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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
共同研究の準備開始
118/145

114.他貴族系ユニーククラス持ちとのお茶会


 とりあえず、午後は急な来客の予定が入ってしまったものの、午前中なら空いているのでその間にみっちりと淑女教育を叩き込まれることになった。

 ちなみに今やっているのはフェアルターレ王国内の各地域に関する座学である。

 今日はちょうどこのあとやってくる予定となっているレクィアード公爵領――れあちぃずさんが入れ替わることになったNPCの実家の家がある地方に関する内容だったので、ちょうどいいといえばちょうどいいタイミングだとも言えただろう。

 しばらく座学の時間が続き、やがて昼食の時間になってリアルへと一旦ログアウトすることに。

 鈴は今日は一日を通して出かけているので、私は一人で寂しくお昼ご飯を食べて再度ログインをした。

 

 昨日と同じように、ミリスさんやサイファさんと共に客人を迎える準備をする。

 といっても、今回は特に何か目的のある話ではないというか、相手の出方次第なのでお茶菓子の準備以外は特に何もすることはない。

 待ち合わせの時間までそれなりに時間があったので、余った時間は午前中に続き王国内各地のことに関する座学をサイファさんから受けることになった。

 そうしてミリスさんからフェアルターレ国内のことについてあれこれ学んでいると、直に待ち合わせの時間が迫ってくる。

 私にメッセージを送ってきたれあちぃずさんの到着のお知らせが来たのは、約束の時間の15分くらい前のことだった。

「さて、待ち人が来たみたいだし、応接室に向かいましょうか」

「そうですね。――ハンナ様、念のため入室してしばらくの間は、淑女らしい振舞いをなさるのがよろしいかと」

「えっと、サイファさんがそう言うならそうするけど……もしかして、れあちぃずさんに付いてるお目付け役の人のことを考慮してですか?」

 というか、考えられる理由はそれしかないのだけれど。

 私からすれば、普通にプレイヤー同士で話をするだけなのだし、マナー云々は気にしなくてもいいとは思うのだけれど――相手からのメッセージにも遭った通り、すでにれあちぃずさんも淑女教育をさせられているみたいだから、併せられる限り合わせたほうが双方のためになるはず。

 サイファさんとしてもそれは同じ考えのようで、何かあって相手の家との関係がこじれてしまえば、プレイヤー同士でも協力を仰ぎにくくなってしまう可能性も考えられるとまで言われれば私も逆らう気は起きない。

 れあちぃずさん達を案内したはずの応接室に到着する。そして、その扉を数回ノックした。

 するとやや間を開けて、ちょっと戸惑ったような様子で返事が返ってきた。

「Mtn.ハンナです。入らせていただきます」

「あ……はい」

 月並みだけれど、鈴を転がすような綺麗な声。

 声優さんとかアイドルとか、あるいはVtuberとか。

 そういった、声を命とする職業についていてもおかしくはなさそうな声質の人だな、というのが第一印象だった。

 惜しむらくは、少し緊張気味で声が強張っている感じだったことだろう。

 私が部屋に入ると、真ん中に置かれたソファには、三人の少女のプレイヤーが並んで、出されていたらしいお茶を飲んでいた。

 いずれも外見はそれぞれが自分で考えて作ったようなものではなく、特定の重要なNPC用に用意された、この世界の住民に完全に溶け込んでしまいそうな作りのアバターだ。

 真っ先に、真ん中に座っていたプレイヤーが立ち上がり、私に向かってカーテシーをしてくれた。

「本日はお会いしていただき、ありがとうございます。Mtn.ハンナさん。ランダム設定でユニーククラスのレクィアード公爵令嬢になった、れあちぃずと言います」

「いえ。こちらこそ、わざわざメッセージを送ってまで会おうとしてくださってありがとうございます。同じ貴族系ユニーククラス持ち同士、これから仲良くしていきましょうね」

「はい」

 私がそう言えば、その女性プレイヤーはほっとした表情になり、再度ありがとうございます、と言ってきた。

 うん、仲良くできそうな感じでよかった。

 それから、その両隣に座っていたプレイヤー二人も私にカーテシーをして自己紹介をしてくれたので、私も同じくカーテシーで返した。

「オルキス伯爵令嬢のユニーククラスを引き当てた、リアンヌです。よろしくお願いします」

「ゆーかです。私は二人とは違って、Mtnハンナさんと同じ第一陣勢で、フェアルターレの聖女見習いのクラスを引き当てました。今はクラスアップを目指してクラスクエストをこなしているところですね。お互い同じ一陣勢として、よろしくお願いしますね」

「はい。お二人とも、よろしくお願いします」

 う~ん、ゆーかさんは第一陣勢で私のほかにユニーククラス持ちになった、数少ない同期の仲間(?)と呼べる人だったのか。

 聖女……道理で、他の二人がドレス姿なのに対して、白を基調とした法衣に頭からすっぽりとベールをかぶった、異色の服を着ているわけだ。

 聖女だっていうなら、納得できる意匠の服だね。――白いベールで顔が隠れてて、見えないのが残念だけど。

 さて、同じ部屋には私と、彼女達三人のプレイヤーのほか、彼女たちが連れて来たらしい従者と思しきNPCもいる。

 三人のうち二人は侍女っぽい格好をしているからすぐにそうであると分かったけれど、もう一人はどちらかというと神官っぽい服装。

 その人の前に座っているゆーかさんが聖女――聖女見習いのユニーククラスだという話だから、おそらくは神殿所属の、正真正銘の神官なのかもしれない。

 一応、今後もしかしたられあちぃずさんやリアンヌさん、それにゆーかさんとは一緒に冒険するかもしれないし、彼女達にも一応自己紹介してもらってから、お茶会に移ることにした。

 ちなみにれあちぃずさん達が連れてきた従者の人達が自己紹介した際、れあちぃずさんの侍女さんから、

「では、まずはお茶菓子をいただきましょう」

 まずは紅茶を一口だけ含む。貴族令嬢初心者の二人がこれ以上後ろにいるお目付け役に睨まれないように、ゆっくりと、こうするとよいと手本を見せるように。

 私に倣うようにして、まずは神官系クラス持ちっぽいプレイヤーがベールを完全に脱ぎ去り、連れてきていた従者に手渡してから同じく紅茶に口をつける。

 傍らで、彼女に少し出遅れる形で他の二人も紅茶に口をつけた。

 非公式ながらも茶会ということで、お茶のお供にはお菓子のほかにサンドイッチも用意されている。

「わぁ……私、まだゲーム始めたばかりで令嬢教育も始まったばかりなんで、こういうの見たの初めてです。なんていうでしたっけ、こういうの」

「ティースタンドと言います、れあちぃずお嬢様」

「そうそうそれ。本格的だなぁ」

「失礼ながら、これでもまだ非公式なお茶会なので、かなり型から崩したものですよ」

「ですねぇ。私もこの前、初めてのお茶会に参加してきましたけど、本当にすごかったですから」

「ひえ……」

 っと、脅かしてしまったかな。そんなつもりはなかったんだけど。

「大丈夫ですよ。なんなら、またこのメンバーで集まって、慣らしていくっていう手もありますし」

 というか、この前NPC相手のお茶会に参加したけど、やっぱりイマイチ感覚掴みきれなかったし。

 プレイヤー同士でもこうした集まりをして、練習をしていかないと貴族系クラス持ちとしては少しまずいかもしれない、とひそかに思い始めているところもあるから、三人がそうしてくれるなら大助かりである。

「本当ですか? それならこっちも大助かりです。もう冬に何とかして間に合わせたい、とか何とかでかなり詰め込まれるような感じで……」

「あ~、サイファさんもそんなこと言ってた気がしますね、そういえば……」

 ちら、と傍らで静かにソファに座って佇んでいるサイファさんに視線を送る。

「冬の社交シーズンまであまり時間が残されていませんからね。今はデビュタントを迎えていない令嬢たちにとって、お茶会や小さめの夜会などに参加するなどして顔を広めるための大事な準備期間。その総仕上げともいえる季節でもありますから」

「だとしても急すぎますよ……来年じゃダメなんですか」

「そのあたりは家の方針によるとしか言いようはないです。あとは、あなた方がご自身のお家の当主様と交渉し、調節していただくしかないかと存じます」

 リアンヌさんがげっそりとした顔でため息を吐いた。

 どうやら、最後の希望を断ち切られたようだ。

「冒険のための資金をある程度出してもらうのと引き換えに、今度の社交シーズンでデビュタントに参加する。そう取引してしまいましたから……」

「私もです。早く他のプレイヤーに追いつきたかったですし……」

 あぁ、そういうことだったのかぁ。

 まぁ、なんというか――ドンマイというべきなのかな。

 甘い話には裏があるというのを学ぶいいきっかけになった、といえばうまく言えるのかもしれないけど。ちょっとだけ、気の毒ではある。

「ところで、そちらのNPCは?」

 そう言えばすっかり忘れていた、とゆーかさんがサイファさんについて聞いて来る。

 う~ん、サイファさんについては鈴の配信にも何度も出てるから、場合によってはすでに知っているかもしれない、と思ってたんだけど……知らなかったか。

「サイファさんは私の教育係としてヴェグガナルデ公爵家に来てくれてる方です」

「Mtn.ハンナ様のガヴァネスを任されております、サイファ・ロレーリンと申します。以後お見知りおきくださいませ」

 サイファさんが、手本になるような綺麗なカーテシーをしてくれる。

 う~ん、いつ見ても目を見張るものがあるよね、これ。


 さて、一通り自己紹介も済んだところで、私は今日彼女たちがここへ来た本題を聞いてみることにした。

 ただ単純に私とつながりを持ちたかっただけかもしれないし、今度の公式イベントに参加するにあたって協力を仰ぎたいとかかもしれない。

 あるいはもっと他に目的があったのかもしれない。

 なんにせよ、同じ貴族系ユニーククラス持ち(とユニーククラス版の聖女)とのかかわりが持てるようになる、というだけでも私にとってかなりのメリットがあるといえた。

 というのも、クラスシナリオからして冬休み中にはデビュタントという貴族令嬢らしいイベントに参加させられるわけだけれど、そこに私以外は全員NPCしかいないというのもそれはそれで何とも寂しい気がするし。

 やっぱり、みんなでそう言ったイベントに参加できてこその、MMORPGだしね。


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