海辺の幻
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………
…波に、…砂に、…空
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………
たゆたう波間に、あのひとの…影
波が染み込む砂地の上に、あのひとの…気配
さざ波の歌に混じる、あのひとの…ささやき
海辺に漂う、…まぼろし
かすかに…あのひとが……
ほのかに…あのひとが……
たしかに…あのひとが……
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………
私が捨てた感情が、海辺で…くすぶっている
私が手放したものが、海辺で…彷徨っている
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………
海に弄ばれる、物語の…かけら
海に消えてゆく、物語の…かけら
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………
物語に……なれなかった
物語に……したくなかった
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………
物語にしては……、いけなかったのだと……
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………
集まっては…消えてゆく
押し返しては…消えてゆく
飛沫をあげては…消えてゆく
海辺の……まぼろし
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………
波に、のまれてゆく
砂に、染み込んでゆく
音に、かき消されてゆく
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………
……さようなら
ざざーん…
ざぶーん……
ざざざざーん………