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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
母からの出店支援、その代価は
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21.舞い込んできた爆弾


 鈴の課題は、私に出された課題と同じく、一朝一夜で終わるようなものではない。

 私に出された課題も、現段階ではまだ品質上限が課題の合格ラインまで解放されておらず、例え材料がそろっていて調合が可能だったとしても、合格ラインに達することはまずない状態だった。

 私は私で、【調合】スキルか【博識】スキルのどちらかを育てて品質上限を上げないといけないわけで、そうなってくると鈴に付き添って図書室に通うことは、結果として私の課題達成の一助にもなるものだった。

 そんなわけで課題のポーションのレシピを発見した翌日。 

 私と鈴は、今日も一緒にゲーム内にログインして、図書室に直行していた。

 ちなみに今日は佳歩ちゃん、もといトモカちゃんも一緒に来ている。

 たまには一緒にゲームをしよう、という佳歩ちゃんからの誘いに、今は鈴と一緒に行動をしていて、鈴の【読書】スキル上げに付き合っていると伝えたら、私もぜひ! とやや押し気味にそう言ってきたのだ。

 一応、なんでそんなに乗り気なのかと聞いてみたら、意外にもこんな答えが返ってきた。

「あれ? 知らないの? 今、生産職の界隈では【読書】スキルが密かに熱いスキルとして取り上げられてるんだけど」

 なんだその話は、と詳しい説明を求めてみると、今度は呆れた表情で佳歩ちゃんはもちろん、鈴からもジト目で見られてしまった。

 結論から言えば、【読書】スキルがそれほどまでに注目を浴びているのは、私が原因だった。

 私がユニーククラス『ヴェグガナルデ公爵令嬢』を引き当てたことで、体験版時代では趣味全振りのネタスキルとして扱われていた【読書】の最終到達点に、【博識】という強力なスキルがあることが判明。

 読書自体は、生産活動の合間にいくらでもできることなので、今は生産活動の息抜きがてら、各街の図書館を利用するという生産プレイヤーで図書館が溢れかえっており。

 お陰様で佳歩ちゃんも、せっかくゲーム内の本を楽しみにしていたのに、【読書】スキルのレベル上げに使えそうな児童書が、なかなか借りれない状態になってしまっているのだとか。

 なんだか、思いもよらない場所で火付け役になったみたいで、ちょっとこそばゆさを感じちゃったよ。

 ――まぁ、そんなわけで。

 半ば責任を取って……みたいな感じで、私が佳歩ちゃんを公爵家本邸の図書室に案内することが決まった、というわけである。

 さて、話を戻そう。

 ゲーム内の私の家にある図書室は、おおよそ小さな図書館といっても差し支えないくらいの広さと蔵書数を有しており、鈴はもちろん、佳歩ちゃんの要求にもしっかりと答えることができた様子で。

 特に佳歩ちゃんは、嬉々とした様子で児童書が置いてある棚へと直行していった。

 鈴に関しては、鈴が読みたいと言っていた本を一時的に預かっているので、それを部屋から持ってくれば準備は万端。

 前にも触れたが、私がこの部屋の本をストレージにしまえるのは、ここがゲーム内における実家だからこそなのだ。

 言い換えれば、鈴や佳歩ちゃんにとっては、ここにある本も街中にある図書館のそれと同じように貸与物にあたるため、持ち出しできても、それをストレージにしまうことはできないのである。

 もちろん、貴族の所有物なのでむき出しの状態で屋敷の敷地外に持ち出して紛失、あるいは損傷させてしまえば悪行を働いたとみなされ、事実が発覚次第、カルマ値の大幅な減少と、さらに罰金刑というペナルティまで科せられることになる。

 鈴が私にキープした本を預けたのも、そのあたりが理由だ。

 んで、今日は鈴が読書を始めて二日目になるわけだけれど……スキルのレベルはどんな感じなのかね。

 それとなく、鈴に聞いてみようかな。

「鈴、【読書】のスキルはどう?」

「うん、思ったより順調、かな。【読書】スキル、最初は結構レベルあがるの速いんだね。すぐに次の段階にいけた」

「そうなの?」

「うん。もう、【言語】スキルが習得可能になった」

 ということは、【読書】スキルが早くもレベル10に到達したということ。

 結果としてスキルポイントも獲得できたはずで、鈴は早速そのスキルポイントで上位スキルの【言語】を習得したようだ。

「早くないかな?」

「うん。私も同じこと、思ったなぁ。でも、それが【読書】スキルの仕様みたいなの」

 いわく、【読書】はスキルレベルが10になるまでは異様に早く上昇するようになり、それ以降はやや遅めの成長速度になる、という感じになるらしい。

「まぁ、早く次の段階に進める分にはいいけど……」

「でも、まだ児童書はもう少し読んでおいた方がいいかも?」

「そうなの?」

「うん。ほら、こっちの本。児童書より少し難度が高い本だけど、今の私にはこれはちんぷんかんぷん。なんて書いてあるのかわからない、文様の集まりのようにしか見えない」

「そうなんだ……」

 鈴が差し出してきた本は、私にはごく普通の児童書にしか見えないのだけれど、やはり鈴にはまだ読むことができないらしい。

 【言語】スキルのレベルが上がっていけば、次第に読めていけるようになるんだろうけど――これは本当に、先が長そうだ。

「ちなみに、生産職の中で【博識】にたどり着いた人は?」

「まだいないみたい。よくて、【言語】がレベル10を超えた人がちらほらいるくらいだってさ」

 【博識】スキルに大きな注目が集まっているとはいえ、やはりメインは生産活動。

 読書にはそう時間を割くことはできない、というのが生産職プレイヤー達の現状らしい。

 そうなると、やっぱり現在の環境で品質指数が200を超え始めている私のポーションは、破格の性能っていうことになるのかな。

「うん。十分破格だね。ハンナちゃんを除けば、トップといわれている調合師で品質150のポーションがいいところ。その人でも、【調合】スキルには品質上限の開放っていう効果は付いていないみたいだから」

 そもそも、一番最初に習得する【調合】スキルに、品質上限を解放するような効果があるのかどうか、それすら疑問視されているのが現在の【調合】スキルに対する評価であり、それもまた【博識】スキルに注目が集まっている一つの理由なのだとトモカちゃんは語った。

「まぁ、だからといって【博識】はそう簡単に取れるようなものでもない、ってみんなわかってるから、こうして暇になった時の手慰み程度になってるんだけどね」

「……そんなので、本当に【博識】にたどり着けるのかな」

「さぁ? 継続してればいつかはたどり着けるかもしれない、程度の軽い気持ちの人が結構多そうだけどね」

 へぇ……注目されている割には、それほど本気になっている人はいないんだ。

 やっぱり、なんだかんだで読書が暇つぶしの範疇から脱する機会は、しばらくは来ないようであった。

 これで、いろんな本が読める段階になると、新しい発見がいろいろありそうで面白いんだけどね。

 ――ちなみにトモカちゃんは読書エンジョイ勢なので、割とそういったことに関しては興味がないそうで。

 習得できればめっけもん、みたいなスタンスらしい。

 案外、こういうスタンスの人が一番早くゴールにたどり着きやすいんだよね。不思議なことだけど。


 その数日後。エレノーラさんから急な呼び出しを受けた私は、ミリスさん案内のもと、屋敷の廊下を歩いてエレノーラさんのいる場所へと向かっていた。

 もう店舗と人員が確保できたのかな、時間がかかると言いながらこの速さはさすがだなぁ、と思いながらミリスさん案内のもと、先日も訪れたエレノーラさんの部屋――この前とは違い、今日は執務室のような場所だった――へとやってきた。

「いらっしゃい、ハンナ……あら、今日は鈴さんは一緒ではないのかしら」

「鈴は、向こうの世界での仕事がありますので今日は来れないんです」

 今日は金曜日。時刻は夕方。

 鈴は泊りがけの仕事があるらしく、今日の昼休みに学校を早退し、日曜日の夜までは家にも不在の状態が続く。

 なので、その間にゲーム内で起こったことで、鈴にも影響が及ぶようなことは、メッセージアプリを介して逐次鈴に報せる予定だ。

「私も、向こうの世界でそろそろ学校の期末試験があるので、あと少ししたらしばらく来られなくなります」

「あら。そうなの? ハンナは、元の世界では学生か何かなの?」

「はい、そうなんです」

「そうなの。じゃあ、今回だけといわずに、試験が近いときはあまりこちらの事情に付き合わせるのも悪いかしらね。呼び立てるのも、控えたほうがいいかしら……」

「いえ。まだ少し間がありますので……あの、何か……?」

 私達側の事情を話した途端、エレノーラさんは顔をしかめる。

 なにか、私と鈴に急な要件でもあったのだろうか。

「えぇ……少々トラブルが発生してしまってね。でも、あなたが大丈夫そうなら、やはり今話しても大丈夫そうかしらね」

「なんでしょうか」

「……正直に、話すわね。あなた達に約束していた、支援の話なのだけれど。予定が狂って、かなりの時間を要することになりそうなの」

「なにかあったんですか?」

 話が始まるや否や、エレノーラさんの頭上に浮かんだ羊皮紙と羽ペンのマーク。これはクエストのマークだ。

 つまり、お店関連で何かの条件を満たしたことでイベントが進み、クエストが発生したんだ!

「お店の内装工事に必要な木材の調達が、すぐにはできなくなったみたいなの。アイーダの森があるでしょう? あそこに、巨大なトレントが出没したらしくて……」

「巨大なトレント……!」

「そうなのよ……。その巨大なトレントが出没したせいで当家専属の木こり達も森に入れなくなってしまって、工事に使えそうな建材が手に入らなくなってしまったの。この辺りで建材に使えそうな木材が取れるのは、アイーダの森のほかにもまだ数か所あるけど――そちらは公爵家の管轄ではなく、商人ギルドの管轄だから調達に時間を要するのよ……。利権関係の問題もあるから借りを作ることになってしまって、公爵家そのものにも影響が出かねないし……本当に困ったものだわ。まさか、旦那様があの子の矯正を図りに王都へ出向いている時にこんなことになるなんて」

 うっわ、これ妨害系のクエストだったのか。

 妨害クエストというのは、掲示板でここ最近話題に上がり始めた、プレイヤーのクエスト中にゲリラ的な感じで連鎖して発生し、そのクエストの進行を大きく妨げるクエストのことだ。

 そういう明確な分類が公式で使われているわけではないが、その厄介さと、受けなかった時の損害。そして受けてもあまり旨味がないことから、この手のクエストはプレイヤーから『妨害クエスト』として呼ばれ、忌み嫌われているのである。

 今回の場合、解決しないと多分竣工までの時間がかなり長くなるんだろうな……。

 トレント自体は、街の北にある、アイーダの森とは別の『ヴェグガノース樹海』という樹海に生息しているという書き込みを掲示板などで見たことがある。

 ただ――巨大トレントって言うと、多分ボスクラスの敵……。

 ボスは通常種と比べて行動が違ったり、特異な行動をとることがあるから通常種の攻略法が通用しないケースが多いんだよね。

 なるほどね。話を纏めると――

「そのトレントを倒せば……」

「そうね、確かにそのトレントを倒せば、林業も再開できるのだけれど……まさか。もしかして、あなた……本気なの?」

「はい。そのトレント――私達にお任せできないでしょうか」

「許可は……できないわね」

「どうしてですか?」

「危険だからよ。……いえ、正確には許可したくない、の方が正しいのかしら。ここで許可を出さないのは、異邦人への邪魔を禁じる、という国王陛下の意思に背くことになるから、それはできない……でも、やっぱり母としては、許可はしたくないわ。あなたを呼んだのも、あなた達の店のことに関して支障が出たから、という連絡をするためだったのだし……」

 そういうこと、か……。

 でも、それなら心配はいらない。なぜなら――

「私を失いたくないから、という理由なら大丈夫ですよ。だって、私はプレイヤーですからね。倒されても、ここに戻ってくるだけです」

「それは、普段ならそうかもしれないのだけれど――今のあの森は、普段より危険性が増しているから、極力あなたを向かわせたくないのよ……」

「というと?」

 エレノーラさんは、なぜ今私をアイーダの森に行かせたくないのか、その理由を話してくれた。

 曰く、私と鈴が出店をするという話をどこからか聞きつけたのか、この街にある犯罪組織のいくつかが動きを見せつつあるらしい。

 今回のトレント騒ぎも突拍子がなく、もしかしたらその犯罪組織のいずれかが仕組んだ罠なのでは――と嘯く声もあるとかないとか。

 そして、もしそうだった場合、私が敗北した場合に私がこの屋敷に帰って来れるかどうか、判断がつかないとエレノーラさんは語った。

「もしかしたら、あなたがトレントに――いや、トレントでなくても、そこに至るまでの道程で闇ギルドの者たちに敗北してしまったら、囚われの身になってしまうかもしれないの」

「それは…………」

 それは、ただの討伐系クエストにしてはおかしすぎる言葉だった。

 そもそも、クエスト自体受注したのはこの前の課題のクエストが初めてだったから、このゲームの討伐系クエストでこういった言い回しが使われるかどうかなんてわかりもしないんだけど……それでも、わざわざこんな前振りが置かれるなんて、どう考えても怪しすぎる。

 エレノーラさんから語られる、クエストの概要が終わったのか、目の前にクエストウインドウが表示される。

 ――クエスト:闇ギルドからの刺客 を受注可能です。受注しますか?

『闇ギルドからの刺客 1/?

 住民からの協力を取り付け、店舗出店へと動き始めたあなた。しかし、そんなあなたに悪意を向ける者達から、闇ギルドの刺客が差し向けられました。

 闇ギルドの刺客は、店の内装工事に使う資材の採集を妨害することで、あなたを誘い出そうとしているようです。

 放置しておいても、事態は収束へと向かうでしょう。しかし、放置しておけば他のプレイヤーたちにも危害が加わるかもしれません。

 関われば、あなたの身柄は敵の手に落ちてしまうこともあり得ます。

 どうするのかはあなた次第――さぁ、あなたはどうしますか?

クリア条件:1.アイーダの森のラージトレントを弱らせる 1/? Next→

・ラージトレントのVTを削る 0%/??%

特殊条件:――』

 内容を読んでみて、やっぱり、と思う。

 これ……ちょっと、いやかなり内容がおかしい。

 エレノーラさんの言葉からして、倒せなかった場合に何かある――という話だったけど、クエストの最初のフェーズの時点で、すでに何かが起こること前提の条件が組まれている。

 きっと――いや、ほぼ確実にだけど、これ負けること前提のクエストだ。

 このクエストの文面――多分だけど、規定の割合までVTを削ったところでその負けイベントが発生して、おそらくはエレノーラさんが言うとおりに捕まってしまう可能性が高そう。

 これ、本当に受けて大丈夫なのかな。

 フェーズ2以降は、『????????(フェーズ○クリア時の状況により変化)』としか表示されてなくて、先のことが一切わからないように伏せられているし。

 なんにせよ、これだけ危険性が高そうなクエスト、何の備えもなしには受けられない。

 幸いにも、クエストの受注期限までは二週間くらいあるし、この場は一旦保留とすることにした。

「……わかりました。とりあえず、鈴と話し合って、決めたいと思います」

「えぇ。わかったわ。――くれぐれも、先走った考えはしないようにね。命あっての物種、なんだから」

 重ねて、エレノーラさんがそう言い含めてくるってことは、きっとそれほどに厄介なクエストっていうことなんだろうね。

 入ってきた時とは違う意味で緊張したまま、私はエレノーラさんの執務室から退室した。



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