115.公式イベントに向けてのお誘い
「さて、自己紹介も済んだことですし、そろそろ本題に入っていきましょうか。皆さん、特にれあちぃずさんにお聞きしたいのだけれど、今日わたしにメッセージを送ってまで会いに来てくれた理由って、何かあったりします?」
「えっと、理由らしい理由といえば、一つだけしかないんですけど……」
「よろしければ、聞かせてくれませんか?」
「はい。大丈夫です」
三人は、一度顔を見合わせると、意を決したように私と接触を図った理由を話してくれた。
ただし、れあちぃずさんではなく、ゆーかさんが、だけど。
まず、ゆーかさんが言うには、三人は実は同じ高校に通う級友同士だったんだとか。
とはいえ、元々三人は別のゲームでチームを組んでいたらしいのだけど。
ことの発端は、ゆーかさんがファルオンのβテスターとして当選したことらしい(何それ羨ましいんだけど)。それを機に、別ゲームで組んでいたチームからゆーかさんだけが離脱し、元々エンジョイ勢だったらしい二人はそのままそのゲームを継続して遊んでいたみたいなんだけど……。
ゆーかさんがβテスターに当選したり、第一陣勢として参加したり、ユニーククラスを獲得したりといろんな活躍をしているのを見聞きして、最初は別ゲームをやっていたのだけれど、夏休みの公式イベントが終わったあたりの時期に、触発されるようにしてファルオンを開始したという。
それで、どうせならゆーかさんと同じようにユニーククラスでスタートしたいのだけどどうにかして取得しやすくする方法はないのか、という方法を探していた時に、アスミさんの配信動画を発見、都合よくその方法を見出すことに成功した(おそらくアスミさんがファルオンプレイ開始時にやってた、ランダム設定でスタート企画のことだろう)。
そんな感じで、首尾よくユニーククラスを引き当ててファルオンをスタートすることはできた。当初は貴族令嬢という普通のゲームにはないようなユニーククラスを引き当ててしまったことで戸惑ったこともあったけど、どうにか軌道に乗ることもできた。ここまではよかったんだけど――
今度行われる公式イベントが発表された昨日、順風満帆にファルオンをプレイできていた二人にも、ついに貴族令嬢系ユニーククラスが抱えるハンデが牙を剥く時が来たらしい。
ついでに言うと、ゆーかさんもまったく同じハンデを抱えているという。まぁ、言うて聖女だしねぇ。頷けなくもない話ではある。
――それは、私がその公式イベントの告知をナビさんから聞いた後、その詳細をリアルで改めて調べた際に思ったのと、奇しくも同じ悩みだった。
今回の公式イベントは、イベント専用フィールドに転移しての、サバイバルイベント。
テーマがサバイバルということで、持ち物は全員等しく、クイックアクセス欄に収めることができる範囲内――
クイックアクセス欄は、スタック機能なしの枠が30個。つまり、消費アイテムだろうが装備品だろうが生産用キットだろうが、どんなものであれ合計30個までに持ち込むアイテムを絞らなければならない。
その辺りはまぁ、私達にとっては常にかけられている制限なので、別に問題として提起する点ではないのだけれど――問題なのは、その制限に、召喚対象となっているNPCも引っかかってしまうという点。
そして、ログアウト時には次にログインする時まで、通常フィールドの元居た場所に、召喚したNPCが一旦送還されてしまうという点の二つ。
例えば私で言えば、一つ目の問題点として、先にミリスさんに必要そうなアイテムを所持しておいてもらい、イベント専用フィールドに転移した後で彼女を呼ぶ――そうすることにより、持ち込み制限をすり抜ける、ということが不可能になってしまうということである。
できれば三人で参加したい、と考えてはいたものの、三人ともアイテムのストレージは私と同じレベルで制限がかけられている始末。そしてタイプ的にも、貴族令嬢というユニーククラスをもらってしまったれあちぃずさんとリアンヌさんはもちろんのこと、聖女のゆーかさんも前衛で戦えるようなタイプではない。
一応、三人とも従者を召喚できるスキルを持っているため、それでも何とか戦えないことはないのだけれど――ここで浮上してくるのが、二つ目の問題点だ。
召喚したNPCは、私達がログアウトすると通常のフィールドへと送還され、契約内容に沿った各々の日常生活に戻っていってしまう。
たとえ私がイベント専用フィールドでポーションをたくさん作りまくって、それをミリスさんに持っていてもらったとしても、食事休憩やリアルで就寝する時などはどうしてもログアウトしなければならす、そうなればミリスさんに持っていてもらった分はすべて通常フィールドにお持ち帰りされてしまうことになる。
まぁ、その日ごとにポーションを調合していけばいいだけの話なのだけれど――かなり行動が制限されてしまうのは否めない。
要点を纏めれば、私達は補給物資の保管という観点において、今回の公式イベントでは致命的なハンデを背負うことになるのである。
もちろん、致命的なハンデはそれだけに収まらないが。
「三人の申し出は大体わかりました。私としても、同志が増えるのであればそれはとてもありがたいこと。――ただ、今回の公式イベント、詳細を見ると報酬はイベント専用フィールドで採取や討伐、宝箱などで入手できるアイテム以外では、ランキング報酬しかないようです。そうなると、やはり私達には相当不利なイベントであることに変わりはありません。その辺りは、わかっていますか?」
ランキングのポイントは、主にモンスターを倒して入手できるほか、集めたアイテムによっても加算される仕組みになっているらしい。
モンスターを倒して手に入るポイントは、当然ながら強いモンスターほど多量のポイントを一気に入手できる。ただそれは、モンスター自体のポイントと、そのモンスターがドロップした素材によるポイント。その双方が揃ってのことである。
つまり、最終的な比重はポイントの高いアイテムをどれだけ多く集めることができたか。それが勝敗を分けることになる。
その点、私達はイベント専用フィールドに持ち込めるアイテムのみならず、常に持ち運べるアイテムがクイックアクセス欄に収まる30個までと制限されてしまっている。
そしてナビさんから教えてもらったように、ミリスさんなど、召喚したNPCに預けていると、ログアウトした時などに入手したアイテムを、ランキングポイントも含めてすべて『お持ち帰り』されてしまう。
このシステムが非常にいやらしく、『お持ち帰り』されたアイテムは一方通行なのだ。つまり――お持ち帰りされたアイテムのランキングポイントは、計算外となってしまう。
私はそういう事情があるから完全にイベント専用フィールドでしか入手できないような、イベント限定素材を入手するためのイベントと割り切っている。だから、そうなっても別に問題視はしていない。
けど、二人はどうだろうか。
生産系スキルを持つクラスならともかく、そうでないなら無理して参加しても却ってつまらなくなってしまうようなイベントになりかねない。
その辺りは確認しておく必要があった。
「えっと……」
「私達は、自力でMPを回復できるポーションを作れないので、Mtn.ハンナさんとチームを組めたらいいな、と考えて接触を図ったんですけど……」
「それとランキングと、何か関係でもあるんでしょうか……?」
あぁ、やっぱり理解できてないのか……。
もうちょっと、一押ししておく必要があるかな。
「それは理解しました。ミリスさんと一緒に作れば、数を揃えるのにそれほど時間はかからないでしょうし。――問題なのは、私達には事実上、ランキングへの参加権がないということです」
私はもう一度、ランキングへの支障を、今度は私達が抱える問題も絡めてかいつまんで説明した。
それでようやっと三人は理解できたらしく、ハッとした表情でそこまで考えていなかったと言ってきた。
「そっか…………」
「私達、アイテムを集めても専用フィールドでは保管できないから、モンスターの討伐ポイントだけで勝負しないといけないんですね……」
「侍女さん達にアイテム預けておいても、ログアウト時に持ち帰られてしまうんじゃあどうしようもないですね……」
そういうことです、と私は頷いて、それから再度三人に意思確認をした。
本当に参加するのか、それとも見送って通常フィールドでの冒険に専念するのか。
一つの決断をしないといけないだろう。
三人は、しばらくの間話し合ったが、結局のところイベントに参加する意思は曲げないらしく。
三人そろって、私に向かって頭を下げるのであった。
「私達は、それでも問題ありません。ランキング報酬が狙えなくなってしまうのは、少しだけ惜しい気がしなくもないですけど――専用アイテムは、何も素材だけとは限りませんからね」
「宝探しゲームだと思って参加すれば、むしろランキングなんておまけみたいなものでしょう」
「だからMtn.ハンナさん。Mtn.ハンナさんも、私達と一緒に次の公式イベントに、参加してくれませんか?」
「わかりました。それなら、私も協力させていただきますね」
なんだかんだで、プレイヤーが私一人だけ、従者NPCが召喚可能とはいえソロで公式イベントに参加するのはちょっと寂しいものがあったのだ。
それから公式イベント期間中のことや、それまでの準備のことに関していろいろな取り決めをしていって、今回の私達のお茶会は終了したのであった。




