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ゲーム始めたら公爵令嬢だった件  作者: シュナじろう
ランクアップチャレンジと生産スキル
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10.クラスアップチャレンジ:公爵令嬢として


 そうこうしているうちに夕食の時間が来て、先ほども来た奥様付きの侍女さんがお迎えに来た。

 彼女の案内のもと、私はミリスさんと一緒に食堂へと移動する。

 案内された食堂は、まさにこれぞ! といった感じの広くて豪華絢爛な一室だった。

 ふわぁ……って、感嘆の息を吐きそうになったけど、家族内で食事をするにあたって、正装ほどではないが軽く身支度を整えたために胴体周りが苦しく、ちょっとそれどころではなかった。

 コルセット……きついよコルセット。

「来たか。ずいぶんと緊張した面持ちのようだが、気圧されることはない」

「こんばんは、可愛い私の新しい娘。どうぞ、席についてちょうだい。マナーについても、少なくとも今のところは特に気にする必要はないわ。好きなように味わって頂戴ね」

「は、はいぃ……」

 今朝会ったばかりの、この世界での私の父にあたるウィリアムさん。

 そして彼のすぐ近くの椅子に座る、この世界での母こと公爵夫人。

 二人とも視線を合わせた瞬間に、物理的な重さすら感じるほどのプレッシャーを感じて、思わずたじろいでしまった。

 カッカッ、と部屋に響くヒールの音。

 あまりにも私の緊張した顔がおかしかったのか、公爵夫人がクスクス、と扇子で口を隠して微苦笑した。

「ウィル。あなたがプレッシャーを放つものだから、ハンナちゃんが怯えちゃってるじゃない。やめなさいよ」

「何を言っているエレノーラ。それをいうならお前も圧を放っているではないか。まるでハンナを試しているかのようだぞ」

 二人が顔を見合わせて軽口をたたき合う。

 途端に、場の空気が弛緩していった。

「その……失礼します…………」

 とりあえず、席を勧められた以上は着席しないと、ね。

「さて……見張りにつけた者から話は聞いているが、早速いろいろと動いていたようだな。いや、元気にやっていけそうで何よりだ」

「私としては心配で仕方ないわ。街で暗殺者に狙われたばかりではなく、他の異邦人と一緒だったとはいえ、魔物たちがうろつく街の外に出たらしいじゃない。貴族の令嬢が一番やってはいけないことでもあるのよ? 何かあってからでは遅いわ」

「エレノーラは相変わらず慎重というか神経質だな。いいではないか、まだこちらの世界で目覚めたばかりなのだから。まだ難しいことを考える時期ではなかろう」

「それはそうだけれど」

 うん、なんだなんだ。

 なんか、いろいろ今のでフラグが立ったような気がしなくもなかったんだけど、気のせいかな。

 エレノーラさんは、はぁ……と溜息をつくと、パッと扇子を閉じて、それをフリフリしながら私にこう言ってきた。

「まぁ、ウィルが言うように、確かに判断を急ぐのは得策ではないし、今は私も静観させてもらうことにするわ。……今は、ね」

 なんか含みがある言い方。

 ほんとに、一日目にしてとんでもないことが私の知らないところで起こってそうで、ちょっと怖いんだけど?

 それからほどなくして、夕食が届けられた。

 夕食のメニュー? 私にコース料理のことがわかるとでも?

 感想というなら、料理はおいしかった。うん、薄味だったり濃い味だったりとバランスが悪かったけど、まぁ総じておいしいといえばおいしかったとは思う。

 ただ、食事をしている途中に時々、

「ところで、ウィル。例の連中だけど、動きはどうなっているかしら?」

「そうだな。さすがに、エリーの一件があって、少し動揺しているようではあるが――あの感じだと、エリーの一件も当たり前だと感じている節があるな」

「つまり、まだ懲りていないわけね」

「あぁ。この分だと、おそらくは――」

 といった感じの会話がやはり、何かをにおわせていた。

 そして時々こちらをチラチラと見る限り、その何かはやっぱり私に関係がありそうな気配だ。

「ふぅ……さて。食事も終わったことだし、私はそろそろ書斎に戻るとするよ」

「あら。まだお仕事が残っていらしたのですか?」

「あぁ。これからあの愚息をどう料理してやろうか考えねばならぬからな」

「そう…………私は、どうしようかしらね」

 エレノーラさんは、食事を終えて退室していくウィリアムさんを見送ると、そう言いながら私をちらりと見てから、

「…………そう、ね。もしもの時に備えておく必要もあるのかもしれないわね」

 と言いつつこちらに向き直った。

 その目は、なにやら探るような、それでいてなにかにすがるような――一言では言い表せない、非常に複雑な感情を見せている。

「……この後、ハンナさんはなにをする予定でいるのかしら?」

「そうですね。とりあえず、今晩はミリスさんに調合を教えてもらおうかなと思ってますけど……あの、なにか……?」

 なんだろう。

 エレノーラさんのこの顔、何かを言おうとして、でも躊躇っているように感じる。なんだか、とてつもない葛藤、って言うんだろうか。すごく懊悩してる顔だ。

「そう……。冒険をするなら、備えは必要だものね……。わかったわ、後で私の侍女に申し伝えてエリーが使っていたアトリエを開放するように手配しておくから、有効に活用してちょうだい。それから、もしお店を出すのならウィルではなく私に相談なさい。家のお金ではなく、私の私財から援助してあげる」

「いいんですか?」

「構わないわよ。異邦人になってしまったとはいえ、貴方は私の可愛い娘なんだもの。子供を甘やかすのは親の特権よ」

「ありがとうございます」

「ただ、その代わりと言っては何だけど……一つだけ、この場で聞いておいてほしいことがあるの。これだけは、どうしても今聞いてほしくてね」

「……なんでしょうか」

 まっすぐな視線を投げかけてくるエレノーラさん。

 先程とは違い、覚悟を決めたような鋭い眼差し。

 決して誤魔化しや黙秘は許さない、と言わんばかりの鋭い視線をもって、彼女は一体何を私に聞こうというのだろうか。

「あなたは異邦人。かつての私達の娘、エリリアーナだった頃とは違い、すでにこの王国の法の外に限りなく近い位置にいる存在。それは、きっと貴族であってもその自由を侵害することは難しいでしょう」

「そう、なんですか……?」

「えぇ。ハンナ、あなた達異邦人の到来はね。実は、事前に預言によって知らされていたのよ。そして、この世界に伝わる逸話に則り、国王陛下は民たちにこうお触れを出されたわ。『極力、彼ら彼女らの行為の妨げをしてはならぬ』と」

「逸話……」

「そう。『停滞せしファルティアの大地に無数の異界の民が降り立つ。彼らの訪れにより生じた波紋は、やがて停滞せしファルティアに変革と繁栄をもたらすであろう』という逸話ね。これがあるから、各国の王はあなた達異邦人に期待しているし、その行いが良きものである限り、それを阻害してはならない、というお触れを民たちに広めた」

 なるほど。

 私達プレイヤーに対するNPC達の反応には、そういうバックストーリーがあるという設定になっているわけか。

「でもね――それでも、止まらない連中はいるものなの」

 国王の、国家元首の言葉があっても、止まらない存在。

 それは、一体――。

「そういった連中ともし遭遇した時。つまり、貴方を利用しようとすり寄り、囲い込もうとする輩と出会ったり。逆に、貴方が邪魔に感じて、排除しようとしてくる輩と遭遇したり。欲が深い人は、例え王命があったとしても、どうにかして周囲の目をかいくぐろうとするものなのよね。わかるかしら」

「まぁ、なんとなくなら」

 リアルでも、その手の話は割とよく聞く。

 なんなら、身内にもそういった欲深い人の被害に遭いがちな人が一人、いるしね。

 急な話でちょっと戸惑ったけど、割と身近な内容の話でもある分、理解できないわけではない。

 ――そして、ゲーム内ではそれが私自身にも言えるようになった、ということか。

 ユニーククラスを引き当てた人に対する、身近なポジションに立っているNPCからの警告みたいなものなのか……はたまた、先々で起こるイベントやクエストのフラグが早くも動きつつあるのか。

 そこまではわからないけど、心構えは早いうちに持っておいた方がいい、といった感じのことを言われているのは確かだと思う。

「もちろん、今すぐに動くというわけではないでしょう。でも――エリリアーナの体に宿る、という形でこの世界に降り立ったあなたは、異邦人にして国の中枢に最も近い重要人物の一人にもなってしまった。ゆえに、あなたのことが広まれば、そういう事態にいつ巻き込まれてもおかしくはないの。だから――すぐにとは言わないけど、心構えだけは持っておいてちょうだい」

 ――話は以上よ、行きなさい。

 最後に、一言。エレノーラさんはそのように私に退席を促し、自らも席を立ちって食堂から退室していった。

 エレノーラさんが退室間際に残して言った言葉は、この後しばらく経ってから現実のものとなるのだが――この時は未だ、そんなこと知る由もなく。

 この時は結局、ゲーム内での『親』からの、ありがたい説教だと軽く考えるにとどまるのであった。


 肝心のランクアップチャレンジ終了のお知らせは、自室に戻った際に出てきた。

『ランクアップチャレンジに成功しました:ヴェグガナルデ公爵令嬢→ヴェグガナルデ公爵令嬢I』

『メインクラスのランクが上昇したことにより、以下のボーナスが発生しました。

クラスレベル上限解放:10→30 クラススキルレベル上限解放:10→30

プレイヤーレベル上昇時のフィジカルポイント獲得量上昇:2→5

フィジカルポイント獲得量上昇に伴い、差分のフィジカルポイントを獲得:10→25(+15)

クラス固有ステータス『TLK』『MND』を獲得

TLK:話術の上手さ。高いほど特定のクラスのNPCとの交渉時などで切り込んだ際、有利になる。

MND:精神の強さ。高いほど特定のクラスのNPCとの交渉時などで切り込まれた際、有利になる

クラス特性追加:【戦場より遠き身分】

 プレイヤーレベルが【(クラスレベル)÷30×(貴族ランク)÷2】レベル上昇する。

 このレベル上昇に伴う能力値の上昇は発生しないが、レベルアップに必要な経験値は補正後の数値が適用される。

 あなたの貴族ランクは 6 です。

クラススキル:【社交】を習得

 【社交】:社交界での活動やNPCを相手とする交渉事にボーナス補正』

 なんか、いろいろと無視できない内容のものがあるんだけど、一つずつ見ていこう。

 まず、クラスレベルとクラススキルレベルの上限解放。これは事前に説明があった通りの内容だったのですぐにわかった。

 同時に、プレイヤーレベルもこれで30レベルまでキャパシティが解放されたってことなんだろう。

 次。『TLK』に『MND』ね……。正直、説明見てもよくわからないわね……。

 さらに次。クラス特性追加……これが一番の問題児だねぇ。

 てか、何かしらねこれ。試しにステータス表示させてみたけど、このゲームって必要な経験値とかって、特に可視化されないのよね~。だから比較のしようがないわぁ。

 なんか取り返しつかないことをしてしまった気がしてきた。

 でも、ランクアップしないとレベルが打ち止めになっちゃうみたいだし、どのみちこの特性はついちゃっていたか……なら、ユニーククラス故の代償として、甘んじて受け入れるしかないかな。

 んで最後の一つ。クラススキル、【社交】ね……。

 いったいどんなスキルなのかしら……。


【社交 Lv.1】補助:制限解除

・社交界イベントに参加時、会話や接待内容により、プレイヤー経験値を獲得可能。【礼節】【貴族】【紳士】【淑女】のうち、いずれか一つ以上を持っていない場合、このスキルの効果を大幅に弱体化

・スキルレベルが上昇すると、社交界でのプレイヤー経験値の獲得量が上昇。【礼節】【貴族】【紳士】【淑女】のうち、いずれか一つ以上を持っていない場合、この効果は発揮されない(中~)

 ファルティアにおいては、王侯貴族の紳士、淑女たちに必須のスキルです。

 紳士・淑女の戦場は野外にあらず。人と人とが接する場で、言葉の刃を交え合うのみ。

 かの者たちの戦場は社交の場にあり。決してこれを忘れることなかれ。


 うっわ、これ完全に令嬢ロール用のスキルじゃん……。

 しかもレベリングにまで絡めてくるなんて徹底の仕様に運営のそこはかとない悪意を感じる……。

「……まぁ、戦闘で経験値が得られなくなったわけじゃないだけ、まだマシなのかな……」

 しかも、戦闘での経験値が減少するようにすらなっていないのだから、あくまでも経験値の入手機会が増えただけだ。

 おそらくだけど、新しく追加された二つのステータスも、このためのステータスだろう。

 もらえるPPtが増えたのも、これに割り振る余裕を作るためかもしれない。

 今になって、ようやっとナビAIが言っていたことが分かった気がするよ。

 確かにこれ、下手をすれば間違いなく詰むよ。もらえるPPtが増えたからって、喜んで戦闘関係のステータスやら、DEXやSPDやらに全部つぎ込んだりした日には、社交界に参加せざるを得なくなった時に間違いなく詰んでしまう。

 それがどのようなデメリットに繋がるかはわからないけど――きっと、ろくでもないことになるのは確かだろう。

 とはいっても、私はこれはこれで別にいいんだけどね。要は、TLKやMNDにもまんべんなくポイント割り振れば問題なしって言うことなんだし。

 それに、レベルの上昇ハンデだって、計算式を検証してみたけど、10レベル上昇してようやく1レベル分のハンデを受けるだけだもん、まだあってないようなものだ。

 結論を言ってしまえば、今回のランクアップでレベルが上がりにくくなった、というマイナスの特性が発生したことで、ユニーククラス『ヴェグガナルデ公爵令嬢』の先行きが少しだけ怪しさを醸し出してきたものの、まだナビAIからもらったあのチケットを使うには早すぎる気がする。

 さっきは少し驚いちゃったけど、もう少し様子を見てみてもいいかもしれない。

 それに、なんとな~くだけど、このユニーククラスにまつわるエピソード的なものが動き始めているみたいだし、それも気になるからね。


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