38.ランクアップして
ランクアップチャレンジを達成したことで変わったのは、何も令嬢教育イベントの進行度だけではない。
私のステータスにもいろいろと変化がもたらされた。
というよりも、そもそもランクアップチャレンジ自体、令嬢教育イベントの入り口だったきらいがあるのだ。
ひと段落したところで変化があって、当然のことと言えた。
ちなみに、これがランクアップしてから数日たった今現在の私のステータスである。
『NAME:Mtn.ハンナ・ヴェグガナルデ Lv.33(41) ハーフ(人間+エンゼル)■ T_RANK 6
CLASS1:ヴェグガナルデ公爵令嬢I■ Lv.40 CLASS2:薬師 Lv.6
HEALTH:VT■:3000/3000 MP■:590/590 CP:345/345 SECURE XXX/↑140【GOOD or DENGER】
CONDITION +
BASE PHYSICAL -
PPt.0
ATK■:53 DEF■:70
MAG■:123 MDF■:120
DEX■:345 SPD■:63
LUK■:102 TLK:260
MND:265
CLASS1 SKILLS
【側仕え召喚■☆:33】【護衛召喚■☆:32】【激励■:23】【短剣:3】【鉄扇■:13】【鞭■:4】【傘:1】【フォーマル:3】【指揮■:23】【淑女(公爵)■☆:34】【貴族■:33】【社交☆:15】【重圧■:26】【ダンス■:29】【散歩:4】【博識■:31】【裁縫■:1】【調合師:7】
CLASS2 SKILLS
【魔力操作:8】【火魔法:6】【水魔法:4】【鎌:4】【作業着:1】【器用:11】【野草鑑定:8】【樹木鑑定:6】【薬剤鑑定:13】
SKILLS SPt.8 -
戦闘:
【蹴り■:1】【支援特化■:37】
魔法
【雷魔法:4】【回復魔法■:20】【支援魔法■:34】【空間干渉:3】
補助
【麻痺無効:6】【気配察知:52】
生産
【料理師:3】【木工■:1】
(控え 2)
【採掘■:1】【金工■:1】』
最初に、スキル周りから詳しく見ていきたいと思う。
いくらかスキルが入れ替わっているが、これは今回のランクアップのタイミングを機に、またスキルの見直しを図ったからである。
具体的には、まず『ヴェグガナルデ公爵令嬢』のクラススキルでは、ランクアップの際に【ドレス】スキルの派生が解禁されて【フォーマル】となった他、新たに追加された【歩く】が早くも【散歩】に派生。
この二つのスキルはこんな感じのスキルだ。
【フォーマル Lv.3】分類:戦闘スキル/装備
・『服』『ドレス』『燕尾服』『フォーマルドレス』『フォーマルスーツ』を着用時、防具の性能を100%引き出せる。
・『ドレス』『燕尾服』『フォーマル』系のシリーズ効果が発動するようになる。
【散歩 Lv.4】補助:制限解除
・歩行状態が解禁される。3秒以上連続して歩行していると歩行状態として認識される。
・歩行時はDEF、MDFが大幅ダウンする。この効果は、【気配察知】系のスキルを持っていると無効となる(【気配察知】系スキルは控えでも可)。
・歩行時はLUCがアップする(効果:大、スキルレベルに依存)。
・歩行時、周囲のあらゆるデータ情報を視覚情報として確認可能(効果:中、スキルレベルに依存)。
・歩行時、隠されたアイテムやクエスト、イベントなどを発見可能(効果:大、スキルレベルに依存)。
【フォーマル】は――まぁ、大体はドレスと変わらないけど、先日来たような正装用のドレスを着た時に、しっかりと防具ボーナスが入るようになったようだ。
一方の【散歩】についてだが――こちらは、街の中を歩く際はミリスさんやサイファさんの視線がある関係上、必然的にスキルが発動するのだが――これがまた、一度発動すれば視界がにぎやかなことになるので、見ていていろいろ楽しくなるスキルだ。
このスキルを手に入れてからいろいろ新発見があったし、ランクIIになって一番の収穫はこのスキル……の前身である、【歩く】スキルかもしれない。
このスキル、名前だけ聞くと簡単に発動しそうなものだが、実際には歩行状態として認められる歩行速度がだいぶシビアに設定されており、先を急ぎがちなプレイヤー達だと発動しにくくなっているらしい。
対して私は、令嬢教育のおかげで【歩く】の規定速度以下で街中を歩くしかない。必然的に、昨日の令嬢教育その他でメキメキと成長し、【散歩】に派生してしまった次第である。
ちなみに全然話題に取り上げなかった【傘】は、対象が傘という分類の装備品に変わっただけで、ほとんど【フォーマル】スキルと変わらないので詳しく語るまでもない感じだ。
次にクラス2のスキル群。こっちはサブスキルでナビAIが勝手に――もとい、ゲーム内での私の行動を基に、親切にも『薬師見習い』を入れてくれたらしいので、それのクラススキルがいくつも追加されている(【短剣】と【調合師】だけは『ヴェグガナルデ公爵令嬢』との共有スキルなので、クラス1のクラススキルになってるけど)。
そして、アトリエが復旧して最初の調合三昧の時に、早速ミリスさんから見習い卒業の認定が下りた関係で、現状での私のサブクラス1はすでに鈴と同じ普通の『薬師』となっていた。
いわく、『エリクシルポーションを作れるような人が、いつまでも見習いでいていいわけがありませんからね。当然のことでございます』とのことであった。
最後に通常スキル。
通常スキルでは、【魔法干渉】と【麻痺耐性】、そして【料理】を派生させた。
消費したスキルポイントは【料理師】が1ポイント、それ以外の二つが3ポイントである。
SPがごくわずかしか残っていないけど、そもそもスキルの派生前に持っていたポイント自体、16ポイントと少なかったので仕方のない話である。
このゲーム、スキルの習得はクラススキルがメインで、スキルポイントを使う方法はあくまでも補助的な立ち位置みたいだしね。
ちなみにその獲得量の少ないスキルポイントだが、そもそもの獲得条件自体、また物凄く厳しく設定されていることが現在、検証班の人達の尽力で判明している。
あくまでも推測だが、その獲得できるタイミングは以下の条件を『両方とも』満たしたとき、というのが最も有力な説だ。
すなわち、
・スキルが特定のレベルに到達していること(現在確認済みなのはレベル10、30、60)。
・特定のレベルに到達しているスキルが、派生可能なレベルに到達していること。
というもの。
思い返してみれば確かに、思い当たる節はある。
【側仕え召喚】や【護衛召喚】、そして【扇】スキルはレベル10の時に1ポイント手に入ったのに、それ以外のほとんどのスキルは同じタイミングではもらえなかった。
かといえば、【ドレス】スキルは30レベルになった時にようやっと1ポイント手に入ったし、【博識】に至っては30レベルを超えても未だに1ポイントも入ってきていないからね。
しかしながら、どれだけ派生レベルが高く設定されているスキルであろうとも、また低く設定されていようとも、一度に手に入るスキルポイントは一律で1ポイント。
そのくせ、ポイントを消費してスキルを取得する際は、派生元の最低派生レベルの10%を支払わなければならないで、やはり欲求に駆られてあれこれスキルを習得していたのでは、すぐに枯渇してしまうことになる。
時にはあえて苦渋を飲んでスキルを派生させずに残しておく必要もあるというわけだ。
まったく、クラススキルとのバランスをうまく取ったものだよ。
さて。
ランクアップチャレンジクリアという一つの節目を迎えたところで、私はいよいよ公式イベントに向けた準備を本格的に始めることにした。
差し当たって、今考えているのが、新しい鞭の入手だ。
ヴェグガナークでもレザークラフトはいないことはないんだけど、はっきり言って私にはどのプレイヤーに相談すればいいのか皆目見当がつかない。
なので、私はおとなしく他の人に聞いてみることにした。
とはいえ、鈴は公式イベントの開始時期が迫ってきているということで、それに向けた打ち合わせやらレッスンやら準備やらで結構忙しくなってきているらしく、今日は夜でないとインできないと言っていた。
代わりといっては何だけどトモカちゃんがフリーだったこともあり、今日はトモカちゃんと行動することになった。
「――というわけなんだけど、トモカちゃんは誰かいい人、知らないかな」
「それなら私が鞭の製作を依頼したプレイヤーを紹介しよっか?」
「本当!? それならお願いできるかな」
やった。
念のためにトモカちゃんの使っている鞭を見せてもらったけど、サイファさんも唸るほどの性能だったらしく、期待が持てそうな感触だ。
それから、念のためにとサイファさんからも一つだけ提案が出された。
「私からも一つだけ。異邦人ではありませんが、ヴェグガノース樹海にある、エルフ族の里に行ってみるのも、一つの手かもしれませんね。エルフの里にしか出回らない、特殊な革素材も売っていると聞いた覚えがありますよ」
へぇ。
貴重な革素材っていうのも気になるけど、エルフ族って革の扱いがうまいんだ。
「エルフ族は森の妖精を自負する種族ですからね。狩りと、革の扱いにおいては右に出る者はいないでしょう」
「なるほど……」
なら、樹海でエルフの里を探すのも一考か……いやでも。
「とりあえず、プレイヤーの方をあたってみようかな。トモカちゃん、そのプレイヤーさんのところに案内お願いできる?」
「うん、いいよ」
NPCメイドのものは、性能はいいんだけど強化時の装備品ボーナスの伸び幅に難がある、というのがプレイヤーたちの間での揺るがぬ評定だ。
ということで、やはり目指すならプレイヤーメイド。
私はトモカちゃんの知り合いに会うべく、その人物が店を開いているという街――酪農都市ロレリアへとファストトラベルした。