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14.アイーダの森


 翌日、火曜日の夜。

 昨日の探索で【麻痺耐性】と【気配察知】を習得した私は、早速アイーダの森へと足を運んでいた。

 その手前の平原では、夜ということもあって暗殺者系の敵がたくさん出てきて結構際どかったけど、習得したばかりの【気配察知】が早速効果をいかんなく発揮し、バックアタックを見事に防ぎきることに成功した。

 この分なら、アイーダの森でも問題なく対応できるだろう、と護衛の二人からもお墨付きをもらったくらいである。

 プレイヤーレベルも、アイーダの森に行く少し手前で8に上がった。

 この分なら、今日の探索でプレイヤーレベルは10に到達するかもしれないね。

 さて――そんなこんなで、私達は無事にアイーダの森の手前までやってくることができたわけだけれども。

 これから、この森の中に入っていくことに違いはないのだけど、今日はその前に一つだけやっておきたいことがあった。

 それは、この辺りのランドマークを探すこと。

 私は、ランドマーク周辺での休憩やログアウトはできないけれど、登録さえしておけば次回以降はそのランドマークから探索を開始できるからね。

 やはり、登録しておくに越したことはないのだ。

「ミリスさん、フィーナさん、ヴィータさん。この辺りに、ランドマークってあるかな?」

「それならば、少し離れたところに木こりの小屋があったかと思います。その辺りに、ランドマークの古代の石塔もあったかと」

「ふぅん。なら、まずはそこに行ってみようかな」

 ヴィータさんの案内により、それほど歩かずにランドマークまで到達する。

 うん、登録できた。ランドマークの名前は、『アイーダの森・木こりの小屋の石塔』。

 石塔は古代の石塔っぽかったけど、名前的には木こりの小屋の側にある石塔、という表現になっているあたり、石塔自体には特に意味はないみたいだ。

 せいぜいが、ランドマークとしての目印みたいなものなんだろうね。

「さて、と。それじゃ、森の中に入っていこっか」

「かしこまりました。――夜ですので、あまり視界が利きません。闇ギルドの者は、暗闇に乗じた襲撃を得意としています。くれぐれも、我々から離れないようになさってください」

「わかった」

 たまに見かけるプレイヤーたちに黙礼で挨拶をしつつ、森の中を歩いていく。

 森の中で見かけるプレイヤーたちは、武器を更新していたり、いなかったり。

 どちらにせよ、昼間ほどモンスター達が活発ではないためか、私と同じように素材集めに来ている人達が多いようだ。

 多分、昼間は狩場で夜は絶好の採取タイムってところなんだろう。

 私も、負けていられないね。

 早速、未知の素材を探して森の中を歩いていった。

 ――あ、早速妹切草という素材を発見。

 ほどなくして、別の妹切草も発見できたし、どうやらこの辺りは妹切草の群生地のようだ。

 とりあえず、数十株ほど採取しておいて――よし。こんなものかな。

 私が採取している間、何回か敵性NPCの襲撃にあったけれど、フィーナさんやヴィータさんも成長してきているのか、気配を殺して潜んでいる敵にも先制攻撃するようになり始めている。

「ね、フィーナさんヴィータさん。隠れてる敵って、やっぱり二人も【気配察知】とかそういう系のスキルでも使ってるの?」

「はい。初日の一件がありましたからね。お嬢様がいない間に、私達も付け焼刃程度ですが、努力させていただきました」

「もう、闇ギルドの連中に後れなど取らせません」

 なるほど。

 確かに、前にミリスさんが言っていた通り、私達プレイヤーがいない時でも、住民NPCはこの世界での『営み』というのが確かにあるんだねぇ。

 意外な形で実感させられたよ。

 それからも、妹切草や、メウシ豆という大豆のような豆の採取を続け、一時間ほどでかなりの量が採取できた。

 さすがは森だね。草原だと、同じ量を集めるのにこの二倍とまではいかなくても、かなりの時間がかかっちゃうよ。

「……うん。これくらいあれば、十分かな」

「いっぱい集めましたね。妹切草とメウシ豆だけで、持てる量の半分程度が埋まるとは思いもしませんでしたが」

「でも、素材で使うとあっという間になくなっちゃうからね。これからも、多分定期的に来るかなぁ」

「左様にございますか。ですが、無理や無茶をするのはおやめくださいね」

「うん、わかってるって」

 さて。それじゃ、次の素材を――っと。

 ――ヒュンッ……トスッ。

 何かが飛来するような音が聞こえ、同時に嫌な予感がしたので急いで横に一歩、ステップを踏んだ。

「矢だ。どこかに敵が潜んでいる」

「長引かせると厄介ね。可能な限り早く、探し出すわよ、ヴィータ」

 戦闘向けではないミリスさんをかばうように私とフィーナさん、ヴィータさんは配置を変え、そして周囲を見渡す。

 暗い夜の森。

 だけど、【光魔法】で周囲を照らしているおかげで、まったく見えないわけじゃない。

 ――ヒュンッ……トスッ。

 再び飛来してきた矢を、再び躱す。

 矢の突き刺さる方向からして、間違いなく前方にいるのは確かなのだけれど――薄暗いせいで、なかなか見つけられそうにない。

 う~ん、大まかな敵の位置くらいなら、大体あのあたり、ってわかるんだけどなぁ。こういう時は……あ、そうだ。

 一つだけ、敵の動きを止められそうな手段があるね。

「三人とも、ちょっと目をつぶってもらっていいかな」

「構いませんが……」

「お嬢様、何を……?」

「まぁ、ちょっとね」

 三人が目をつぶったのを確認してから、私も目を閉じて、【光魔法】の初期魔法のうちの一つにあたる、『フラッシュバン』を放った。

 ――キィィィィィィィィン……!

「う……っ、」

「あ、ぅぅ……」

「くぅぅ……」

「ひぅ……」

 やば……まさか、音まで出るとは思わなかった……。

「お、お嬢様……今のはまさか、『フラッシュバン』、ですか……」

「う、うん……おもったより、音が……すごかった」

「それはそうですよ……。『フラッシュバン』は、光属性の攻撃魔法ですけど、肝心のダメージは音によるものなんですから……」

「ご、ごめんなさい……」

「まったく……次からは気をつけてくださいよ?」

 とりあえず、今の私の魔法攻撃で、敵の方はもろにダメージを受けたらしく、また『フラッシュバン』の追加効果の影響で、短いながらも『スタン』状態まで付加されていた。

「まぁ、何はともあれ、厄介な弓使いを倒せただけでも良しとしましょう」

「そうですね。あのままでは、引くにも引けませんでしたから。撤退するにしても、弓使いが相手となると、手痛い一撃をもらいかねませんからね」

 ほぅ……結果オーライ、ということでどうやら許してもらえたみたいだ。

 なお、気絶していた敵性NPCはヴィータさんがさりげなくとどめを刺していた。

「……お嬢様の【光魔法】があれば、夜の森もそこそこ探索はできそうね」

「でも、油断は禁物よ。私達の【気配察知】だって、まだ付け焼刃の域を出ていないのだから」

「うん。しばらくは、あまり気を抜かずに探索したほうがいいかもしれないね」

 さてと。

「ミリスさん、荷物はまだ持てそう?」

「はい。まだ大丈夫かと」

「そっか。それじゃ、あとは適当にいろいろと採取してみようかな」

 それからは、その辺になっている野草の実や葉っぱ、あるいは草花そのものを採取しながら、アイーダの森の浅部を歩き回った。

 ある程度奥地に行くと、ヴィータさんやフィーナさんから、『これ以上はクリーチャー達の拠点に近づきます。危険ですから引き返しましょう』と、やんわりと方向転換を促されるので、ついうっかりとモンスターの拠点に近づいてしまうようなことはなかった。

 森を探索中に見つけたのは、妹切草とメウシ豆のほかには、毒や麻痺などを解除したり、それらへの耐性を一時的に強化する『デトキシハーブ』や『ハラリズの実』をはじめ、状態異常を解除する素材特性を持つものが数多く入手できた。

 また、オレンの実もそれなりの量を採取できたので、厨房の人達からオレンの実を分けてもらう必要もなくなりそうだった(実際に手配してくれたのは、ミリスさんなんだけどね)。


「ふぃー、無事に帰って来れたぁ~」

「お疲れさまでした、お嬢様。見事な戦いぶりでしたよ」

「あ、そうだった? えへへ、ミリスさんも、いろいろサポートしてくれてありがとね」

「いえ。探索中に私にできることなど、お嬢様の治療以外ですと荷物持ちくらいしかありませんので」

「その治療に助けられてるなぁ、私」

 ミリスさんは、おおよそ最適なタイミングで私にポーションを使ってくれる。

 そのリソースは、私が作ったポーションではなく、私がログアウトしている間にミリスさんが調合したらしい、彼女謹製のポーションらしいのだけど――それだけに、感じる安心感も途轍もない。

 まぁ、その分ミリスさんは生産職に関係あるDEXと、社交関連のTLKとMNDに極振りといった感じで、VTやMPに始まり、ATK、DEF、MAGにMDFと、おおよそ戦闘に関連する能力値ほぼすべてが絶望的なまでに低い。

 それはもう、レベルアップしてもほとんど伸びないのだ。

「……私も、お嬢様たちと肩を並べることができればよいのですが……」

 などとたまに嘯く当たり、当人もそのことに関してはやや気にしているようである。

 もっとも、私にとってはミリスさんも探索中にはなくてはならない存在なんだけどね。

「ミリスさんには、ミリスさんができることで助けてもらってるから大丈夫だよ」

「…………ならば、よろしいのですが」

「さて、と。今日はもう遅いから、ログアウトしようかな。また明日、ログインするね」

「かしこまりました。では、本日も一日、お疲れさまでした。また明日、お会いいたしましょう」

「うん」

 そして、私はミリスさんに見送られながら、ゲームからログアウトした。



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