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僕は勇者の勇者になる  作者: 三浦サイラス
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5話 那谷羅心理とお弁当を食べます

 暗黙の了解で那谷羅の世話係になったオレが、昼休み那谷羅といるのは至って普通の流れだった。



 「那谷羅さん、お昼ご飯はどうしてるの?」



 「弁当がある。一緒に食べないかミチヒト?」



 その辺で捕まえた虫ではなく、弁当である事に安堵する。



 「じゃあ屋上で食べようか」



 階段を上り、オレと那谷羅は屋上へやってくる。淀高の屋上は昼休みなら解放されており、生徒の多くが利用していた。今日は天気が良いので特に人数が多い。そこかしこに男子やら女子やらが円を作って座っている。


 オレは適当に座れそうな場所があるか見渡すと、いい感じに空いているフェンス前を見つけた。



 「ちょっと出遅れたけど良い場所取れたね」



 特等席になるフェンス側を那谷羅へ譲り、その那谷羅の前に腰を下ろす。



 「なるほど。ここで食事を取っているのだな」



 「屋上は人気あるからいつも人が多いんだ。別に食べる場所は教室だったり校舎裏だったり、どこでもいいんだけどね」



 オレはいつも母親に作ってもらっている弁当を出した後、目の前にある那谷羅の弁当に目を向けた。


 外見は至って普通の弁当箱だ。特に目立つ部分はない。外見を気にする者は皆無だろう。


 だが、中身はどうか? さっきは弁当って聞いただけで安堵してしまったが、まだ早いのではないか?


 バッタやらカエルやらセミやらを生食したがる女子の弁当箱はどうなっているのか!?


 至近距離なので那谷羅弁当を無視するのは難しい。それなら思い切り見てやろうと、オレは目の前に広げられた弁当に視線を向ける、が。



 「……アレ?」



 「どうかしたかミチヒト?」



 那谷羅の弁当箱に入っているのはミートボール、卵焼き、ベーコンで包んだアスパラガス、茹でたブロッコリー、プチトマト、のりたまのかかったご飯。つまり至って普通のお弁当だった。


 え? マジ? これがそこらにいる虫やら両生類捕まえて食べる美少女の弁当なの?


 「うん、うまい」



 那谷羅がミートボールを口に入れて咀嚼する。なんてこった。違和感しかない。



 「中身がまさかすぎんだが」



 「何か言ったかミチヒト?」



 「美味しそうなお弁当だねって言ったんだ」



 あぶねぇ! また心の内が漏れてしまった! 反省!



 「特にそのミートボールとか卵焼きとか、那谷羅さんが食べるの見てると美味しさが伝わってくるよ」



 「欲しいのか? 別にいいぞ。私にはセミもあるしな」



 最後がツッコミしてくれと言わんばかりの発言だが、オレは敢えてスルーする。



 「じゃあ交換しよ――ん?」



 オレも弁当箱の蓋を開け、その中身を確認する。母親に作ってもらってるいつもの弁当だ。


 中身はミートボール、卵焼き、ベーコンで包んだアスパラガス、茹でたブロッコリー、プチトマト、のりたまのかかったご飯。


 うん、どうみても那谷羅と同じラインナップだ。



 「な、なんで!?」



 「ミチヒトの弁当は私と似ているな」



 似てるじゃねぇよ! そっくりだよ! 生き別れの双子レベルだよ!



 「つ、つかぬ事を聞くんだけど、那谷羅さんの弁当って誰が作ったの?」



 「ナサナ殿だ。もっていけと渡された」



 「……それって正義情無(まさよしなさな)?」



 那谷羅は「そうだ」と即肯定すると、人差し指を顎に当ててオレをジーッと見つめた。



 「そういえばミチヒトはナサナ殿と同じ名字なのだな。珍しい事もあるモノだ」



 珍しいワケあるかぁ! 正義なんて名字なかなかねぇぞ! つか、情無ってオレの母さんだっての!


 那谷羅の弁当は十中八九母さんが作ったと思っていい。でも、なんで母さんが那谷羅の弁当を? 知り合いなのか? 全くわからんので、帰ったら母さんに聞こう!



 「ああ、私はいらない。ミチヒトには世話になっているからな」



 那谷羅はミートボールと卵焼きを一つずつオレの弁当箱にいれる。



 「僕がもらうだけなんて那谷羅さんに悪いよ」



 「私がミチヒトにあげたいだけだ」



 那谷羅はオレのおかずをもらおうとしない。まあ、おかず程度無理にあげるモノではないが、借りができたみたいでなんか落ち着かんな。



 「この間も私の下着を知らないヤツにあげたしな。気にする必要はない」



 「……は?」



 今、コイツ何て言った?



 「どうした? 私の下着を欲しがっている男がいただけだ。もちろん知らないヤツだぞ」



 「全く知らない男に下着!?」



 何がもちろんなのかさっぱりわからない上に、新情報まで追加される。



 「ど、どういうこと!?」



 「興味があるのか? では話してやろう」



 いったいどういう事なんだ? 何がどうなったら見知らぬ男に下着をあげる状況になる?


 いや、待て。この女子が変なのは昨日から知っている。詳しく聞けば普通に納得できる内容かもしれない。



 「昨日、干した洗濯物を回収しようとした時だった。テントから出たら、私の代わりに知らない男が洗濯物を回収してくれていたんだ。真っ黒い頭巾を被って、両手に手袋をつけていたのが印象的だったな。私は男に礼を言ったのだが、男は下着だけもって姿を消してしまった。急に礼を言われて驚いたのだろうな。すまない事をした」



 「ただの下着ドロじゃねぇか!」



 本音丸出しのツッコミをしてしまったがコレは仕方ない。つか、テントだと? 那谷羅ってテント暮らしなのか?



 「洗濯物を回収してくれた男を驚かせた私が悪い。下着をあげたのは当然のことだ」



 「……那谷羅さん。放課後になったら一緒に警察行こうか」



 「警察? ああ、知っているぞ。この世界の秩序維持機関だろう? しかし何故だ?」



 那谷羅は被害者意識皆無だが、盗難被害にあった以上このままというワケにはいかない。


 すぐにでも帰って母さんと弁当の件で話したいが、それは後回しだ。


 これ以降は特段おかしな話題もです、オレと那谷羅は昼食を終えた。


 残った昼休みの時間は校内の案内をしたが、その間チラチラと廊下を見る那谷羅が気になった。


 ……まさかゴキブリ(害虫)とか探していた(食べようとしていた)ワケじゃないよな?


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