10話 那谷羅に誘われる
「言えないよなぁ。ワケあり感バリバリだし」
只今午前十一時。相談すべきか悩んだまま次の日になった。
今日は土曜日で学校は休みなので、オレは二階にある自分の部屋でベットに寝転がっている。
ルディとかいう物騒女の件は那谷羅に言っていない。どう考えても二人は知り合いだが、内容が内容だ。「ルディって人が那谷羅さんを殺すって言ってたよ」なんて言えるワケなかった。
それに那谷羅は自分の過去を語る時、良い顔をしない。罪人が落ちる穴に自分から飛び込んでるし、王国時代に何かがあったのは確実だ。
「……コレって絶対パーティの事だよな」
そうなでなければ、勇者パーティの一員が「殺す」なんて物騒な単語を出すワケない。
「何もわからんけど、アイツがむちゃくちゃ那谷羅を怨んでるのだけは間違い無い」
それはルディがこの世界にいるって事実(覚悟)だけでわかる。何故なら、王国にいるヤツがこの世界に来るためにはディライドの裂け目に落ちなければいけないからだ。その裂け目に落ちたが最後二度と王国には戻れない。
ルディは「ディバーンを殺しに来た」と言っている以上、自らディライドの裂け目に落ちている。これは二度と王国に戻れなくていい覚悟がある証拠で、それはイコール那谷羅への殺意と考えて間違い無い。
「世界を救った勇者を殺したいって、何がどうなりゃそうなるんだよ」
魔王を倒して王国は平和になったと那谷羅は言っていた。なら、それでいいではないか。
魔王という脅威が消え、やってきた平和は王国の全員が求めるモノであったはずだ。その平和をもたらした勇者は感謝こそされても、憎しみを抱かれるとは思えない。
那谷羅とルディ。
二人の間に何があったんだろうか。
「やっぱ言えねぇなコレ……」
那谷羅は今の日々を楽しんでいるように思う。アイツは無表情が多いだけで、様子や雰囲気が何もわからないワケじゃない。声や態度には感情が出るから、学校での生活や、霧や蕾と会話をしているのを見ればわかる。
この間、霧と北淀鹿島に遊びに行こうとしているのを見た時、かなりノリノリなのが伝わってきたし、初日にオレと一緒に登校した時や、弁当を食べた時なんかもそうだった。
那谷羅はわかりにくいようでわかりやすい。天然というか純粋というか、良くも悪くも正直者なのだ。
無表情ばかりでも、付き合いがそれなりになれば心の機微を感じ取れる。そんなウサギみたいな女子だった。
「ミチヒト、いるか?」
部屋のドアが軽くノックされた。那谷羅だ。オレの部屋に来るなんて珍しいな。
「どうしたの?」
ドアノブを捻ると、部屋の前に那谷羅が立っていた。部屋着なので簡素な服装だが、凹凸のある胸部に『民宿ISEKAI』と書いてある。そういえば、最近母さんが民宿土産を作るとか言ってたが、那谷羅の着てるヤツそれか? だとするなら止めた方がいいかもしんない。
「その、今日暇だろうか?」
「ん? そうだね。暇してるよ」
今日は民宿バイトもないので、北淀鹿島にある図書館へ行って勉強でもしようかと思っていた。はかどらなきゃ街でもぶらつけばいいし、意味もなく部屋に籠もるよりは有意義だ。
「ならばその、北淀鹿島へ行くのに……つ、付き合ってくれないか」
那谷羅は両手の人差し指をツンツンと突き、俯きながらモニョモニョと口を動かした。
コイツ、昨日霧と行ったのに今日も北淀鹿島に行くのか? 買い忘れた物でもあるんだろうか。
まあ、何でもいいか。暇なのは事実だし、北淀鹿島には行こうと思ってた。付き合ってやろうじゃないか。
しかし那谷羅のヤツ、まさかデートに誘ってくるとは。行動の意味分かってないだけだろうけど、なかなか大胆なヤツだ。
「いいよ。じゃあ、ちょっと待ってて。出掛ける用意するから」
「い、いや! 待ち合わせは十四時に淀鹿島駅北口で頼む! また会おう!」
そう言うと、那谷羅はドアを開けっぱなしのままにして、足音をドタドタ鳴らしながら階段を降りて行った。アイツ慌ててやがる。
「……なんで待ち合わせが駅前?」
那谷羅は主にテントで寝泊まりしてとはいえ、オレと同じ場所に住んでいる。ここから駅に向かう道も一本道なので、那谷羅もオレと同じか近い時間に家を出るだろう。待ち合わせ場所を決めても意味がない気がしてならない。
そして二時間後。
そろそろ家を出ようと思ったら、いつか聞いた爆音が聞こえた。
「……アイツ、空飛んだな」
オレは別に飛行をやめろとは言っていない。誰かに見つかると面倒だから注意しただけだ。そこがわかってるなら問題なし。
客が多い時だけは控えてほしいが、民宿周辺なら人が全然いないから飛んで問題ない。
那谷羅が空を飛んで北淀鹿島に行った理由はわかないが、気にするのも変なのでオレも家を出た。