9.夜へ
「ん~、経験値的には結構美味しかったんだけど……その割にはこのあたりの敵と同じくらいの敵だったような……」
「そうなの?」
私は体験版やってないからなんとも言えないけど……そうなの?
「まだなんとも言えないんだけどね。ん~……次は、私が【声援】やってもいいかな」
「うん、いいけど……」
このあたりの治安指数は、35くらい。
次の敵もそれほど時間を置かずに出現したが、これが今の治安指数が私に要求されている治安指数の25%程度しかないせいなのか、それとも治安指数の条件を達成していないと常に一定なのかはまだわからないけど――あまり待たずに次の敵が出てくれるのは、レベリングしているときに限っては実にありがたいことである。
【激励】バフの効果時間は、3分。まだ、バフ効果が切れるまでには至っていない。なので、トモカちゃんが私のクラス特性でポップした敵性NPCを相手に【声援】スキルを試すのは、新たに登場したこの敵性NPCを倒してからとなった。
そして、【激励】バフが切れて、初めての敵性NPCがついにポップする。
「出たね、トモカちゃん」
「うん。声援、〈みんな、頑張って〉!」
新たに付いた【声援】のバフは……メガホンのマークに上向き矢印が2個重なったアイコン。
それと同時に、【激励】を受けたときのような、体が急に軽くなったような錯覚も感じた。
「う~ん、ちょうどいい感じの戦いになってるね」
「だねぇ」
やっぱり、1ランク下のスキルになったことでバフ効果も弱くなり、フィーナさんやヴィータさん、それにトモカちゃんのウルフも先程よりは苦戦している様子だった。
今回現れた敵は、黒装束の、顔を隠した人が二人。
名前は、『暗殺者ギルド下っ端構成員』らしい。
すばしっこい動きで私の護衛二人や、トモカちゃんの従魔のグラスウルフを翻弄していた。
けど、捉えきれないわけじゃないし、何より一対一ならともかく、二対一なら余裕の相手だった。
見ている感じだと、護衛が敵の一人を抑えている間に、グラスウルフが隙を突いて攻撃、というパターンが出来上がっていた。
この分だと、私も入れる余地があるかな。
「お嬢様、危ない! 後ろですっ!」
「ッ…………!」
切羽詰まった、ミリスさんの声。
「あ、ぇ……っ!?」
なにかで、背中を刺されたような感覚。
VRゲームだからこその、少しだけ針で刺されたかのような小さな痛みに、ハッとして後ろに振り返れば、いつの間にかすぐそこにもう一体の敵が迫っていた。
「い、つの間に!?」
「気づかなかった……。アサシン系の敵だからか! やるしかない――」
くっ、体が動かせない。これ……黄色の、ギザギザが二つ並んだやつって、麻痺のアイコンだよね。
暗殺者らしいこと、やってくれるじゃないの。
「ごめんトモカちゃん、麻痺入ったわ。【激励】! 〈トモカちゃん、気をつけて〉!」
「うん、ありがとう!」
せめて両肘をついて頭を上げて、声を張り上げてトモカちゃんにこちらの現状を伝える。
それと同時に、バフ効果をトモカちゃんの【声援】から私の【激励】に切り替えた。
敵の強さは、【声援】から【激励】に変わって、それで一対一でややこちらが優勢になる程度。
やはり、実際に後衛ステータスの私達が戦う分には、結構強いようだ。
トモカちゃんが背後から襲ってきた敵に殴り掛かりに行くのと入れ替わりで、ミリスさんの手によって、ポーションが振りかけられる。
麻痺を解除する効果でもあったのか、それだけで私にかかっていた麻痺の効果は消え去ってしまった。
「大丈夫でしたか?」
「あ、うん。何とか大丈夫だったよ」
「そうでしたか……それは安心しました。ですが、あまり無理はなさらないでくださいね」
ミリスさんにそれとなく窘められる。
それに対して短く謝罪を入れると、私もトモカちゃんに声をかけて、戦線に復帰した。
「ハンナちゃん、麻痺は?」
「ミリスさんに治してもらった」
「そっか。こいつ、やっぱり一対一だと結構強い」
「うん、そうみたい。二人で戦おう」
トモカちゃんが、手に持っていた両手持ちの杖を相手に振りかぶる。
当然、相手はそれを交わして、返す刃でトモカちゃんに切りかかろうとして――それを狙っていたかのように、トモカちゃんは杖で受け止めた。
そのままトモカちゃんは相手の攻撃を押し返して、小さな隙を作りだしたところで杖の先っぽで敵を小突く!
暗殺者NPCは、その衝撃で大きくのけ反った!
――ここだ!
「やぁっ!」
その隙をつくように、私は一気に肉薄し、相手の頬を閉じた扇子で思いっきり――叩いた!
さらに追い打ちをかけるように、トモカちゃんも追い打ちの一打を叩き込む。
「くっ……! 失敗した時点で深追い無用、ここは立ち退かせてもらおう」
思いっきり叩き込まれた連撃。それであっという間にVTがゼロになった暗殺者は、そのまま煙のように消えてしまった。
「…………はぁ~、びっくりした……」
「ハンナちゃん、大丈夫だった?」
「うん……なんとかね。あ、VTが結構持ってかれてる……」
「私達、二人とも前衛向きのステータスじゃないからね……」
私もトモカちゃんも、能力値的には後衛向きのステータス。
武器スキルも持っているとはいえ、あくまでもこれは護身用でしかない。
ここは街の側で敵も弱いし、バフ効果もあって何とか苦労せずに倒せたけど、これがもしもう少し強い敵で、懐に入り込まれたりしてたら、やっぱり今みたいに苦戦しちゃうことになる。
そうならないように、常に後ろには気を遣っておかないといけないな。
ごめんなさい、と謝ったところで、ヴィータさん達も私達のところに戻ってきた。
「お嬢様、申し訳ありませんでした。前の敵にばかり気を取られ、後ろが疎かになるなど護衛として失格です……」
「この失態、いかなる処罰も甘んじて受ける所存にございます」
「ちょっ、怖いんですけどっ!?」
思わず、ぎょっとしてしまった。
隣を見れば、ウルフを撫でまわして労っていたトモカちゃんも、ヴィータさん達のあまりの物言いにぽかん、としてしまっていた。
「わ、私は大丈夫だったんだからそれでよし、にしておこうよ! じゃないとこの先キリがなくなっちゃうから!」
「ですが……」
「主人の私がそうだと決めたんだから、それでいいの! この話はおしまい!」
まったく、従者たちの忠誠が重すぎるよ……。
「あ、はは……ウルフにも、人の言葉を話すスキルとかがあったら似たような感じになるのかな……」
「さぁ……? 私のこれが、おかしいだけだと思うけど……」
とにかく、今後はあまりダメージを受けないように心がけよう。
じゃないと、ことあるごとにこれじゃ私の方が参っちゃうからね。
それから少しだけその場で休んで、私は再びフィールドの探索を始めた。
ちなみにトモカちゃんはこの後、固定パのメンバーからお呼び出しがあったので、ここまでとなった。
にしても。
「暗殺者とか野盗とか――スライムとかグラスウルフならともかく、なんで人がスライムゼリーとか獣肉とか落としていくかね」
「獣肉は純粋に食糧でしょう。スライムゼリーについても、一応薬草を煮詰めた汁と練り合わせることで簡単な糧食にもなりますから、非常用に材料を持っていたのでしょう……。味はお勧めできませんが……」
――癒しの携帯食糧 の基本レシピを習得しました。
ミリスさんのちょっとした知識を聞いたところで、ぴこん、とウインドウが開く。
【レシピ:癒しの携帯食糧】
満腹度+30%、HP継続回復(微~小)、腹持ちアップ、好感度ダウン(中~好感度アップ(微))
傷を癒す効果がある薬草を煮詰めた汁と、スライムゼリーを練り合わせたボール状の携帯食。
腹持ちはいいものの、味を調えなければお世辞にも味はいいとはいえない。食糧を求められたときに最低限の材料で作られたこれを渡すのは、極力控えたほうがいいだろう。
他に何もないときの最後の手段としたい。
必要な材料:(治療薬素材)、(水)、スライムゼリー
必要なスキル:料理
「これを必要とするような状況には陥りたくはないかなぁ……。ミリスさん、屋敷のキッチンとか、使わせてもらえたりしない?」
「料理くらいなら、ハンナお嬢様なら使用人に任せれば作ってもらえると思いますが……?」
「それもそうなんだろうけど、どうせなら自分で作った物も食べたいなぁ、って。それに、もしかしたら自分で料理しないといけないことも今後出てくるかもしれないでしょ」
「……確かに、お嬢様が冒険を続ける限り、そういう可能性も否めませんね。……とはいえ、この世界ではあのお屋敷がお嬢様のご自宅でもあるのですから、お好きになさるのがよろしいかと」
「やった!」
「屋敷に戻ったら、旦那さまや奥様、それに料理長に話を通しておきますね。それまでは、お控えください」
「は~い。ありがとうございます」
歩きながら薬草を探しつつ、ミリスさんとやいのやいのと談笑する。
プレイヤーの数は多かったけど、さすがに薬草を全部取りつくすほどはいなかったらしく、私達はお互いほくほく顔でお試しのフィールドワークを終えることができた。
治安指数が街よりも低いせいか、結構な頻度で何かしらの敵性NPCがポップしては襲ってきたけれども、【激励】さえ使っていれば畏れるほどの敵ではなかった。
なんなら、VTポーションもいっぱいあったし、背後からの攻撃もさっき一撃もらって以降は気にかけていたからそれほど受けてないしね。
そんなこんなで探索を続けていたら、いつの間にか割といい時間になっていた。
「お嬢様。そろそろ切り上げてお屋敷に戻りませんか?」
う~ん、そうだねぇ。
「ミリスさんに採取した物全部任せちゃってるけど、量的にはどうなんだろ。まだ持てそう?」
何しろ所持品枠がすごく少なく、ミリスさんに任せていないとアイテムを30個と持てないのだ。
その上ミリスさんは一応私の従者という立ち位置になってはいるけど、ミリスさんの所持品は私は確認することはできない。
もちろん、あとどれくらい持てるのかも未知数。
だから、こうして確かめるしかないのだけれど。
「そう、ですね。お荷物を持てるか否か、であれば確かにまだ余裕はあります。ですが、本日は初めてということもあり、確認程度の軽い探索かと思って最低限の準備しかしてこなかったのです。――そろそろ、お腹がお空きではありませんか?」
「お腹? あ~、そういえば……」
それとなく、お腹が空いている感はあるけど……。
「あまり腹を空かし過ぎると、そのうち行動ができなくなります。余裕があるうちに引き上げる判断をすることも、冒険者にはまた必要なのではないかと存じます」
「今回は携帯食も持ってきていませんし、野営道具もありません。このような状態でこれ以上の探索をするのは危険であると具申いたします」
ヴィータさんも、私を窘めるようにそう言ってくる。
そしてフィーナさんも。
三人からこう言われるとなれば、私からはもうこれ以上探索するとは言えない。
大人しく、屋敷に帰るしかなさそうだ。
ファストトラベルで公爵家邸の私室に帰還する。
う~ん、安全な空間に戻ってきたからか、疲労感がぐっとのしかかってきた。
ずっと探索しっぱなしだったから、少し疲れちゃったかな。
いや、ゲーム内で肉体的な疲れって言うのは、感じてもリアルのそれとは似つかない程度に軽減されるって話なんだけど、こう……精神的な疲れが、ね。
「お疲れさまでした、お嬢様。初陣でしたが、素人目線からしても上手に立ち回れていたのではないでしょうか」
「そうですね。トモカ様と分かれて以降も、ハンナ様が自衛に徹してくれていたおかげで、敵を倒すことに集中できましたから」
「いやぁ、それほどでも……」
まぁ、最初に暗殺者から手痛い背中への一撃をもらって以降は、常に全方向を気にするように心がけていたからねぇ。
それでも、何回かは攻撃もらっちゃったんだけど……戦闘が終わり次第、ミリスさんが駆け寄ってきてポーション使ってくるから、ダメージなんてあってないようなものだった。
「ミリスさんのポーションにはすっかり助けられちゃった……」
「いえ。それほどたいしたことではありません。あの程度のポーションであれば、モルガン伯爵家の者であれば、作れて当然の物ですしね」
「なるほどねぇ……」
ミリスさんの実家は、ポーション作りで栄えた家なんだね。
医療系にも強いのかな。
「ん~…………だとしたら……これは、ありかな…………」
ミリスさんが調合方面に詳しいNPCってことは、もしかしたら調合関係でなにかしらの指南をしてくれる可能性もあるし。
ちょっと聞いてみる価値はあるかな。
そう思ってミリスさんの姿を探してみると……あれ? いない。
先ほどまでは後ろに控えていたのに……うん? 扉の方に歩いて行ってるね。
誰か来たみたい。
「お嬢様、ただ今奥様付きの侍女が来ております。奥様より、伝言を授かってきたとのことですが、よろしいでしょうか」
「うん? 奥様……って、あぁそっか。この世界での私のお母さんか」
応対を終えて戻ってきたミリスヴェグガナルデ公爵夫人からの遣いか。
一体なんだろ。
とりあえず部屋に迎え入れて話を聞いてみると――ふむぅ。なるほど、家族全員で食事をとってみないか、というお誘いがかかったと。
――ランクアップチャレンジ:公爵令嬢として に挑戦できるようになりました。
ふぁっ!? クラスアップチャレンジですとな。
なんかいきなりすごそうなのが出て来たけど……おぉ、ヘルプに直接いける。
なになに……?
『ランクアップチャレンジ:
現在のクラスのランクを上昇させるための特別なイベントを、クラスアップチャレンジと言います。
クラスアップチャレンジはチャレンジの名の通り、担当NPCから出される課題をクリアしたり、面談などで好印象を与えることでクリアできます。
クラスランクはあなたの最大プレイヤーレベルやクラススキルの最大値と密接な関係があるため、挑戦可能になった段階で、準備を万全に整えたうえで早い段階でのクリアを目指しましょう』
まじですか。
クラスって、ランクがあるの!? しかもランクごとにプレイヤーレベルに上限があるっぽい!
そして今回のはあくまでもその、クラスのランクだけを上昇させるものらしく、クラスアップ? とはまた違うみたい。
ついでに、クラスランクについてのヘルプも出ていたのでそちらも見てみる。
『クラスランク:
各クラスには、クラスランクというものが付いています。これはそのクラスにおける段階的な習熟度合を示すものになります。
クラスランクには各ランクごとにクラスレベルやクラススキルレベルの上限が設定されており、条件を満たすことでランクを上昇させ、クラスレベルやクラススキルレベルの上限を引き上げることができるようになります。
また、クラスランクが上昇した際、新しい特性が付くこともあります。
特にクラスレベルはプレイヤーレベルの上限値にもなっているため、早めのクラスアップをお勧めいたします』
うわっ、とっても重要な奴だったじゃん!
これ、今引き受けておかないと絶対にヤバい奴!
ん~、時間は……う~ん、微妙な感じ。
「19時くらいには、一旦ログアウトしたいんだけど、大丈夫そうかな」
「おそらくは間に合うかと存じます。中座することになっても、旦那様も奥様も異邦人であられるお嬢様の異界還りを邪魔するわけにはいかないでしょうし、ほぼ間違いなくお許しくださるかと存じます」
「そう、ですか。わかりました。時間になったら向かいますので、そのように伝えといてください」
「かしこまりました。奥様にはそのようにお伝えいたします」
では、失礼いたします。といって、夫人付きの侍女は静かに退室していった。
「う~ん……急にとんでもないのが来るんだもん、びっくりしちゃった」
「とんでもない、ですか……?」
「うん。奥様との、というか家族全員で食事をとるとか、急に言われてもびっくりするよ。こちとら向こうじゃ一般人だし」
ゲームとはいえ、貴族は貴族。細かいところで設定にこだわりがみられる当たり、きっと家族での会食についても、マナーを求められたりするんだろうなぁ。
うぅ、マナーとか知らないし、ちょっと緊張してきたよぉ。
「ミリスさん、私マナーとか全然なんだけど……」
「そうなのですか? その割には、今朝の朝食の時は……」
「あれは【淑女(公爵)】のスキルがあったから……」
「なるほど……スキル、ですか。……ということは、やはり旦那様が言われた通り、エリリアーナお嬢様の記憶の一部を、スキルという形で受け継いでおられる、と言ったところでしょうか……?」
「そそ、そんな感じそんな感じ」
「それで、今は今朝のお食事の時に感じたぎこちない感じは特になく、ごくごく自然体といった感じですから……ふむ。おおむね、理解はできました」
それでしたら、いっそのこと公の場ではそのスキルに頼ればいいではないですか、とミリスさんに言われて、なるほど、と私はポン、と手を打った。
そういえば、【淑女(公爵)】にはそんなアシスト機能が付いてたっけ。
ま、いざとなったら頼らせてもらうとしますかね。
――さてと。
急な来客に、急なチャレンジイベントの発生ですっかりタイミング逃しちゃったけど、さっき思ったこと、ミリスさんに聞いてみようかな。
「ね、ミリスさん。実はさぁ、その、受け継いだスキル? のなかに【調合】があるんだけど……。さすがにこれを使わないでいるのもちょっともったいないし、どうせならミリスさんに手ほどきしてもらえないかなぁ、なんて思ってみたりしたんだけど、どうかな?」
「私がお嬢様に、調合技術の手ほどきを、ですか……?」
ミリスさんは、考える仕草をしながら私にいくつか質問を投げかけてきた。
「お嬢様は、私から調合の技術を学びたい、と?」
「まぁ、可能ならお願いできないかなぁ、くらいの考えなんだけど」
「なるほど。しかしなぜ……? お嬢様がご使用になるポーションくらいでしたら、私がいくらでも調合して差し上げますよ?」
それはありがたいんだけど……でも、頼り切りというのもあまりよくない気がするし。
それになによりも――
「どのみち、【調合】があるのに使わないって言うのも、宝の持ち腐れみたいなものじゃない? 武器や防具を買うにもお金が必要だし、いずれは、【調合】にも手を出して、活動資金源を作りたいなぁ、って考えてる」
「そういうことでしたか……。では最後に。例えば、お嬢様がお店を持つに至るまで成長したと致しましょう。その時、お嬢様はいかにして販売価格を設定しますか?」
「え? え~っと……」
それはまぁ……基本的に、NPCの販売価格を基準にして、後はPC達の需要に合わせて調整していくしかないよね。
「店を構えたとして、基本的には異邦人向けになると思うし……。とりあえず、NPCの価格を基準に、後はその時の需要とか、効果の高さに応じて変えていく感じかな」
「ふむ……治療薬を扱う者の心構えはできているようですし、その目的もはっきりしている。私からすれば、もう少し私共を頼ってほしいところではありますが――自力でことを成そうという意気も、確かに感じられますね」
「ということは?」
「お嬢様の調合技術に対する適性を見てみないことには何とも言えませんが、及第点、といったところでしょう。それに、私が師にならずして、どこの誰かもわからぬものが師になるよりかは、私がお教えしたほうが安全でしょうし」
最後はそこに帰結するわけね、結局……。
まぁ、でも教えてもらえる感じなので結果オーライ、といったところかな。
「とはいえ、もうすぐお夕食の時間になるでしょうし、お教えできるのはその後、ということになるでしょうけれどね」
「ん~、わかった。じゃ、ご飯の後によろしく」
あ~、改めて夕食の話聞いたら、緊張してきたよ。
マナーなんて全っ然だし、いつまでも不安がっていても仕方がないから、今のうちに【淑女(公爵)】のモーションアシスト、オンに戻しとこ。