その獣の名は、ネンネ。
2025-6-1 誤字修正
「きゃあぁあぁぁぁ!!!!ヒョウよ!!!」
1人の生徒の悲鳴から、みんなが教室から我先にと外へ避難しはじめた。
猛獣であるユキヒョウが突然現れたのだから、当然の結果だ。
ユキヒョウは、のそのそと歩きながら周囲を見渡す。
ノノカは、ユキヒョウを見つけるとテンションが上がり、キラキラした目でユキヒョウに近づこうとした。
「さちさち!!かわいいー!!ノノよちよちしたい!!!」
ノノカは、目の前の猛獣の事を知らないからか、自分よりもデカイ図体のヒョウに対して全く怯まない。
「……ノノカさーん?どちらに行かれる予定ですかー……?」
幸の目に映るノノカは、興味と好奇心の化身だった。
ノノカの行進が始まる。
1歩、また1歩と目標に向かいながら歩みはじめた。
「ノノカぁぁ!!すとっぷー!おちつけい!!ヒョウだぞ!ヒョウ!!猫じゃないんだ!!俺ら近づいたら食べられちゃうんだよ?!!」
幸は、ビビりすぎて凄まじく不細工な顔で、ノノカの方をプルプルしながら抑えた。
癒菜も同じく隣で震えながらノノカを抑えていた。
「行くぅ!行くのぉ!!だってあんなに可愛いんだよ?」
ノノカは、2人の制止を振り切って行こうともがく。
「ノ……!!ノノちゃん!!待って待って!もし、行かないで我慢出来たら、とっても良い子だからなんでも欲しいもの1つ買ってあげるよ!?」
癒菜は、ノノカの興味をヒョウから遠ざけようとプレゼントを提示する。
ノノカは、それを聞いて少し悩むと、癒菜に変な顔をしながら聞き返した。
「えぇー。欲しいもの……1つ…だけ?」
癒菜は、ノノカの成長を痛感する。予想外にもプレゼントを1つでは足りないと遠回しに伝えてきたのだ。
(この子…!!さ、策士だ!!こんな状況なのにプレゼントが少ないと私に言っている!!!)
癒菜は、ここで折れたらいけないと思い、2つ欲しいものを買ってあげると伝えると、ノノカは笑顔で「じゃあ、ここで見てるー!」と言いながらユキヒョウに近づくのをやめた。
しかし、安心したのもつかの間。
なんとユキヒョウは「グルルルルッ」と唸り声をあげながら、少しづつ幸達の元へ歩み寄り始めたのだ。
「まずいまずいまずい!!こっち来てるって!あれ!?ヨダレ出てない?!ヨダレだよね!?」
幸は、ノノカと癒菜と一緒に固まりつつ、ユキヒョウから目をそらさないで様子を伺う。
すると、幸達の前に石作が間に割って入るように立った。
「ノノカ様には、手は出させないぞ。このドデカイ猫めが……!!」
石作は、勇猛果敢に両手を広げて威嚇する。
額に汗を流しながらも、その目には絶対にノノカを守るという確固たる意思を感じられる姿だった。
すると、その姿を見た幸は、なにか負けた気がしたのか、急に石作の隣に立ち、同じように両手を広げてノノカを守ろうとする。
「あんたが命張ってるんだ。俺が張らなくてどうするってんだ。チクショウ…!!」
2人は、お互いに見合うと頷いて、ユキヒョウに向き直した。
ユキヒョウは、2人が厳戒態勢で立ち塞がると、少し警戒して、全身の毛を逆立たせる。
獣と2人の人間の静かな冷戦が始まった。お互いに睨み合いつつ、一定の距離を保ちながら威嚇している。
時間にすると3分程、静寂が続いたが、ついにその均衡が崩された。
警戒して、動かなかったユキヒョウが突如としてノノカ達に向かって走り始めたのだ。
その速度はあまりにも早く、幸達が動こうとした頃には、既に幸達の目の前にその姿はあった。
「危ない!!!」
クラスメイトの1人が叫んだと同時にユキヒョウは、大きな口を開けながら幸と石作に飛びかかった。
「うああぁぁぁぁ!!!」
幸と石作の2人は、飛びかかってきたヒョウに驚いて、思わず叫んでしまう。
すると、ユキヒョウの方向から女性の声が聞こえてきた。
「……あんたら!さっきから邪魔なのよ!!!」
その声と同時に、幸と石作の顔面を目掛けてユキヒョウはドロップキックをした。
幸と石作はものすごい速度で飛んできた肉球に、顔を歪ませながら吹っ飛ばされる。
「まったく。あんなにも美しいノノカ様があんたらみたいな、むっさいオス共のせいで見えないじゃない!」
ユキヒョウは、流暢に人間の言葉を話しながら、幸達に向かって悪態をつく。
周囲の人間は、固まって動かない。猛獣が話しているから当然だ。
「ヒョウが……ヒョウが、話してる……。」
癒菜は、目の前に迫るユキヒョウが言葉を話している姿を見て、夢でも見ているのかと思う。
自分の頬を力いっぱい引っ張ってみるも、とかく痛いだけだった。
ユキヒョウは、癒菜の事も見ると一言だけ告げる。
「そこのメス!あんたにも興味はないから。」
癒菜は、そう言われるとただ「……はい。」とだけ言う。
ユキヒョウが目の前の触れる距離にきて、ノノカはユキヒョウを思わず撫でてしまう。
「こんにちは!もふもふで可愛いね!おなまえはなんていうの?」
ノノカの単純で素直な質問に、撫でられながらユキヒョウは、答えた。
「ノノカ様…!!わたくしは、ノノカ様をお守りするために存在が許された者です。なので名前など不要なのです。貴方様にお会いできて光栄です!!」
尻尾をフリフリしながら答えるその様は、まるで大好きな主人に甘える忠犬そのものだった。
見るからに、ノノカにだけ懐いており、ノノカの身体に、スリスリと自分の身体をくっつけている。
そんな様子を伺いながら、何を言われているのかほとんど理解出来ていないノノカは、わかる単語にだけ反応する。
「おなまえないの?かわいそう……。じゃあ、わたしがお名前考えちゃだめー?」
ノノカの提案は、ユキヒョウにかなり響いたようで、嬉しさからか、更に早いスピードでしっぽを振る。
「ノノカ様が、私に名前を……!?うれしいです!!おねがいします!」
ユキヒョウは、ドキドキしながらノノカの名付けを待つ。
「うーん。」ノノカは、しばらく考え込むと、思いついたのか指を空高く上げて、高らかに叫んだ。
「わかった!あなたのおなまえは、ネンネ!ネンネだよ!かわいいおなまえでしょ!」
ノノカの名付けてくれた名前を聞いて、ネンネはその場で大きくジャンプをした。
ジャンプから着地すると、その場でかっこよくポーズを決め、宣言をする。
「私の名は、ネンネ!!ノノカ様をお守りする者なり!!不届き者は、このネンネがあの世に送ってやるぞ!!」
神々しいその姿に、周囲の誰もが目を奪われる。
ノノカは、自分がつけた名前を嬉しそうに言うネンネを見ながら、1人で拍手した。
癒菜がその様子を傍観していると、心にまた声が聞こえてくる。
(これで理解したか?この獣は、私が魂体を少し調整して、人間並の知能と理性を与えた。さらに、この獣は、この地球上のどの生物よりも強い。守り役には調度良いだろう。)
クリオネの発言からは、謎の自信が感じ取れた。
こんな明らかな猛獣を人間社会で連れ歩いたら、それこそ町中が、いや、国中が大騒動になると理解していない様子だ。
(クリオネさん!!こんな猛獣を街中で連れて歩いてみなさいよ!!人々はみんな怖がって、すっごい混乱するわよ!?それに、多分警察や、自衛隊なんかも出動する事態になるんじゃないの!?)
癒菜がそう心の中で叫ぶと同時に、外からサイレンが鳴り始めた。
ふと、クラスの窓から外を見下ろすと、正門から多数の警察とメディア関係者らが迫ってくるのが伺える。
「なんだ?!なんの音だ!?ノノカ様、お下がりください。悪意を持った大量の人間の匂いが近づいてきてます!私がお守りします。」
ネンネは、サイレンの音と匂いで臨戦態勢に入る。
その後、ネンネと警察達による戦いにて、警察関係者のほとんどが倒される事になり、一時大騒ぎとなった。




