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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
それゆけ公爵令息捜索隊!
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39.新しい鞭を求めて


 酪農と美食の都ロレリアは、その名の通り酪農が盛んな街だ。

 食材も結構豊富で、調味料もヴェグガナルデ公爵領と隣接しているだけあって輸送路が発達しているらしく、そこそこの金額で揃えられる。

 そのため料理系のプレイヤーはこぞってこの街を拠点として選ぶ人が多いらしい。

 一方でポーション類はそれらの反動を受けてか採取可能な群生地は一つもなく、あってもロレーリン侯爵家の完全な管理下に置かれているため採取は不能。

 仮に採取してしまった場合には、どういう仕組みかすぐに領主にばれてしまい、犯罪者として扱われてしまうという徹底ぶりだ。

 ゆえにプレイヤーサイドからすれば、ロレール高地ではエール草ですら激レア素材に含まれる。

 そんな状況を反映してか、NPCショップのポーションの在庫も上限が低く設定されている上にコスパも全スタート地点中最高値。

 装備品に関しても、武器防具共に木製品や革製品はかなり上質なものでも捨て値価格だが、それ以外は逆に非常に高いという両極端。

 これらのことから、料理に特にこだわりを感じないプレイヤーでない限り、ロレリアをスタート地点にはするのは避けた方がよい、というのが私達第一陣勢の見解だ。

 そしてその評価は第二陣勢にも受け継がれており、第二陣でこの街をスタート地点に選んだプレイヤーは全体の1割にも満たなかったという。

 それに反してプレイヤーの数がそれなりに多いのは、ある程度レベルを上げて、ポーションなどの消耗品や軍資金などにも余裕が出ているプレイヤーがここで料理人をやっているか、その料理人プレイヤーの料理目当てで観光に来ているかのどちらか。

 実際問題トモカちゃんは、この街の食材を使って作成された料理アイテムは逸品で、訪れたら一回は食べてみる価値あり、と絶賛していたから、美食の都を名乗るだけはあるらしい。

 そして、この街はまたサイファさんの故郷でもある。

 トモカちゃんの大絶賛を受けて、サイファさんは誇らしげに『異邦人の方から面と向かってそのように称賛されるのは、現当主の姉としても誇らしい限りです』と胸を張ってそう言っていた。

 何気に新しい爆弾を放り投げてきたりもしていたけど、やはりそのあたりは褒められれば悪い気はしないよね。

 さて、そんな街へ来て早々、私はおいしそうな匂いを漂わせている露店や、立ち並ぶ飲食店を横目に眺めながらトモカちゃんとサイファさん先導のもと、職人たちの工房が軒を連ねている職人街へとやってきた。

「ロレリアの職人街は、やっぱりウッドクラフトの店が多いよね。ついで、レザークラフトと、普通の服って感じかな」

「そうですね。食を除けば、我が領の主要産業はその二つに絞られますから。鉱物資源も限られ、ありあわせのもので防衛力を高めるしかない我が領では、それらを究めるしかありませんでした」

「う~ん、なんか金属製の鎧を着たゴブリンやリザードマンに攻め込まれたら、かなり窮地に立たれそう」

「そうですね。幸いにも、魔法媒体として有能な木材は豊富でしたので、我が領の主力は魔法や魔法矢などとなります。それらなら、金属製の防具の強固な守りも貫けますからね」

「でも、革装備だと守りが心許なさそう」

「上位のモンスターやクリーチャーの革素材でなければ、それは否定出ません。そこは、悩ましいところではあります。……ただ、だからこそ近寄られる前に倒す、ということに特化したのですけれどね」

「はぁ……いろいろと、苦労があったんですねぇ」

「そうですね。多くの失敗と成功の末に、この街の、今の姿があるわけです」

 サイファさんは、ぐるりと職人街の街並みを見渡しながら、しみじみといった感じでそう締めくくった。

「まぁ、なんにしても。革製品は王国内ならロレリアが一番だと、私は自負しています」

 そりゃあねぇ。そこまで壮絶な歴史があるんだとしたら、そりゃ革製品では他よりも群を抜いてそのノウハウは高いでしょうよ。

 そうして話をしているうちに、私達はトモカちゃんの知り合いだというレザークラフトのプレイヤーの店にたどり着いていたらしく。

 トモカちゃんの案内で中に入ると、一人の男性が出迎えてくれた。

「おぅ、トモカじゃねぇの。どうした、鞭の整備か? って、ありゃ。初見さんが一緒だったか、こりゃ失礼」

 ややチャラそうな感じの顔をした、同年代くらいのアバターのプレイヤー。

「って、もしかしてあんた、Mtn.ハンナちゃんか!?」

「はい、そうですよ」

 私のことは、鈴の配信を介していろんな人に知れ渡っているので、一目見て見抜かれても別におかしいことではない。

 いろいろな掲示板にも私を写したスクショが張られているしね。

「はぁ……Mtn.ハンナちゃんが、俺のところに依頼しに来てくれるとは……これはまた、レザークラフトとして腕が鳴るな」

「期待してますね」

「おぅ! きっとお望みの一品作ってみせっから」

 う~ん、ノリが軽い。

 でも、決して悪い感じはしないから、下心とかはないんだろうね。

 男性プレイヤーは、ホーキンと名乗った。

 私は例によってカーテシー。

 サイファさんの目があるし、ランクアップチャレンジに成功した日以降は、名乗る時などは可能な限りカーテシーで、といわれているしね。

「お、おぅ……すっかりロールが板についているのな……」

「ハンナちゃん、本当にお嬢様みたいだよ……」

「こうしないとNPCに叱られちゃうからね。そういうユニーククラスなんです。あ、そっちの言葉遣いは私のロールに合わせなくても大丈夫ですからね」

「了解。にしても、苦労してるのな、いろいろと。それで、ハンナちゃんがうちに来たってことは、やっぱり求めているブツは鞭か?」

「はい、そうなんです。何かよさそうなもの、ありますかね……」

「ふむ。ちょっと待っててくれ」

 そう言って、ホーキンさんはカウンターから店の奥、プライベートスペースへと入っていった。

 やや間を置いて出てくると、彼はカウンターの上にいくつかのサンプルを並べていった。

「一応、うちの主力路線は、性能面で言えばこんな感じなんだが……」

「どれどれ……」

 ふんふん。どれも、性能的にも特殊効果的にも悪くはなさそうだけど……。

「店主、失礼。私も見させていただくわ。よろしいかしら?」

「おぅ、構わないぞ。……なぁ、なんかやけにこの人、高圧的じゃないか?」

 サイファさんの態度が気になったのか、ひそひそと私に聞いてくるホーキンさん。

 黙っておくことでもないし、むしろ知らせておいた方が彼のためにもなるだろうから、私はサイファさんの身分について話をすることにした。

「高圧的も何も、この人この辺りの領主さんのお姉さんだから。一応貴族、それも侯爵家の身内なんだよ」

「ひぇ……」

「ユニーククラス関連で今令嬢教育っていうの受けさせられてて、その教育係兼お目付け役として側にいるの。結構厳しい人だから気をつけて」

「マジ……?」

 コクコク、と頷く。

 案の定、ホーキンさんはビビったらしく、戦々恐々としながらサイファさんをちらっと見る。

 思っていることはまぁ、すぐにわかってしまう。

 サイファさん切れ長の目だし、今はポニーテールに纏めた長い髪も相まって、かなり鋭い印象を周囲に与えているし。

「んで、本題に入るが、ハンナちゃんが求めてるのは一本鞭じゃあないよな?」

「あ、やっぱりわかります?」

「まぁな。始めたての頃にテイマー職の人に鞭を作ってやったら、系統付与効果で従魔にデバフが付いたっていうんで苦情が来てな。それで『システム上の分類で一本鞭があるなら、それ以外にもあるんじゃないか』って思って試しに騎乗鞭みたいなの作ったらうまくいったんだ」

「なるほど。一本鞭しかこちらには並んでいませんが、きちんとそれ用の鞭も扱ってはいるのですね。であれば、言うことはありませんね」

「そうでしたか。そいつぁ何よりです」

 それから、私達は早速商談へと入っていった。

「何か特別な注文はあるか? あ、もちろん形状が乗馬鞭っていうのは確定としてだが」

「ん~、それなら……」

 私が鞭という武器に求めている性能は、矛盾しているかもしれないが武器としての性能そのものではない。

 むしろ、武器の大前提ともいえるATKボーナスやMAGボーナスはほとんど重視していない。

 それよりも私が重視するのは、TLKボーナスとMNDボーナス。そしてバフ付与系の特殊効果だ。

「クラス固有ステータスに関するボーナスはつけることできる?」

 TLKについてはクラス固有能力だが、だからといって私のユニーククラス限定というわけでもない。

 いくつか種類があって、それらの中からクラスごとに2つほどが選択されているという感じだ。

 剣士だとPOWとTEC。POWは高いほど敵の攻撃を力技で弾きやすくなり、TECはDEXと似たような効果となっている。戦闘面では武技系アビリティ使用後の硬直時間短縮などだ。

 そして私も持っているTLKについては、意外にも保有するクラスが結構存在しており、例えば生産職のほとんどはTECとTLKの二つとなっているし、魔法使い系も二つある固有能力のうち片方はTLKかMNDになるケースがほとんどだと聞く。

 TLKは私みたいな社交界云々のくだりはともかくとして、NPCとの交渉時の優位性確保や、魔法系アビリティや応援系スキルのCT短縮といった作用があり、意外と恩恵が大きい。

 TLKを保有するクラスが多いのは、その辺りの事情があるのだろう。

「あぁ、一通りはできる。テイマーだと確か、TLK(トーク)CHM(チャーム)だったが、ハンナちゃんの場合はCHMの代わりにMNDでよかったんだよな」

 おお、話が分かってる~。

 この人。鈴の配信見てくれてる人なのかな。

 あるいは公式サイトのユニーククラスのページに載ってるクラススキルから推測したのかもしれない。

 いずれにせよ、装備品関連の生産に関しては門外漢なのでどういった感じになっているのかは不明だが、NPCメイドの武器にもあったように付けること自体は可能なようで、これなら話は早く済みそうだ。

「うん、そんな感じで大丈夫かな」

「うし。なら作る武器の構想については大体まとまったな。予算はどれくらいだ?」

「今は、50万くらいかな……」

 出店に関する話をし始めてからなんだかんだあって、結局私達はゲームマネーをそれほど集められていない。

 厳密にはあれからさらに正味二週間ほどゲーム内で活動できたわけだが、課題のポーションの一つを作成したり、例のサイファさん調合ファンブル事件があったりして思うように調合ができず、結局鈴が露店を再開できたのは今週の半ば頃、アトリエが完全復旧してからのことだった。

「50万か。ん~、まぁそれくらいならまずまずの性能の武器くらいなら作れるか。具体的に、トッププレイヤー程とはいかないが、街周辺から起算して第3~第4フィールドくらいなら、PCレベルにもよるが十分対応できるだろ」

「そっか。まぁ、さすがにそこまでの性能は求めていないけど……でも、それより強い武器っていうとやっぱりもっと上いっちゃうよね……?」

「まぁなぁ。トッププレイヤーの今の武器予算が大体1.5Mくらいだからなぁ」

 そこまでインフレしてたんだ!?

 というかトッププレイヤーお金稼ぎすぎでしょ! 一体どれくらい稼いでんのさ!?

「驚いているところ悪いが、トモカの鞭も大体1.3Mはしたぞ」

「ヴェグガモル密林とか、このあたりだとロレス登山道とか。その辺りの敵の素材をいっぱい稼いでたからね~。今はもう少し奥地まで足を延ばすこともあるけど」

 ふわぁ。いつの間にかトモカちゃんが遠くまで行っちゃってたなぁ。

 私も冒険頑張んないとだ。

 ともかく、そんな感じで始まりの鞭に代わる新しい装備品を手に入れるという目標は目途が立ったので、私達は一旦ヴェグガナルデ公爵家本邸へと帰還することになった。



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