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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
それゆけ公爵令息捜索隊!
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47.アジト突入!


 翌日木曜日は、本来ならサイファさんによる令嬢教育が入る日だったはずだが、今日はサイファさん自身もオリバー君の捜索を優先すべきだと推してくれたため、継続してクエスト攻略を進めていくことになった。

 スラム街にもランドマークは存在しており、すでに幾度となくスラムの探索をしていたらしい樹枝六花のみんなは本日の目的地に一番近いランドマークをすでに登録してあったらしい。

 それによって、かなりのショートカットをすることができた。

「ふぅ……で、たどり着いたのがこの建物、と…………」

 私達は、スラムの一角を陣取っている大きな建物を見上げる。

 樹枝六花のみんなも、この建物のことは知っていたらしいが、イベントか何かでも起きないと入ることができないらしく、この先はまだ探索ができていないという。

 たぶん、私みたいにクエストか何かのフラグが立っていないと、侵入ができないようになっているんだろうね。

「強制突入するとのことでしたが、どうします? ここなら開けていますし、私がここから彼らを気絶させることもできますが」

「うん、お願いしますサイファさん」

 私は、鞭と扇子をそれぞれ片手に持ちながら、サイファさんにそう言う。

「【鼓舞激励】――〈クリティカル・キネシス〉」

 サイファさんは一つ頷くと、いつものように流れるような動作で矢を弓に番え、あっという間に二人いる門番をヘッドショットにより一撃で仕留めた。

「では、参りましょうか」

 門番を仕留めたサイファさんは残心を残しつつ、勝利の余韻に浸ることなく私達に突入を促す。

 門には鍵がかかっていたが、そこは斥候担当のノアールさんによってたやすく開錠され、私達はすんなりとヴィレス商会のアジトへと潜入することができた。

 アジトの庭を歩きながら、私は周囲を見渡す。

 こんな時でも【散歩】スキルは有能で、危険性のある罠は仕掛けられている場所がうっすらと光って私にそれを報せてくれる。

 どうやら【指揮】スキルの索敵系や探知系スキル共有効果には、ノアールさんやサイファさんのスキルは有効ではあるものの、私の【散歩】スキルには対応しないらしい。

 こうなると【散歩】スキルによる視覚情報化は行われないようで、探知系のスキルの感覚になれているノアールさんやサイファさんはともかくとして、他のみんなは緊張した面持ちで目を凝らして地面を注視していた。

「意外と罠が多く仕掛けられている……でも、芝生に足を踏み入れるのは悪手だね」

「だね。【散歩】スキルによれば芝生はダメージ系や捕縛系が多いみたい」

 昨日私が付けさせられたみたいな、『スキル封じの枷』を使用した『転送拘束装置』というトラップが幾重にも張り巡らされており、石畳の上の『召喚トラップ』はミスリードであることがうかがい知れた。

 どちらが危険かなど、言うまでもない。

 スキルを封じられたら、枷自体は屋敷に戻れば外してもらえるけど、実質的にはまたスラム内のランドマークからやり直しだからね。

 ――あ。アジトの庭で私達に気づいた警備NPCが早速『転送拘束装置』に引っかかった。

 内部にいるNPCですら引っかかるって、逆にちょっと対象範囲が広すぎないかな。

 まぁ、たいして脅威にならなくなって済むんだけど。

 やがて、私たち自身は特にトラップにかかるでもなく、すんなりとアジト内部へと入ることができたわけだが――

「よ、ようこそいらっしゃいました、お客様……本日は、アポイントメントはおありでしょうか……」

 早速、首に物々しい枷をつけられたメイドさんが私達を出迎えてくれた。

 まったくもって、見ていられない光景だよ。

 とりあえずは、名乗りを上げるとしましょうかね。

「ヴェグガナルデ公爵のものです。昨日、発生したとある人物の失踪事件の件で、強制突入捜査をするために来ました。強制ですから、何をどう言われようとも中を改めさせていただきますので、できれば協力的になっていただけると助かります」

「えっと、そのう……」

 メイドさんは、何やら気まずそうな顔をしながら、どこからともなく短剣を取り出して私達に向けてきた。

「ご主人様から、ご主人様たちに敵対する者は容赦なく始末せよ、と強く言いつけられているのです。申し訳ございませんが……抵抗させていただきます」

 そう言いながら、メイドさんは弱弱しい動きで私達に攻撃を仕掛けてきた。

 正直言って、避けるまでもなく普通に鞭や、扇子で叩き落とせそうな短剣の扱い方だ。

 適正レベルの表示も5と、ゲーム始めたてのプレイヤーでもどうにでもなるレベル。

 なので、問題なく倒せるといえば倒せるのだけれど……。

 とりあえず、短剣は叩き落して、武装を解除するとして。

「ノアールさん、この人の首枷、外せるかな」

「やってみる――ん。外れた」

「ありがとう」

 うん、思った通り。メイドさんに付いていたマーカーは敵性NPCから一般の住民NPCへと切り替わった。

 首枷はアイテムなどとして入手できないようにするためなのか、すぐに消えてしまったので詳細はわからない――が、おそらくその首枷のせいで、従わざるを得なかったのだろう。

「その……助けていただいて、ありがとうございました」

「いいわ。私達も、あなたみたいな人を手に掛けるのは気が引けたからね」

 なによりも、倫理的にもあまりよろしくない。下手をすればカルマ値も上昇してしまいそうな雰囲気だったし、それを防ぐためっていう打算もあったのだ。

「……ですが、私はこれからどうすればよいのでしょうか」

「えっと…………」

 この切り返し方には私も正直どう答えればいいのか迷ってしまって、結局サイファさんに相談した結果、一旦は公爵家の屋敷で預かることになった。

 ただ、私達も今はクエストで内部の捜索があるのですぐに屋敷に帰ることはできない。

 メイドさんと話し合った結果、しばらくはホールの一角にある掃除用具入れに隠れてもらうことにした。

 なお、オリバーらしき人は確かに一度見かけたらしいが、その後どうなったのかはメイドさん自身はわからないそうだ。


「なんか、フェーズ3に突入した途端、やけに物々しくなったよね」

「うん。さすがは、奴隷密売組織のアジトっていう感じではあるけど」

「今までに樹枝六花のみんなで受けてきたスラム関係のクエストには、こうした展開ってなかったんだ?」

 トモカちゃんとマナさんの話を聞いて私は意外に思い、思わずそう聞き返してしまった。

「近い状況のはあったけど、さすがにああまで露骨なのはなかったよ。そう考えるとなるほど、公爵令嬢っていうユニークスキルは本当に良くも悪くも面白そうなクラスだなぁ、とは思うかな」

「妨害クエストでは攫われかけたり、今回は危うく虜囚として連れ去られそうになったり……ほんと、暇だけはしなさそうなクラスだよね~」

 失敬な。

 令嬢教育とか、結構大変なところもあるんだけど?

「面白そうだと思うならば、一回皆様も令嬢教育を受けてみますか? 私の教育は厳しいと貴族界隈では有名なのですけれど」

 サイファさんが鞭を弄びながら樹枝六花のみんなを窘めにかかる。

 樹枝六花のみんなは、苦笑してそれは遠慮させてもらいますと口をそろえて答えた。

 う~ん、だよねぇ。

 隣の芝生は青く見えるもの、ユニークスキルだからと言って単純に面白いことばかりではないのである。

 令嬢というクラスなのだから、やはりそこには令嬢らしい苦労もあるものなのだということを、私は今月に入ってから嫌というほどわからされた。

「う~ん、それにしても、先ほどから結構な人数の住民NPCが襲い掛かって来るね~」

「奴隷密売組織だしね……元は普通の住民だった人が無理矢理奴隷にさせられて、侵入者に対する使い捨ての戦力として使われている、という感じなんだろうけど……まったくもって、面白くないよね、こっちは」

「だねぇ。ラノベとかじゃよくありがちな展開だけど、こうしてVRゲームで見てみると本当に不愉快な光景だよ」

「おかげで私は忙しすぎる…………ん、外れた。これでもう大丈夫」

「ありがとうございます、ありがとうございます……」

 う~ん、これでもう何人目かな。

 出会う人出会う人、みんな私達が敵だとわかるとたどたどしく武器を向けてくる。

 これで身なりというか、グループ的には一般市民グループに所属していそうなNPCだからうかつに倒しきることもできないし、繊細な力調整が必要で、思いのほか疲れる探索だ。

「でも、そのおかげで情報はそれなりに集まってきたけどね」

「うん。アジト内で捜査って聞くと、スパイみたいに書類やらNPC同士の会話の盗み聞きやらが中心だと思ってたけど~、こういうのもあるんだね~」

 奴隷を解放して、その代価として内部情報を話してもらう。

 なかなかにそれらしい内容ではあるよね。

 集まった情報もかなり有力なものが混ざっていて、『オリバー君を見かけた』だけの証言も多かったけど、『地下室に連れられて拘束を受けたらしい』ことを見届けた男の子のNPCや、『どこか街の外にある別の拠点へと連れ去られたようだ』というようなことを語る、元は戦士系の冒険者だったらしい女性などがそれにあたる。

 そうして情報を集めていくうちに、やがて私達はとある部屋に行き当たる。

 ――『会長執務室』。視線の先にあるのは、そう銘打たれた両開きのドアだ。

 会長用の執務室というからには、取引の内容を記した書類や、奴隷として捕らえた人たちの情報などいろんな情報が集まっている可能性が十分にあるだろう。

 ゆっくり、慎重にルアーナさんがドアノブに手をかけたところで、ふと彼女はその手を止めて逆に手を放し、かと思えば今度はドアそのものに耳を当てた。

「何か聞こえる……」

「おぉ……それはまた、何ともベターな……」

 ルアーナさんはそのままドアに耳を当て続け、中の様子を探り続けた後、室内での会話が終わったのか、私達に近くの部屋へ隠れるように静かに言ってきた。

 運がいいことに、突き当りだったことと、すぐ近くに鍵のかかっていない部屋があったのでそちらに隠れることにした。

「……………………うん、大丈夫。行ったみたい」

「結局、連中は何を話していたのです?」

「大まかに分けて、二つ。一つ目は、今ここには最小限の戦力しか揃ってない。残りの戦力は、転移の魔道具で旧ヴェグガニア遺跡にある、『月の拠点』っていうところの守りを堅めているみたい」

「なんでまた……って、私達が倒しちゃったからか」

 マナさんがそういうと、それが正しかったらしくルアーナさんが頷く。

 重要書類なども全部移し終えているらしく、この拠点はほぼからっぽの状態といってもいいらしかった。

 そこまで分かれば、私達の次の目的地もおのずと見えてくる。

 しかし旧ヴェグガニア遺跡ね……。

 ここ最近、その単語を結構よく聞くよね。遺跡とか、ヴェグガニアとか。

 もしかしたら、それ関係の情報を聞くことが、このクエストのフラグになっていたのかもね。

「あと一つは、令息の居場所。保護した奴隷の人達が言っていたように、令息はここには拘束目的で一時的にしか留置されなかったみたい。連れていかれたのは、やっぱり旧ヴェグガニア遺跡の拠点だって」

 ほら、やっぱり。

 まぁ、最初からこの場所でオリバー君を発見できるとは考えてなかったけど……まさか、こんな形でその遺跡とつながって来るなんて。

 魔道具は念のために破壊されてしまったので私達が楽をするためにそれを使わせてもらうことはできなくなってしまったみたいだけど、今の情報をルアーナさんが聞いたことで、クエストのフェーズも次の4へと移行している。

 次のフェーズは、『遺跡の拠点を探し出す』。

 いよいよ、クエストも佳境へと突入といった感じだ。

「ルアーナ様が聞いた情報によれば、次が敵の本陣といっていいでしょう。各方、気を引き締めてことにあたりましょう」

「もちろんです」

 サイファさんの言葉に頷き、私達はヴェグガモル旧道の遺跡群へとファストトラベルした。



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