なのだ。
そんな石作が担当している場所の、ノノカの居る個室で叫び声が聞こえたからか、石作は焦っていた。
もし、ノノカに何かあれば、自分の命を差し出しても償いきれない程だと思っているからだ。
扉の先には、居たはずのノノカは居なくなっていた。
それどころか、一緒に置いてあったパンタも居ない。
もぬけの殻となっていた。
「ノノカ…!?おい!!ノノカー!?」
「ノノちゃん!遊んでるのー?!どこ行ったの?!」
「ノノカ様ー!!!どちらへ行かれたのですか!?ノノカ様ー!!!」
3人は、居なくなりようのない個室からノノカが消えたので、机の下や隣の個室などを探しながらノノカの名前を叫んだ。
しばらくして、幸が、不思議なことに気づく。
「まて…。そういえば、なんだかこの居酒屋、入った時と違くないか…?人が1人も居ないぞ…。客も、店員も、誰も…。」
3人とも探すのに夢中で、まったく気づかなかったが、よく見ると、居酒屋の装飾や、雰囲気がまるで入った時と違っていた。
人っ子一人も見当たらず、周囲は薄暗くなっている。
幸が初めに気づいて、怖くなった3人が同じ場所に一旦集まると、急に居酒屋の出入口が開いた。
”ぎいいいぃ…。”
「な、なんだよ…!!まじかよ!まじなのかよ!?こういうのって、ちょっと世界観違くないか…!?」
「来いということか…。ノノカ様を連れ去ったのは、極悪非道な怨霊か…。この石作があの世に送り返してやる。」
「竹取くん!離れないで!!ほら!石作くんも!!ちょっと、先行こうとしないで!!!」
3人は、三者三様の反応を示しながら、恐る恐る扉に向かうと、扉の先には、恐ろしい光景が広がっていた。




