ミッション・イン・ネンネ
ネンネに残された時間は数少ない。
限られた時間の中で、まずは当初の目的である公園にてノノカを遊ばせてあげるというミッションをクリアすることが先決だった。
「ノノカ様!私めが駆け抜けている間に公園がありましたら、お教え下さい!すぐにそちらに向かいます!!」
「わかったー!!」
帰宅コースの分からない2人は、とりあえず来た道の方角に向かってとにかく走り続けていた。
先程ほどまでの周囲が田んぼだらけの状況ではなくなり、辺り一面が住宅地の至って普通の道に戻っている。
車の通りも徐々に増えてきており、道路の十字路をネンネ達が走って通過しようとした時に、横の道からトラックが走ってきた。
お互いに気づいて居なかった影響で、衝突しそうになってしまう。
「ん…!?なんだありゃ!?うおお!!?」
キィィィィー!!!プップー!!!
トラックの運転手が先に異変に気づき、急ブレーキを踏みながらクラクションをおもいっきり鳴らした。
ネンネも、咄嗟に横から来たトラックに気づくと、ノノカの身体を自身の尻尾で巻き付けて身体が吹き飛ばないようにし、走ってきたトラックに向かって逆に飛び込んだ。
ネンネとトラックは接触するも、ネンネは衝突の衝撃を接触する直前に脚を曲げたりする事により上手く緩和した。そのまま身体を回転させながら横の道に飛ぶことで2人とも無傷で事故を回避する。
何が起こったのか、早すぎて何とぶつかったのか分からない運転手は急ブレーキを掛けた上で車が止まると、運転席から降りてきた。
「おいおい…!なんだったんだ今のは、何とぶつかった!?」
運転手が自身のトラックとさっきの道を交互に見つめる。
トラックには傷1つ無く、先程の道にも何も居なかった様子に困惑していると、トラックの横から猛獣であるネンネとノノカが現れた。
「…ッッ!!?」
突然の猛獣の登場により、運転手は恐怖からか身体が動かず、言葉を発することも出来ずに硬直した。
しかも猛獣の上に乗っているノノカは無傷で、特に先程のことは何も気にしていないようだったが、ネンネは違った。毛を逆立てて激怒している様子が伺える。
「きっっさまぁぁ!!!!突然飛び出してきて、ノノカ様に何かあったらどうしてくれる!!?こ○すぞ、ジジイがあ!!!」
激怒も激怒、運転手目掛けて爪を露わにして今にも襲い掛かりそうになっていた。
運転手は、困惑と恐怖で叫びながら思わず逃げ出そうとしてしまった。
しかし、どうしてか足が絡まってその場で思いっきり転んでしまう。
身体を強打した運転手は、その場にうずくまるとネンネは、その運転手の背に脚を乗せて逃げられないようにする。
「ふんご…ッッ!!ひえぇ!!?」
「おい…。貴様が私に、有益な情報を与えれば許してやる。我々は今近くの公園を探して冒険をしているところだ。ここら辺の近くの公園はどこにある?教えろ、今すぐに!!」
怯える運転手は震えながら、自身の知っている近くの公園をすぐに教えた。
ネンネは、その情報を得ると運転手に「二度と私の前に飛び出してくるな!!」と言って公園に向かった。
教えてもらった公園はその場からかなり近く、先程ネンネが進んでいた道に沿った曲がり角にあった。
あまり大きくは無いが遊具は揃っており、滑り台、ブランコ、砂場の3点が揃った丁度いいサイズの公園だ。
「わぁい!!!ノノ、滑り台滑るー!!」
公園に着くと、ノノカは一目散に滑り台に行って何度も登っては滑り始めた。
(よし…。当初の目的である公園で遊ぶというものはクリアした。あとは、夕方5時までに帰宅することだ。現在の時刻は、14:55か。最低でも15:45までにはここを出なければな。)
ネンネは、公園に設置されている時計を見ながら、ノノカの安全を近くで見守る。
その後、滑り台を一緒に滑ったり、ノノカのブランコを後ろから押してあげたり、砂場で一緒に遊んだりして過ごす。
時間はあっという間に過ぎていき、15時45分をすぐに迎えた。
(そろそろね。よし、ノノカ様は楽しそうだけど、もう帰らなくては。)
「ノノカ様!早いですが、そろそろ自宅に帰りましょう!私たちには時間が…」
「やーだ!!ネンネ〜もう少し遊ぼうよう!」
「えっ!!?し、しかし!!!時間が…!!」
「やー!!!!まだ遊ぶの!!!」
ネンネの予測とは別の回答が、ネンネの言葉に被さりながら返ってきた。
現在、ノノカは砂遊びに夢中になっているようで、楽しくてやめられないようなのだ。
この状態になったノノカは、何を言っても聞かない。
これを知っているのは、幸と癒菜の2人のみだった。
(な、なんてことだ…!?ノノカ様、完全に砂遊びに夢中になられて…!!これでは、家に辿り着けるのかどうか…!!)
砂遊びに夢中になっているノノカを横目に、悲劇的な顔をするネンネ。
その姿は、ムンクの叫びの絵画を彷彿とする物だった。
それから、ノノカの砂遊びはヒートアップしていき、時間はどんどんと過ぎていく。
現時刻は16時20分。快晴だった空には徐々に薄暗く大きい雲が散見するようになっており、雨雲が近ずいて来ていることを示していた。
野生の勘が働くネンネも、その事に気づき始めており、そろそろ本当にやばいと感じる。
「ノノカ様恐れ入りますが、もう雨が降りそうです!夜にもすぐになります!!本当に帰りましょう!!」
「うん!完成したからもういいや!お腹空いたあー!」
砂遊びが終わったノノカは、ネンネの背中に跨った。
上に乗ったことを確認したネンネは、尻尾でノノカを強くまきつけて、先程までよりも更に早く帰り道の方面に走り始めた。
夕方になった事で皆が帰宅ラッシュに入っており、歩道も車道も人や車だらけになっていた。
「くっ!!どいつもこいつも、外に出てきやがって!!私とノノカ様の行く道の妨げになるなあ!!!」
大量の人の渦に巻き込まれて、行く手を阻まれていると、ノノカが突然ネンネから降りて、たまたま近くにいた野犬の所に走っていった。
(…!!!ノノカ様…!?)
「わんわんだー!!!かわいいい♡」
どうやら、近くにいた野犬を見つけたノノカは、野犬を触りたくて思わず走っていってしまった模様だった。
ノノカが野犬に近づくと、野犬はノノカに警戒して牙をたてる。
グルルルルッッ!!!
今にも噛みつきそうな形相の野犬をそっと触ろうとするノノカ。
少しづつ野犬に向かって伸ばす手に、野犬が思わず大口を開けて噛み付こうとした。
その瞬間、ノノカの背後から強烈な殺気が溢れて、野犬を襲う。
噛み付こうとした口は開口した状態で一時停止をしており、目線は殺気の方へ向いた。
殺気の先には、走って追いかけてきたネンネがおり、野犬にはネンネが巨大なモンスターに映っていた。
(その口をこの後どうするつもりだ…?おお?こんな場所にいやがるとはね。こ○すわよ。犬ころ。)
野犬は、大きく空いた口を閉じぬまま、ノノカの手を思いっきり舐めまわして、クンクン言って甘えたふりをすると、その場を駆け出して逃げていった。
思わぬ障害に時間を取られてしまったネンネは、空を見上げる。
雲行きはかなり怪しくなり、雨が降っていないだけで、既に空は薄暗い雲で覆われていた。
周囲の環境の匂いには、雨特有の匂いがほのかにするようになっており、時間に余裕が無いことがわかった。
(なんてことだ、なんてことだ!!もう時間が無い!!雨が後方から近づいてきているようだ。音もかなりの速度でこちらに近ずいて来ている。まずいぞ!!!)
ネンネは野犬の居たところから離れると、人混みを押しのけながらさらに走り込んだ。
すると、後方から雨が降り始めてきたことに気づく。
ネンネと雨足のスピード対決となり、ネンネは周囲を気にせずに、これまでの人生では出したことの無い速度で走った。
(雨が!!雨が来てるわ!!!ノノカ様を濡らすことなんて出来ない!!どこか…!どこか雨を凌げる所は…!!!)
荒い息切れをしながら、ネンネは走り続けた。




