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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
母からの出店支援、その代価は
23/145

23.巨大トレント ~煙幕の実と闇ギルドの麻痺毒を添えて~


 アイーダの森は、今の私達にとってはもう庭のような場所だった。

 鈴のポーションショップに卸すポーションの素材を作るために、頻繁にアイーダの森に行っているというのもあるし、レベルもそれなりに上がってきているというのもある。

 【気配察知】スキルもいい感じに成長してきているので、敵性NPCの不意打ちももう怖くない――そのはずだった。

 しかし、エレノーラさんのクエストを受注していざ来てみれば、いつもとはまるで違う雰囲気であることに一瞬で気付いた。

「……ここ、本当にアイーダの森?」

「うん。エリア名は、確かにそうなっている」

 鈴の問いかけに、マナさんが短く答える。

「お嬢様、お気をつけください。普段とは何か違う。どこがとはいえませんが、かなり張り詰めた空気に包まれています」

「もしかしたら、今の私達でも危うい可能性もあります。くれぐれも、無理なさいませんよう」

「わかってる」

 フィーナさんとヴィータさんの忠告を素直に聞き入れ、私は【気配察知】スキルの反応を一つでも見逃さないよう、全神経を集中させる。

 ちなみに、パーティ構成は、トモカちゃん達、樹枝六花のメンバー+トモカちゃんの従魔で一組と、私、鈴、そして私の従者三人の一組となっており、何気に初めてのユニット単位での行動でもあった。

 総勢で11人と一匹と大勢での行軍だったが、それでも最初はいつもと同じように森の中を進むことができた。

 そう、最初だけは。

 ある程度森の中を進んで行くと、先を進んでいた斥候担当のノアールさんが、『待って』と短く私達に合図をしてきた。

「…………いる。二時の方向と十一時の方向。多分、弓」

「早速お出ましだね。魔法いくよ――『ツイン・フレイムランス』!」

 ――この感じ、でもそれだけじゃ……どこ?

 いつぞやと同じ、矢が風を切る音が聞こえる。これは――後ろだ!

 後方、大きく右にずれた位置と若干左にずれた位置から、それぞれ一本ずつ飛んできてる!

「それだけじゃない! 多分囲まれてる! 私も――『ツイン・ヒートウェイブ』!」

 マナさんが前方の敵に魔法を放つのと同時、私は大きく右に動くと、そのまま振り返って光属性の攻撃魔法を放つ。

 【光魔法】のアビリティ、『ヒートウェイブ』。放射状に、火属性のダメージを与える魔法だが、名前からして『電磁波』を放つ魔法なためか、【火魔法】ではなく【光魔法】で習得するという、風変わりな魔法アビリティだ。

 追加効果で、効果時間中は敵の動きを止められるという効果もあり、範囲が広いということもあって覚えてからは割と重用している魔法だ。

 なお、『ツイン』と付けたのは【魔法干渉】スキルのアビリティを付け足したから。

 『ツイン』は魔法系のスキルの前に付け足すことで、両手からそれぞれ別個で同じ魔法を放つことができるのである(当然消費MPもそれぞれで1発分、合計2発分必要になる)。

「強い……まだ、動いてる」

「こっちも……」

 遠目に見える敵性NPCの残りVTは、魔法の効果が切れた時点で残り2/3強と、これまでに出てきた奴らの比ではないことがうかがい知れる。

 木の上から落ちてきたそいつらは、『闇ギルド:???・特殊工作員』という、どこか今回のクエストにかかわりがありそうなネーミングの敵。

 攻撃を受けたことで、とっくにばれていたことに気づいた闇ギルドの特殊工作員たちは、手に持っていた弓を捨て、そのまま短剣を片手にこちらへと肉薄してきた。

「こいつ、はや――っ!?」

 一気に距離を詰められたフィーナさんは、そのまま回避しようとして――失敗し、腕に掠めてしまう。

 直後、彼女のステータスには麻痺状態を示すアイコンが追加された。

 当然のように、麻痺攻撃を放ってくる。暗部系NPC共通の基礎攻撃手段だが、かすり傷すら許されないというのはなかなかに厄介。

 こちとら扇子しか持っていない身だ、下手に近接戦でやり合うのは命とりなのは間違いない。

 背後では、樹枝六花のみんなが同じような状況になったらしいが、向こうは六人編成で役割(ロール)も揃っているので、危なげなく対応できていた。

 私達の方は、プレイヤー陣営が基本的に後方支援職なので、近接戦はすべてNPC任せ。

 よって、私の役割は護衛二人のフォローが中心。これは最初の頃からずっと何も変わっていない戦法だ。

「『ツイン・ヒートウェイブ』!」

 もう一度、二発同時に『ヒートウェイブ』を放つ。

 ゲームシステム上、FFが発生しない仕様になっているので、魔法の誤射の心配は端からしていない。

 背後から走り寄ってきた二人の敵性NPCを狙った『ヒートウェイブ』は、再び敵をその場にくぎ付けにした。

 その隙に、ヴィータさんは片方の敵をめった切りにして一気にVTを全損させる。

 そしてミリスさんが麻痺解除効果のあるポーションを使用して、フィーナさんの麻痺を解除したところで、『ヒートウェイブ』の効果が切れた。

 だが、敵が再び動き出したときにはもう遅い。

 護衛二人が、お返しといわんばかりに逆に敵に波状攻撃を仕掛けて、反撃の暇も与えないようにもう一人も倒してしまった。

「お疲れ、ハンナさん。ナイスファイトだね」

「あ、マナさん。ありがとうございます」

 すでに敵を倒し終えていたらしい樹枝六花を代表して、マナさんが手を差し出してきた。

「ハンナさんのクラスは確か、テイマー職の亜種だったよね。NPCと一緒に戦うのはもちろんとして、ハンナさん自身は魔法職なの?」

「あぁ、まぁそんな感じですかね。一応、武器はこれがあるんですけど」

「扇子……扇子かぁ。扇子だと、やっぱり魔法職のイメージが強いんだけど、使わないんだ?」

「はい、まぁ……」

 そもそも私のはまだ初期装備だからなのかもしれないけど、使っている扇子にはMAGを上昇させるような効果はないんだよね。

 だから、私が使っている魔法の効果はすべて、ベースフィジカルのMAGに魔法の威力補正が加わっただけのものになっている。

 ありていに言えば――さっき使った『ヒートウェイブ』も、もっぱら敵に対する妨害という意味合いの方が強かったのだ。

「そうなんだ……まぁ、うまく言えないけど頑張って…………」

 私の装備事情があんまりなイメージしか抱けなかったのか、微妙な顔になって励まされてしまった。

 まぁ、私自身戦闘ではあまり役に立てている感じがしないので、反論も何もできないんだけどさ。

 ――でも、このクエストが終わって、店もできたら、その時は私も装備を更新する。

 そう決めているので、この初期装備とお別れの時ももう、近づいているのは確かなのかもしれないけど。

「さて――クエストの目的地は、もうちょっと進んだあたりだけど……心の準備はできている?」

「もちろん。最初の手順的に、やっぱり負けバトルからのスタートなのは否めなさそうだけど、みんなが集まってくれたから、何が起きても怖くないって思えるようになったからね!」

「それはよかった。それじゃ――」

 そろそろ、クエストボスとご対面と行こうか。

 クエストの第一段階で指定された地点、クエストボスのマップ上での出現ポイントは、アイーダの森の木こりの小屋から入って、少し深部へ向かって進んだ先。

 つまり、今の戦闘はクエストボス直前の、前座ということだ。

 ミリスさんから渡されたポーションを飲み干し、VT、MPがフル回復したのを全員が確認したところで、私達はクエストボスの出現ポイントへと迫っていった。


 アイーダの森の浅部にある、木々がなく少し開けたポイント。

 この場所は、周囲にランドマークこそないものの、モンスターの自然湧きはしない上に入り込んでくることもないという特徴から、普段は一種のセーフティポイントとして使われているらしい。

 しかし――今日、私達はここに、クエストボスの巨大トレントと戦うためにここに訪れた。

「なんだ、あの大木――あれが、まさかクエストボスなのか?」

「街の北にある森にいるトレントとは全然違う。多分、クエストボスで間違いない」

 ちらりと、街の北部にもあるもう一つの森の話が上がる。

 話に上がった森はヴェグガノース樹海というエリアで、キノコ類や木の実類が豊富にとれる森だと聞く。

 その中には状態異常関連の素材や、状態異常回復系のポーションの必須材料である『リバシアリーフ』という素材もあるようなので、私も本当は行きたいのだけれど――今はまだ行くのを控えるように、とエレノーラさんからストップをかけられてしまっている状態だ。

 なんでも樹海の資源を管理している商業ギルドとの、利権がらみの問題があるらしい。

 それが解決するまでは、私は状態異常回復系のポーションを作るなら別のエリアを探さないといけないが――利権問題が解決したなら、あのあたりを重点的に探すのもありだろうな、と一瞬今の状況とまったく関係ないことを考えかけて、今はそれどころじゃなかった、と雑念を振り払った。

 そしてもう一度、小広場の中央を陣取る巨大な樹木を見やる。

 一見すると、本当にただの樹にしか見えないけど。

 普段は見かけない樹だというなら、確かにあれはクエストボスのトレントなんだろう。

 でも――なんだか、それだけじゃないような。

「見張られている――」

「ルアーナさんも気づいた?」

 ルアーナさんも同じことを思っていたらしく、私達は周囲を隈なく見渡した。

 ――うん気のせいじゃない。

 やっぱり、小広場を取り囲むようにして、私達を見張る視線を感じる。

 十中八九、戦闘中になにか仕掛けてくるだあろう。

 さりとて今攻撃して意味あるのかどうか――

 どうするか、とユニット内で軽く話し合う。

 まず、周囲の私達を見張っている存在は警戒に留めることにした。

 マナさんが試しに範囲魔法を気配のするあたりに放ってみたものの、反応はなし。つまり、今は何をしても干渉できない、半ばイベントオブジェクト的な状態になっているということ。

 クエストの第1フェーズをさっさと進めろ、ということなんだろう。

 ということで、ひとまずは巨大トレントに集中することにした。

 具体的な動き方は、まず大前提として、トレントはうかつに近づくと奇襲を仕掛けてくる。

 回避に失敗すると大ダメージと、周囲の木や他の敵、盛り上がった地面などにぶつかると追加で衝突ダメージを受けてしまうので、アプローチを掛けるには遠距離攻撃をする必要がある。

 しかし、それさえ凌いでしまえばあとは楽に倒せるのも、トレントの大きな特徴の一つである。

 トレントの攻撃は、うかつに近づいてしまった際の奇襲攻撃を除けば、枝を鞭のようにしならせて薙ぎ払ってくるか、根っこを伸ばして地中から串刺しにしようとしてくるかの二者択一。

 いずれにしても予備動作があるため、それさえ見逃さなければ無傷で倒すこともできるため、適正レベル帯のプレイヤーからは経験値目的でよく狙われる、いわゆる稼ぎモンスターとして扱われている。

 つまり、重要なのは最初の動きであり、こいつも普通のトレントと同じなのであれば、最初は魔法か何かでアウトレンジ攻撃を行い、敵をアクティブにするところから始めることになる。

 この時点で、初手を担うことができるのは私とマナさん、トモカちゃん。それに私の護衛の一人であるヴィータさんとなる。

 あとは、クエストボスということで、通常のトレントとは動きが全く異なる、といったことがあるかないかだけが懸念材料なのだが――

「……私がやる。トレントなら、【火属性】スキルの効果で、確実に着火デバフが入るからな」

「着火?」

「ハンナさんはまだなったことがないからわからないか。着火状態は猛毒状態の火属性バージョンだよ」

 あぁ、そういう。

 同じ火属性ダメージでも、【光属性】の『ヒートウェイブ』では、火傷デバフで敵のSPDを低下させることはできても着火デバフは付かない。

 その辺りは、本家である【火属性】の強みという奴になるのかな。

「準備はいい?」

「いつでも」

「OK、それじゃ――いくよ。『ツイン・フレイムボム』!」

 マナさんが杖を振りかざした途端、二つの爆発がトレントらしき樹木を包み込み。

 ――オオオオオオォォォォォォォ……――

 とても低い、唸るような咆哮と共に、その巨木が正体を現した。

「よしっ、これで近づいても奇襲攻撃の心配はなくなった。ハンナさん!」

「うん。『激励』〈みんな、いくわよ〉!」

『おぉー!』

 話し合いでの取り決め通り、パーティをまたいで同じユニット内全員に強力なバフ効果がかかる、【激励】スキルを使う。

 これで、効率よく戦えるようになった。

「それじゃ、さっき決めた作戦の通りに」

「えぇ。鈴、気をつけてね」

「ん。ハンナも」

 戦闘面ではSPDに大きくPPを振っている鈴は、ノアールさんと一緒に遊撃担当。

 ノアールさんと並んでトレントに駆け寄っていく鈴を見送りながら、私はマナさんと一緒に、隙を見計らって魔法攻撃を仕掛けていった。


 巨大トレントといっても、相手の動き自体は普通のトレントと大差ないらしい。

 この巨大トレントも、そいつらとほぼ同じ予備動作、同じ攻撃方法しか持っていなかった。

 たまに、普通のトレントとは違い、体を揺らして爆発する木の実を振りまくこともあったが――攻撃範囲が小広場内ということもあったし、予備動作も一番大きくわかりやすいものだったため、大した脅威にはなっていなかった。

 そもそも、範囲外に出てさえいれば、格好の魔法の的でしかなかったしね。

 そんなわけで、当初警戒していたような、通常のトレントとは全く異なるということはないらしく、おおよそ順調に相手のVTは減らすことができていた。

「……ふぅ。十分くらいで、残り4割くらいか。普通なら、とても順調って言いたいところなんだけど……」

「うん。今回のクエスト、このボスに関しては『倒す』じゃなくてVTを減らすのが目的だからね。一体、どれくらい削ればクエストが進むのか……」

 それがどのタイミングなのかはわからない。

 でも、いずれこのボスと戦っている最中に『ナニカ』が起きるというのなら、何が起こってもいいように警戒しつつ戦うしかない。

 ――依然、私達を監視するかのような視線は途切れない。

 おそらくだけど、そいつらが姿を現すことで、クエストの第1フェーズ終了の合図とみなされるのだろう。

「ハンナちゃん、また魔法いっとこっか」

「そうだね。『ツイン・ヒートウェイブ』!」

「『ツイン・フレイムボム』!」

 二人で、息を合わせて魔法を放つ。与えるダメージの量こそ、マナさんの魔法には遠く及ばないものの、『ヒートウェイブ』は万が一にも相手が予想外の行動に出てマナさんの攻撃を回避されないための、保険という意味合いが強かった。

 それに、威力が期待できないとはいえ、相手の弱点属性だからそれなりにはダメージが入っているしね。

 そうして、『フレイムボム』のダメージが入り、『ヒートウェイブ』の効果が途切れたところで巨大トレントは何度目かの木の実落としを放ってきた。

「木の実攻撃が来るよ!」

「総員退避っ!」

 私達の声に、前に出ていたメンバー全員が小広場から離れる。

 やや遅れて、トレントの頭に成っていた木の実が、ぼとぼとと周囲に散らばってきた。

 木の実は地面に触れた途端にパァンッ、と小気味いい音を鳴らしながら爆風を放つ。

 一回だけ、まねきねこさんが逃げ遅れて木の実の爆風を一発もらったけど、タンク担当のはずの彼女が結構痛いダメージをもらったみたいだから、わかりやすく避けやすいとはいえ油断はできない攻撃であることに違いはない。

 木の実の落下が収まり、再び前衛や遊撃担当の人達が前に出る。

 そして、この間は巨大トレントも硬直時間に入るためか、隙だらけなので魔法を放ち放題。

「『ツイン・フレイムボム』!」

「『ツイン・ヒートウェイブ』!」

「『ホーリースピア』」

 この魔法ラッシュで、相手のVTは残り3割。

「このままいくと、もしかしたらクエストが第2フェーズに行く前に倒してしまうんじゃない?」

「そうなったら~、そのままクエスト自体が特殊クリアってことにならないかしら~?」

 うん、可能性としては十分にあるかもしれない。

 でも、まだ油断はできない。

 懸念材料の一つである、私達を見張る視線の数。これが、戦闘が進むに増えて、徐々に増えてきているからだ。

 ノアールさんや護衛二人も気付いているのか、トレントを相手にしながらもチラチラと周囲を見渡している。

 ――一体、いつ動くのかしら。

 さすがにこうも焦らされては、緊張感も抜けてくる。

 そして、しばらくしたのちに再びトレントが大きく震え始めて、木の実落としが始まった。

「よし、またあの攻撃だ。ハンナ、魔法の準備」

「オッケー」

 MPを確認して、十分足りることを確認してから、マナさん、マリナさんと息を合わせて、同時に魔法を放つ体勢に入る。

 ――三、二、一……よしっ!

「『ツイン・フレイムボム』!」

「『ホーリースピア』」

「ツイン・ヒート、――っ!?」

 ウェイブ。

 そう言い切る前に、私は背中から軽く小突かれるような衝撃を感じる。

 瞬間、体の自由が利かなくなり、地面に頭から衝突してしまう。

 これは――麻痺状態っ!

 来るとはわかっていたけど、今のは【気配察知】スキルによる前触れが何もなかった。

 おかげで回避することすらできなかった。

 直後、パァン、パァンと木の実が弾ける音がしばらく続く。

 そして、それに紛れてミリスさんの小さな悲鳴も、聞こえてくる。

 ――ミリスさんも麻痺を受けた。

 これは、本当にピンチなんじゃないだろうか。

 木の実の攻撃も、これまでの破裂するだけのそれとは大きく違った。

 今回の木の実は、落下して地面と衝突した途端、煙のようなモノが周囲に散らばり、私達からみるみるうちに視界を奪い去っていったのだ。

「――来たか! 皆、周囲の敵に警戒! ハンナとミリスさんが背後からやられた! ハンナさん待ってて、今麻痺解消ポーションを使うから!」

 煙幕が巻かれた段階で、マナさんは私に寄り添う感じで肩肘を突いていた。

 そのため、煙幕が立ち込める今の状態でも問題なく、麻痺解除ポーションを使用することができたようだ。

 また、この状態が逆に敵の追撃を妨害する障壁にもなっていた。

 本来なら、私が麻痺状態になっている間に何かしらのイベントへと移行するはずだったのだろうけど――あいにくながら、マナさんの機転のおかげで私は問題なく、立つことができるようになったわけで。

「こんな状況だもの、出し惜しみはなし! MPポーションでフォローお願いね『サークル・ヒートウェイブ』!」

 ――オオオオオオォォォォォォォ……――

 煙幕の向こう側から聞こえてくる、トレントの悲鳴。

 『サークル』は、『ツイン』と同じく【魔法干渉】で使用可能になる効果拡張系の魔法。

 MPの消費量を大幅に増やし、魔法の射出範囲を自身を中心とした全方位に変更する強力な魔法なのだが、その反面、干渉対象の魔法は威力、追加効果ともに若干弱体化するという難点もある。

 今回のヒートウェイブで言えば、威力の減少はもちろんとして、魔法そのものの効果時間が短縮されるため、結果として行動阻害の有効時間も短縮されることになる。

 ただ、射程自体は変わっていないため――

「ぐああああぁぁぁぁぁ……」

「熱い……やめろおおおォォ」

 煙幕が完全に晴れるころには、割と近くまで近づいてきていたらしい闇ギルドの構成員NPCをはじめ、この小広場を取り囲むように配置されていた半数近くの構成員NPCが、ヒートウェイブの効果で地面に転がっていた。

「みんな、目と耳を閉じて! フラッシュいくよ!」

 さらに、私は声を張り上げて『フラッシュバン』の発動を宣言し、少したってから実際に発動した。

 これも、【魔法干渉】スキルのアビリティで効果を強化した状態だ。

 ――キィィィィィィィン……と、とにかく耳に障るとてつもない音が、耳をふさいでいる私達にも襲い掛かる。

「クソオオオオォォォォッ!」

「あと一歩で計画が成功したというのにっ!」

「覚えていろよ、ヴェグガナルデ公爵令嬢!」

 魔法は、姿を現したそいつらに十二分な効果を及ぼしたようで、あとはマナさんが放った範囲攻撃魔法によって殲滅された。


 ――クエスト情報が更新されました。

『闇ギルドからの刺客 2/3

 住民からの協力を取り付け、店舗出店へと動き始めたあなた。しかし、そんなあなたに悪意を向ける者達から、闇ギルドの刺客が差し向けられました。

 闇ギルドの刺客は、店の内装工事に使う資材の採集を妨害することで、あなたを誘い出そうとしていたようです。

 幸いにも、あなたが集めた仲間たちによって、その刺客が企んでいた悪事は未然に防ぐことに成功しました。

 あとは刺客の置き土産である、ラージトレントを倒すのみです。

クリア条件:2.アイーダの森のラージトレントを弱らせる 2/3 Next→

・ラージトレントを討伐する 残りVT:27%/100%

特殊条件:ユニットが全滅した場合、フェーズ1の最初からやり直しとなり、分岐もリセットされます』


 ――はぁ。危なかった。

 かなり際どかったけど、多分今倒したNPC達の迎撃に失敗していたら、きっとこの後とんでもない事態になっていたんだろうね。

「危ないところだったね。あれで、もし闇ギルドのNPCの接近を完全に許してしまったらどうなっていたか……まぁ、少し興味がないこともないけど」

「不謹慎なことは言わないようにお願いします。それで苦労するのはお嬢様なのですよ?」

「はいはい」

 さすがに、今のマナさんの発言はここ最近絆されつつあったミリスさん的にもNGだったらしい。

 言われれば私も興味がわかないわけではないんだけどね……。

「さて。うまい具合に最高のシナリオ分岐を引き寄せることができたんだ。これはもう、こいつにも完全勝利するしかないよね」

「だね。あと3割弱――まだ他にも普通のトレントと違う攻撃をしてくるかもしれないし、一層引き締めていこう!」

「もちろんだよ」

「【激励】――〈みんな、もう少しだよ! 一緒に頑張ろう!〉」

 おおー! と、女子らしからぬ雄たけびを全員で上げながら、私達はすでにボロボロになっている巨大トレントに対し、総攻撃を仕掛けるのであった。



なお、今回のクエストボスの顛末については、当初はバッドルートを予定していましたが、内容があんまりにもな内容になって、文字数も膨大な量になってしまったので急遽グッドルートに軌道変更しました。

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