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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
共同研究の準備開始
120/145

116.公式イベントまでの一週間


 三人との非公式のお茶会が終了し、私は王都邸の自室でふぅ、と息を吐いた。

 今日一日で、ゲーム内でやっておくべきこと、やらないといけないことの優先順位が私の中でがらりと入れ替わってしまった。

 ドリスさんからの頼まれごともあるけど、それ以上に公式イベントという眼前の一大イベント関連でやっておかないといけないことができた、という感じだ。

「ハンナ様。少しよろしいでしょうか」

「あ、はいサイファさん。なんでしょう」

「まずは彼女達との会談、お疲れさまでした。非公式ということを考慮すれば、十分及第点と言えるでしょう。以後もヴェグガナルデ公爵家の令嬢らしくあれるよう、励んでいただければと存じ上げます」

「ありがとうございます」

 まぁ、結構砕けた感じの雰囲気だったけど、あれくらいでも問題ないよね。

 さて、サイファさんにとって、その話は本題ではなかったようで、改まって聞きたいことが山ほどある、といった感じで続けてこう聞いてきた。

「ハンナ様、先ほどは部外者がたびたび脇から口をはさむのも失礼かと思い、保留としていましたが、いろいろと聞きたいことがあります。まず…………公式イベント、というのがなんであるかを、まずは知っておきたいのですがよろしいでしょうか」

 もしかしなくても、おそらくは私にも関係がありそうなことでしょうし、と胸に手を当てて、サイファさんは詳しい事情説明を求めると私に言ってきた。

「そう、ですね……」

 とりあえず、公式イベントがなんであるか、というのをNPCの人達はほとんど知らないことがこれでわかった。

 ということは、まずは公式イベントというのがなんであるかというのを彼女にわかりやすいように説明したうえで、改めて先程の話し合いのことについて話さないといけないだろう。

「公式イベントというのは、そうですね……いうなれば、私達――異邦人にとっての祭典のようなものですね」

 まぁ、あながち間違ってはいない表現だとは思うけど。公式イベントの時は、その内容が何であれ、また規模がどうであれ大体はお祭り騒ぎになるんだし。……プレイヤーも、そして多分運営も。

「異邦人にとっての祭典、と……。ということは、私達にとってはそうではないと?」

「そうかもしれません。例えば、先月におきた、邪教崇拝者の暗躍に端を発したフェアルターレ各地における騒動や、タ・ロースの騒ぎ。あれも、私達異邦人にとっては、運営――この世界の神のようなものですね。そう言った存在から事態の収拾に関して、活躍すればするほど多くの報酬をもらえる、という祭典のようなものでしたし」

「なるほど……あの時は妙に異邦人の者達が浮足立っていましたが、そういった背景があったのですね。そして、今回もその兆しがあると……」

「そうなります」

 私がサイファさんに説明していると、横合いから今度はミリスさんが口をはさんできた。

「私も一つ気になったことがあったのですが――よろしいでしょうか」

「うん、大丈夫だよ」

「ありがとうございます。今回再び起こるという、その異邦人の祭典ですか? それが行われる場所についてなのですが――先ほどのハンナ様たちのお話を聞いていた限りだと、まるでハンナ様がこちらの世界にいらっしゃった初日にあったような、特別な異空間に招かれてそこで行われる、というような印象を受けたのですが……それで間違いはないでしょうか」

「その通りだね」

 これに関しては、れあちぃずさん達との会話の中でも出した話なので、別にそうであると認識されていてもおかしくはない話だ。だから、素直に頷いておいた。

「ただ、そのことで一つだけ問題になっていることがあるの。いつもは、ミリスさんにポーターの役割を担ってもらって、適宜探索地に持って行ってもらった道具を使ってもらってたと思うんだけど……」

「それが不可能になる、ということですね。そのことも確か、ハンナ様からお三方にご説明されていましたよね」

「そうですね」

 私がサイファさんに頷きを返すと、サイファさんは少し考えて、こう言ってきた。

「私は、一つだけ気がかりなことがありますね」

「気がかり……あ、矢のことですか」

「はい。私の主力武器は弓なので、矢がなくなると魔法に耐性のあるモンスターには対抗できなくなってしまいます。現地で補給できれば良いのですが……」

 確かに……あれ? でも確か――スタック機能がないクイックアクセス欄だったけど、攻略Wi〇iの情報によれば弓に使う矢は例外で、9999本、または9999セット(1セットは2本~50本。プレイヤーの任意で束ねられる)までスタックで来たはずだ。

 となると――多分、問題はないと思う。

 その旨をサイファさんに伝えたら、とりあえずはほっとした様子で、それなら私も後学と見識を広げるために参加させてもらいます、と参加を表明してくれた。

 うん、サイファさんが積極的に参加を表明してくれるなら何よりだ。一応、サイファさんは契約上ガヴァネスなので、こういったケースでは事前に交渉が必要となってくる。

 ヒューマンやヒューマノイドなど、知性の高い種族のNPCを街の外などで召喚する際には、契約内容に探索地への同行が含まれていない場合、契約外の要求として事前の承諾が必要なのだ。

 なんにせよ、サイファさんが参加してくれるなら百人力である。

 私もレベルが結構上がってきているとはいえ、サイファさんはレベルも、そして戦闘系のクラスも多分、現環境では最強格だろうし。きっと、無双してくれること間違いなしだろう。

 私はそれから、れあちぃずさんとレアンヌさんのパワーレベリングもすることになったことを伝えた。

 するとサイファさんは、そちらでももしかしたら役に立てることがあるかもしれない、と考えるようなそぶりを見せて、私の部屋を出ていくのであった。

「なんだろう」

「さぁ……私にはわかりかねますが……一つだけ考えられる点があるとすれば――」

 ミリスさんの考えを聞いて、私は思わずさすがはサイファさんだ、と思わずにはいられなかった。

 

 その翌日から、私は開いている時間を使って公式イベントに向けた準備を手伝うことになった。

 ちなみに私自身の準備はほとんどすることがない。

 ポーションショップをやっているので消耗品の確保はする必要性がなく、せいぜいが予備の分の携行用簡易調合器具――イベント専用フィールドでミリスさんが使う用の『駆け出しの調合器具』を用意する必要がある程度。

 駆け出しの調合器具自体、今の私なら問題なく即金で買えるものなので、すぐに準備は整ってしまった。

 なので、残りの期間のうち、令嬢教育に充てられる時間を除いた時間は、ゆーかさんと一緒にれあちぃずさん、そしてリアンヌさんのパワーレベリングをすることになった。

 まぁ、そうはいってもクラスレベルによって限界PCレベルが決まってしまうこのゲーム、先輩プレイヤーによるパワーレベリングも、そう簡単にできるようなものではない。ある程度は、特に最初の内は自力でどうにかしないといけない仕様になっているのだ。

 クラスレベルに関して私にできることといえば、従者と一緒に行動したり戦闘したりすることでもクラス経験値は手に入るから、こちらはパワーレベリングでも問題はない。私にとってちょうどいいくらいの場所に連れて行って、クラスレベルの成長を少しでも促進させてあげることは十分に可能だ。

 あと手っ取り早いのは、また私達四人で集まって擬似的な『お茶会』を開くことなんだけど――非公式のお茶会ではクラスレベル経験値はあまり入らず、正式なお茶会をするにはまだ早いという彼女たちのシャペロン役にストップをかけられているため実行不能。

 というかそもそもの問題点として、現状二人の二度目のランクアップがかなわず、クラスレベルの限界値が30から60に引き上げられなかったら、二人のPCレベルも30で打ち止めのまま。

 残りの準備期間からして、そのまま公式イベントに参加するしかないだろうという状況だ。

 二人の二度目のランクアップ条件は、私の時と同じくガヴァネス役を担っているNPCの印象値を一定以上にすること。

 二人の場合は私の時よりも若干ゆるく、印象値はれあちぃずさんが-75%から、リアンヌさんが-60%からのスタート。

 私の時は-90%だったことを考えると、れあちぃずさんはともかく、リアンヌさんはそれなりにゆるいといえるだろう。

 多分、貴族ランクによってそのあたりは変わってくるんだろうね。

 なお、今の二人に対するそれぞれのガヴァネスの印象値は、れあちぃずさんが-30%。リアンヌさんが-15%。れあちぃずさんは最低合格基準まであと少しという感じだが、次の判定時期が水曜日ということを考えると、ちょっとばかり急ぎ足で引き上げる必要があった。

 ということで、水曜日まではヴェグガナルデ家の王都邸に集まってもらって、二人にはガヴァネス役のNPCさんも同伴の上で再度非公式のお茶会を開くことにした。

 印象値って、好感度と似た感じの数値だから、ガヴァネスの人と仲良くしていれば、実は結構稼げるんだよね。

 そんなのでいいのか、という疑問はあるにはあるんだけど――まぁ、細かいことは気にしない。

 そうやって印象値稼ぎをした結果――レアンヌさんはもちろん、れあちぃずさんもランクアップ条件を達成することに成功し、二人はランクアップによりクラスレベルの限界値が上昇。

 それに伴い、PCレベルも再びパワーレベリングすることが可能になった。

 とはいえ、う~ん……時間が足りない。木曜日は私の令嬢教育の日に割り当てられているから時間も取れないし……。

 最終的に、レベリングは金曜日までお預けとなってしまった。

 イベントの開始日が土曜日の正午だから、金曜日の夕食後の数時間でみっちりパワーレベリングしたとしても、レベル上げができたとしても数レベルがいいところだろう。

 とはいえ、何もやらないよりはやった方がいいのもまた事実。というわけで現在、私はれあちぃずさんとレアンヌさんのパワーレベリングのため、私はゆーかさんと二手に分かれて拠点狩りをしている。

 ゆーかさんは、レアンヌさんと一緒にとりあえず王都郊外にある遺跡群に向かうらしい。

 フェアルタ旧都遺構にある地下遺構。昔の地下通路がそのまま遺跡として残ったらしいその地下遺構は、レイスをはじめとするスピリットタイプや、グールに代表されるゾンビタイプのアンデッド系モンスターが出てくるんだとか。

 そんな場所なら、確かにゆーかさんの土壇場だろう。彼女は聖女(見習い)ということで、最初期の召喚対象に聖騎士(こちらも見習い)が付いているそうなので、防御面では鉄壁だそうだ。……その代わり重装備装備で鈍重なので、万が一脇を抜けられた際には自力でどうにか身を守らないといけないらしいけど。

 なお、ゆーかさん達三人のステータスは、大体次の通り。

 まず第一陣勢でクラス名『フェアルターレの聖女見習い』のゆーかさん。ベースフィジカルはランダム設定が悪い方向に働いたらしく、MP偏重のかなり歪なステータス。聖女見習いでもらえるフィジカルポイントも晩期大成型らしく、最初はかなり成長が乏しかったそうなので、フィジカルのビルドにかなり苦心したそうだ。

 次に『レクィアード公爵令嬢』のれあちぃずさん。うまい具合に肉弾戦偏重に割り振られてくれたおかげで、これまでは遭遇したモンスターに真っ向勝負を仕掛けていたらしい。ただ、私と同じように通常スキルで魔法系スキルも引き当てたようなので、魔法系のステータスも育てているらしい。

 最後に『オルキス伯爵令嬢』のレアンヌさん。ベースフィジカルへの割り振りは例によってランダム設定で、若干悪い方向に働いたものの、バランスが取れた初期値だったらしい。ただ、ベースフィジカルの伸び率が非常に悩ましい。ただでさえ伸びにくい戦闘系ステータスなのに、私やれあちぃずさんと違い、レアンヌさんの場合は魔法系ステータスまでも軒並み1/Lvという貧弱振り(ちなみに私達の場合は2/Lvと若干マシ、といった具合だ)。

 その代わりTLK値とMND値が両方とも6と、私よりも伸び率がいい。オルキス伯爵家自体、文官系の貴族のため戦闘とは縁遠い家らしいので、それを反映したのかな。

 もっとも、冒険をしたくてファルオンを始めたレアンヌさんにとっては、あまりうれしくないことだっただろうけどね。

 スキルは、斥候系のスキルに恵まれたそうなので、そっち方面で頑張っていくとのことだ。

 なんにせよ、前衛役を担えるレアンヌさんに、後衛役のゆーかさん。私は今はどちらかといえば後衛だけど、鉄扇術もそれなりに使っているからいざとなれば前衛にも立てるので遊撃ともいえるか。

 今はとりあえず、レアンヌさんのレベリングのために元々行く予定だった、ヴェグガノース樹海(東)にあるエルフ族の里へ向かうための陸路へとやってきていた。

 ヴェグガノース樹海(東)へ向かうための陸路は、結構険しいことが明らかにされている。

 まず、東の国境の街ロレルナークから川沿いに南下していき、川から少し離れたところにある洞窟へと入っていく。

 洞窟内は『ロレルナークの自然迷宮』と呼ばれる巨大な空洞になっており、専用の地下マップによってさらに複数に渡ってエリア分けされている。

 さすがに今はれあちぃずさんを連れている状態だし、私もこの辺りが適正レベルなのであまり奥まではいけない。

 ということで、今私達がいるのはロレルナークの自然迷宮の最初のエリア、『ロレルナーク地下空洞浅層』と名付けられているエリアだ。

「まずっ、抜かれた、ハンナ様申し訳ありません!」

「おっけー! せいっ、やぁっ!」

 前衛に立っているヴィータさんとアリスティナさんをすり抜けて私のところまでやってきた、土属性のフェアリー種の仲間であるケイヴフェアリーを扇子で弾く。

 ケイヴフェアリーは特別魔法攻撃を放ってこない代わりにノックバック効果に耐性を持っており、通常の攻撃ではほとんど体勢を崩さずにそのままアクションを取ってくる。

 幸い、私の元まで突進してきたので、そのまま弾いたらそれだけでカウンター扱いでノックバックボーナスが発生してしまった。

 武器の系統別共通ボーナスの一つである『カウンターノックバックボーナス』はそもそもカウンター時のノックバックに限定し、相手のノックバック耐性を無視するので、物理攻撃主体のケイヴフェアリーはパリィボーナスでカウンターし放題の私にとって、雑魚同然だった。

「すっご……」

「まぁ、武器系統別共通ボーナスがあってこその賜物だよ。基本的に、武器系統別ボーナスは、武器スキルとかみ合って相乗効果を生み出すものがほとんどだからね。それじゃ、うまい具合に凍結入ったし、頑張って倒してみて」

「あ、うん……」

 扇系のスキルは、【魔鉄扇】とその派生スキルがどうかは知らないけど、基本的にそのプレイヤーをカウンター盾に仕立て上げるような感じになっている。

 クラスが『令嬢』ということで、貴族令嬢の惰弱さ加減を表現するために大元の耐久性が低く設定されているから不向きではあるけど、スキルと武器ボーナスだけで考えると、実のところ『令嬢』系のクラスはタンカーとしてすごく優秀なのである。――あくまでも、スキルだけに目を向ければ、の話なんだけどね。

「私、通常スキルで槍系のスキル引き当てたからそれでやってきたけどさ、扇子ってこうしてみてると全然ネタ武器じゃないんだね」

 正直、ちょっと勘違いしてた、と感心するような目で見つめてくるれあちぃずさん。まぁ、確かにぱっと見ではわかりづらい武器ではあるのよね、本当に。

「まぁ、私はまだNPCに弟子入りしてないから基礎だけだけど、師弟システムで『流派限定アビリティ』を取得出来たら、またすごいことになりそうな気はするかなぁ」

「あはは……その時は私もおこぼれにあずからせてもらおうかな……」

「槍はいいの?」

「正直、攻撃面では問題ないんだけど、取り回しがねぇ。あと、間合いを抜かれて取りつかれると結局被ダメが大きくなって、大変」

「あぁ……」

 その辺りはもう、槍使いの宿命としか言いようがないでしょ。

 まぁなんであれ、れあちぃずさんの成長に繋がったみたいで、何よりだ。


 ――そうしてこのエリアでれあちぃずさんのパワーレベリングを行った結果、とりあえず10レベル弱は稼ぐことができた。

 クラスレベルに関してはもうほんと、従者と一緒に行動して手に入るクラス経験値、特に従者と一緒に戦って手に入る経験値でどうにかするしかなかったわけだけれど――結果として、それでうまくいったからまぁよし、といったところかな。

 今日の夜数時間だとこれくらいが限度だろうけど――できることはやったし、後は明日以降、なるようになるでしょう。

 最後にもう一度ゆーかさん達と落ち合って、明日の公式イベントに参加する際の、集合場所や時間などを確認してから、私達はそれぞれログアウトした。



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