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僕は勇者の勇者になる  作者: 三浦サイラス
17/26

17話 本番はこれから

「ん? 朝っぱらから誰だ?」



 ポケットに入れたスマホが着信時の震え方をしたので、すぐに取り出して画面を見る。


 そのスマホの着信先を見たオレは思わず声を漏らした。



「え!?」



 親父だ。親父から電話がかかっている。


 オレは即座にスマホに表示された通話部分をタッチした。



 「も、もしもし?」



 父親である正義有所は連絡しても全く繋がらない人物で、親父からオレに連絡がくる事もめったにない。なので、一応スマホに親父の連絡先は登録されているものの、ほぼ意味を為していなかった。

 そのため、自分の父親から電話がかかってきただけなのに、オレにとってこの連絡は青天の霹靂に等しい。



 「お、親父なのか?」



 会話なんていつぶりだろうか。突然の電話なのもあって、かなり動揺してしまう。



 「道人……すぐ……家……帰れ……」



 息子と久々に話す父親の一言目は雑音塗れで、おまけに主語が抜けていた。



 「え? 何だって? 帰れって言ってんの?」



 学校のそばなので付近は淀高の生徒でいっぱいだ。オレは会話を聞かれないように小声で話す。



 「淀鹿島高校は……で……犯されて……」



 「は? 犯されて?」



 親父の言ってる事が全くわからない。オレは霧、那谷羅、燕崎に「先にいってくれ」とジェスチャーをして話を続ける。


 三人はオレを抜いて淀校の校門を潜っていく。



 「いいか……そのスマホを持ってるお前は大丈夫……が……他の二人は……早く……」



 「もしもし? 親父?」



 オレも遅れて校門を潜ると、その辺りでさらに通話の雑音が酷くなる。親父が何を言ってるのかわからなくなり、ついに何も聞こえなくなってしまった。


 電波が悪いのかとスマホ画面を見るが、アンテナはしっかり全部立っている。


 再びスマホを耳に当てるが、やはり何も聞こえない。



 「……切れたな」



 連絡しなおすも繋がらない。親父との久しぶりの会話は意味不明な上、すぐに終わった。



 「何の電話だったんだ?」



 学校が危険ってどういう事だ? 犯されてってのもよくわからんし、親父がオレに何を伝えようとしていたのか全くわからない。


 昇降口までやってくる。霧達の姿は見えない。まあ、とっくに教室に行ってるか。


 さっきの電話、親父は「二人」って言ってたが、どう考えても那谷羅と燕崎の二人だよな。とりあえず、教室に行ったら那谷羅に電話の事相談してみるか。もし、王国関連の事なら那谷羅は何か知ってるかもしれな――



 「ぐっ!?」



 瞬間、頭を思い切りバットで殴られたような、意識を持って行かれる一撃がオレを襲った。



 「な、なんだ……コレッ!?」



 もちろん実際に殴られたワケじゃない。上履きに履き替えて教室へ行こうとした時、頭が強烈な衝撃で揺さぶられたのだ。


 同時に吐きそうな不快感もやってくる。酷い車酔いになったみたいで、オレは思わず廊下で蹲ってしまう。



 「ハァッ……ハァッ……」



 無意識に息が荒くなる。そして、自分のポケットからバキリと音がした。


 気持ち悪さを堪えながらポケットを探ると、オレのスマホが砕けていた。ハンマーでチョコレートを叩き割ったみたいに、完全なジャンクと化している。


 なんてついてない、じゃねぇよな。偶然で片付けるには異常すぎだ。



 「さっきから何なんだよ……」



 親父から意味不明な電話がきて、急に酷く気持ち悪くなって、何故か自分のスマホが砕けている。

 一体何が起こってるんだ?



 「ま、正義君? 大丈夫?」



 そばにいたクラスメイトの女子がオレに声をかける。廊下で蹲ってるれば目立つし、どう見ても調子悪いようにしか見えないからな。実際調子悪いし、気にしない方が難しい。



 「だ、大丈夫。心配かけてゴメン」



 オレはヨロヨロと立ち上がると、付き添おうとしてくれる女子をやんわりと断って、保健室へ向かう。このまま教室に行っても机に突っ伏すだけになりそうだ。それに、今のままじゃ那谷羅とまともに話をできそうにない。



 「一時間目終わりまで寝とこう……」



 保健室を利用するなんて初めてだ。こんな朝早くにベットで寝かせてくれなんて、品行方正なオレじゃなかったらサボりと思われるだろう。



 「あら正義君? 珍しいわね? どうしたの?」



 保健室には白衣を着た竹柴先生がいた。保健室にいるなんて初めてみたな。初めて白衣姿を見たけど、かなり似合ってる。すんげー新鮮。こんな竹柴先生が見られるとはおもわなかった。



 「ちょっと体調が悪くて。ベットで休ませてもらっていいですか?」



 蹲った直後よりはだいぶ楽になってるが、それでもまだ気持ち悪い。さっさと寝かせてもらおう。



 「ええ、いいわよ」



 竹柴先生はカーテンを開きながらベットの使用許可をくれた。すぐオレはベットに横たわる。


 ふと時計を見ると、そろそろ朝のホームルームが始まりそうな時間になっていた。



 「先生、教室に行かなくていいんですか?」



 竹柴先生が保健室から出て行く様子がないので、興味がてら聞いてみる。オレに気を使ってるなら申し訳ない。



 「教室? どうして?」



 竹柴先生は頭に大きな?マークを浮かべながらオレを見る。



 「え? だってそろそろホームルームが始まりますし。僕のことは気にしなくていいので行ってください」



 なんで竹柴先生は「?」な顔をしてるんだ? アンタはオレのクラス担任だろうがよ。



 「変な事言うのね正義君。私の担当場所は保健室よ?」



 竹柴先生はクスクスと、全く悪意のない笑みを浮かべる。



 「保健室? 先生は僕のクラスの担任じゃないですか」



 何言ってんだこの残念教師は。意味不明な事言ってんじゃねーぞ。



 「何言ってるの正義君。私はあなたの担任じゃないわよ」



 私はあなたのクラスの担任になった覚えはない。元から保健室で勤務している、と竹柴先生は言いたげだ。てか、言ってる。



 「…………」



 ここまで言われると、さすがに不穏な空気が流れていると気づく。


 しかも竹柴先生は。



 「正義君のクラス担任は詰多先生でしょ。私が担任って言ってくれるのは嬉しいけどね」



 いなく(クビに)なった元教師の名を言った。



 「……詰多?」



 「こら、先生を呼び捨てにするんじゃありません」



 めっ、と竹柴先生はオレを注意する。



 「ちょ、ちょっと待ってください」



 背筋に冷たい炎を吹きかけられたような、異質な感覚に身体が震えそうになる。



 「今、詰多先生って……言いましたよね?」



 「ん? 言ったけど、どうかしたの?」



 竹柴先生はオレに返答しながら、机へ座って事務作業を始めた。どうやらこの件は全くもって大した話じゃないらしい。


 詰多が淀鹿島高校にいてオレのクラス担任であるのは――当たり前のようだ。



 「詰多先生ってその、淀鹿島高校を退職しましたよね?」



 「退職? そんな話聞いてないわよ?」



 「久城と詰多先生の二人が校門前で騒ぎになったの覚えてます?」



 「久城さんと詰多先生が? いつ?」



 さっきから話が噛み合わない。


 怖気が止まらない。



 「竹柴先生……何も覚えてないんですか?」



 「覚えてないも何も……うーん、詰多先生も久城さんも真面目な人だから想像もできないわね」



 オレは勢いよくベットから身を起こす。体調が悪いなど言ってられない。


 親父は淀鹿島高校が犯されていると言っていたが……コレがそうなのか?


 この異変が親父の言っていたヤツなのか?



 「教室に戻ります。ありがとうございました」



 竹柴先生にそう言うと、オレは保健室を飛び出した。


 いつもなら絶対に走らない廊下を全力疾走する。もうホームルームが始まっているので廊下ですれ違う生徒はいない。


 廊下にいるのは生徒のオレだけ。当たり前だ、他の生徒達はホームルームが始まって教室にいるのだから。


 でも、この学校には“誰もいない”と、そんな錯覚が襲って来る。


 正義道人が一人だけ。


 たった一人しかいない、と。

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