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122.苦戦


 翌日のリアルにおける午前中から、私達は周辺の探索を試みることにした。

 二人の寒波耐性に関しては、結局お仕置きロンググローブだけでは足りず、やはり温熱薬に頼る必要が出てきてしまった。

 レアンヌさんは、今後冬が到来し、通常フィールドでも寒波耐性が必要になって来るであろうことを予期し、素でも寒波耐性を持てるように【寒波耐性】スキルを取得することにしたようだ。

 通常スキルには【熱波耐性】も持っているようで、ミリスさんが言うには両方のスキルが60を超えれば【環境耐性】に派生できると言っていたから、レアンヌさんはもしかしたらそれを目指すのもいいかもしれないね。

 それから、私が作った温熱薬は、こんな感じの性能になっている。


【温熱薬】消耗品/季節品

凍傷解除、寒波耐性+Lv30(30分)、MAXVT復元(大)、VT回復(中)

 服用することで寒波に強くなるポーション。使用した素材に含まれていた薬効成分により、凍傷の解消、および凍傷によって損なわれた体力の回復効果も期待できる。

 職人が作ったものの中でもかなり品質が高い逸品。

品質指数(☆1:200):1350/1350 ☆7

必要素材:(液体)、(火属性素材)、(治療薬素材)

対応カテゴリー:(液体)、(火属性素材)、(強化薬)

生産者:Mtn.ハンナ・ヴェグガナルデ


 一つ辺り30分しかもたないけど、数は30本くらい作れたから今日明日はどうにかなるはずだ。

 前にも同じようなことを思った気がするけど、携行用の調合キットでも1回の調合で複数本作れる、このゲームの調合システムには感謝の意しかない。

 温熱薬は1回分の素材で6個調合することができる。つまり、5セット分もあれば同じ量はできるのだ。

 ミリスさんとともに作れば、10本や20本はすぐにできてしまうからね。

 幸いにもというべきか、【寒波耐性】を持っていない人がこのエリアに配置されてしまった場合を見越していたのか、南エリアには温熱薬の素材になりうる素材がそこかしこで見つかっている。

 材料のうち液体は普通に魔法で水を出せば事足りるし、火属性素材は精霊の異常は働きのせいか、採取できる野草や果実のほとんどが火属性素材のカテゴリーに対応している。治療薬素材は私の役割的に、重点的に採取してたから尽きる心配もなし。

 つまり、結論から言うとレアンヌさんが抱える心配も、温熱薬を作れる人が周囲にいれば、ないも同然だったというわけだ。

 とはいえ、やはりポーションを飲みながらの探索は骨が折れるし、バフが切れたタイミングで敵に取り囲まれるとたちまちピンチになってしまう。

 油断できないことに変わりはなかった。

「というわけでレアンヌさん、温熱薬は余裕を見積もって五分くらい前には次のを飲むようにしてね」

「わかった」

「それじゃ、準備もできたことだし、探索を始めますか」

 レアンヌさんにそのあたりのことを注意事項として伝えたところで、私達は昨晩話し合った通り、イベントフィールドの探索を始めることにした。

 探索に当たっては、今日のところはとりあえずアギトさん達のパーティはここから南方向へと向かい。

 ゆーかさんはれあちぃずさんとペアを組んで西にあるらしい湖の周辺へと向かっていった。

 私はレアンヌさんとチームを組んで、この辺りから東方向へと向かって探索してみるつもりだ。

「というわけで、よろしくね、ハンナさん」

「よろしくレアンヌさん。……レアンヌさんは、傘で戦うんだっけ? あれ、盾系の防具じゃなかったっけ」

「あはは……そうなんだけど、『オルキス伯爵令嬢』がランクIになった時に【傘】が生えて、もしかしたらと思って傘を使って敵を倒し続けてたの。ほら、盾でもシールドバッシュとか、盾で攻撃する技とかあるじゃない? そんな乗りでさ。そしたら、武器として扱うようなアビリティ憶え始めたの。それ以来は、傘で攻防一体の戦い方をしてるよ」

 へぇ……ネタ防具だと思ってたら意外と強い防具種だったんだね。しかも武器・防具両用なんて珍しい。

 これまでの一週間は、なんだかんだでレアンヌさんが戦う光景は見る機会がなかったから、少し興味が出てきた。

 それに――【傘】スキルって、私の場合はランクIIになって初めてクラススキルとして生えたんだけど、レアンヌさんの場合は初期状態からすでに存在していたらしい。

 なぜかはわからないけど、同じ令嬢系でも、何かしらの違いがあるみたいだね。

「あとは通常スキルでなんか【殴る】とか【蹴る】とか、そんなスキルも初期設定の時引き当てたけどね」

 そちらは一つを除いて、他はなかなか使う機会に恵まれていない、と愚痴をこぼし始めた。

 まぁ、そういった体術系はねぇ。私達じゃ、どう考えても難しいというか、地雷スキルになっちゃうよねぇ。

「【蹴る】は私も持ってるんだけどね……」

「だよねぇ……」

 私もレアンヌさんも、足技が出しにくい身体装備しか装備できないクラス制限がある。

 なので、【蹴る】に関してはほとんど育てていないのが現状だ。

「【投げる】も、なんだかんだで使う機会がなくて……結局、その三つの中で育っているのは【殴る】だけだったなぁ」

 ちなみにその【殴る】、本当に殴る(・・)行為そのものに関するスキルらしく、例え打撃系の武器で敵を攻撃したとしても、きちんと【殴る】スキルで攻撃したものとして扱われるのだとか。

 つまりレアンヌさん。現状は【傘】スキルから派生したクラススキルの【傘槍】スキルと、【殴る】スキルから同じく1段階派生した【殴打】スキルの二つのスキルにより、1撃当たり2回の命中判定が得られるらしい。

 何それ羨ましいんだけど。

 私も【蹴り】スキルの代わりに【殴る】スキルを入れてみようかな。

 スキルポイント的には今、ちょっとだけ余裕があるし。

「お二人とも、話はそこそこに。敵がこちらに近づいてきているようです」

「敵? あ、ホントだ……」

 レアンヌさんとスキルについて話していたら、早速敵が近寄ってきたようだ。

 実は神殿跡はランドマークに指定されていたため、その周辺にはモンスターが近寄らないようになっていたのだ。

 そのため安心して拠点を設営で来ていたのだ――が、どうやらいつの間にかその圏外に出たようだ。

「安全圏外に出るのであれば、最低限の警戒は忘れないようになさってください。まぁ、この辺りのモンスターであれば、私一人でも十分に対処は可能なようですが……」

 サイファさんが呆れたようにそう言ってきた。

 レアンヌさんとの話に夢中になってしまっていたのは事実だし、言われてしまっても仕方がない。

 まぁ、サイファさんが言うように、この辺りの敵ならサイファさん一人でも十分に対処可能であることに違いはないだろう。

「東側にある洞窟までは、歩いて一時間ほどといったところでしょうか」

「そうですね。ランドマークがあればいいんですけど、ないならリアルでのお昼が近づいたら、一旦仕切り直しにすることも考えないといけないですね」

「それがよいでしょう」

 ランドマークがあったなら、(リアル基準での)今日の午後の探索は、そのランドマークからの再開とできるのでかなり楽になる。

 ランドマークがあってほしいものだ。

「ハンナ様、またモンスター……いやこれはフェアリー種でしょうか。こちらへまっすぐに向かってきますがいかがしましょう」

「そうですね……。それなら、今度は私とレアンヌさんで倒してみます」

「かしこまりました。では、私は牽制射撃などでサポートに回らせていただきます」

 サイファさんは少し下がって、私に前を譲った。

 今回の敵は、ウィンドフェアリー・狂だった。

 こいつらもやはり、昨日遭遇したアイスフェアリー・狂と同じように、通常フィールドに出てくる奴よりもかなり攻撃的な動きをするようになっていた。

 ウィンドフェアリーといえば、アイスフェアリー以上にこちらを翻弄してきて、近距離戦では〈エアシールド〉の魔法アビリティで攻撃を弾かれるわ、遠距離では〈ウィンドウォール〉で落とされるわ、挙句手に入る素材の等級が見合わないわで、敵としてのそいつらは多くのプレイヤーから嫌われがちなキャラクターとして知られている。

 気まぐれな性格なので、時として友好的で、プレイヤーに話しかけて物々交換や野良のNPCショップとしての役割を果たすシーンもあったりと、憎みきれないところもあるんだけどね。

 しかもNPCショップのケースはレアアイテムのみの品ぞろえで必ずといっていいほど捨て値価格で。余計に憎みきれないバランスの取り方である。

 だが、このイベントフィールドで現れるこいつらには、そんな友好的になり得るような要素が一切廃されているような見た目しかない。

 アイスフェアリーと同じく、闇のオーラとでもいえる黒いもやもやに包まれたその外見。

 小さな顔に浮かぶ、狂気に飲まれたその表情。そして使用してくるアビリティ群。

 いずれも、敵意しか感じられなかった。

「〈鼓舞激励〉〈トリプル・バーニングウェイブ〉!」

 先手必勝と言わんばかりに放った私の〈バーニングウェイブ〉だったが――

「クスクス……へなちょこ、へなちょこ! そんなの、当たらないよ。これでも喰らえ、〈ラクリメイトブリーズ〉!」

 いつもとは違い、水平方向に並べるのではなく横二つと上に一つ、三角形を描くように基点を置いたそれらに対し、ウィンドフェアリー・狂は軽く斜め上に飛び上がることでそれを軽やかに躱し、カウンターで魔法を放ってきた。

「毒魔法っ?! 〈リフレクトファニング〉!」

 風属性の魔法アビリティを使用してくると思いきや、放ってきたのはアスミさんも使っていた凶悪な毒魔法〈ラクリメイトブリーズ〉。

 発動者を基点に扇状に放たれるそれは、少しでも浴びれば少なくともレベル30相当の『毒』と『目つぶし』、そして『拘束』状態になるとても危険な魔法だ。

 少なくともレベル30相当、というのが厄介で、『毒魔法』のスキルレベルがどれだけ低くてもレベル30相当の『毒』にはなってしまうため、完全に防ぐなら【毒耐性30】相当の毒に対する耐性が必要になる。

 当然、私にはそんなのあるわけがない。なので代替策として、扇系スキルのアビリティである〈リフレクトファニング〉で跳ね返してやった。

 それが気にくわなかったのか、一緒に現れていた別のフェアリーが私に一直線に向かって飛んできて、私の直接攻撃の圏内に入るか、入らないかくらいの位置取りで魔法を放ってきた。

「むぅ……お前、きらいッ! お前から先に倒れろ! 〈バインドロゼ〉!」

「きゃっ!?」

 ウィンドフェアリーよりもとても深い緑色のそいつは――『アイビーフェアリー』。アイビーって、放ってきた魔法からして【植物魔法】を扱う魔法だろうか。

 参ったな……瞬く間に何かのツタに纏わりつかれて、手足が動かせなくなってしまった。

 それにこれ――厄介なことに継続ダメージまである。しかもツタが急速に成長して、すぐに自力で脱出できなくなっちゃった。

「キャハハハ、これならどうかな、〈ウィンドスピア〉!」

「わわっ、倒れる倒れるっ!」

「お嬢様っ! このッ!」

 追い打ちをかけるようにウィンドフェアリーが放ってきた〈ウィンドスピア〉。

 スピアという名前に反して棒で突かれたかのようなインパクトにより、思わず体勢を崩して倒れ込んでしまった。

 蔦が地面とつながっているためか、それほど吹き飛ばされなかったかわりにツタのとげで追加ダメージ。これ、ちょっとピンチかも。

「今すぐ助けます、少々手荒ですがご容赦を、〈ファイア〉」

 なんてこと考えていたら、ヴィータさんが駆け寄ってきて蔦を燃やしてくれた。

 おかげでVTがそれなりに減ってしまったけど、

「ありがとう、〈ミドルキュレル〉」

 自分で回復魔法を使って回復する。

 こいつら、ちょっとさすがにミリスさんのところに戻ってVTを回復、という余地がなさそうだ。隙を見せたら、今度は他の人が今の敵の魔法の餌食になりかねない。

 拠点の神殿跡に一旦引き返すか、それともここで倒すか。倒すなら、短期決戦で一気に押し込むしかない。

 無論、選ぶなら『倒す』一択だけどね。

「サイファさん、ヴィータさん、フィーナさんはもう一体、アイビーの方をお願い!」

「わかりました」

「やああああぁぁぁぁぁっ!」

 そして、少し戦って感じた印象は――倒すなら、短期決戦しかない。

 私は一気に近寄って、扇を、そして鞭を振りかぶった。

「きゃははっ、怒った、怒った! 怖い、怖い! 〈ツイストウォール〉!」

 ウィンドフェアリーは、そんな私をあざ笑うかのように、魔法で生み出した風の壁の向こう側に隠れる。

 こちらからの攻撃を弾きつつ、触れるとダメージを受ける仕様らしい、風属性の防御魔法。

 この辺り、直接攻撃を与えようとすると防御魔法を使おうとするのは通常フィールドと同じ仕様だったようだ。

 けど、この魔法は逆に助かる――

「〈トリプル・バーニングウェイブ〉!」

 再び、さっきと同じ魔法でそれに対抗する。

 ただし――

「ぴゃあああああああっ!?」

 今度は、逃げ道を限定するようにうまく調整して放つ。

 フェアリーは、私が狙ったように、意図的につくった逃げ道から〈バーニングウェイブ〉を交わしてきた。

 そこを――叩く!

 単発で放ったそれは、ウィンドフェアリーの多彩な魔法を封じるのに見事に貢献した。

「〈ネウトル・アール〉」

 〈バーニングウェイブ〉が効いている間に、今度はウィンドフェアリーが使っている〈ウィンドウォール〉を、付与効果解除魔法の〈ネウトル・アール〉で剥がしてしまう。

 これで、ウィンドフェアリーは殴り放題になった。

「よし――レアンヌさん、いくよ!」

「了解、さんざん手古摺らせてくれたわね」

「今度はこっちの番よ、覚悟なさい!」

 最終的に、レアンヌさんが吐き捨てたようにさんざん手古摺らされたものの、私達の方がどちらかといえばかなり格上だったため、かかった手間ひまに反して勝負はあっけなくついたのであった。

 はぁ……ウィンドフェアリー、やっぱり厄介さに磨きがかかってた。それにアイビーフェアリー、植物魔法を使うフェアリー種にはこれまでも何度か遭遇して敵対したことはあったけど、ここまで厄介なのはいなかった。

 やっぱりこのイベントフィールドのフェアリーたち、通常フィールドのそれらと一緒と思ってかかると大苦戦させられる。

 あらためて、気を引き締めないと。


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