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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
それゆけ公爵令息捜索隊!
44/145

43.ノーマルクエスト:オリバー少年の消失


 オリバー君関連のクエストは、同じ日の夜、意外とあっさりした感じのクエストでいきなり発生した。

 それもいつぞやのような妨害クエストみたいな切羽詰まったような感じではなく、必要があればじっくりと時間をかけても大丈夫な、ノーマルタイプのクエストとして、である。

 つまり、事件は事件なんだけど、一プレイヤーとして見た限りだとそれほど慌てるまでもない、ごく普通の『クエスト』なんだよね。

 どんな切羽詰まった感じのクエストが来るのかと戦々恐々として構えていただけに、こうも普通のクエストとしてこられるとちょっと拍子抜けしてしまう。

 ――そのクエストが受注可能となったのは、夕食後のログインをした直後のことだった。

 素材採取のついでに冒険者ギルドで受けたクエストの報告をして、屋敷に戻った私達はそのまま解散。

 私はミリスさんとセシリアさんを伴ってアトリエに移動し、夕食までのちょっとした時間を使って、軽く調合三昧をした(セシリアさんはサイファさんの侍女なので、材料を置いたらそのままサイファさんの元に戻っていったけど)。

 そうしてやがて夕食の時間になったので一旦ログアウトし、それから諸々の用事を済ませて戻ってきた時に、なにやら屋敷の中が騒然としていることに気づいたのである。

「…………何か問題でも発生したの、ミリスさん」

 夕食の前にはいつも通りの様子だったミリスさんでさえ、幾分か動揺し、何とか落ち着かせようと視線をあちこちにさまよわせていた。

「……はい。実は、オリバー様が、本日はまだ戻られていないのです」

「オリバー君が?」

 私は、急いで鈴に連絡をする。

 鈴は、屋敷の入り口で制止を受けていたらしく、入ることができないとのこと。

 領主であるウィリアムさん直々の封鎖命令なので、私が頼み込んでも、たとえ命令を下しても無意味。

 なので、現在の状況は私が一人でエレノーラさんかウィリアムさんに話を聞くことになった。

「……ウィリアムさん、エレノーラさん」

「やっぱり、来たのね。ハンナちゃん」

「はい。オリバー君が、戻ってきていないと聞きまして」

「やはりその話なのね。話したくない、といってもその様子だと止めても無意味なのでしょう」

「はい。エレノーラさんが話してくれないのなら、このままでもオリバー君を探しに行きます」

 なにしろ、このまま動かずにいたら、領主引継ぎルートが確定してしまいそうなのだ。

 そうならないようにするには、積極的にオリバー君の消息不明事件に関わっていく必要がある。

 なので、エレノーラさんがこのまま黙秘をしたとしても、私はオリバー君の情報を集めに街へ出るつもりでいた。

「君が無茶をする必要はないと思うのだが?」

「ウィリアムさん達としてはその方がいいのかもしれませんが……私は、プレイヤーですから。見ていないものもたくさんありますし、少なくとも今はまだ、気楽な一介のプレイヤーでいたいんですよ」

 私の言葉を受けて、エレノーラさんは仕方がない、と言いたげに首をゆっくりと左右に振った。

「……わかりました。ただし、可能な限り安全策を講じること。この前みたいな無茶は絶対にしないこと。それを約束できるなら、私達のもとに今集まっている情報を話しましょう。それでいいかしら、ウィル」

「仕方がない、か。まったく……私からも一つだけ加えさせてもらおう。君が向かおうとしているのはスラム街。いわば敵地だ。きちんと準備をしてから向かいなさい」

「準備ですか」

「あぁ。少なくとも、護身用に短剣などのきちんとした武器も持っていきなさい。なければ武器屋にでもいって調達するように。扇子と鞭だけでは、いざというときに心許ないだろうからね」

「はい、わかりました」

 一応、ランクアップして新しく【短剣】スキルがクラススキルに加わってから、時間を見つけてNPCショップに赴き、それなりにいい性能の短剣を見繕っていたのでそれで対応できるかな。

 きちんとしたのはやっぱり、PCなり職人NPCなりに作ってもらうのが一番なんだろうけど、時間もお金もなかったし、急場をしのぐためのものだからある程度は妥協しないと。

 私が頷いたことでクエストの受注条件を満たしたらしく、眼前にクエストウィンドウが開かれる。


『オリバー少年の消失 1/5

 公爵令息オリバー・ヴェグガナルデが行方不明となりました。

 このままではオリバー少年だけではなく、ヴェグガナルデ公爵家の存続すら危ぶまれます。

 オリバー少年を探し出してその身柄を保護し、公爵家に再び安寧をもたらしましょう。

クリア条件:1.消えたオリバー少年の手掛かりを探そう 1/5 Next→

・スラム街で痕跡を探す 0/5

・推理が必要な痕跡を調べる 0/5

 :高得点で特別報酬発生 持ち点50/正解で+10、不正解で-10

特殊条件:

・受注制限あり 残り182:41:12

 受注しなかった場合このクエストは消滅し、関連する事件は強制的に解決済みとなります。このクエストに分岐はないため、受注してもしなくても報酬の有無以外の結果は変わりません。NPC:オリバー・ヴェグガナルデも通常の待機場所へ復帰いたします』


 どうやら、ウィリアムさん達や周囲の人達の緊張した雰囲気は、システム的には表現の一種であり、クエスト自体は分岐せずに一本道でクリアまで到達できるようだ。

 何かあれば、特殊条件に出てくるはずだし、隠しルートがあっても『このクエストにはシークレット・ルートがあります』って特殊条件に出てくる親切設計だしね。

「では、早速だが現在の状況を伝えよう」

 それから、ウィリアムさんとエレノーラさんの話は始まった。

 今日の午前中、オリバー君はいつも通り、ウィリアムさんからの小言をのらりくらりと聞き流しながら、スラム街へと出かけていった。

 そして、夕方。いつもならオリバー君は日が暮れるころには戻ってくるというのに、今日は一向に戻ってくる気配がなかった。

 その時はまだ、少し帰りが遅れているのだろうと思っただけで、様子見のためにスラム街へ様子見の斥候を放つにとどめたらしい。

 異変に気づいたのは、斥候が戻ってきてその報告を受けた時。

 どうやら、そのころにはもう手遅れになっていたようだ。

 斥候の話では、スラムの一角で多少争ったような痕跡をいくつか見つけ、その中の一か所でオリバー君の服の袖についていたカフスボタンが、ポツンと一つ落ちているのを発見。

 そしてそこから少し離れたところで、オリバー君の護衛をしていた人が倒れているのも発見し、オリバー君が謎の黒服の集団に奇襲を受け、連れ去られてしまったということが語られたそうだ。

 護衛は傷が深くそのまま絶命。

 斥候達はあまりにも深刻な事態に頭を抱えながら、ことの次第をウィリアムさんに伝え、今に至るということだった。

「ということは、スラムのどこに連れ去られたかは、わかっていないんですね?」

「あぁ。つい先ほど、戻ってきた斥候達から話を聞いて、これから捜査指揮をとろうと思っていたところだったのでな」

 なるほど。

 う~ん、何か情報があるかと思ったんだけど、特に何も情報なしか。

 だとしたら、ちょっと参ったな。どうやって探しに行けばいいのか……。

「ちなみに、スラムのどのあたりでオリバー君が失踪したか、とかはわかっているんでしょうか」

「カフスボタンが落ちていた位置は、ここよ。そして護衛が見つかったのはここ。とはいえ、この場所で襲撃を受けてそのまま連れ去られたのか、あるいはそこで揉み合いになって一時期難を逃れたものの、別の場所で再び襲撃を受けて虜囚となったか……正確な状況までは、把握しきれていないわ。前者ならすぐに特定できるけれど、後者となればいささか場所があいまいになってしまうわね……」

「そう、ですね……」

 エレノーラさんが、机上に広げられたヴェグガナークの地図の一点に印をつけつつ、指をなぞらせて私にそう説明してくれた。

『キーアイテム:クエストキーワード【(未分析)オリバーのカフスボタン】を入手しました』

『キーアイテム:クエストキーワード【(未分析)オリバー襲撃事件発生場所】を入手しました』

 う~ん、こっちの線でも、ちょっとまだ情報としては弱いか。

 キーアイテムとしてアイテムリストには登録されたけど、襲撃場所周辺を探しただけじゃ、ほとんど何もわからなさそうだし。

 ――うん? なんか出てきた。

 『推理・追跡系クエストチュートリアル』? あぁ、そっか。それで『未分析』っていう注釈が付いてたわけね。

 今まで冒険者ギルドで受けたのは、街の外での素材採取とかモンスター討伐とかばかりで、こういう系のクエストは遭遇したことなかったね、そういえば。

 軽くチュートリアルで推理・追跡系クエストの進め方を学びつつ、私は今入手した二つのキーアイテムについて、推理を始めてみる。

 まずはオリバーのカフスボタン。


【(未分析)オリバーのカフスボタン】キーアイテム/クエストキーワード

 オリバー少年の消失 で発見されたオリバー少年の衣服についていたカフスボタン。

 これだけだと何もわからない。簡単に外れるものなのか、そうでないのかもわからない状態だ。

 餅は餅屋、まずはこのカフスボタンに詳しい人にこのカフスボタンと衣服の関係について聞いてみよう。

状態:未分析▼

???


 う~ん、これだけだと何もわからないか。

 もう一つのアイテムはこんな感じだ。


【(未分析)オリバー襲撃事件発生場所】キーアイテム/クエストキーワード

 オリバー少年が襲撃されたらしい場所。ボタンの発見された場所から推測されたらしい。が、果たして本当にそれで正しいのだろうか……

状態:未分析▼

Q1.本当にこの情報は正確なのか

[正確][間違っている][まだわからない]

???


 こっちは一つだけ情報が開示されてる。

 チュートリアルによれば、こうした、『未分析』って付いてるキーアイテムはアイテムの詳細情報で表示されている設問に正しく答えることで、『分析中』や『分析済』に変わっていくらしい。

 その時点で正答を選べる設問しか開示されないそうだから、これは今ここで分析を進めることができるということになるね。

 えぇっと、選択肢は正確、間違っている、まだわからないの三つか……。直前のエレノーラさんの話から、『正確』というにはまだ早すぎる。かといって、『間違っている』というにはあからさまというか、『オリバー少年のカフスボタン』の意味がなくなるから、これもない。ということは……消去法で、三つ目のまだわからない、が正解だよね。多分だけど。

 まだわからないのボタンを押すと、それで正解だったらしく、『オリバー襲撃事件発生場所』のアイテム情報が一部修正された。


【(分析中)オリバー襲撃事件発生場所】キーアイテム/クエストキーワード

 オリバー少年が襲撃されたらしい場所。ボタンの発見された場所から推測されたらしい。が、果たして本当にそれで正しいのだろうか……実際にその場所に赴いてみる必要がありそうだ。

 もしかしたら、新しい情報が見つかるかもしれない。

状態:分析中▼

Q1.本当にこの情報は正確なのか

済:[まだわからない]

???


 さらに、『条件を達成したため、受注中の推理・追跡系クエストで発見できるキーアイテムが一部解禁されました』とのメッセージも入った。

 ということは、これを分析していなかったら、きっと現地に赴いても何も得られなかった可能性があったわけだ。

 う~ん、これは、思いのほか頭を使いそうなクエストになりそうだ……私一人でできるかな……。

 とりあえず、鈴は明日一日また休みだって言ってたし、鈴にも一緒に考えてもらうとして……今は、他に情報がないかどうか、他にも別の角度から質問をしてみるべきかな。

 もしかしたら、またクエストキーが出てくるかもしれないし。

 とりあえず、まずはカフスボタンの詳細にある通り、これに詳しそうな人物であるウィリアムさんに聞いてみよう。

「ウィリアムさん、このカフスボタンについてなんですけど……」

「うん? これがどうかしたか?」

「このカフスボタンって、簡単に外れる者なんですか?」

「む? それはどうかな。公爵家の紋入りだから、簡単に外れたら悪用され放題だからな。一応、服にはしっかりついているはずだが……さすがに、取っ組み合いになったら、外れてしまうだろうな」

 なるほど……。つまり、襲撃時に何らかの衝撃で落ちた、つまりカフスボタンの落下は作為的なものではない可能性が出てきた、と。

 うん、アイテムの情報が更新された。あとは……このアイテムについては、聞けることはなさそうだ。

 ほかに聞いておくべきことは……。

「オリバー君を連れ去られた。そういう前提で考えるとして、それを実行しそうな組織と、その拠点に心当たりはありますか?」

 よくある刑事もののドラマよろしく、今度は被害者――オリバー君周辺で敵意を向けそうな人がいないか、というようなことを聞いてみる。

 すると今度はウィリアムさんは、イジワルそうな表情になってこう切り返してきた。

「そんな組織、あると思うかね?」

「少なくとも私を以前狙ってきた集団はいますよね? 組織名とか、全然わかりませんでしたけど」

「わかっているじゃないか。まさしくその通りだよ。多すぎて皆目見当がつかない、としか言えないのが実情だ」

 う~ん、考えてもみれば当然か。

 公爵家といえば、その名前の響きだけで敵対組織が多そうだし。

 敵対派閥とかじゃなくて、今回みたいな、公爵家をよく思わない後ろ暗い組織とか、私を襲ってきた奴ら以外にも結構いそうだもんね。

「う~ん、お手上げですね……」

「あぁ。とりあえず、私達は私達でできることをするつもりだが――実際に現地に赴いてみれば、新しい発見があるかも知れん。行くなら先ほども言った通り、十分に気をつけて行ってきなさい」

「わかりました」

 とりあえず、これでこれ以上ここで聞き出せそうな情報はもうないみたいだし、鈴に現状を伝えてから合流を図ってみようかな。



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