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37.印象値判定――ランクアップチャレンジ達成


 あれこれしている間に、気が付けばランクアップチャレンジが発生してから丸々一週間がたってしまっていた。

 本日は、その翌週の日曜日。

 いよいよ、週半ばにサイファさんが予告していた、一日を通してみっちりと令嬢教育を施される日がやってきたというわけである。

 私も、うまく行けば今日で印象値判定で合格をもらえるかもしれないとあって、俄然やる気になっていた。

「それで、昨日は結局私ログインできなかったんだけど、印象値、どれくらいになったの?」

「昨日一日で、最終的に-10にまで上がったよ。やっぱり、好感度と似ているっていうだけあって、一緒に行動していると順調にあげられるみたい」

「なんだか、怖そうだった割にはちょろいね。チョロインさんなのかな」

 まさにそれだよね。

 私もまさか、サイファさんが一緒に冒険に付いてくるようになったら劇的に印象値が上昇し始めて、正直びっくりしたもん。

「でも、昨日一日冒険できたかわりに、今日は一日中令嬢教育なんだよね?」

「うん。当初の予定では、なんか『みっちり』って言ってたから、もしかしたら鈴への接し方にも令嬢教育中は何か指導が入るかも?」

「……ゲーム内とはいえ、双子の姉からかしこまられるのはちょっと違和感感じるな……」

「いつぞやのDMとは真逆になっちゃうね」

 あのかしこまったDMには苦笑するしかなかったからなぁ。

 それから朝ご飯を食べ終えた私達は、早速ゲームの中にログインする。

 ログインすると、待ちわびていたといわんばかりにサイファさんは部屋着姿でローテーブルのソファーに待機していた。

「ごきげんよう、サイファさん」

「はい、ハンナ様におかれましてはご機嫌麗しゅう存じ上げますわ」

 教わった令嬢風のあいさつでサイファさんに挨拶すれば、サイファさんからも同じように挨拶が返ってくる。

 お互いにカーテシーを交わしたら、いよいよ講習開始だ。

 いや、正確にはもう始まっているのかもしれないけど。

「カーテシーは、それなりに身に付いたようですね。まだ、粗はありますが……継続して修練を重ねていけば、それもなくなっていくことでしょう」

「ありがとうございます」

 う~ん、今日のサイファさんはいつになく物腰が柔らかい。

 というか、思い返してみればこの一週間、結構なハイスピードで印象値が上昇していたけど、最初は本当に強面だったんだよねぇ。

 私、詰んだ? ってマジでそう思ったし。

「何やら感慨に耽っているようですが、早速本日の令嬢教育を始めていきたいと存じます。準備はよろしいでしょうか」

「はい。大丈夫です」

「では、本日は――」

 サイファさんから本日の令嬢教育の内容について説明を受ける。

 午前中はティーテーブルに座ってお茶会の練習と敬語の使い方講座。

 そして午後は月曜日や木曜日と同じく歩行訓練を行う予定。

 あとは、今日は服装の指定もあるという。サイファさんがミリスさん達侍女と一緒に厳選したドレスと装飾品を纏いながらそれらの講習を受けるそうだ。

 そして、午後の歩行訓練に関してはこの一週間の成果を確認する意味合いもあるらしい。

 それに応じて、明日からの一週間の教育内容を大まかに決めていくのだとか。

 私がサイファさんからそれらの話を聞き終わり、説明中に話に上がったドレスに着替えたところで、

「どうも、ハンナ。令嬢教育はどう?」

 と鈴がいつものように部屋に入ってきた。

「ハンナ様。先ほど申し上げました通りに」

 私は本当にやるのか、と思いながらコクリ、と頷くと、すぅ、はぁ……と深呼吸をして、それから片足を後ろに引き、スカートを掴んで床につかないよう持ち上げつつ腰を落とす。そうして、鈴にも令嬢風の挨拶をお披露目した。

「おはようございます、鈴様。鈴様におかれましてはご機嫌麗しゅう存じ上げます」

「――え?」

 ぱちくり。と、鈴は入り口でぎょっとして固まり、それから、あ、あぁそういうことね、とすぐに再起動した。

「えっと、ハンナ様におかれましても、ご機嫌麗しゅう? 存じ上げます?」

 鈴もカーテシーと令嬢風の挨拶を返してきた!?

 見よう見まねといった感じで、未だに素人の域を出ない私からしても私以上に粗が目立つカーテシーだったけど、(サイファさんからの指示による)私からの無茶振りにきっちりと応えてきた!

 う~ん、さすがは現役売れっ子アイドル。貫録がある人は違うなぁ。

「……驚きましたね、鈴様。粗が目立つとはいえ、まさか即座にカーテシーで返してくるとは思いもよりませんでした」

「まぁ、これくらいはできないと、アイドルとしては、ね……」

「アイドル、というのはよくわかりませんが、相当の修羅場を潜り抜けてきたのだ、ということだけは今ので思い知らされました……。本当ならば、ちょっとしたいたずらのようなサプライズのつもりだったのですが」

「う~ん…………三十点? 百点満点で」

 学校のテストでギリギリ及第点じゃん、それ。

「…………にしても、ハンナの今日の服。なんだか、凄いことになってる」

「あはは……気にしないでいただけると、助かります……」

 鈴の指摘に、私は照れを隠すように扇子を広げて口元を隠した。

 そうなのだ。

 服装の指定ありとは聞いたけど、サイファさんとミリスさんはやけに張り切って、つるつるとした艶のあるドレスを私に着せてきたのだ。

 スカートがそれなりにふんわりとしていて足もとが見えずらいし、動かしづらいからできればいつもの部屋着か、あるいは冒険用のドレスに着替えたいんだけど――先ほどの話にもあったように、今日はサイファさんが指定したというこのドレスを着て過ごすことになっているで仕方がない。

 そうして始まった本日の令嬢教育。

 サイファさんが先日言っていたように、内容自体はかなり濃かったんだけど――思った以上に、疲れを感じていなかった。

 それはきっと、がっつりと言いながらも小休止がそれなりに与えられたからだろう。

『良質な教育をするためには、休憩の取り方も重要になります。休めるときにはしっかりお休みください。この時間だけは、私もとやかく言うつもりはありません』

 と、気を抜ける時間をたっぷり与えてくれたことで、意外にも疲れはあまり感じなかったのだ。

 そんなこんなで午前中は体をそれほど動かさないまま、わりとあっさりした感じで終了となり。

 そして迎えた午後からが、本番だった。


 午後は歩行訓練とは聞いていたが、本日の歩行訓練は部屋の中を行ったり来たりするのではなく、廊下を歩くことになった。

 当然ながら、使用人さんとはいえ人目もあるのであまり大きな失敗はしたくない。

 ということで、私はサイファさんの思惑通りに、より気合いを入れて令嬢教育に臨まなくてはならなかった。

 そうして、部屋からサイファさんの指示通りに廊下を歩くと――最短距離で、一階に降りる中央階段へと到達する。

「いい感じです、ハンナ様。そのままその姿勢を維持して、まずは階段を下りてみましょう」

「わかりました」

 指示通りに階段を降りようとしたんだけど――どうしよう、下が見えづらくてちょっと怖いな。スカートがいつものドレスよりふんわりしてるから、足もとが完全に見えない。

 足を余り前に出し過ぎないようにしないと……。踏み外さないように、一歩ずつ慎重に……。

 やがて、いつもの二倍以上の時間をかけて、ようやっと階段を降り切ることができた。

「お疲れ様です。とても様になっておりましたよ」

「ほ……それならよかったです」

 ――印象値:サイファ・ロレーリン 10ポイント上昇。現在5。

 午前中にもそれなりに印象値を稼げたおかげで、すでに現在の印象値はマイナスが取れてプラスの領域に入ってきている。

 このままでいけば、少しミスしてもほぼ確実にランクアップチャレンジ自体はクリアできるだろう。

 そのこともあって、私は今精神的余裕が生まれていた。

 もちろん、だからと言って大失敗をしてしまえば一気に印象値はまたどん底になってしまうだろうから、慎重さは捨てられないけど。

「そしたら、そうですね。今度は外へ出てみましょうか」

「え? 外、ですか?」

「はい。と言っても、あくまでも敷地の中だけです」

 今の格好で敷地外を出歩くのは、いろいろと危険がありますからね。と言われて、若干ホッとしつつ私は玄関扉に向かって歩き出した。

「セシリア、日傘を持ちなさい。ミリスさんもハンナ様に」

「はい。失礼します、サイファ様」

「かしこまりました、サイファ様。ハンナ様、少々お側に寄らせていただきますね」

 サイファさんの指示により、サイファさんはセシリアさんに。そして私はミリスさんによって、日傘が差される。

 えっと、これはこのまま歩けばいいのかな。

「日傘は、このままミリスさんに持っててもらう感じですか?」

「そうですね。その辺りは自己判断に任されますが――例えば、視察中にもカーテシーが必要な場合は両手が空いてなければできませんから、やはり日傘など含め、荷物は侍女に持たせる人は多いかと思いますよ」

「なるほど……」

 なら、このままミリスさんに持っていてもらった方がいいのかな。

 ミリスさんから傘を受け取ることなく、私はその後敷地の一角に設けられた庭園へと赴いた。

 庭園ではエレノーラさんがちょっとした小屋? みたいなところにいて、お茶を飲みながらのんびりとした一時を過ごしていた。

 サイファさん曰く、あれはガゼボというらしい。

「あそこに行くってことですか?」

「そうですね。せっかくなので、お邪魔してみましょうか」

「わかりました」

「あと、エレノーラ様に話しかける際の口上といたしましては――」

 というわけで、急遽エレノーラさんのところにお邪魔みることになった。

「休息中に失礼いたします。エレノーラ様におかれましてはご機嫌麗しゅう存じ上げます」

「えぇ。ハンナさんも、令嬢教育お疲さま。せっかくだからここで少し休んで行きなさい。同席を特別に許可します」

 直前にサイファさんに聞いた通りの口上でエレノーラさんに挨拶をしてみたところ、エレノーラさんは満面の笑みで私に同席を促してくれた。

 ただ、それでも砕けた感じのちゃんづけではなくさん付けにしてきたのは、後になって聞いた話では私が令嬢教育中で、それも正装しているからだったらしい。

 今日はそういうスタンスなのだろうと、エレノーラさん側もそれに合わせた感じだったようだ。

「では、ありがたくご同席させていただきます。失礼いたします」

 私側からお邪魔するということを弁えて、下手に出る。

 午前中の令嬢風の敬語講座が早速役に立った。

「なかなか身についてきているみたいね。でも、もう少し時間がかかるものと考えていたわ」

「ひとえにハンナ様の筋がよかったからだと存じ上げます。私も、初対面の時の第一印象がありましたから、正直に申し上げますと驚きを隠しきれません」

「あらあら。クスクス、ハンナさん、あなたいいように言われてしまっていますよ」

 う~ん、扇子を開いて目以外を隠されてしまい、いまいち感情が読み取れない……。

 でも、含みがあるような気がしなくもない。

「あちらの世界に影響が出ない程度には、努力させていただく所存です」

 とはいえ、あれこれ考えても依然素人の域を出ない私にはその言葉の裏などわかるわけでもなく。

 最終的に、当たり障りのない答えでこの場を取り繕うことしかできなかった。

 それでも、エレノーラさんは満足した顔で、

「そうね。私も、あなたのあちらの世界の生活を脅かすような真似はしたくないもの。あくまでも、無理しない範囲で構わないわ」

 と言ってくれた。

 ほ……どうやら、切り抜けることができたようだ。

 それからは、軽い世間話――私からは、主に昨日ポトルガに言ってきた話や、サイファさんが意外に強かった話などをして、臨時のお茶会はお開きとなった。


「お疲れさまでした、ハンナ様。見事なお姿を拝見できましたこと、私も我がことのように誇らしく思います」

「そう言ってもらえると、うれしいですね」

 自室に戻ってから、サイファさんから先ほどのエレノーラさんとの茶会の評価を聞かされる。

 それと同時に、今日一日を通しての評価も発表された。

「今日一日、ハンナ様を見て思いました。エレノーラ様にも申し上げました通り、やはりハンナ様は筋がいい。私がお教えしたことをすぐに理解し、実践に移せるその才覚は、見事というほかありませんでした。……ただ、欲を言えばもう少し、相手の言葉の裏を読んでいただきたい、とは思いましたが。それは経験を積むしかないですから、高望みはできません」

 そこで、サイファさんはすぅ、と一呼吸おいて、最後にこう言ってきた。

「総じてこの一週間、優秀としか言えない出来でした。よく頑張りましたね。今日はもうゆっくり休養を取り、明日からまた頑張りましょう。期待しておりますよ」

 合間を縫うようにメッセージで印象値の変動が知らされていたから、ほぼ確実に合格点をもらえることはわかりきっていたけど――それでも、ゲーム内限定とはいえいろいろ制限がかかって、かなり苦労させられただけに、面と向かってこう言われると感極まってしまう。

「ありがとうございます。明日からも、よろしくお願いしますね」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 初対面の時の冷徹そうな顔はどこへやら。

 柔和な微笑を浮かべながら、しかし言葉では『明日からは新しい段階にも進みますから、覚悟していてくださいね』などと言ってくるサイファさんに、できればお手柔らかに……と付け加えつつ私は目の前に表示された通知を確認していった。


『ランクアップチャレンジに成功しました:ヴェグガナルデ公爵令嬢I→ヴェグガナルデ公爵令嬢II』

『メインクラスのランクが上昇したことにより、以下のボーナスが発生しました。

・クラスレベル上限解放:30→60 クラススキルレベル上限解放:30→60

・サブクラスの設定機能を解放:1枠

 サブクラスには担当ナビゲーションAIの判断により、薬師見習いがセットされました。

 薬師見習いになったことで、必要なクラススキルを自動取得しました。

 必要により、転職申請が可能なNPCのもとで転職を行ってください。

・クラス特性の効果値が上昇しました:【戦場より遠き身分】

 プレイヤーレベルが【(クラスレベル)×2/30×(貴族ランク)÷2】レベル上昇する。

 このレベル上昇に伴う能力値の上昇は発生しないが、レベルアップに必要な経験値は補正後のものが適用される。

 あなたの貴族ランクは 6 です。

・これまでの活動傾向によりクラス特性が弱化:【血染めを嫌う者】→【生命の穢れを嫌う者】

消滅:【血染めを嫌う者】

 刃を持つ武器や槌など、特定の条件を満たす武器を装備して敵を攻撃した場合、あたり判定が発生しなくなる。さらに攻撃系やデバフ系、その他妨害系の特殊効果も発生しなくなる。

新規:【生命の穢れを嫌う者】

 刃を持つ武器や槌など、特定の条件を満たす武器を装備して敵を攻撃した場合、強制的に打撃判定となり、さらに直接とどめを刺せなくなる。この効果により倒せなかった相手のVTは0のまま維持され、気絶状態が付与される。

 気絶状態にした敵から獲得できる経験値は、通常の70%となる。

 気絶状態となった敵は中立状態となり、刺激を与えることでアクティブ化する。

・クラス特性追加:【万人見通す眼】

 視線の先にいるNPCやPCの情報を見ることができる。情報量の精度はクラスレベルに依存する

・クラス特性追加:【歩み始めた職人道】

 生産時に必要なCPの最大値算出に使用するベースフィジカルにMNDを追加。

・クラススキル追加:【歩く】【傘】

 【歩く】:あえて走らず、速歩もすることなくゆったり歩いて移動することで、周囲の様々な情報を収集できるようになる

【傘】:傘を装備品として使用できるようになる』


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