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133.VSダークサラマンダー


 祭壇へと続く道の、最後の分岐点までたどり着いた。

 ここで一旦私達は立ち止まり、採掘を始める。

 というのも、ダークサラマンダーと戦うために火精の魔法石が必要だったからだ。私達は火精の魔法石はすべて使用してしまったか従者に預けて屋敷に送ってしまったので、持っていない。

 アギトさん達も、お試しで一回程度、ということで火精の魔法石は一つしか入手しなかったようなので、再戦するなら新しく採掘する必要があったのである。

 火精の魔法石は、というか魔法石自体精霊の力が不安定な力で残っているとのことでかなりの危険物扱いだったので、冒険メインの人達には少々扱いづらい面がある。依頼でもない限り、複数を所持するのは避けたい素材なわけで、私のように何個も持ち歩くなど論外のアイテムなのだ。

 ということで、火精の魔法石の採掘担当は自動的に私達、貴族組が担当することになり、こうして唯一ピッケルを持っていた私に白羽の矢が立ったわけである。

「ん、採れた……でも、やっぱりここらへんのはさっきの鉱床よりもいくらか品質が落ちるなぁ」

「あのダークサラマンダーとやらの影響をかなり近いところで受けているからなのかもしれませんね」

「それもあるか……」

 私は火精の魔法石を見たのはこのイベント内が初めてだったので、普通のものの品質がどの程度なのかは把握しかねているけど――確かに、ダークサラマンダーって名前からして禍々しいというか、邪悪というか――精霊とは対立してそうな感じの雰囲気だしね。

 納得できる理由ではある。

「で……みんなどうしたの?」

「や……火精の魔法石をそんな乱雑に扱って、よくもまぁそんな飄々としてるな……」

「飄々とって……あぁ、まぁ私の場合は【博識】――今は派生しちゃって【叡智】になっちゃってるけど、まぁ必要なスキル持ってるからね。多少乱雑に扱っても、セーフなんだ」

「そ、そうなのか……【博識】スキルって、探索中にも役立つのな」

「そりゃあもう。このスキル一つでいろいろなものが鑑定できるようになるし、それだけでスキル枠の節約になるからね」

「あ、わかる。私も【博識】スキルには助けられているところがあるし……」

「【歩く】系のスキルを使えば、斥候の役割も完璧になるしね」

 【叡智】スキルの『様々な物事を見極めることができる』効果は伊達ではないということだ。

「【博識】かぁ……。でも今更【言語】スキルから育てるのもなんだかなぁ」

「それなら【言語】スキル採ってから師弟システム使えそうなNPC捜すのもありなんじゃない?」

「あ、それいいかもな。イベント終わったら探してみるか」

 教会とか図書館とかの、言語に明るそうな人がいっぱいいそうな場所ならできそうな気がするし、試してみる価値はあるだろう。

 そうして話をしていると、すぐに祭壇のあった広間へとたどり着いてしまった。

 前回きた時と同じように、ある程度祭壇まで近づくと背後で障壁が展開されて、退路が立たれた。

 それと同時に、魔法石を持っていた人――今回は私だ――の体がオレンジ色に輝き始め、数秒後にはそのオレンジ色の光が周囲の燭台へと跳んでいって火を灯す。

 同じタイミングで、私の視覚には火精の魔法石を失った旨を示す簡易メッセージが映り込んだ。前回と違って、今回だけそんなものが表示されたのは――多分、魔法石をミリスさんに預けることなく、直接私が持っていたからだろう。

 やはり、あの障壁は火精の魔法石の力に呼応しているのだ。そして、周囲の燭台に灯されたことで魔法石から燭台へと魔法石の力が完全に移動した。それが、前回きたとき、燭台の火が消えたことで障壁が消えた。

 私達の考察は、何一つ間違ってはいないことが証明で着た瞬間だった。

「グオオオォォォォォォ――」

「来るぞ――!」

 耳を(つんざ)くような大きい咆哮の後、祭壇の上に紫の炎を纏った妖しいドラゴンが出現する。

 ダークサラマンダー、レイドボスでなおかつ推奨レベル80以上の難敵が、再度私達の前に、姿を現したのだ。

 じりじりと、焼けつくような熱さを感じる。周囲の地形に、『灼熱』の地形効果が追加されたのを察知した。

「『インスタントブリザード』!」

 次の瞬間、洞窟の外と同じような気温になり、肌を焼くような熱い空気は一瞬にして消え去ってしまった。

「よし――『灼熱』が消えたぞ。タンクはダークマンダーの動きを引きつけろ、前衛もダメージディーラーは各自攻撃を始めろ!」

「魔法班、氷属性魔法を放ちなさい。カウンターが怖いから凍結効果付きは放っちゃだめよ。地形効果班は次の地形効果付与までの時間を計り始めて。【激励】作戦、開始よ!」

 アギトさん、そして女性オンリーパーティのリーダーの声が周囲に響き渡る。と同時に、私達に【激励】バフも乗った。

 どうやら彼らも【激励】を使えるみたいだけれど――

「私達にはやはり、かからないようですね」

「ですね。効果範囲がユニット単位ですから仕方ない話ですけどね」

 ともあれ、私達は私達で攻略を開始する。

 とりあえず、私は武器防具による行動不能系デバフの付与が怖いので、攻撃やパリィはしないことにし、今回は支援に徹することにした。

「〈ユニット・エクステンション・レディ〉〈ブースト・ブレイズ〉〈エリア・ブースト・ディフ〉〈ブースト・マジックディフ〉〈ウォール・ブレス〉〈ウォール・マジック〉〈ユニット・エクステンション・エンド〉」

 まずは【支援魔法】のバフ魔法で、自軍の強化だ。

 最短効率で行きわたるように、【空間干渉】のアビリティで範囲化をすることも忘れない。

 それから各種デバフ魔法でダークサラマンダーの能力、主に防御周りの低下を図る。

「〈ウィーニング・アイシクル〉。あれ、ミスった。〈ウィーニング・アイシクル〉〈ウィーニング・アイシクル〉――」

 う~ん、思ったよりデバフの乗りが悪い……。Ineffectualという無効化された時のエフェクトが出てこないというときは、単純に抵抗されただけ、のはずなんだけど――ということは、デバフ無効というわけではないけど、限りなく不可能というくらい耐性が高いということ。

 試しに他のデバフも試し、何なら【空間干渉】のアビリティで連射もしてみたんだけど、やはり耐性がかなり高いせいでデバフの乗りが悪いようだ。

 これはデバフを乗せるのはあきらめたほうがよさそうだ。

「お嬢様、マナポーションは大丈夫でしょうか」

「うん、問題なし」

 バフとはいえユニット単位での魔法を連続使用したうえ、デバフまで連射したのだから、それなりにMPは消費した。

 けれど、幸いにも防具の特殊効果は生きているので、私の周囲は一定以上の水属性の魔力で満たされている判定になっているし、そのおかげでMP継続回復の効果を持つ別の特殊効果も発動で来ている。

 しばらくはMPを使うような役回りもなさそうなので、自然回復に任せてしまってもよさそうだった。

 実際、戦闘はこちらにやや優勢な状態を保てているらしく、みんなの表情もそれなりに緩やかだ。

「安定して戦えているようですね」

「そうだね。――サイファさん、どうです?」

「やはり強いですね。これだけの数がいても、勝てるかどうかは正直わかりません。勝率5割もあればいいところでしょうか」

「そうなの? 割と好調子なように見えるんだけど」

「表面上はそう思えるかもしれませんが――もう少し、周囲の、皆さんのことをよく見てください」

「え……? あ…………」

 サイファさんに指摘された通り、確かに表面上は好調子なように思えた。

 が、よくよく見てみれば入れ代わり立ち代わり、ポーションを飲む姿が見え隠れしており、その頻度がやや苦戦しているように見えなくもなかった。

「ハンナ様が皆さんにどれほどの回復用のポーションを渡したかはわかりませんが――その残り具合によっては、厳しい戦いになるかもしれませんね」

「そっか……」

 アギトさん達は、半分以上はまだ残っていると言っていた。だから、私も安心して参戦で来ていたのだけれど……それ、ちょっと難しかったのかな。

 などと、不安を抱え始めたところで。

「〈エナジーゾーン〉!」

 私とは別の地形効果操作班が、また新しく聞くアビリティを発動した。

 これは――洞窟内で吹雪が消滅しただけではなく、淡い光が漂い始め、同時にMPの自然回復量が2倍になった。

 ミリスさんが感心するようにほう、と息を吐く。

「回復量が二倍に……なるほど。これならば、VTがなくなりかけて回復魔法を放つとしても、MPの節約になりますね」

「だけじゃないわ。MPの消費量も少しだけだけど減っているし、MPの自然回復速度も2倍になったみたいよ」

 私の傍らで、攻撃魔法担当として氷魔法を放っていたルルネさんがそう言って、それで私も気付いた。

 確かに、MPの回復速度がかなり早くなってる。

 ただでさえ、普段から装備品の効果でMPの回復速度がやや速めになっていたところへこの効果。

 今の私の能力値だと、通常のMP自然回復量と装備による追加分の合計で、毎秒20ポイント以上もMPが回復することになるのだが――今だけは、毎秒50ポイントほども回復するようになっていた。

 これはもう、MPポーションなどに含まれるMP継続回復効果とほぼ同じような状態とすらいえる速さだ。

 その上、それらのポーションを飲めば自然回復量はさらに上乗せされることになる。そこまでいけば、つい今しがた発動された〈エナジーゾーン〉というアビリティの効果時間中は魔法打ち放題ということになる。

 道理で周囲のプレイヤーもMPを気にすることなく魔法を打ち始めたわけだ。

 消費したそばからMPが回復するなら、気にするだけ損ということになるのだから。

 そんな感じで、出だしはかなり優位な状態で戦闘に入れたといえるだろう。

 このまま戦況を維持できれば、何も問題はない。――私がそう考えていたところで、

「あれは――」

 それは起こってしまった。


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