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132.とっておきのアイテム


 そんなわけで、私は一度は敗走したダークサラマンダーと再選することになり、火精の洞窟の最奥部、祭壇がある場所まで再び移動することに。

 火精の洞窟の最奥部は、ファストトラベル可能なランドマークが一つあるので、そこに転移することになった。

「……ここ、火精の魔法石の鉱床って…………」

「この辺りで手に入る魔法石の中では、最高品質のものが取れるらしいんですけどね……」

「火精の魔法石か……私は、あまりいい思い出はないな」

「あたしも」

「うちもあまり……」

 最奥部に一番近いランドマークに移転してくるや否やそんなことを話し出したのは、ダークサラマンダー戦に参加しているパーティの中でも、女性のみで固めているパーティのメンバーだ。

「なにかあったんですか?」

「いやね、普通のエリアでも、火山とか洞窟とか、湖や大きな川、海岸線なんかの岩場で採掘するとさ、たまに精霊の魔法石が出てくることあるのよ」

「ただ、説明文にもある通り不安定でさ。以前馴染みの生産職プレイヤーに頼まれて取りに行ったとき、結構苦労させられたよ……」

「デスペナが軽くてほんとに助かったけどさ……正直、『疲労困憊』状態の付与だけで助かったって感じ」

「あ~、あれね……」

 このゲーム唯一といっていいデスペナルティの『疲労困憊』。全ステータスが一定時間0.7倍になるという少しきつめの状態異常だけど、実際にはリフレッシュ薬効やエリクシル薬効の一斉デバフ解除効果の対象になっているため、最悪調合系のスキルなしでも簡単に作れてしまう『始まりのエリクシルポーション』でも飲めば治療で来てしまう。つまり、誰にでも簡単に解除で来てしまうので、ほとんどないに等しい状態だった。

 まぁ、『疲労困憊』状態は『胃弱体』状態の効果も内包しているので、直前に『胃弱体解除』効果を持つ料理やポーションを摂取しないといけない、という落とし穴もあるんだけど。

「念のためにと一個だけ持ち込んでいた『薬膳スープ』が役立つとは思わなかったぜ」

「あはは……」

 料理系のアイテムには当然ながら時間経過による品質劣化が適用されているはず。

 だから、持ち込んでいたそれらのアイテムは、今頃であれば当然飲めないくらいに痛んでしまっていてもおかしくはない、はずなのだが――そこはまぁ、今回のイベントの仕様である。

「イベントポイントのリセットはきついが、気張ればそのあたりは元通りとはいかないがある程度はまだどうにかなる。そう言った意味では、所持品のリセットでこれの品質も復活してたのがせめてもの救いだな」

「劣化したアイテムの品質までリセットされるのは、逆にちょっと得した気分になるな」

 まぁ、実際にはアギトさんが言った通り、今回のイベントでこれまで集めたイベントポイントがすべてパーになってしまっているので、まったく得などしていない。どころか、大損もいいところなのだが。

「ま、そんなわけで復活自体は滞りなく終えることができたんだがな」

「そっか。それはよかった……」

 のかな。

 なんか一つ見落としているような……。

「待って。確か地形効果を操ってしまうようなアビリティは、総じてCTがすごく長かったはずよね。それは大丈夫なのかしら?」

 私の横合いから声を投げかけてきたのは、ルルネさんだった。

「ってルルネさん!? いつの間に!?」

 興味なさそうに私の傍らでお鍋の中身をぐるぐるかき回してたのに、しれっと参加してるし。

「ダークサラマンダーのお肉にちょっと興味があってね。Rボスの、それもドラゴン系のお肉なんて、料理に入れたらどうなるか気になってしょうがないじゃない?」

 じゃない、って私に同意を求められても……。

「あはは、そりゃ確かに気になるよな。うん、もし今回の再戦でうまく奴さんを討伐出来たら、ルルネさんにダークサラマンダー肉料理を作って宴会でも開くか」

「あら。それはまた興味深い提案が出されたわね。そう言うことなら、腕を振るわないわけにはいかないわね」

 う~ん、場の雰囲気がルルネさんのそれに乗り気になってきたことで、私もなんだか気になりだしてきたわ。

 確かにダークサラマンダーの肉、どんな効果を持つ料理に仕上がるのか興味をそそられる。

「……ま、それもダークサラマンダーを無事に倒せたらの話なのだけれど。それで、私の質問には答えてくれるのかしら」

「うん? あぁ、地形効果操作系のアビリティのCTな。そいつに関しては問題ねぇ。とっておきのアイテム使って、すでにCTは解除してるからな」

「CT――解除効果? それってもしかして――」

「あぁ。クロノティマーだ」

 クロノティマー。それはフェアルターレのレクィアスカジノで、1Mもの大金で販売されている超高級アイテムの名だ(なお、支払いの際はきちんとカジノ専用チップで支払わないといけない)。

 ちなみにお隣の国イエンスでも、【燕尾服】や【ドレス】のスキルに対応した服を着ないと入れない高級な魔道具ショップにて販売されていたという話だが、そちらだと4.98MGと約5倍もの値段になっている。

 高々単発使用の消耗品でその値段は正直ぼり過ぎなのではないかと思われがちだけれど、実際には掲示板や攻略W〇kiなどでプレイヤー達に共有されている情報によるならば、はっきり言ってお値段『異常』と言えるほどの高性能アイテムである。

 その効果は、任意で指定したスキル(・・・)の全CTを解除するというもの。

 アビリティではなくスキル(・・・)と表記されている点がミソであり、つまり例えば【風魔法】スキルに属するアビリティであれば、このアイテム一つでその【風属性】スキルの全アビリティのCTが即座に解除されてしまうのである。

 単発使用であり、なおかつ一プレイヤーに付き一つまでしか持つことができないという制限がある上、他にも所有者以外が持っても使用できない点、所有権譲渡ができない点、倉庫などに保管しておくと力が失われてただの『懐中時計』に変わってしまう点や、プレイヤーには生産できないとアイテムの詳細欄に明記されているらしいことから、入手方法に限りがある点など制限が厳しく設定されているところでどうにかバランスを保っているようだけれど、資金力のあるプレイヤーにとってはそんなの些末な話でしかない。

 なんにせよ、現状では購入手段や使用可能回数が限られているので、そこまでのバランス崩壊アイテムには陥っていない。

 片や値段が安いが年齢制限があり、リアルマネーが結構かかる。片や準備にも購入にもお金がかかると一長一短。

 ちなみにレクィアスカジノの場合は客として入る場合にはR-18の年齢制限がかかっていることから、R-18パッチを充てないと入場できない仕様になっている。

 そのR-18パッチは少々高めのミドルプライスゲームが一本買えてしまうくらいには高いそうだから、リアル資金が気になる人はゲームマネーと時間をかけてイエンスで買うしかない。

 どちらにせよ、今の私には購入機会のない、無縁のアイテムであることに違いはないのだけれどね。

「このイベント中は、リスポーンすれば何度でも使用可能になるからな。使っちまっても通常のフィールドに戻れば使ったことにはならずに手元に戻ってくるし。なら、ピンチの時には構わず使ってしまうのが吉ってな」

「その割には、ダークサラマンダーに敗戦しましたよね」

「あはは……実は参加者全員、イベントが始まってから死に戻るまでの間に、すでに一回ピンチになってクロノティマー使っちまってたんだよな。嫌な偶然もあったもんだぜ……」

「それは……」

 なんというか、示し合わせたような不運もあったものだ。

 なんにせよ、地形効果操作系のアビリティのCT解除のために、イベントの仕様でリスポーン時に手元に戻ってきたそれも使ってしまったから、結局のところ先ほどの焼き増しにしかならなさそうではあるけど。

「ま、そうならないためのハンナちゃん達なんだけどな」

「さっきの話にあった〈セインチュアリィ〉は私も使えるから、実質地形効果操作要員は私達サイドも二人いるし、何とかなるでしょ」

 ゆーかさんの言葉に私もそうかな、と思いかけるが――相手はRボスだ、きっと最後の最後でどんでん返しが来る可能性がある。

 油断はできそうにないのは確かだ。

「う~ん、そうだといいんだけどね……」

 とはいえ――実際には、なるようにしかならないだろう。

「そろそろ最奥部の祭壇に着くな。みんな、改めて聞くが――準備はできているよな」

「ああ。ハンナちゃんのポーションも、ピンチを見越して拠点に残しておいた分もあるからなんだかんだでまだ半分くらいは残っているし、どうにかなるだろ」

「え、そんなに残ってたの!?」

「あぁ、あの『灼熱』を何とかすればまぁ、そんなもんでも十分倒せちまいそうだっだんだよ」

 うわぁ……見掛け倒しもいいところだなぁそれ。

 とかく、キーになるのはやはりその『灼熱』をどう攻略するか、その一点に尽きるだろう。そしてそれをするのは私達『地形効果操作班』に託されている。

 責任重大だけれど――やり遂げないと。

 ちょっぴり不安に駆られながらも、私は祭壇に向かって歩き始めるみんなに続いて歩いていった。


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