表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
それゆけ公爵令息捜索隊!
47/145

46.分岐点、奴隷密売組織の襲撃者たちを撃退せよ!


 そうして再びやってきた、スラム街。

 ただし、今度は東側ではなく西側だ。

 スラム街の西側は、東側とは違って小奇麗な感じになっていて、とても犯罪者や犯罪組織の温床にはならなさそうな感じしかしなかった。

 のだけれど……このスラムの一角に、ヴェグガナーク最大級の犯罪組織、奴隷密売組織のヴィレス商会があるんだよね。

 『オリバー少年の消失』クエストの第2フェーズで私達に要求されているのは、このヴィレス商会にどうにかして潜入することなんだけれど……ここで、厄介な点が一つだけある。

 それは、というかその一つが唯一にして最大の問題点なんだけれど……。

「どう考えても、私がいると相手にばれるよね……」

「それは確かにそうだよね……」

「なにしろ役的にはこれから向かう組織が敵対する公爵家の令嬢だもんね~」

「仕方がないよ。第2フェーズの進行条件、露骨にハンナのことを名指しで指名してるんだもん」

 とはいえ、第2フェーズを進めるにあたって必須となっていた条件の中に、参加するパーティの中にT.RANKが4以上のプレイヤー必須、というのがあったのだから仕方がない。

 T.RANKというのは貴族ランクのことであり、通常のプレイヤーには開示されていないが、貴族になると表示されるようになり、さらに爵位に応じてこのT.RANKが上昇するようになる。

 上はまだちょっとわかっていないけれど、少なくとも公爵が6ということは、そこから侯爵、伯爵、子爵と爵位が下になるにつれて5、4、3と下がっていき、騎士爵がちょうど0になることまではわかっている。

 んで、4以上となると伯爵以上――まだゲームが始まって2か月弱しかたっていないので、貴族として認められるだけの功績をゲーム内で打ち立てたプレイヤーもいるはずがなく。

 必然的に、条件を満たすのはユニーククラスで伯爵以上、ないしはその血縁者のユニーククラスを引き当てた人ということになってしまう。

 まぁ、とどのつまりゲーム全体を通して、現状では私しか合致するプレイヤーがいない以上、必然的に私のことを名指しで指定しているのと変わりないわけで。

 とはいえ、私が受けたクエストなんだし、私自身屋敷でじっとしているなんて我慢できないからなんにしてもついてきただろうけど。

 そうして和気藹々と話をしながら、私達はヴィレス商会に近づいていく。

 すると、ある程度ヴィレス商会の場所まで近づいたところで唐突にイベントが発生し、私達の前に一人のNPCが現れた。

 このNPCこそが、おそらくだが第2フェーズで重要な分岐点を担うNPCだろう。

 というのも、『オリバー少年の消失』の第2フェーズには2通りの攻略ルートが設定されているらしく、それに応じて第3ルートの内容が若干変化する仕様になっているらしいのだ。

 その分岐の内容とは、『わざと捕まって虜囚として侵入する』いわゆる脱出ゲームテイストなルートと、『襲撃者を薙ぎ倒して突撃する』単純でわかりやすいルートとなっており――まぁとどのつまり、ここでこのNPCを起点に発生する襲撃イベントでどう動くかによって、第3フェーズの動き方が変わってくるということである。

「おやおや、こんな薄汚いところに身綺麗なお嬢さん方が一体何の御用かな?」

 表向きには人の好さそうな人相をした男性NPC。

 しかしアイコンは敵性NPCを示すものとなっており、いつ襲い掛かってきてもおかしくない状態であることを物語っている。

 ただ、そう見えたのは私だけだったようで、他の皆には普通のNPCとしてしか映っていなかったらしい。

 皆には突然親切そうなNPCが現れ、私達のことが気になって話しかけられた、という風にしか思わなかったようだ。

 クエストフラグのマークも付いていたし、よしんばこの人から何か情報を得られるかも、と思っていたのかもしれない。

「えぇっと、私達は……」

「いけませんねぇ、こんなスラムのど真ん中を女性だけで歩くなんて。そんなことをしていたら――」

 パチン。

 どう答えようかと迷っていたマナさんの言葉を遮って、男性NPCは指を鳴らす。

 直後、周囲の者影や、建物の中に隠れていた敵性NPC達があっという間に私達を取り囲んでしまった。

 どうやらクエスト関係のイベントの一種らしく、その時点で私のアバターは一時的に私の制御下から離れ、どれだけ全身に力を入れても体は動かない。

 そのことに私自身戸惑いを隠しきれず、しかし声も出せなかったのでイベントの進行に身をゆだねるしかなく。結果として、私は回避することもできずにその包囲網を張る敵性NPC達の手に落ちてしまった。

 カチャリ。カチャカチャ。

 そしてダメ押しの枷。腕枷はもちろん、首にもなんか鎖付きのつけられた。う~ん、このあたりはR-15パッチのマークがつき始めたし、多分それを入れてるからこうなったんだろうな。

 元の状態だとたぶん、枷までは付かない可能性が高いね、これ。あるいは、手枷は付いても鎖までは表示されないとか。

 鈴辺りは配信もしているし、絶対に枷をつけられるシーンはゲームのシステム側でマイルドな感じの別展開になってるんじゃないかな。

「ほら。こうして、私達みたいなよくないことをするやからに捕まってしまいますよ?」

「……ハンナちゃん。ちゃんと避けようよ」

「いや、無理だから。今私のアバターイベント制御で自分じゃ動かせないし」

 あ、話せるようになった。

 う~ん、しかしなんで私だけイベント制御で身体を動けなくされちゃったのさ。

 どうせなら、他のみんなも同じようにしてもらった方が公平じゃない。

 と、内心で若干酷いことを考えながらも、未だに体は自分では動かせない状態が続いているので、今は大人しく成り行きを見守ることにした。

「おやおや。その耳飾りの紋章。実に見覚えがありますよ。私どもが捕らえている貴族のご令息も同じ紋の入ったカフスボタンを服に着けていましたからね。クフフフ、公爵家も随分と不甲斐なくなったものだ、まさかこのような場所にご令嬢まで足を延ばすことを許すとは……」

「言っちゃなんだけど、私達はそのカフスボタンを手掛かりにここまでたどり着いたわけなんだけど?」

「ということはご令嬢は公爵家からの回し者でしたか。ふむふむ、なかなかに勇敢なようだ。しかしやはり貴族の令嬢に違いはない。こうして我々の手に落ちる程度の実力しかないのですからね。いやぁ、お持ちなのは勇気ではなく蛮勇のようでしたな」

 なんかちょっとむかつくから黙っていよう。

「それにしてあのちんけなカフスボタンからここまでたどり着くとは……実力は足りてはいないが頭は切れるようだ。偽装工作を任せた下っ端とはわけが違う」

「偽装工作? もしかして本来の襲撃現場とは関係なさそうな場所にカフスボタンが落ちていたのは……」

「そうです。あれは私達が行った偽装工作です。……まぁ、下っ端に任せた結果、我々も世話になっているとある組織の重要拠点にそれが仕掛けられてしまった、というのには冷や汗をかきましたがね……」

 あれ、そういう顛末があったんだ。

 つまりあれは偽装工作であることに違いはないけど、下っ端が行った作業だったがゆえに粗が出てしまった結果ってことか。

 ははっ、要は策士、策に溺れるってやつだね。重要な仕事なんだから、下っ端に任せないで自分たちでやればよかったのに。

 男は、一頻り話し終わったところで、私以外のメンバーたちへと視線を向けた。

「さぁ、皆さんも早く武器を我々に渡して、大人しく捕まってください。じゃないと――」

 シャラン……と、剣を抜く音。

「ふふ、さぁどうしますか? こちらのご令嬢を見捨てて私達と戦うか――それとも大人しく私の言葉に従うのか。皆さんのお好きな方をお選びください」

 真っ先に投降したのは、やはり私の護衛のNPC二人。

 NPCだけあって、そのあたりは実に申し訳なさそうな顔を私に向けながら、手に持っていた剣と盾を近くにいた襲撃者へと手渡し――そして、代わりに私と同じように枷が嵌められる。

 ――と、このタイミングで私のアバターはイベント制御から解き放たれて、再び自由に動かせるようになった。

「んなの拒否するに決まってるでしょ。そりゃっ!」

 私はすぐ近くで鎖を掴んでいたNPCを蹴り、よろけさせる。

 はずみで鎖はNPCの手から離れて、私は再び完全にフリーになった。

 再び捕まってしまう前に、素早くみんなのところまで戻る。

 敵に取り囲まれていた私以外のみんなも、私が蹴りをかました時点で反転攻勢に出たので、戻るときはとても戻りやすかった。

「お嬢様……」

「申し訳ございませんでした」

「問題ないから大丈夫」

 やはり、申し訳なさそうに謝罪してくる護衛二人を慰めながら、私は先程ハイキックでよろけさせたNPCのVTを確かめる。

 ん~、ATK低いし、【蹴り】スキル育てていないからそれほど期待してなかったんだけど、それでもVTの減りが少ないな。減ったようには見えない。

 やっぱり私の貧弱ATKではそれほどダメージは期待できないってことなのかな。

「ハンナ様、ご無事で何よりです」

「サイファさん、フォローありがとうございました」

 サイファさんは、私が皆のところに駆け戻るまでに何発か矢を放っており、私に迫ってきていたNPCをけん制してくれていたのだ。

「ですがあまり無茶はなさらないでください。心臓に悪すぎます」

「ごめんなさい」

「本当にわかってるんですか、まったく……はぁ。とりあえず、ハンナ様はアリスティナから離れないでください。その枷は罪人を拘束するためのものと同じように見えます。であるならば、おそらくスキルを封じる力があるはずですから」

 あ、そっか。

 やけに歩きづらいな~、って思ってたらスキルを封じられていたからだったのかぁ。

 それじゃ、私が今ここでできることは本当に何もなさそうだ。

 しいて言えば、本当に形だけの応援くらいしかできなさそうである。

 といっても、敵の強さもそれほど強いわけではなく。あくまでも、敵のアジトに乗り込む前の前哨戦といった感じの強さしかなく、最初は30近くもいた敵性NPCも急速にその数を減らしていった。

「やれやれ……わかっていませんね。いいですか、あなた方がお探しの公爵令息は、私達の手の内にあるのです。彼の命が惜しかったら、今すぐに投降したほうがいいですよ?」

「それ、絶対に約束守らない奴のセリフだよね!」

「失礼な物言いをするお嬢様だ……」

 そうしている間にも、鈴や樹枝六花のみんな、そしてサイファさんとその従者たちによって襲撃してきたNPC達はどんどん数を減らしていき。

 最終的に、敵はイベントの起点となったNPCだけとなった。

「く……まさか、全滅させられるとは思ってもみませんでした。ここは一旦引くとしますか……ですが、絶対に後悔させて見せますからね」

 最後にそう捨て台詞を吐いて、男性NPCはこの場を立ち去っていった。

「はぁ……何とか乗り切ったね」

「うん。意外と際どいところだったかも」

「まぁ、割かしそんな感じがしないでもなかったけど」

「サイファさんがいなかったら、多分敗北して脱出ルートに強制移行させられてたよ、これ」

 フェーズ2では先ほども触れたように、2通りのルートが用意されていた。

 その内、突撃ルートへの進行条件が襲撃に耐えきって見事勝利を収めること、その一本だけに絞られているのに対して、脱出ルートへの分岐条件は二通りも設定されていた。つまり、襲撃時に諦めて投降するか、または戦闘になって敗北条件を満たす――つまり全滅するか、私が再び敵の手に落ちるか、そのどちらかである。

 なにしろ360度全方向を敵に囲まれていたので、円陣を組むにしても近距離船が苦手なメンバーの方向は守りが薄くなってしまいがち。

 そうなると、その隙を狙ってNPCに寄られてしまう可能性があるということで――。

「そんなわけで、ハンナちゃんには余裕そうに見えたけど、実際には使役職としてのハンナちゃんに守られてた面がすごく大きかったんだよ」

「アリスティナさんっていうデッドラインの存在がすごく大きかったね。それがなかったら、きっと失敗してたはずだよ」

 う~ん、そうなるとやっぱり、突撃ルートは難易度高めのルートだったんだなぁ。

 それを踏まえて考えると、教育係としてかなり厳しいサイファさんが来てくれたのは、逆に僥倖とも言えたのかもしれない。

 なんにしても、これで第3フェーズの攻略ルートは突撃ルートに定まったわけで。

 このまま奴隷密売組織のアジトに突撃だー! ……と、行きたかったところなんだけど、そろそろ夜も更けてきてて、このままだと徹夜してしまうことになってしまいそうだったので、今日は屋敷に戻ってログアウトし、続きはまた明日ということになった。

「それじゃ、また明日もよろしくね、みんな」

「もちろんだよ。こっちこそ、抜け駆けしたら許さないからね」

「あはは。これがあるから、さすがに抜け駆けはできないなぁ」

 マナさんの物言いに私は苦笑を禁じ得ない。

 用意されている客間へと向かっていく彼女たちを見送りながら、私は自分もログアウトするための準備を始めた。

 さすがに枷が付いたままだと明日以降困っちゃうし、これだけは何とかしたいからね。


 ――この後サイファさんの助言でウィリアムさん達に相談しに行ったところ、当然のごとく大層心配されてしまったものの、即座に召喚されてやってきた影の人達によって枷は難なく外された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ