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27.インシデントは突然に


 節目は、その翌日にいきなりやってきた。

 テスト最終日の翌日。

 狙いをすましたかのように土曜日にあたった本日、鈴は今抱えている大仕事絡みの生配信をしなければならないらしく、某所の貸しスタジオに出かける予定があるらしい。

「じゃ、そろそろマネが迎えに来る時間だから」

「うん。お仕事頑張ってきてね」

「もち。今回の案件は、ある意味趣味と両立できる仕事だし。――あ、そうそう。時間が空いてるなら、ファルオンの公式チャンネルでアップデートの内容を伝える動画が配信されるって話聞いてるから、見に行ってもいいかも」

 あ、そっか。今日はそういえばファルオン――ファルティアオンラインの略称だ――のアップデートと、それに伴うサーバメンテナンスが行われる日だったっけ。

 う~ん、ショックなようなそうでもないような……。

 鈴はちょっといたずらっぽい笑みを浮かべつつ、それからほどなくして迎えに来た鈴のユニットのマネージャーさんである、新田有希さんに連れられて本日の仕事場へと向かっていった。

「う~ん……テスト明けで、宿題もないし……鈴が言ってた午後1時まで、まるっと時間が空いちゃったな……」

 どうしようかな……と少し考えて、そういえばここ最近部屋が散らかり気味だったかもと思い返した私は、昼ご飯まで部屋の掃除で時間を潰すことにした

 時間が立つのは早いもので、そうこうしているうちにあっという間にお昼ご飯の時間に近づいてしまった。

 今日はお母さんがいない日だったので、自分で軽く冷蔵庫の中を漁って、いい具合に材料がそろっていたので、カレーうどんを作ることにした。

 とはいえ、一人分なので作るのに時間がかかるわけでもなし。自分で昼ご飯の料理をするのも慣れているので、正午には昼ご飯も完成してしまった。

「う~ん……どのチャンネルも、パッとしたのはやっていないなぁ……」

 昼ご飯を食べながら、あちこちテレビのチャンネルを切り替えてみるも、あまり面白そうな話題を取り上げている番組はなく。

 仕方なしに、動画サイトにアップされていた、とあるVtuberのアーカイブ動画を流して昼ご飯を食べることにした。

 そうして、お昼ご飯も食べ終わり、片付けを終えるとちょうどよく鈴が言っていたファルオンのアップデート情報配信の時間がやってくる。

「もうそろそろ、待機所にアクセスしとこうかな」

 昼食の片付けのためにスリープにしていたPCを再び立ち上げて、ファルオンの公式チャンネルを開く。

 待機所では、すでに何万人というプレイヤーが待機していた。

 生配信形式で配信されるらしく、コメント欄もすでに今か今かと待ち遠しそうに沸き立っていた。

 ちなみに、配信タイトルはこう打たれていた。

 ――【重大告知】ファルティアオンラインアップデート【イベント情報アリ】

 重大告知、アップデートに、イベント情報満載。

 一プレイヤーとして、見なくてはいけない単語ばかりが並んだそのタイトル。

 さらに、概要欄にはとあるアイドルユニットとのタイアップ情報も告知されると明記されており、私の脳裏には鈴が出かけ際に浮かべていたいたずらっぽい笑みが妙に翻って仕方がなかった。

 やがて――その時がやってくる。

 待機画面に使用されていた、ファルティアのどこか切り立った崖から見た、とても美麗な光景。

 サムネイルにも使用されていたその静止画から、パッと切り替わったのはどこかのスタジオ。

 画面に映し出されたのは、できる男という印象が強い人だった。

 ビジネスカジュアルって言うんだったかな、スーツとは違うけど、普通の普段着ともまた違う服を着た女性が、配信が始まるとともにまずは挨拶をして、深々とお辞儀をした。

『ファルティアオンラインのプレイヤーの皆さん、初めまして。ファルティアオンラインのゼネラルプロデューサーを務めております、浅木麗華と申します。まずは日ごろからファルティアオンライン、並びに弊社が手掛けました、その他のゲームをご愛顧いただきましてありがとうございます。この場を借りて、厚くお礼申し上げます』

 そうしてお辞儀をした後で、さて、と前置きをしてから今回の配信の内容を早速話し始めた。

『喜ばしいことながら、この度ファルティアオンラインは先日で配信から一か月という短さでありながら、良い意味で非常にたくさんの方からご注目をいただいております。弊社へのお問い合わせも、ソフトウェアの追加発売や、ダウンロード版配信のご要望などソフトウェアの拡充を望む声が多数寄せられています。これらのことを鑑みまして――私達は、ダウンロード版の配信を決定いたしました。これに関しては近々開始を予定しておりますが、待たせてしまっているご購入希望の方々には、今しばらくお待ちいただきますようお願い申し上げます。なお、配信の開始は八月上旬を目指しております』

 へぇ。ダウンロード版の配信が開始されるんだ。

 ていうことは、いよいよプレイヤー人口も爆発的に増えていきそう。

 今後はサーバーも複数立ち上がったりするのかな。

 などと考えていたら、話は次のステップへと移っていった。

 次はアップデートの内容。

 今回のアップデートで追加されたのは、満腹度ゲージと飢餓ゲージの実装と、通常クラスのプレイヤー向けのシナリオクエストの実装。

 それから、目玉となったのが新ステータス異常の『呪い』と、装備品や道具の呪いと加護。そして称号システムの実装だ。

 呪いの効果は様々なので詳細な説明は省かれたが、ジョーク的なものから笑えないほど危険なものまでピンキリとのこと。

 装備品や道具の呪いについては今後、一部の素材を材料に使用する際には専用のアイテムも混ぜないと、生産したアイテムが呪われた状態で完成してしまうことがあるらしく。

 逆に、呪いが付与される可能性がない状態でその専用アイテムを使うと、加護という効果が付与されるという。

 どちらも効果は様々なので、プレイヤーのみんなで試されたし、とのことだった。

 そして称号。

『称号は、特定の条件を満たしたプレイヤーに対しまして送られるものです。ステータスアップや特殊なスキルの入手など、様々な恩恵があるものもあるので探してみてくださいね』

 ふむふむ。この辺りは他のゲームでもありがちなものだったけど、ファルオンでも一か月遅れで実装されることになったか。

 その他細々とした変更内容にサラリと触れたところで、アップデートに関する説明は一通り終わったのか、浅木さんは次のステップへと進んでいった。

『次に、公式イベントの開催予定に関してですが――これも、既存プレイヤーの方の多くから開催のご要望をいただいておりました。これに関しては、私共でも常々より予定しておりまして、予定通りにいけばこれも八月上旬――ちょうど、ダウンロード版の配信が開始された直後辺りからの開始となる予定となっております』

 おぉ、ついに公式イベント来たぁ! やっぱりMMOといえばこういうのがないとダメだよね!

 競い合ったり、協力し合ったりして、プレイヤー皆で盛り上げられるような何かがないと。

『イベントの内容は、ダウンロード版の配信時期とも重なるということもありまして、新たなプレイヤーの皆様にも早く世界観に馴染んでいただけますよう、特別なサーバを用意するイベントではなく、既存のフィールド内にて完結する内容のものを予定しております。詳細は後日発表いたしますし、オープニングセレモニーでも改めて詳しく説明いたしますので、今しばらくお待ちください。ただ――イベントに備えて上位クラスなどに転職するのは、あまりお勧めしないとだけ言っておきましょう』

 ふぅん……クラス替えはお勧めせず、か。

 ファルティアオンラインの仕様上、クラス替えをするとプレイヤーレベル、クラスレベルともに1からやり直しになっちゃうらしいし、その関係上クラススキルのレベルの成長もしばらく止まっちゃうみたいだから、それは理に適っているんだけど……。

 このタイミングでそれを言うっていうことは、それ以外にも何か理由があるんだろうなぁ。

 それは一体なんだろうなぁ、と思っていると、浅木さんは話をさらに進めていった。

『そして――ここからが、本日一番の重大告知となります。今回のイベントを開催するにあたり、我々はイベントをより一層盛り上げるために、とあるアイドルユニットの方々にタイアップイベントの開催を依頼いたしました』

 おぉ……アイドルユニット。

 これは、鈴が浮かべたあのいたずらっぽい笑みはやっぱり……。

 半ば、その登場を明確に予測しつつあった私の眼前で、配信動画の中ではそのタイアップする相手として抜擢されたアイドルたちが、浅木さんの呼びかけに応じて画面内に入り込んできた。

『それでは、早速ですがタイアップしていただくユニットの皆様にご登場していただきましょう。――シグナル・9の皆様です!』

「って、やっぱり鈴じゃん。あはは、まったくの予想通りで笑うしかないんだけど……。しかもこの衣装……。それに、他のユニットメンバーの人達も色違いの同じ意匠のドレスだし……」

 ある意味半ば予想通りの人選に私は苦笑しつつ、改めて鈴たちの衣装を眺める。

 ――なんというか、これまでの、アイドル然とした衣装とは違う印象を受ける衣装をまとっての登場だった。

 どちらかといえば、それはファルティアオンラインで私に新しく用意されたドレスと同じような――。

 まぁ、あのファンタジー世界でバリバリのアイドル衣装っていうのもなかなかに際どいしね。

 それを考えれば、世界観に合わせたチョイスではあるのかもしれない。

 それにしても……。

「昨日からどこか思わせぶりだったけど……そっかぁ、そういうことだったんだねぇ……」

 どことなく納得した気持ちになりながら、改めて鈴がどんな仕事をもらったんだろうかと楽しみにしながら私は画面に見入ってしまう。

 音頭は、やはりユニットの顔役とも言われている鈴が任されることになったようだ。

『配信を見ていただいているリスナーの皆様こんにちは。シグナル・9のサファイアブルー担当にしてシグナルジュエルのサファイア担当、山田鈴です。本日はご視聴いただきましてありがとうございます。まずは厚くお礼申し上げます』

 鈴の例を合図に、他のユニットメンバーも深々とお辞儀をする。

 ついでに、その場に一緒にいたらしいファルオンのスタッフと思われる人達数名もお辞儀をした。

『さて、ただ今浅木プロデューサーのお話にもありました通り、この度私達は、ファルティアオンラインで行われる公式イベントにて、タイアップイベントを開催することとなりました』

 コメント欄では、サプライズゲストキター! と、早くもクライマックス気味のテンションで浮足立っているようなコメントが多数投稿されていた。

 鈴の次に口を開いたのは、同じくシグナル・9で顔役を務め、子ユニットであるシグナルジュエルで赤《ルビー》を担当する城西まどかさん。

『気になるタイアップイベントですが、私達側のイベントは、公式イベントの最終日に行われる、ゲーム内ライブとなります。なお、このイベントに関しましては、専用のVRルームにてプレイヤー以外の皆様も、VR映像という形にはなりますがご参加いただくことができるようになっております』

 へぇ。

 ゲーム内でライブをするのかあ。

 ということはもしかすると、あのドレスももしかしたらステージ衣装だったりするのかな。

 事務所の意向で、普段のプレイ中にも着ないといけないと言っていたけど、そのための広報活動も兼ねているのかね。

『また、もう一つ重要なお知らせがあります』

 頭の中であれこれ考えが飛んでいるところへ、別の顔役、シグナル・9のトパーズイエローとシグナルジュエルでトパーズを担当する近藤なずなさんがもう一つ、爆弾を投げ落としてきた。

『この度、私達シグナル・9はファルティアオンラインの運営の方々から、公式アンバサダーに抜擢されることとなりました。これに伴い、今後はDL版が配信され次第、メンバー全員がファルティアオンラインで生配信を開始いたします。公式イベントが開催されて終了するまではゲーム内密着配信も行いますので、ゲーム内でお会いしましたらよろしくお願いします』

  つまり、何か問題でも起きない限り、ゲーム内では常に配信が行われるということ。

 現実での密着配信ではないあたり、まだ楽な部類とはいえるけど、それでもゲーム内では常に気を張っていないといけなくなるはず。

 鈴は、結構大変そうな仕事をもらっちゃったのかな。

 でも、アイドルの仕事も楽しんでいるみたいだし、趣味と両立できると言っていたから、苦とは思っていないところがまだ幸いなのかな。

『シグナル・9の皆様、ありがとうございました。なお、現在シグナル・9のメンバーとプライベートでパーティなどを組んでいただいている数名のプレイヤー様に関しましては、個別にゲーム内での顔出しの可否と、配信に参加できるかできないかの確認のメールが行くかと思いますので、返答をしていただければと思います。では、今回の配信はこれにて終了したいと思います。ご視聴いただきありがとうございました』

『また、まだゲームを購入されていないという方も、興味はなかったけどこの配信を見てくださっているという皆様も、DL版の配信が開始された際にはぜひ、ファルティアオンラインにご参加いただければと思います』

『皆さんとゲーム内でお会いできる日を、私達シグナル・9一同心よりお待ちしております』

 そうして、最後に全員で挨拶をしたところで、告知動画は配信終了となった。



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