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17.今更なヴェグガナーク観光


 そういえば、私ってゲーム始めてから一回も街中を探索してなかった気がする。

 調合スキルやレベリングもいいけど、思えばゲーム始めてから今日までずっとそれしかやってきていないような気がした。

 こう思い返したのも何かの縁だろうし、今日くらいはヴェグガナークの観光をしてみるのもいいかもしれない。

 昨晩鈴に任せたポーションの販売委託も、仕事との兼ね合いとかもあるだろうからすぐにとはいかないだろうし、かといって探索以外は屋敷に籠りきり、というのもせっかくのMMORPGなのに他のプレイヤーとの絡みがないのもどうかと思うし。

 というわけで、今夜はヴェグガナークの街を見て回ることにしてみた。

「街中の散策ですか。でしたら、街の外を探索するよりは危険が少なそうですね。護衛は必要そうですが」

「買い物とかはしないけど、一応ミリスさんも付いてくる?」

「そうですね。一応、お供させていただきます」

「わかった」

「あぁ、それと。街中では、念のため私がお嬢様の御金を預からせていただきますね」

「どうして?」

 別に、それくらいは大丈夫だと思うんだけど。

「なにも敵は表立って行動する輩ばかりとは限らないのですよ。例えばスリなどは、衝突を装って所持金や小物などを巧みに盗んでいきますし」

「そ、そんなのまでいるんだ……」

「むしろ、いないと思われていたのが意外だったのですが……」

 いや……うん、言われてみれば確かに、そういうNPCだっていてもおかしくはないんだけど。

 でも、自分がその標的にされる可能性があると面と向かって言われると、さすがに現実味が湧かなかった。

「まぁ、そういった輩がいるということだけでも理解いただければと思いまして……。私はクラススキルで【窃盗無効】を持っていますので、お金以外にも貴重なものがあれば私に預けていただければと思います」

「【窃盗無効】……うん、それなら、お願いしようかな……」

 もはや何も言うまい。

 ミリスさん、本当に優秀過ぎるでしょ。

 まぁ、その代わり戦闘面では打たれ弱くて、すぐにやられちゃうような脆弱キャラなんだけど。

 念のためにとコンバットドレスを着用し、護衛二人も呼んで準備を整えたところで、私はファストトラベルで噴水広場へと転移した。

「う~ん、これが通常空間の噴水広場か……」

「人で溢れかえっていますね……」

「これだとむしろ、敵性NPCが入る余地がなさそうというか……」

 実際、プレイヤーで溢れかえっているせいなのか、それとも単純に人口密度が多いからなのかは定かではないけど、チュートリアルの時は75しかなかったセキュアが、今は147と、二倍近い数値にまで跳ね上がっていた。

 これなら、今に限っては噴水広場でもギリギリ安全にログアウトできると、システムのお墨付きまで出ているほどなので、セキュアの高さはエリア以外にも、周囲にいる人の人数にもよるところがあるのだろう。

 さて――それじゃあ、最初はどこに行こうかね……。

「とりあえず、ぶらぶらと適当に歩いてみましょうかね……」

 まずはそうだなぁ、あっちの、南東に向かっていく大通りのほうに歩いていこうかな。

 このこちらの方角は民家が多いのかな?

 たまにお店も見かけるんだけど、酒場やご飯屋など、どれも住民向けとも取れそうなお店ばかりだったし。

 空き家も所々にあったりするけど、これはプレイヤーホームとかギルドホームとかとして購入できる物件になっているようで、今の私ではとても手が出せない金額が虚空に表示されていた。

 しばらく歩いていると、やがて大きな運河と合流する。

 なんか船が行ったり来たりしているし、どうやらこの先には水運関連の拠点があるみたいだ。

 まぁ、公式サイトでも、ヴェグガナークは交易都市っていう触れ込みだったし、何ならそこに載っていた王国全体図でも大きな貿易港がある海辺の地方都市っていう感じだったし。

 そういうのがあっても、別におかしいことではない、か。

「この辺りは、ヴェグガナークの象徴的な場所でもある交易区になります。この大通りや、ここから直通する港であれば比較的安全といえるでしょう」

「そうなんだ。……安全じゃない場所も?」

「残念ながら。これほどに大きくなってしまうと、少なからず闇ギルドなどの犯罪組織も根付いてしまうのです。嘆かわしいことですけれどね」

 言いながら空を仰ぐミリスさんに変わり、ヴィータさんがさらに補足を入れるようにこう言ってきた。

「港に近づくのは構いませんが、大通りから外れた先にある港には近づかない方がよろしいかと」

「うん? 港って、この通りの先にあるだけじゃないんだ」

 ミリスさんの言から、大通りの先に港があるっていうのははっきりと分かったけどさ。

「えぇ。あのあたりは、我々でも近づくのがはばかられます。……その、この国では禁止されている、奴隷達を密売する組織の根城がいくつかありまして」

「そ、そんなのまであるの!?」

 そ、そりゃまぁ、このゲーム全年齢対応と言いつつ、R-15ロックとか、R-18ロックとかの年齢制限がかかった追加課金要素はあったけどさ(ちなみに私はR-15解禁キーがセットになったものを買ったので、R-15要素までは解禁されている)。

「はい。残念ながら存在しているのです。ですから、あのあたりには近づかないでくださいね?」

「うん、絶対に近づかない」

 奴隷という響きからして、そもそもR-18は確定していそうな雰囲気の要素だけど、ワンチャンR-15の可能性だって否定しきれないわけだし。

 もし、そういった連中に襲われて敗北したらどうなるんだろうか、とはあまり考えたくはなかった。

「さて。どうしますか? 一応、港まで行ってみますか?」

「うん、一応ね」

「では、行ってみましょうか」

 フィーナさん先導のもと、港まで行ってみた。

 残念ながら夜ということで、すでに本日の船の入出港は終わってしまったみたいだけど、昼間はそれはもうたくさんの船が出入りするのだとか。

 ちょっと興味惹かれたし、今度の土日はここにも来てみようかな。時間が取れたらだけど。

 来た道を引き返して、再び噴水広場に。街の南東に港があって、そこから北西へ向かって続く大通りは大きくカーブしておおよそまっすぐ西へと向かう形になる。

 噴水広場は、その大きなカーブの少し先辺りにあたる。

 広場に戻ってきた私達は、今度は街の北に足を運んだ。

 北の街区にはNPCのショップが立ち並び、その多くは貴族向けという触れ込みの値段が高い高級店。

 この辺りも空き家が多いが、ミリスさん曰く店舗向けの家屋が多いらしく、実質この辺りが商業区ということになるのだろう。

 さらにその先には、ゲーム内における私の実家である、公爵家本邸がそびえ立っていた。

 本邸前まで到達したところで来た道を引き返し、再び広場に戻る。

 残る街区は西と南だ。

 西には、海から少し距離が離れているからか、住宅街を抜けた先に田園風景が広がっている。

 住宅街はそのすべての土地が広くとられているため、どちらかというとギルドホーム向けなのかもしれない。

 あと、畑は皆売地だった。

 私もここに畑を持つことができるのか、とミリスさんに聞いてみたんだけど――あまり顔色はよろしくなかったな。

 いわく――

「買うこと自体は可能かと思いますが――貴族が保有する畑、と言うだけで畑荒らしが出没するようになりかねません。そうなれば治安の悪化にもつながるでしょうし――防ぐために傭兵などを雇う手もありますが、お金がかかります。あまり現実的とはいえないのではないでしょうか」

 とのことだった。

 くぅ、やはり私には限られたスペースでちまちまと欲しい素材を育てるしか方法はないのか。

 温室は、一応初期で三つあるらしいけど、足りなくなったら増設させてもらえないかなぁ。

 そして、南区。

 こちらにも街並みは広がり、広場から出てすぐに西方向へと大きくカーブしている。

 この街区は主にNPC所有の畑や生鮮市場が広がっており、職人ギルドもあることから生産職初心者の人達が活動拠点にしている人が多いみたいだ。

 その証拠に、ちらほらと生産職っぽい人が道の脇で生産活動しているのを見かけるし。

「露店セットをあのように使うというのは……意外な用途といえばそうなのかもしれませんが、雨が降った時はどうするんでしょう」

「あぁ、そういえばあれ、テント型とシートのみの二つがあるんだっけ?」

「えぇ。橙色のものが貸し出し用。それ以外が個人所有のものと、色分けはされていますが……」

 ゲーム内でのショップの開き方については軽く調べたけど、詳しく調べたのは店舗で販売する場合について。

 露店を開く場合に関しては、詳しく調べてなかったから知らなかったのだ。

 ミリスさんに言われて、改めて周囲を見てみる。

 ――うん、様々な色の露店シートが見当たるけど、ちらほらと橙色のものも見えるね。

 なんかこうしてみてると、あからさまに生産職を選んだ人の勝者と敗者の差が視覚的に出てきている気がする。

 街区の突き当り、南西門へ到達したところで広場方面に折り返す。

 そして、広場に戻ろうと大通りを引き返していると、南西区の中でもひときわ大きな建物――職人ギルドの中から、一人のプレイヤーが出てくるのが見えた。

「……あ、鈴」

「…………? あ、ハンナ。こんなところで会うなんて奇遇。どしたの?」

「私? 私はヴェグガナーク観光かな。なんだかんだで、街中をまだ詳しく見てなかったからね」

「なるほどね」

 鈴は、どうやら今日はゲーム配信をやっていたらしく、鈴を追尾するボール型のカメラと、コメント欄が表示するウインドウが展開されていた。

 コメント欄を覗いてみると、どうやら鈴の配信を見ているリスナーたちは、私のことが気になるようだ。

「……ちょうどいいので、紹介を。こちらのプレイヤーが、ユニーククラスを引き当てた超幸運プレイヤーの、Mtn.ハンナ。クラス名は『ヴェグガナルデ公爵令嬢』で、リアルで私の双子の姉」

「ども~、鈴のリアル双子の姉の、Mtn.ハンナで~す。初めまして」

:はじめまして

:Mtn.ハンナちゃん初めまして

:よろ

:ユニーククラスの公式説明見た。いろんな意味でヤバくね?

:俺も。最初からいくつかの上位スキル揃ってるとか、マジチート

:他のテイマーとの違いが気になる

:必要経験値増加とか、超悲惨

:クラスランクIでこれが出たってことは、今後さらに必要経験値増えそう。大丈夫?

 あ~、皆気にしてるのはそのあたりか~。

 いくつかの上位スキルがクラススキルに入ってるのはうん、私も同意見だけど、チートって言ってる人にはマイナス面の特性も見てもらってから判断してもらいたいところだ。

「あ~、チートかどうかについてはどうなんだろ。確かに上位スキルはあるにはあるけど、その分マイナス特性が結構強いしね……」

 私がこういえば、リスナーの人達は一定の理解は持ってくれたようであった。

 それでも、一部の人はやはり不平不満を捨てきれずにいるみたいだけど。

 でも、そういった人達はもう放っておくしかないだろう。

 こっちだって、マイナス特性が発生することを許容して、その上でこのユニーククラスでのプレイを選んでいるのだから。

「んで、鈴は今日はここで何してたの?」

「露店セットを返してきた。なかなかの反響。特にハンナ製のものは人気が高かった」

「それはよかったよ。鈴のは?」

「上々。ハンナの作った奴は主にトッププレイヤー向けといった感じ。私が作ったのは、エンジョイ勢向け?」

「へぇ。うまい具合に住み分けされてるんだね」

「うん。ハンナのは結構高めに設定してたけど、それでも好感触だった。使い勝手次第では、次以降も期待できるかも?」

「よかったぁ。それ聞けて安心したよ」

「まだ安心はできない。すべては使ってもらって、どれくらいリピーターができるかだから」

 へぇ……生産職慣れてる人の言葉は重みがあるね。

 とりあえず、鈴が私の取り分を渡したがっていたので、それを受け取り、ミリスさんに預けた。

「じゃあ、私はこれから少し、草原に出てくるから」

「そっか。じゃ、残りの時間も配信、頑張ってね」

「うん」

 南西門へ向けて歩いていく鈴を見送って、私は再び広場へと戻っていった。



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