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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
それゆけ公爵令息捜索隊!
46/145

45.推理開始!


 男性は、どうやらこのスラム街で武器を密造・密売している組織の下っ端らしい。

 下っ端といっても、所属している武器密造・密売組織自体がスラム街全体で一目置かれている存在らしく、最下層にあたる男性もそれなりの戦闘訓練は積まされているという。

 いわく、このスラムに本部または支部を置く組織の中で、自身の組織を好んで敵に回すような存在は稀有な存在とすらいえるのだとか。

 念のためにその組織に属するという証拠も見せてもらった。

 それは、木箱のそばに落ちていたバッジとは明らかに違っていた。

 そんな強大な組織に下っ端とはいえ所属する男性から詳しく話を聞いた結果、ノアールさんが見つけたバッジは、このスラムの西側に支部を置く奴隷密売組織の構成員がで身に着けているバッジだということが分かった。

 奴隷密売組織――そういえば、スラム街からいける埠頭の方には、犯罪組織が所有する密航船が発着する、秘密の港があるんだよね……。

 そういう組織もあるっていう話だったし、ここでそれが来たかぁ。

 最後に、男性にその奴隷密売組織のアジトらしき建物の場所を教えてもらって、私達はその男性NPCを質問攻めから解放した。

「割と重めの話が来たね……」

「まぁ、これまでにも似たような組織を潰せっていうクエストはあったし。今回も、最終的には同じような感じにはなりそうな感じはしてきたけど」

「えぇ~、これ単純な推理・追跡系じゃなかったんだ……」

「ま、探索場所がスラムっていうあたりで察しろ、っていう話だったけどね~」

 ノアールさんがそう呟けばマナさんがそう返し、ちょっとだけマリナさんが落胆すればまねきねこさんが宥めてモチベーション維持を図る。

 まぁ、私もスラム街っていう点と、そもそもオリバー君の護衛が死んでたっていうくだりで、単純に推理・探索系っていうわけじゃない、とは思ってたけどね。

「とにかく、これでまた新しい情報が集まったんだし、一度スラムから出て、集めたキーアイテムを見てみようよ。もう探索して手に入る情報は全部集まっちゃったみたいだしさ」

 第1フェーズの達成条件の一つである、痕跡探し。実際に自分の脚で現地を動き回って痕跡を探し求めるはずのこれは、案外さっくりと終ってしまい、要求されている5個の痕跡すべてを集め終わってしまった。

 あとは条件2の、頭脳戦しか残っていない。

 というわけで、こんな辛気臭い場所からはさっさと出て、落ち着いて考えられる場所に移動するべきだろう。

「とりあえず、屋敷に……みんなも入れるようになってるといいんだけどなぁ……」

「それに関しては、ハンナ様がウィリアム様に掛け合ってみてはいかがでしょう。案外、すんなりと許可が下りるかもしれませんよ?」

「はい、そうしてみます」

 というわけで、皆には徒歩で屋敷まで来てもらうことにして、私は一足先にファストトラベルで屋敷へ戻り。

 ウィリアムさんに事情を話して、鈴や樹枝六花のみんなを屋敷に入れる許可をもらうようお願いしてみた。

「うむ……本来なら厳戒態勢であまりよろしくないのだが……」

「他でもない、ハンナちゃんや鈴ちゃんのお仲間だし、私も噂を聞く限りでは、あまり悪い話は聞きません。いいのではないかしら」

「そうだな。門番に話を通しておくことにしよう。ハンナ、みんなを屋敷の中に案内してさあ仕上げなさい」

 おぉ、本当にサイファさんが言う通り、すんなり許可が下りちゃった!

 しかも! クエスト中は、みんなに対して客間も貸し出されるらしい。つまり、クエスト中に限っては、みんなも屋敷内でログイン・ログアウトができることになった!

 こうしちゃいられないと、早速皆を屋敷の中に招き入れて、私の部屋でその話をしがてら、捜査会議を開くことにした。


 私の話を聞いたみんなは、それはもう両手を上げて喜んでくれた。

 なにしろ、鈴がそうしているように、広場にログインしてから屋敷に来るまでって、時間はそれほどかからないけど、その都度毎回同じ作業を繰り返すのって何気に煩雑だもんね。

「それじゃ、早速キーアイテムの推理始めよっか」

 トモカちゃんにそう促されて、私達はキーアイテムのリストを開く。

 現在、集まっているキーアイテムは5つ。最初に手に入れた2つと、襲撃現場で手に入れたバッジ。そしてそのすぐそばの木箱。最後に、男性から聞き出した情報も同じくキーアイテムというくくりで入手している。

 さて……それじゃ、上から順に見ていきましょうかね。


【(未分析)オリバーのカフスボタン】キーアイテム/クエストキーワード

 オリバー少年の消失 で発見されたオリバー少年の衣服についていたカフスボタン。

 簡単には外れないが、取っ組み合いなどで強い力が加われば外れることもある。

状態:未分析▼

Q1.カフスボタンが外れたのは本当に無作為?

[作為ありの可能性あり][完全に偶然]


【(分析中)オリバー襲撃事件発生場所】キーアイテム/クエストキーワード

 オリバー少年が襲撃されたらしい場所。ボタンの発見された場所から推測されたらしい。が、果たして本当にそれで正しいのだろうか……実際にその場所に赴いてみる必要がありそうだ。

 もしかしたら、新しい情報が見つかるかもしれない。

状態:分析中▼

Q1.本当にこの情報は正確なのか

済:[まだわからない]

Q2.襲われた場所はこの場所で確定か

[確定][違う場所][まだわからない]


【(未分析)襲撃場所の木箱】キーアイテム/クエストキーワード

 オリバー少年が襲撃されたらしい場所にあった木箱。バッジが近くに落ちていた。

 申し訳程度の屋根によって雨風からは守られているようだ。

 木箱に何かをぶつけたような損傷はなく、中身はよく手入れされた高品質な武器。

 以前からこの場所にあったらしい。動かされた形跡もないようだ。

 普通の木箱のように見えるが……?

状態:未分析▼

Q1.この木箱は怪しそうだ

[汚すぎる][状況と矛盾している][偽証された可能性がある][怪しいのは気のせいだ]


【(分析済)奴隷密売組織のバッジ】キーアイテム/クエストキーワード

 オリバー少年が襲撃されたらしい場所に落ちていたバッジ。紋章が刻まれている。

 留め具の部分が壊れかかっており、非常に外れやすくなっているようだ。これではしっかり身に着けたつもりでも、いつ外れてもおかしくない状態といえる。

状態:分析済み


【(未分析)証言:スラムの男性】キーアイテム/クエストキーワード

 男は武器密売組織の所属。襲撃現場の木箱は男が所属する組織のもので、普段からそこに置いてあり、必要に応じて箱の中のものを取り出したり収容したりする。木箱自体を動かすのはまれ。

 武器密売組織はスラム内でも幅を利かせており、敵に回したいと思っている組織はいないらしい。

 団員証は明らかに奴隷密売組織のものとは違う。

状態:未分析▼

Q1.男の証言は本当に正しい?

[状況証拠とは矛盾していない][状況と矛盾している][明らかに偽証している]


 いろいろと設問が開示されてるなぁ。

 クエストをクリアするだけなら消去法の単純作業でも到達できるけど、どうせなら特別報酬は狙いたいもんね。きちんと考えていかないと。

 まずはすぐに応えられるものを探して、そこから辿っていくことにしよう。

 カフスボタンはどうだろう。これは、開示こそされているものの、私達側でまだ情報が足りていない。

 作為的なものなのかどうかは、これじゃ判断できないな。

 他のも、一見すると答えは確定してそうだけど、その設問単体だと他の選択肢にも一考の余地はありそうなのがあったりと、なかなか断定はできない。

 最終的に、私達はスラムの男性の証言が正しいかどうか、の問いで矛盾していないを選ぶことにした。

 他の奴だと、考察してみた結果どれを選んでも迷宮入りしてしまうと気づいたからね。

 クエストのシナリオが、オリバー君が救われること前提の一本道である以上、それだとクエストとして成立しない。

 ということで、スラムの男性の証言は正しい、と。

 お、正答だったみたい。

 よしよし……これなら、後は他のも簡単に答えられそうだ。

 スラムの男が正しいとなれば、木箱の存在も正しいことになって……おや。そうすると、また怪しいものが出てきたみたいだ。

 木箱が無事だとすると、明らかに矛盾しているのは襲撃場所ということになる。

 狭い路地裏だ、そこで取っ組み合いになったなら、木箱にぶつかって損壊させていてもおかしくはない。

 なのに木箱にはぶつかって壊れたような形跡がない、ということは……見えてきたね。

「カフスボタンは、誰かがそこに置いた偽りの証拠。つまり、本当の襲撃場所は他にあったんだ!」

 考えてみれば、エレノーラさんが指し示した、護衛達が見つかった場所とカフスボタンが落ちていた、仮の襲撃現場として見られていた場所はそれなりに離れていた。

 ということは、これはオリバー君が一旦ここまで逃げ延びた、ということを演出するためのか、オリバー君が連れ去られながらもなんとか残していった手掛かり。

 なんにせよ、やはり仮の襲撃場所として捜していた場所ではない、別の場所で連れ去られた可能性が高い。

 と、ここですべての設問を解き終わった。

 いろいろ考えたことで、最初の一問だけはちょっと賭けだったけど無事に全問正解。

 私達は見事、100点を達成して次のフェーズへと移ることができた。

 ――と、ここで第1フェーズのすべての条件を達成したことでフラグが立ったらしく、私達が狂喜乱舞しているところへエレノーラさん付きの侍女であるリサさんがやってきた。

 どうやら、オリバー君捜索のことで私と鈴、樹枝六花のみんなをウィリアムさんとエレノーラさんが呼んでいるらしく、急いできてほしいとのことだった。

 私達は、顔を見合わせてエレノーラさんのところへ急いだ。


 ウィリアムさん達のところへ行くと、待っていましたと言わんばかりに二人は顔を上げた。

「みんな、ご苦労だな。早速だが、本題に入ろう。君達を呼んだ理由についてだが、オリバー失踪の調査の件で、追加の情報が入ったので報せたいと思ってな」

 おぉ……ウィリアムさん達の方でも当然捜査はしていたんだろうけど、ここで早くも追加情報が来たかぁ。

 ちょっと追加情報が来るには早いんじゃない、とも思ったんだけど、クエストだもんね。フラグが立てば、すぐに次の情報が来ても何らおかしくはない。

「そうでしたか。私達も私達なりに調査してみたんですけど、わかったのは本来の襲撃場所が別の場所だったって言うことくらいです。大見得を切っておいてすいません」

「いや、構わんさ。さて、我々の方の調査結果についてだが、君たちが出かけている間にスラム街に兵や影の者達を派遣しつつ、私たち自身は屋敷内で聞き込みをしていたのだが、その結果少し気になる情報が出てきた」

 ほぅほぅ。スラムで調査した結果じゃなくて、屋敷内での調査の結果かぁ。それなら、クエストでなかったとしても、すぐに出てきてもおかしくはないね。

「侍女たちに聞いた話によれば、オリバー達は今日はスラム街の中でも西側、つまり南西区に近いところに行っていたらしい。場所で言えば……このあたりか。この辺りから私達が当初想定していた、スラムの東側へはそれなりに距離がある。つまり、何者かによって偽装された、偽りの襲撃場所の線が出てきたわけだ」

「もちろん、オリバーが食糧やポーションの配給をしながらスラムの調査をしているうちに、その距離を移動した、という線もないわけでもないけれど……あなたたちの調べでは、最初に渡した情報は犯人の偽りの線が濃厚だ、と。確かに、そう判断できるのよね?」

「はい。私達が現地に赴いて調査したところ――」

 私は、スラム街で見つけた各種状況証拠や、武器密売組織の構成員の一人から聞いた情報。そして、それらのつながりを、ウィリアムさんに伝えた。

「ふむ。確かに、君たちの言う通り、私達の使用人たちに対する聴取の結果を裏付る推理にはなりそうだ。なによりも、オリバーも護衛を連れていたはずだから、そこを襲うとなれば相当激しい争いになったはず。にもかかわらず、周囲の物品に危害が加わっていないのは確かに妙な話ではある。ということはやはり、この襲撃現場は作られたもの。実際の襲撃現場は、スラムの西側だな」

「待ってウィル。あなたはそういうけれど、万が一にもその武器密売組織のものが偽証した、という可能性だって否めないでしょう? それにハンナちゃん達の推理も、その男の証言一つに依存したものでしかないし……なにか、根拠を示してもらわないと、私は信じられないわ」

「ふむ……確かに、それはそうだな。どうだね、諸君。その推理を裏付けるだけの根拠は示せるかね」

 ウィリアムさんのその言葉と共に、私の前に一つのウインドウが現れる。

 他のみんなにも、同じウインドウが開かれた。


『Q1.フェーズ1で立てた推理が正しいと思われる根拠は次のうちどれか

[オリバーのカフスボタン][オリバー襲撃事件発生場所][襲撃場所の木箱][奴隷密売組織のバッジ][証言:スラムの男性]』


 ここでフェーズ1の集大成ともいえる問答が来るのかぁ。

 問われているのは、スラムの男性が本当のことを言っているのかどうか。

 男が偽証をしていないということを裏付ける証拠を示せばいい。

 つまりは、そこに確かに襲撃者が属する組織の人がいたという証拠。そして、その人とスラムの男性が別であるという証拠。

 それは[奴隷密売組織のバッジ]だ。

「なるほどね。それで、それを根拠とする理由は? 納得できる理由を聞かせてちょうだい」

 私達が選択肢に指を触れると、それで私たち自身で解答したことになったらしく、今度はエレノーラさんがその理由を聞いてきた。


『Q2.[奴隷密売組織のバッジ]が裏付けとなる根拠とは

[木箱のそばに落ちていたから][持ち主が違うから][男の所属組織のバッジとデザインが違うから]』


 ちょっと際どいのが二つほど並んでいるけど……[持ち主が違うから]という理由は根拠として少し弱い気がする。

 持ち主が違うだけなら、男の仲間のものではないのか、という別の疑問も成り立つわけだし。

 それよりは、より踏み込んだ[男の所属組織のバッジとデザインが違うから]の方が的確かもしれない。

「あら。3人くらい別のことを答えている人がいるようね。こういうことははっきりしてもらわないと困るわ……。仕方がないからもう一回聞くわね――」

 ありゃ。間違えちゃった……?

 いや、私は正答しているみたいで、改めて表示された選択肢には[正:男の所属組織が強大だから]としか出ていないから、私ではないみたいだ。

「あちゃ……ごめんハンナちゃん、間違えちゃったみたい」

「私もだよ……。[持ち主が違うから]選んじゃった」

「私もー」

 間違えたのは、トモカちゃん、マナさん、まねきねこさんだったらしい。

 二度目のチャレンジで、今度は無事に全員が正解できたようだ。

「ふむ。なるほど……確かに、君たちの言う通り、筋は通っているように思える」

「そのようね……疑って悪かったわね。いいわ、あなた達の推理を支持しましょう」

 そうして、エレノーラさんは何やら机の上の地図に一筆書きこんだ。

 ――どうやら、今の私達の話を、仮の襲撃現場と見ていたところに付記したらしい。

 そして、それが終わると再びエレノーラさんが口を開いた。

「ウィルはオリバーが行っていたっていう、スラムの西側が怪しいとみているのよね……。スラムの西側といえば、当家に特に恨みを抱いている組織で、ここ最近活発に動いている者たちがいたわよね。名を――一体何といったかしら」

「ヴィレス商会、だったか。忌々しいことに、奴隷密売組織としては随一の規模を持つ西側のスラム街の一大暗部組織だ。奴隷密売というとどうしても港がある東側に目を向けそうになるが、それを逆手に取り、あえて西側に拠点を構えるという大胆なやり方で我々の捜査の目をかいくぐり、気づいた頃にはうかつに手を出せないほどの大組織になっていた者達だな」

 うわぁ……そんな組織がスラムにあったのかぁ。それも、港がある東側じゃなくて、内陸側の西側に。

 ウィリアムさんが言っているように、密売系の組織は交易が楽になりそうな港にばかり目を向けちゃいそうだ。

 寝耳に水っていう感じだよ。

「どうやら、私達にはわからないような、秘密の密売経路があるとみていいでしょうね。とにかく、スラムの西側で襲われたと言うなら、そのヴィレス商会が一番怪しいと私は思うの。ウィルはどうかしら」

「同感だな。バッジのデザインからしてもその線は濃厚だ。だが……あそこに捕らわれたとなると、少々厄介だな……。下手をすると、あれで公爵家令息だから、いかようにも扱いようはある。奴隷とするにもとても高値が付きそうだし、可能な限り救出に動きたいところではある。が……」

 確かに、相手が奴隷密売組織ともなれば、オリバー君がどこか遠くに連れていかれてしまう可能性が高い。

 もちろん、結末が救済エンド固定の一本筋のクエストだから、実際にはそんなことにはならないだろうけど。

 とにかく、こう言うのは時間との勝負になりがち。

 ということで――

 ウィリアムさん達の苦渋の決断のもと、私達が受けたクエスト『オリバー少年の消失』の第2フェーズは、早くも敵の本拠地への突入作戦となるのであった。



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