44.樹枝六花との協力、再び
とりあえず、鈴にはメッセージアプリで現状を教えて、合流できるかどうかを聞いてみた。
鈴は、今はやることがないので適当な喫茶店に入ってトモカちゃん達樹枝六花とお茶をしていたそうだ。
私が受けたクエストのことを教えたらしく、鈴が『樹枝六花のみんなも一緒に参加したいって』と送ってきた。
トモカちゃん達も参加するのかぁ。
何気に、先月の妨害クエストの時と同じようなメンツだなぁ。
私はサイファさんが新しく仲間NPCに加わったし、サイファさん自身が従者を召喚するから総勢で9人(私と私の従者三人で四人、サイファさん、侍女のセシリアさん、護衛三人の五人)の大所帯になるし。
これに鈴を加えたら、一気にパーティの上限である10人に達してしまう。
随分と大所帯になってしまったものだ。
自室でミリスさん、サイファさんにウィリアムさん達との話の内容を伝えて、これから鈴達と合流して調査に向かう旨を伝えた。
「え? 今から向かうのですか? 夜道は暗いですし、私や私の従者達は夜目が利きますからいいとしても……」
「私達は、私が光魔法使えるから大丈夫ですよ」
今は【雷魔法】だけど、光魔法で覚えるはずだった魔法も使えるし、なんなら未習得だった魔法も一緒に覚えられる。
なので暗い夜道でも問題はないはずだ。
「それならいいのですが……私が懸念しているのは、光魔法では敵にも私達の居場所を教えてしまうのではないかということでして」
「それなら大丈夫です。今回使うのは、『ナイトビジョン』ですので」
おおよそ光に関するものならごった煮の如く多彩な魔法を覚える【光魔法】。
『ナイトビジョン』なんて普通、【闇魔法】で覚えるものだと思うのだけど、このゲームだと光にまつわる魔法なせいか普通に【光魔法】でも習得できてしまうのである。
もちろん、習得レベルは【闇魔法】の方が早いみたいだけど。
「そうでしたか。どうやら杞憂のようで何よりです」
サイファさんは安堵したように胸をなでおろした。
それから、準備を整えて鈴に指定された商業区のお店に向かう。
どうやらプレイヤーが運営しているお店らしく、私がぞろぞろとNPCを連れて入店したら、例によって例の如くぎょっとされてしまった。
「すいません、待ち合わせをしているのだけど……」
「は、はい、いらっしゃいませ……あ、ハンナさんだ! ということは……鈴ちゃんならあっちにいますよ」
「ありがとう。それじゃ、お邪魔しま~す」
ただ、やはり私のことは鈴の配信を介して広まっているらしく、一目見て誰と待ち合わせをしているのかわかったようだ。
「や、ハンナちゃん……また、ずいぶんと人が増えたね……」
「私以外はNPCなんだけどね……」
トモカちゃんにそう言われて、私は苦笑しながら着席をする。
人数が少ないので、私、ミリスさん、サイファさん、セシリアさんで同じテーブルに着席し、残りは複数のテーブルに分かれてもらうことにした。
そして、いつもと同じように鈴とパーティを組んだところで、早速話を始めた。
「それで、どんな感じのクエストなのか、改めて教えてほしい」
「スラム街関連のクエストって、なんか討伐系のクエストが大半を占めてるんだよね。なんか、殺伐としてるっていうか?」
「暗部組織とか、秘密結社とか、そういった悪の組織の討伐がほとんどでさ。たまには方向性が違うクエストも受けたかったんだよね」
「なんか、樹枝六花が普段どんなクエストを受けているのか非常に気になってきたんだけど……」
「うん、私も同じかも……」
じとー、とトモカちゃんを見ていると、トモカちゃんは苦笑をしながら『装備の更新にお金が欲しかったからね』と真実を語った。
お金が目当てだったんかーい!
「スラムの組織壊滅関連のクエストって、領主が出してるクエストっぽくって、難易度の割には意外と報酬が高いんだよね。妨害クエストもしょっちゅう来るけど、大体何とかなるし」
「まぁ、今日の昼間に妨害クエスト3連発したから、しばらく来ないと思うし。多分、ハンナちゃんには迷惑かけないと思うよ」
妨害クエスト3連発って……。
まぁ、私も今はこまめに冒険者ギルドでクエスト受けてるから、今は妨害クエストの心配はしてないけど……。
妨害クエストも、数がかさんでくるとしきい値が上がってくるらしいし、今の私なら一度発生すればしばらくは問題ないとわかっているからね。
しかしながら、そっち方面で妨害クエストが多発しがちなのはむしろ私の方なので、そのあたりはノーコメントで流すことにした。
そして、肝心のクエストの内容を鈴や樹枝六花のみんなに話す。
鈴と樹枝六花のみんなは私の話を聞き終えると、大半のメンバーが少しだけ驚いたような顔になる。
「なんというか、それで妨害クエストじゃないっていうのが驚いた」
「うん。普通なら、妨害クエストでも納得できそうな内容」
「でも~、クエスト自体は敵をなぎ倒しながらぁ、時々謎解きをして進めていくタイプの、簡単なクエストでしょ~。そういうのって、大体はシナリオ重視になってるみたいだし~、私はむしろこっちの方が納得かなぁ」
ノアールさんと鈴がその驚きの理由を代表してそう言ってくるが、それに待ったをかけたのがマリナさん。
マリナさんはメンバーの中でも比較的そっち系のクエストに興味を示す人らしく、箸休めのクエストが欲しいと思ったときは大体マリナさんの意見に従うのがいつものスタンスなんだとか。
「今回のはぁ、なんかクエストのエンディング分岐もない、シンプルな推理・追跡系クエストみたいだし~? ここ最近またちょっと頑張り過ぎだったからぁ、私的にはむしろどんと来いって思うなぁ」
「それもそうだね。元はといえば、ちょうど箸休めをしたいと思っていた矢先に、鈴ちゃんからトモカ経由で話が来て、面白そうだってマリナが言い出したのがきっかけだし」
「うんうん。私も、マリナに賛成っ! たまにはこ~いう、単調なクエストもいいもんだよ!」
さらには、マナさんとまねきねこさんが追従するように頷いて、最後にトモカちゃんがまた樹枝六花と私達とで協力プレイできるのもうれしいのだといったところで、鈴とノアールさんもそれもそうだね、と周囲に同調するのであった。
それから、改めて今わかっている情報を共有することにした。
今回は、クエストを受注した時にいたのは私一人だったけど、私をユニットリーダーとしてパーティを連結すれば、皆でクエスト情報を一時的ながら共有することができる。
当然、キーアイテムやその分析状況も同じ仕様だ。
なので、私達の情報共有はすぐに完了してしまう。
ミリスさん、サイファさんはすでに私から情報を渡しているので問題なし。セシリアさんは、屋敷からここへ来る途中で何かメモのようなものをサイファさんが手渡していたので、多分それで共有されてるんじゃないかな。
「さてと。それじゃ、クエストを始めていくか。場所は――」
マナさんがそう号令をかけたところで、私は王国内マップを表示。ヴェグガナークの南部を最大までアップして、クエストマークがついているところを見せてあげた。
ヴェグガナーク、スラム街。
システム的にもそう名づけられているここは、スタート地点となっている九つの街すべてが抱えているスラム街の中でも、王都についで治安が悪いという設定になっている。
具体的には、九つの街に存在するスラムすべてを比較した時、王都が第2位で、ヴェグガナークは第3位。そして、ワースト3はそれ以外の街のスラム街とは隔絶した治安の悪さを誇っている(?)らしい。
そんな、他とは隔絶した治安の悪さでプレイヤー達にも知られている、ヴェグガナークのスラム街。
私達は、冒険者ギルドにファストトラベルするとすぐに建物から出て、近くの細道から裏通りへと入っていった。
スラム街は結構入り組んでいるイメージがあったし、実際その通りだったんだけど、私達にはなにしろデフォルトで高性能なマップ機能があるからね。
現在値もはっきりとマップ上には映し出されてるし、
迷うことなく、目的の場所までたどり着くことができた。
――ん、あれは……?
「う~ん、マップではこの辺りが襲撃事件の現場なんだけど……」
「私達には、何にも見えないね……」
皆は見えないのかな。
私は少し前から、この辺りに何かあることがサイファさん由来の【空間把握】スキルで認識できているし、なんならある程度近づいたあたりからは別の情報も表示されてる。
地面に何かアイテムが落ちていることを表すアイコンが、少し先の木箱の影へと向かうようなフキダシと一緒に映っているのだ。
アイコンと吹き出しに関しては、どこにキーアイテムが落ちているかもわからないということで、襲い掛かってくる敵性NPC達を倒しながらゆっくりと歩いてきたし、多分それのせいで【散歩】スキルが全力を発揮してるのだろう。
「ん。怪しいの、早速見つけた」
「おぉ、さすがはノアール。やっぱり偵察とか探索関連はノアールが一番だね」
「おかしい。私達にはハンナの【指揮】スキルで、サイファさんの【空間把握】が共有されてるはず。単純に、注意力が散漫してるだけだと思う」
「むぐっ」
う~ん、さすがにこれは庇えないかなぁ。
樹枝六花にとっては、すでに適正レベルをはるかに超えている、敵が襲ってきても完全に消化試合なこのエリア。
それだけあって、ちょっと油断が過ぎている気がしないでもない。
さて、ノアールさんが見つけたアイテムは、何かのバッジのようなものだった。
クエストキーアイテムとして認識されているし、多分これは私達のクエストに関係あるアイテム。
きっと、この辺りで襲撃事件が起きたのは間違いないとみていいだろう。
それから、この木箱。これも、なんか関係がありそう。
そう思って手を触れてみると、やっぱりキーアイテムとして登録された。
はてさて……これで痕跡は最初にウィリアムさん達から聞いた2つを合わせて4つになった。
あとの一つは、果たしてどこに眠っているのやら……。
――と、私達がそうして襲撃現場(らしき場所)を見分していると、横の建物から一人の男性NPCが出てきた。
「何者っ!?」
「動かないで! 私達になにか用!?」
早速、私の護衛二人が前に出て、その男性を威嚇する。
男性は、軽く悲鳴をあげながら、壁に張りつくような姿勢になって両手をあげて、お助けを、と命乞いまでしてきた。
う~ん、これは私達、完全に悪者の立場だね。
とりあえず――
「下がりなさい、フィーナ、ヴィータ」
「しかし……」
「下がれ、といっているの。敵意の無い相手を無暗に刺激して、無駄な戦いをしたいの?」
「……失礼しました」
「それじゃ、下がって」
すごすごと下がっていくフィーナさん、ヴィータさん。代わりに、私が前に出て、ごめんなさいをした。
「ケガはありませんでした?」
「ふぁ、ふぁい……大丈夫、です……」
「そう……二人が申し訳ないことをしてすいませんでした」
「いえ……。実害を受けたわけではないので、大丈夫です……」
と言いつつも、明らかに敵意をむき出しにしてくる男性。
これはどうするべきか……。
鈴も、そして樹枝六花のみんなも、今しがた突然起きた私達と男性とのやり取りに困惑し、成り行きを見守っている状況。
う~ん……私達に敵意がないことを伝えるにはどうしたら……。
私がどうすべきか頭を悩ませていると、私達を警戒しつつ見渡していた男性が、やがてとある一人に目をやったところで、不意に別の反応を見せた。
そのとある一人とは、先ほど木箱の影で何かのバッジを拾った、ノアールさん。
彼女は今も、そのバッジを手に持っていた。
「ん……そこの、そっちの女の子が持ってるそれは…………」
「これ? 何か、知っているの?」
「あ、あぁ……」
おずおず、と男性が頷く。
「えっと、実は私達、とある事件についてこの辺りを調査しているのですが、その事件が発生したところのすぐ近くに、これが落ちていたんです。何かご存じなら、些細なことでもいいですから教えていただけませんか?」
「……わかった。さっきはびっくりしたが、そういうことならいいだろう」
やった、男性の警戒が解けた。
これなら、詳しく話を聞くことができそうだ。
何やら有力な情報も持っているみたいだし、いろいろと質問をぶつけてみたいよね。
それじゃあ――最初は何について聞いていこうかな。