あなたへの敬意胸に。
石作との喧嘩騒動が終わったあと、成長したノノカと幸と癒菜は3人で夕食を食べていた。
幸は、意識を失ってからの記憶が無い為、癒菜に何があったのか聞くことにした。
「夢坂さんってさ、もしかしてなんだけど、全身筋肉ムキムキだったりする?」
唐突に聞かれた変な質問に、癒菜は困惑する。
自分のどこをどう見て、筋肉ムキムキだと思うのだろうか。
癒菜は、自身の体を見ながらそう考えた。
「えっと…。私、ムキムキに見えるかな…?女子の方でも細身の方だと思うのだけれど。」
癒菜は、少し心配そうに幸に答える。
その様子を見たノノカがご飯を食べながら、心配そうにしている癒菜に対して擁護する。
「ねー!ムキムキってなーに?ママは、細くて可愛いからね!!心配しないで!!」
ノノカの擁護に癒菜は、嬉しくなって、ノノカを思わず抱きしめた。
幸は、そうだよなー。と思いながらマジマジと癒菜の全身をくまなく見ていた。
細い首に、細いウエスト。よく見ると腕や足腰にも筋肉が逆にあるのか?と言うほど細い。
腹筋が仮に割れていたとしても、こんなんじゃ、2人を運んで家まで連れてくることなんて不可能だ。
幸は、癒菜の体を見ながらそんなことを考えていると、それに気づいた癒菜の顔が少しずつ赤みを帯びていった。
そして、最後には顔が真っ赤になり、耐えられなくなったのか癒菜の手がおおきく振りかぶられた。
「ちょっと、ずっとどこ見てるの!!!」
バチィィィーン!!!!
部屋中に響く音ともに、幸の身体は宙を舞いながら、数メートル先の扉にめり込んだ。
「や…やっぱり…筋肉ムキムキじゃ…ねーか…」
幸の意識は途切れた。
それから数時間後、目が覚めると改めて話を聞き始めた。
癒菜の話を一通り聞くと、幸は妙に納得する。
また、あのクリオネのようなロボットが出現したのであれば、未知の科学力であの場を収められることも可能であるからだ。
さらに、癒菜が言うには、超能力のような力で幸達を空中に漂わせて、そのまま空を飛んでここまで来たとの事だ。
ムキムキの癒菜が運んだ説は見事に外れた。
「まさか、またあのクリオネが来たなんてなぁ、助けられたんだな…。」
幸は、クリオネの姿を思い出していた。
「ねーねー!くれおねってなーに?さちー!それおもちゃ?ノノ欲しいなあ!」
ノノカは、クリオネがなんなのか分かっていないようだ。
一応ノノカのことを知る唯一の手がかりになる為、絵を描いて見せる事にした。
「ほら、ノノカ。こういうロボットだよ。覚えてるでしょ?ノノカと一緒にこの家に来たやつだよ。」
幸の絵は、そこそこ画力がある。
昔は絵画コンクールでも優勝するくらいだ。
そんな絵を見せたので、知っているのであれば、あーこれか!となるはずだった。
「なになに!かわいいねー!!くれおね?ノノ!この子ほしいなー!」
ノノカは、覚えてないらしい。
ここ数日、ノノカの赤子の時に聞こえてきた心話がノノカから届いてこなくなった。
それは、少し成長してからだ。現在の身体に魂的な物が影響を受けてしまうとは前に聞いていたが、もはや生まれ変わりと言っても過言ではないほど、彼女の言動や記憶は幼児そのものなのだ。
「おいおい、まじか。クリオネ分かんないのか。ノノカは、どこから来たのかとかも覚えてないの?なにしにきたとか!」
幸は、ノノカのことを聞き出すも無駄に終わる。
「ノノ、わかんなーい!ねね!ママと一緒にお絵描きしようよお!ノノ、すごいんだよー!」
ノノカは、我気にせずといった感じで、自由帳と鉛筆を持って絵を描き始めた。
「竹取くん。ノノちゃんは、恐らく本当にもう何も覚えてないんじゃない…?」
癒菜は、ノノカの様子や態度、話し方や考え方含めて、同じ年齢の女子にはどうしても思えなかった。
よって、彼女が記憶喪失になったのは間違いないと見ている。
「あぁ…。間違いなくノノカは、ただの5歳児の幼児そのものだ。人の身体に変わってしまったことが影響しているんだろうか。」
2人は、少しノノカの心配をしつつも、その日はそのまま眠りについた。
翌朝、いつも通りノノカを連れて3人で学校へと向かうと、校門前で3人組の男が綺麗に縦に並んで立っていた。
「え、なにあれ。こわ。」
登校する生徒達は、皆一同にその3人を見ながらザワついているみたいだ。
その3人は、直立したまま動かず綺麗な姿勢で立ち止まっている。
幸達3人も学校に到着すると、学校の校門前で並んでいる3人組を見つけた。
「ママー。あれなにー?なにしてるの?」
ノノカは、3人組へ指をさしながら癒菜に尋ねた。
癒菜もよく分からなかった。学校から癒菜にそういう行事等の連絡は来ていなかった為、生徒が勝手にやっている事だろうと考えていると、幸が突然大きな声を出した。
「げっ!!アイツら…!!石作達じゃねーか!?やっば!!暴水買ってない…!!」
よく見ると、その3人組は昨日喧嘩したばかりの石作達だったのだ。
仕返しする為に待ち伏せている。昨日の事を知っている人間からしたらそうとしか見えない行動だ。
癒菜も石作に気がつくと、ノノカを抱き寄せて
どうしようと考えた。
学校の校門は、1つしかない。裏門は基本閉められていて、教師しか出入りが出来ないのだ。
どうにか通学するには、ここの門を通過するしかない。
迫り来る石作達との遭遇を前に、幸は2人に向かって伝える。
「2人とも!!へ、変顔だああ!!とにかく奴らにバレない程に顔をねじまげて、別人を演じるんだ!!」
幸達が取れる最善の策がそれしか無かった。
幸と癒菜が思いっきり変顔をすると、ノノカは2人の顔を見て爆笑する。
「ブーッ!!!え!!なにそのかお!!あひゃひゃ!!さちとママおもしろいいい!!あひゃひゃひゃ!!」
幸と癒菜はめちゃくちゃ恥ずかしくなりながらも、コソッとノノカに向かって同じようにするよう言う。
ノノカは、笑いを堪えつつも、2人を真似て変顔をした。
そうして、3人とも周囲が見たらドン引きするレベルの変顔をキメた。
いよいよ、石作ら3人の前を通過しそうになる。
幸と癒菜の心境は、まるで某ジ〇リ作品で、神様達に紛れてコッソリ橋を渡るハ〇様とち〇ろの様な緊張だった。
コソコソと歩きながら、隣に来た石作をチラッと見る。
石作は、3人の事を見ているが気づいていないのか、何も話しかけてこなかった。
石作達を通り過ぎて、少し安心すると突然後ろから声をかけられる。
「おい!待て!あんたらその子供…。」
その声の主は、追いかけてきた石作だった。
幸達の額から、汗が吹き出す。
「た、竹取くん!変顔が足りなかったんじゃないの!?変顔作戦ダメじゃない!!恥ずかしかったのに…!」
「俺かよ!?俺のクオリティは天下一品に決まってる!!それに、まだバレてるとは限らない!最後まで演じきってやる!!」
2人はお互いに言い合うと、幸は石作に変顔をしたまま向かい合った。
汗が止まらないが、とにかくバレないように声も変えて石作に対応する。
「この子になにか…?」
ノノカも変顔をずっと続けていたが、次第に身体が小刻みにプルプルしだしている。
石作は、変顔しているノノカを無言で見つめはじめた。
何かを言うことはなく、無表情で見つめ続けた後に、残念そうな顔で呟いた。
「いやなに、ちょっと探している子に似ていた気がしてね。すまない。手間を取らせた。」
なんだか、石作が言わないような石作らしからぬ言葉と謝罪を述べると、校門の方へ向き直した。
自分の変顔がバレなかった事に自信を持って、癒菜の方へキメ顔を決めていると、耐えていたノノカが遂に耐えられなくなって急に吹き出した。
「あひゃひゃひゃひゃ!!!も、もうだめー!あひゃひゃひゃひゃ!!さち!!おなかいたい!!あひゃひゃ!!」
大笑いだ。もうずっと耐えていたのであろうノノカは、周囲を気にせずに笑い続けた。
すると、向き直っていた石作が再度振り返った。
「今、さちって…?あんたもしかして竹取か?という事は、その子の名前はノノカ…?」
石作は、先程とは変わって、少し嬉しそうに聞いてきた。
やばいと思った幸は、全力でそれを否定する。
「いやいや、なにをおしゃられる?この子の名前はノブコ。ノノカでは無いですよ。」
必死だった幸は、うっかり変顔をやめて普通に答えてしまっていた。
「あ。あんた竹取じゃん。」
「え?あ。」
癒菜は、アホな幸に対してため息をつく。
バレてしまった3人は、石作から後ずさりした。
「く、くそ!!な、なんだよ!?朝っぱらから待ち伏せしてたのか!?めんどくさい奴らだな!しつこいんだよ!!」
幸が叫ぶと、石作は無言で両手を上げた。
何事かと思い、幸は慣れないファイティングポーズを取って構える。
幸の味方の、暴水は現在持っていない。よって石作に対抗する手段はない。
攻撃されたらひとたまりもない状況だ。
そんな時に、ノノカが少し怒った声で石作に向かって言葉を放つと同時に石作が土下座をした。
「きのうのひと!!だめだよ!?もう、さちをたたかないで…!!」
「すいませんでしたあああ!!!」
石作は、頭を大きく下げて突然謝罪をしたのだ。
「私は、昨日まで悪魔に取り憑かれていたようで、自分でしていたことが恐ろしくてたまりません!!ノノカ様とそのご両親に対して、とんでもないご無礼を働いてしまいました。」
石作は、申し訳ないように謝罪の言葉を述べ続ける。
これまでの彼からしてみれば、これはとんでもない事だった。
彼は、恐らく生まれてこの方、一度も謝罪をしたことがないような男だ。
そんな男が、こうして頭を地面に着けて謝っている。
まるで、どこかの宇宙人にでも改造されたかの様な様変わりだ。
幸は、まるで別人のようになった石作をこの上なく気持ち悪く感じる。
「な、なんだよ急に!!それにノノカ様って!?気持ち悪いぞ?!何が目的だ!!」
「そ、そうよ!!私達に昨日あんなことしておいて、何考えてるの?!」
幸に続き、癒菜も怯えながら石作に向かって言った。
石作は、2人の言葉を受けると、静かに立ち上がり、教室を指さした。
「2人の混乱する気持ちはよく分かる。ひとまず一旦中に入いりましょう。もうすぐ授業が始まります。後ほど、詳しいことを話させてください。」
石作(?)は、やはり別人だった。




