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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
それゆけ公爵令息捜索隊!
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48.ヴェグガモル旧道の遺跡の謎を解け!


 遺跡群は、私と鈴は辿り着いたことはないけれど、樹枝六花のみんなは幾度となく足を運んだことがあったらしく、しっかりと登録されていた。

 どうやら遺跡群――『旧ヴェグガニア皇国遺跡群・南』は、この遺跡群自体で一つのエリアとして独立しているらしく、ヴェグガモル旧道とは独立したモンスターテーブルやアイテムテーブルが組まれているらしい。

 手に入る素材も、微妙に旧道とは異なるようだ。

「……で、これがその遺跡群?」

「そうですね。我々の間では、ヴェグガニア遺跡群と略して呼ぶこともありますが」

 ランドマークとなっている何やら形容しがたい、龍の頭を持つ鹿のような四足の獣の像を中心に、四方に意味ありげな像と遺構が残されている。

 像と遺構は、東から時計回りに大木と東洋の龍の像、火のついていない燭台と鳥のような生物の像、巨大な剣をかたどった石柱とトラの像、そして水場と亀のような生物の像が配置されている。

 それらを眺めてみるとなるほど、確かに遺跡群といってもいいような様相を表している。

 そして――多分これは、

「五行思想の守護獣?」

「だねぇ。私達もそう思って、試しに木、火、土、金、水の順に触れたり祈ったりして見たんだけど――」

「何も起こらなかった?」

「うんにゃ。いずれのパターンでも、『ナニカ』は起こったよ。正確には、五つの守護獣の像そのものが襲い掛かってきて、全滅させられた」

 あぁ、なるほど。つまり手を触れてはいけないやつってことか、この像は――ん?

 そう言えばここ最近、そんなような話をイダ村のクエストで聞いたことがあったよね。

「多分だけど、ここか、どこか階段みたいな場所を下った先で五行思想に関係した何かをするのは間違いないよ」

「どうして?」

 そう聞き返してきたのはマナさんだけだけど、樹枝六花のみんなをはじめ、鈴もきょとんとして私を見てくる。

「えっとね。少し前に、クラス限定のクエストを受けたことがあったんだけど――」

 私はそのクエスト中に聞いた、何か意味ありげなわらべ歌をみんなに披露した。

 確かこんな感じだったよね。


 ――五属の砦の守護獣は 五色で彩る月明り

 ――そのまま下りて()るならば 五獣に祈りをささげるべし

 ――下らず砦に()るならば 月の光を辿るべし 汝の危機を砦が守らん

 ――下らず五属を辿るべからず 無知なる汝の命刈り取る


「……なるほど。確かに、意味ありげだね」

「というか、この辺りにある遺跡群といえばここしかないし……そっか。イダ村の子供たちから聞けるわらべ歌って、こう言う繋がりがあったんだ」

「子供たち?」

 樹枝六花のみんなは、イダ村の子供たちからその話を聞いたらしい。

 ただ、多くのプレイヤーは最初の句と3番目の句の意味は図りかねており、唯一2番目の句だけは理解できたらしく。

 その2番目の句だけは、すでにその全容が掲示板にさらされている状態にあるという。

「う~ん……今回のクエストでは、『月の拠点』っていうのを探さないといけないんだよね……。ということは、どう考えても挑戦者たちをことごとく撃退している2番目以外の句――主に最初と3番目の句をどうにかして解かないといけないってことになるか……」

 『月の拠点』のありかがここであることは、おそらく間違いない。

 なぜなら、龍――青龍の像の向こう側に見える遺跡の門に、見覚えのあるマークが掲げられているからだ。

 奴隷密売組織は明らかに、この遺跡を拠点として占拠しているといってよかった。

「はてさて……それで、どうしようかな。今のところ、ヒントらしいヒントはイダ村の人達が言っているそのわらべ歌くらいしかないし……」

「ん………。……………………? …………もしかして」

 マナさんに追従するように鈴も頷く。

 この中で一番持っている情報量が少ないのが鈴だ。

 イダ村での情報収集もしていないので、わらべ歌のこともネット情報でしか知らないだろう。

 だが、鈴はそれからしばらく周囲の様子を凝視するようにじっくりと見渡して、やがて何かを掴んだかのようにそう呟いた。

「もう一度、隅々までこの遺跡の遺構を調べてみるべきかもしれない」

「え?」

「これ、多分だけどかなりの頭脳戦。相当ひねくれてる。考えた人、多分かなりのイジワル」

「それ聞くと、なんかすごく怖いんだけど……きちんとその考え方で解けるの?」

「ん。すでに最初の糸口はつかんだ。あとは私と皆次第」

 私達は困惑しながらも、他に手がないので鈴の考えに乗ってみるのであった。


 それから私は、鈴の指示のもと、エリアから出ないようにいくつかのグループに分かれて散らばり、この遺跡群の遺構をつぶさに見て回った。

 あらためて見てみるとこの遺跡群。なんというか――置かれているのは五行の守護獣を除けば、みんな動物絡みであることが見て取れた。

 例えば私達に割り当てられたエリアでは、ラミア、ケンタウロス、そしてモンスターのオクタウロスの像が置かれていた。

 他の場所でもミノタウロスとかコカトリスとか、動物や動物が絡む像ばかりが見つかった。

 配置はばらばらだけどこれって……要は、全部干支の十二支に関連する動物だよね。

 それが、月と五行、何か関係あるのかな。

 う~ん、わからないなぁ。

 とりあえず、私とトモカちゃんでは考えがまとまるわけもなかったので、私達は集合場所である、ランドマークにもなっている盛り土のところへと戻っていった。

 それからしばらくたって、他のみんなも方々から戻ってきたので、それぞれの方角に何があったのかの報告会を行ってから、鈴の推理を待つこととなった。

「……………ん。やっぱり。多分、これであってるはず」

「どういうことなの?」

「多分だけど、『月の拠点』とか、『五色で彩る月明り』っていうのは、月干支のことを指しているんだと思う」

 ――月干支?

「簡単に言えば、きのえやきのとといった月の十干。それから子、丑、寅といったよく知られる十二支。それらのことだね」

「ふ~ん……って、待って!? 十干はわかるけど、月干支って十二支もあるの!?」

「あるの。だって、実際問題1年は12か月でしょ? つまり、昔の人はそれにも十二支を当てはめて考えたの」

「そう、なんだ……」

 へぇ。そんな概念が月にもあったんだねぇ。驚きだよ。

「それで、それで行くとやっぱり、順番的には一月に子で始まるの?」

 私が大きなネズミの像を見ながらそういえば、それに待ったをかけたのは意外にもサイファさんだった。

「そうなのですか? 子というのがラット種のモンスターを指すのであれば、こちらの世界ではラットの月は12番目の、いわば年末の月なのですが……」

「あり。そうなの?」

「ゲーム内でも同じような概念があるのは驚いた。けど……これはサイファさんのが正解、かな……」

 え? なんでネズミが一月じゃないの?

 私達が首を傾げていると、鈴はなぜか遠い眼をしながら、その理由を語った。

「これには、五行思想も大きくかかわってくるんだけど……陰陽五行説は昔の東洋で用いられたもの。そして東洋では、冬至がある月がお正月だったっていう話がある。だから、旧暦では少しだけ早く、今の十二月が一月になる」

 そういうことか……つまり、十二月から子。一月は、丑?

「そして、一月は丑、二月は寅、と続く」

 ふむふむ……。

「後は、それぞれに五行の属性を当てはめていけばいいだけ。スタートの子は冬で、冬は水行。そこから木が春、夏が火とくる」

 残った秋は、金行か土行?

「ここで注意する点が一つ。土行は、各季節の最後の月に一ずつ、挟み込む。立春が二月で、二月の寅は春。じゃあ、ハンナ。一月の丑は?」

「え、私!?」

 えっとえっと、各季節の最後の月に挟み込むんだから、その翌月は次の季節の最初の月。つまり、

「土行だね」

「正解。『土用の丑の日』とあるように、丑は土行。同じように、立夏の前にあたる五月の辰は土行。立秋の前の未、立冬前の戌も土」

 まとめるとこういうことかな。

 十二月、子で水。一月、丑で土。二月、立春。寅で木。

 三月、卯で木。四月、辰で土。五月、立夏。巳で火。

 六月、申で火。七月、未で土。八月、立秋。申で金。

 九月、酉で金。十月、戌で土。十一月、立冬。亥で水。

「月の光を辿る、とわらべ歌にある以上、この順番で辿るのが正解のはず」

「うん、一通り聞いてみたけど、筋は通ってるね。試してみて損はなさそう。よし、それでやってみよう」

「掲示板にも出てないし、これで新領域に行けたら私達、最初の遺跡攻略者だね!」

 おぉ、何気に偉業を成し遂げようとしてるのか。

 ちょっとだけプレッシャーを感じながら、私は干支の十二支の動物をかたどった像を、順番に触れていく。

 ……あれ? 何も起きない?

「……ん~、もう一回試してみよう。ただ、今度は動物の像じゃなくて、守護獣の像を使って」

「守護獣の像をって……あ、そうか。今みたいに、月干支の五行の順番でってことだね」

「ん……それで間違ってたら、素直に謝る」

 多分、鈴の考え自体はあってると思うんだよね。筋自体は通ってるんだし。

 あとはやり方が合えばいい話で……っと、今度はできたっぽいかな。

 盛り土の上にある遺構の、柱に囲まれたに魔法陣が浮かび上がったし。

 私達は、樹枝六花のみんなが言っていたように、初めての遺跡の攻略者となったことに深い感慨を感じつつ、いよいよ第5フェーズへと進んだクエストを攻略するべく、その魔法陣に触れた。



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