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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
第二回公式イベント
123/145

119.〈契約〉して預かってもらおう


 その後も、私達はMPや持ち込んだポーション類が許す限り探索を続け、それなりに素材を集めるに至った。

 ただ、あくまでもそれなりだ。

 仮拠点に戻って、ポーション類の調合をしないといけないことを考えると、どうしてもリアルでの夕食までにある程度の時間を残しておく必要があった

 幸いにも、このイベントのフィールド内では体感時間が二倍に引き延ばされている。

 つまり、リアルで17時くらいまでであれば十分に探索は可能だった。

 余裕を見積もって、リアル準拠で16時半ごろまでには戻れるように動いたから、結構な量のポーションは作れるはずだ。

 ――問題は、私達がログアウトしている間のポーションの保管方法だ。

 この件について何かいい方法がないか、ゆーかさん達から誘いを受けた後からずっと考えていたのだけれど、ここへきて唐突にその答えに到達した。

 きわめて他力本願極まりない手段だけど――私達で管理しきれないなら、他のプレイヤーに頼めばいいではないか、という話だ。

 そもそもがMMORPGなのだ。自分たちの力で不可能なら、普通に周囲に助けを求めてもいいのだ。

 ゆーかさん達にそのことを提案してみたところ、ゆーかさんとれあちぃずさんは肯定的だったものの、レアンヌさんはどちらかといえば否定的だった。

「いろいろ考えてもらっているのに対してこういうのはちょっと失礼なのはわかってますけど、私はちょっと心配です」

「心配っていうのは?」

「あ~……そういえば、前やってたゲームで、レアンヌは信頼してたプレイヤーに預けてた道具持ち逃げされたことがあったっけ」

「うん……」

 あぁ……そういうことがあったんだ。

 ゆーかさん達が言うには、レアンヌさんが持ち逃げされたアイテムというのが結構な貴重品らしく、それ以来レアンヌさんは他者にものを預けることに警戒心を抱くようになったという。

 その点に関してはゆーかさんも同じらしいが、今回は背に腹は代えられない、という理由で同意側に回ったらしい。

 確かに、持ち逃げされる可能性は否めない。そう言われてしまえば、私にはどうすることもできなくなってしまう。

 ではどうしたらいいのか。

 このことに対して具体案を出してくれたのは、ゆーかさんの世話役担当の神官こと、セレナさんだ。

「ゆーか様はともかくとして。ハンナ様とレアンヌ様、それにれあちぃず様は貴族なのですから、爵位スキルか貴族スキルか……どちらかのスキルに〈下知(げち)〉というアビリティがあったはずです。それで彼らに頼んでみてはいかがでしょう」

 〈下知〉のアビリティかぁ。

 確かに、それならかなりの抑止力にはなるだろうけど――あれ、他のプレイヤーに強要するみたいで、あまり使いたくないんだよねぇ。


〈下知〉分類:交渉行為補助/習得:爵位系

効果1:下知、効果2:拒絶の代償

>効果1:下知

 PCまたはNPCとシステムによる制約が絡む契約を結ぶ。

 通常の契約系スキルよりも効果が適用される範囲が広く、結果として強制力が強くなっているが、自身よりも相手の貴族ランクが低いか、相手が貴族ランクを持っていない場合でないとこのアビリティを使用できない。

 代価にはゲームマネー、アイテム、交換条件のほか、運営公式のイベント中にはイベントポイントなども設定可能。

>効果2:拒絶の代償

 このアビリティを使用して提示した契約は、システムAIの審査が通った状態で半受注状態となり、無償での受注拒否はできない。受注拒否をする場合にはアビリティ使用者が受領できる代価を提示する必要がある。また契約相手は契約内容の審査結果のほか、それまでに行ってきた犯罪行為の頻度、悪質性の高さにより、強制受注となる場合もある。

 受注拒否の代価として提示されたものは、AIによる審査の後、アビリティ使用者が受領するか否かを3回まで選択できる。4回目に提示された受注拒否の代価は、必ず受領扱いとなる。

>効果3:高貴なる誓約

 :

 :


 このアビリティ自体は、【淑女(公爵令嬢)】の初期アビリティの一つとして習得済みとなっていたものだ。

 システムが絡むというだけあって、使用する際にはAIによる内容の審査も行われるし、契約内容に『公共秩序に反する行為をしてはならない。契約の実効範囲は、公共秩序に反しない程度に限る』という条項が必ず自動で盛り込まれることになっているらしいから、いわゆる犯罪行為の強要目的での悪用対策はされているみたいだけど――。

 ただ、そうでなければ基本的に、AIの審査が通り次第、相手にとっては拒否し辛い状況となってしまい、結果として強要してしまう形になってしまうのだ。

 私としてはそう言うことはあまりしたいとは思わないし、正直使うようなことも起きないだろうと思って、今までないものとして扱ってきたのだけど……。

「持ち逃げを心配なさるくらいならば、最初からできないように縛りを設けてしまうのもよいかと思います。無論、相応の代価を提示する必要はありますが」

「う~ん……なるほどね」

「例えば、です。作ったポーションの一部を無償で提供する等、このような状況ならば何にも勝る報酬となり得ます。下知といえば聞こえは悪いですが、交渉の一種と考えれば似たようなものです」

 単純に、持ち逃げがシステム的にどの程度許されるかどうか。そこしか違わないのなら、問題ない。というようなことをジェシカさんに説き伏せられ、私は少し考えてから探索についてきてくれたパーティの人達に視線を向ける。

「…………でも、やっぱりちょっと〈下知〉まで使うのは気が引けるなぁ」

 やっぱり、私には使えそうもないな。

 シンプルに、彼らにポーションを一時預かっていてもらう。そのお礼として、預かってもらったポーションの一部をそのまま譲り渡す。

 それで問題はないはずだろう。

 私がそう主張したところ、それならせめてワンランク下のアビリティに当たる〈契約〉で、最低限の制限はかけておいてほしいと言われた。

 レアンヌさん的には、やはりこのような状況なので、少しでもポーション類の持ち逃げ対策は徹底したいとのこと。

 まぁ、そのあたりが妥協点かな。

 肝心の契約内容としては、こうすればいいだろうか。


・私達が提示したアイテム類の一時預かり。

・イベント中は、可能な限りユニットを組む。

・代価として、提示したアイテム群の一部を譲渡する。

・原則、預けるタイミングは私達がログアウトした時。返還のタイミングはその後、次に合流したタイミング。


 こんなところかな。

 なお、〈契約〉でも、破ればシステム的なペナルティはある。

 それでも、〈下知〉ほどではないから大分ましだろうし――店持ち生産職を中心に、広く知られているアビリティだから、それほど警戒されることもないでしょ。

 ちなみに〈契約〉スキルは、【社交】スキルを少し成長させると取得できるアビリティ。

 【社交】スキル自体の表面的なパッシブ効果は社交界関連全振りなんだけど。成長させると【交渉】スキルとか【歓談】スキルとか、いろいろ『らしい』スキルに派生していくからか、生産系クラスの『店持ち』になると、【社交】スキルが自動取得対象になるんだよね。

 【社交】スキル自体は、NPCと接していれば少しずつ成長していくから、割と早い段階で(契約)アビリティの存在には気づく。

 〈契約〉スキルが広く知られている理由としては、それが主な要因だ。

「さて、と。それじゃ、彼らにポーション預かっててもらえないかどうか、頼んでみるね」

「うん、わかった」

 ゆーかさん達にそう断って、私は先程探索についてきてくれたパーティの元へ歩いていった。

 調合三昧をしていたら、いつの間にかリアル時刻表示は18時を示していた。

 彼らは彼らで、焚火を囲いながら侍女さん達が作ってくれていた軽食類を頬張って、時間経過で再び減ってしまった満腹度を回復させていた。

 私も、彼らとの交渉が終わったら食べないとね。さてと――

「ねぇ、ちょっといいかな」

「うん? あ、ハンナちゃん。どうかしたかい?」

「えぇ、ちょっとこの後のことでお願いしたいことがあるんだけど、いいかな」

「お願い? こんなイベントの最中だし、俺達にできることなら協力するけど……」

「ありがとう。それで、協力してほしいことなんだけど……」

 私は、私達のパーティメンバー全員が貴族令嬢関連か聖女見習いというユニークスキル持ちのみで構成されている点、そのおかげでこのイベント中は厳しい制約が課されている点を彼らに伝えた。

 そのうえで、作ったばかりのポーションを預かってほしいということも。

「う~ん、ハンナちゃん以外のメンバーの服も、どことなくそれっぽい感じだったからもしかしたらと思ったけど、まさかPレアユニーク持ちが一堂に会する場面に出くわすとはな」

「一ゲーマーとしては、羨望半分、憐憫半分っていう感じだけどな。つか、制限厳しすぎるだろ……」

「あはは……まぁ、制限自体は、全プレイヤー共通のものだから、特別不公平っていうわけでもないんだけどさ……」

 ほんと、所持品にまつわる制約に関しては、制限同士が悪い方向にかみ合ってしまった結果、より厳しい条件になったというだけで。

「んで、俺達に頼みたいことっていうのが、ハンナちゃん達がログアウトしている間のポーションの管理――というか、預かってればいいってだけなんだよな」

「うん。そうなんだけどね……。ただ、作ったポーションは、私達にとっても生命線だし、かといってあなた達も欲しいといえばほしいものに違いはないでしょう?」

「まあなぁ。持参品制限のおかげで、満足に回復アイテムもない状態になっちまってるから、早いとこ生産職と交渉したいところではあったな」

「そう。だからこその提案なんだけど――イベント最終日までの間、私達とユニットを組んでもらいたいの。その上で、私達がログアウトするときに、一旦所持品を預かってもらえないかしら。報酬は、もちろんポーション類の無償供給とさせてもらうわ。もちろん、一生産職として、〈契約〉のアビリティ付きで約束させてもらうわ。あとは、戦闘とかで手に入るイベントポイントはすべてあなた達のもの。それでどう?」

「ポーション類に加えて、イベントポイントもか? そこまでいくと、何か裏があるんじゃないかって思っちまうんだが……」

 ちょっとだけ、顔に警戒感がにじみ出した。

 う~ん、イベントポイントまでは少々盛り込み過ぎたかな。

 いやでも、私達の中での話し合いでも、イベントポイントランキングへの参画は絶望的っていう結論がすでに出ているし、せっかく手に入ったポイントをみすみす無駄にするくらいなら、少しでも役立てられそうな人に渡してしまいたい、という気持ちしかないんだよね。

「イベントポイントに関しては、そもそも今回のイベントの主旨からして、私達はランキングへの参加が絶望的だもの。そんな私達がイベントポイントを持て余すくらいなら、あなた達に渡して、ポイントランキングの足しにしてもらった方が気持ち的にも助かるってだけよ」

 別に他意があってイベントポイントも〈契約〉の報酬に回しているわけではないことを伝えると、そこでようやく彼らは警戒を解いてくれた。

「そういう事情があるなら、イベントポイントもありがたく受け取らせてもらうよ」

「ありがとう。それじゃ、取引成立ってことでいいのかな」

 いいながら、私は用意しておいた『契約書』ウインドウを彼らのリーダーである、アギトさんに差し出した。

 アギトさんは、AIの審査済みの印が付いたウインドウを確かめてから、その下部にある『同意』ボタンにタップした。

「ああ。にしても、貴族系のユニーククラスっていろいろ制限多いのな。なんつーか、同情するしかねぇや――〈契約〉に同意、と。」

「いろいろ面白いところもあるんだけどね。NPCからの支援も手厚いから、そのあたりでうまいこと相殺されてるし――ん、確認、と」

 最初はどうなることかと思ったのは間違いないんだけどね。

 専用のシナリオとかが始まったりなんかしてみると、これが意外とはまり込んでしまうのだ。

 アギトさんが言うように、この手の持ち込み制限があるイベントでは、かなりの不利を強いられてしまうのも事実なんだけどね。



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