16.鈴と一緒に調合三昧
水曜日。今日は予定していた通り、寝る時間まで調合三昧で過ごすつもりだ。
ちなみに今日は鈴も時間が空いたとのことで、一緒にアトリエ棟で調合することになった。
すでにゲーム内での合流も済ませており、私の横で紅茶とビスケットを楽しんでいる。
反対側では鈴のことが気になっていたというエレノーラさんが座っており、にこにこと笑いながら二人並んで飲み食いする私達を眺めている。
いや、私も最初はこんなつもりじゃなかったんだけど、鈴を迎えに行っている最中に廊下でエレノーラさんと鉢合わせて、話の流れで今日の予定と鈴と合流することを話したら、いつの間にか調合三昧の前に三人でお茶をする流れになってしまっていたんだよねぇ。
恐るべきはエレノーラさんの話術と行動力といったところだろうか。
「……むぅ。やっぱり、私より少しだけ強くなってる」
「鈴は、仕事とかレッスンとかあるからね。仕方がないよ」
若干羨ましそうにこちらを見てくる鈴に、私は肩をすくめてそう返すしかなかった。
ちなみに今の私のステータスはこんな感じである。
『NAME:Mtn.ハンナ・ヴェグガナルデ Lv.8(9) ハーフ(人間+エンゼル)■ T_RANK 6
CLASS1:ヴェグガナルデ公爵令嬢I■ Lv.10
HEALTH:VT■:1200/1200 MP■:280 CP:145/145 SECURE 300/↑140【GOOD】
CONDITION -
通常
BASE PHYSICAL -
PPt.0
ATK■:23 DEF■:28
MAG■:39 MDF■:44
DEX■:145 SPD■:28
LUK■:67 TLK:80
MND:90
CLASS SKILLS
【側仕え召喚■☆:15】【護衛召喚■☆:12】【激励■:2】【扇■:5】【鞭■:1】【ドレス■☆:3】【指揮■:3】【淑女(公爵)■☆:6】【貴族■:6】【社交☆:1】【重圧■:7】【ダンス■:3】【博識■:4】【裁縫■:1】【調合■:9】
SKILLS 10/10 SPt.0 -
戦闘:
【蹴り■:1】【支援特化■:7】
魔法
【光魔法■:4】【回復魔法■:3】【補助魔法■:4】【魔法干渉■:1】
補助
【麻痺耐性:4】【気配察知:5】
生産
【木工■:1】【料理■:1】』
(控え 2)
【採掘■:1】【金工■:1】
やはり、一番伸びているのは二つの召喚系スキル。
次いで、今一番力を注いでいる【調合】スキルだ。
他方、多用しているにもかかわらず伸び悩んでいるのは【激励】と【指揮】、そして【ダンス】あたりだろうか。
まぁ、この辺りは仕方がない。
なにせ、クラススキルで強制取得したスキルではあるけど、実際にスキルポイントで入手しようとしたら、まず【ステップ】を習得して、それをある程度のレベルまで上昇させてから『スキル派生』する必要があるのだから。
上位スキルである以上、スタート地点に近いエリアの敵を相手にしていたのでは伸びが悪くて当然だ。
この辺りは、今は地道に鍛えていくしかなさそうだ。
「あらハンナ。何か考え事かしら?」
「あ、はい。【激励】と【指揮】が伸び悩んでいるな、と」
「あ~、その二つねぇ。……私なんかは、取り巻きや、派閥に所属してる人達が暴走しないように統率したり励ましたりしてたら、いつの間にか伸びていたけど……さすがにそれじゃあ、参考にならないわよね」
「はい……」
エレノーラさんの言ってるそれは、多分社交界関連の話を多分に含む。
私はこれらを戦闘関連で活かしているので、おそらくだけどそのアドバイスはほとんどあてにならないだろう。
よって、最終的にはエレノーラさんからの『役に立てなくてごめんなさいね』という謝罪の言葉で終わってしまった。
エレノーラさんとのお茶会はそれからほどなくして終了し、私達はエレノーラさんを見送ってから当初の予定通り、アトリエへと向かうのであった。
私は、昨日探し当てたレシピを鈴にも共有する。
鈴は、こんなレシピは見たことがなかった、と目を輝かせながらお礼を言ってきた。
どこでこんなものを、と聞いてきたので『屋敷の図書室で見つけた本に載ってた』と、実物付きでそれを見せてあげたら、なぜか羨ましそうな目で見られた。
「…………『読書』なんて持ってない。こんなに重要な要素があったなんて、思いもしなかった」
「あ~、ほとんどの人は本なんて、ゲーム内で読む人いないだろうからねぇ」
私も、【ヴェグガナルデ公爵令嬢】なんてユニーククラス引かなければ、あるいは通常スキルのランダム指定でそれ関係のスキルが選ばれなければ、図書館とかそういった施設には見向きもしなかっただろうし。
こればかりは、偶然が起こした奇跡、としかいいようがない。
とりあえず、鈴にはレシピが読めないようなので、まずは本を見ながら私が手本として作ってみる。
えっと、まずは材料の選別から。
必要な材料は妹切草、メウシ豆に治療薬素材――これはクスアポルというリンゴのような木の実でいいかな――。それから水と、最後にスライムゼリー。
工程は、まず妹切草とメウシ豆、治療薬素材を粉々にして……薬研かな、これは。
う~ん、ないか……。なら乳鉢と乳棒でどうにかするか。
「う~ん、スキルもそうだけど、やっぱり装備品の更新もよね~」
「うん……。私も、初日に作れたポーションをNPCとか知り合いの戦闘職プレイヤーに売って、装備品更新したし……ハンナも、同じようにすべき」
「だよねぇ~。とはいっても……」
鈴の場合は、アイドル仲間の数人がこのゲームで配信もやるらしく、その人達伝手に色々とやりくり出来ているみたいだけれど、私には伝手がない。
VTポーションの在庫が増えるばかりで、実入りが全くない状態だった。
「……それなら。私が代行して、売ってこようか?」
「本当!?」
「うん。ハンナのポーションは、DEX値の高さもあって、かなり効果が高いから、人気も出ると思う。もしかしたら、名前も売れるかも」
「そこまで?」
「いくかもしれない。自作のアイテムには、生産者が表示されるでしょ?」
そう言えば……そうだったね。
まぁ、別に名が売れて人気者になるのが嫌と言うわけでもないし。
人気者になったら、その時はそのときだろうから、別に断る理由はない。
「鈴、お願いできる?」
「ん、承知。二、三日時間をもらえれば、結果は出ると思う。それまで待機」
「わかった。私も、それまではエレノーラさんに稽古つけてもらったり、平原で素材採取したりしてるわ」
「らじゃ。それじゃ、今日もポーション作りまくる」
調合器具は、アトリエに備え付けのものは予備と併せて2セットある。
だから、作業は私と鈴で並行して行うことができた。
完成品は、今日は部屋の外周にある棚ではなく、直接鈴に渡していく。
「やっぱり、品質がいい。この感じだと、今の市場の二倍は下らない」
「そんなに?」
「そんなに。素材がミリスさんのものと比べたら天と地ほどの差とはいえ、それでも100超えはそうそうない」
そこまでかぁ。
「ハンナ、一気に大金持ちになりそう」
「そのあたりは、鈴次第かなぁ」
鈴がどのような価格設定で売ってくれるか、それにすべてかかっているのだから、まだ何とも言えない。
「でも、もし本当に大金が手に入ったら、ドレス――新しいコンバットドレスを作ってくれそうな人、探さないとだなぁ」
「実はアイドル仲間じゃない、普通の友達がこのゲームやってて、裁縫士やってる。よかったら、紹介する?」
「本当!? ぜひ!」
やった、一気にことが進んだ気がする。
鈴に最大限の感謝をしつつ、私は販売用のポーションをどんどん作っていくのだった。