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THE・主人公  作者: 小鬼健大
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第8歳-子役編-(2)

 オーディションを受けに行った3日後、躊破は当然のように合格していた。


「おにぃ、凄いね!」


 義妹である花美露(かびろ)も躊破を褒める。家族がTVデビューとなれば喜びも一入(ひとしお)だろう。リビングの端では、暁美が「天才子役躊破」の横断幕を作っている。一体どこで使うつもりなのだろうか。


「ところで、どんなドラマをやるんだ?」

「えっとね、アットホームなドラマ?」


 千疾の質問が答えられない躊破は真に目線を送る。

 

「躊破サマに変わってお答えしましょう!父親が仕事に疲れて、母親が愛想を付かせて出ていってしまうような家族。しかし、そんな家庭には二人の子供がいた……。二人の子供と家庭崩壊目前の両親が織り成す感動のホームドラマ!!――その中の子供の一人が躊破サマということです」


 真はスラスラとドラマが銘打っている内容を伝える。さながら、出来る執事である。

 

「嫌だ!躊破に他の家庭に行って欲しぐな゛い゛!」

 

 子煩悩な千疾が訳の分からない理論を展開しているが皆んな無視する。


「ッ……」


 いや、密かに花美露がショックを受けていた。躊破はそれを見て、一言伝える。


「僕はこの家族の子供が良いんだよ」

「躊破……!」


 早速届いた台本に書いてあった言葉は劇的な効果を発揮していた。うるさかった千疾が黙り、横断幕を作る暁美も涙ぐんでいる。

 今日は躊破のことを離さず抱っこして寝たらしい。


 ◆


 いよいよ顔合わせの当日。躊破は真に身だしなみを整えて貰いながら会場へ向かっている。

 会場は広いホールで、立食式の会合が開かれるのだ。そこにはプロデューサーや脚本家、出演者などなどオールキャストが一同に集まる。躊破のような子供には保護者として一人だけ同伴がくっついている。


「なんか、緊張するね」

「そうですね、躊破サマ。誰が襲い掛かってくるかも分からないですからね」


 なんか違うと思いながらも躊破は真に再度尋ねる。


「えっーと、ボクがするべきなのは、壇上に上がって皆んなに笑顔で“こんにちは!よろしくお願いします!”って言うんだっけ?」

「そうです!躊破サマのご尊顔を皆んなに見せるにはこれが一番良いでしょう!何か一言付け加えても良いですね」

「分かった!」


 躊破は真に頷きを返す。



「招待状をお見せください」


 真は躊破への招待状を係員の人に見せる。中に入るよう身振りで指示されたので、躊破がホールへの扉を開ける。扉を開けるとそこには豪華な食事が広がっており、身なりが整った恰幅の良い男性や、おしゃれをした女性がわんさかいる。

 ご馳走に躊破は目移りした。それはもう綺麗に。最初は挨拶に向かう予定だったが、一直線に皿に向かっていく。だが真は何も言わず躊破に渡された皿へバイキング形式となってる食事を盛りつけていく。

 

「あー、躊破さんはさぞや甘やかされて育てられたんですね」


 女は躊破を卑下して、嫌味を言う。実は、これは当たり前だ。躊破が所属する事務所は新興で、何も実績がないのである。実績がないところは信頼がないため、テレビ業界で保守的な人は嫌がる。これはちょっとした嫌がらせの一環だろう。真はサッと間に入って、目の前の対象者を脳内検索する。女はAD:アシスタントディレクターで、内山由香子という名前だったと思い出す。


「なによ」


 躊破の間に入ったイケメンにまじまじと見つめられたADは居心地が悪くなって言葉を発する。


「いえ、躊破サマが嫌味を言い返さないようになったのは育ちが良かったのだろうな、と」

「なッ──」


 躊破はご馳走に夢中で、悪口を言われたことさえ気付かなかっただけだが。


「まあ、こちらも素人なのでよろしくお願いしますね、内山さん」

「…………」


 ADは何も言い返せなかった。真にマークされたのは確実だ。この場でわざわざ名前で呼んだのはそういうことだろう。問題は、真がなんでもやるという危険な雰囲気を纏っていることである。こちらに手を出したら殺すと本気で考えてそうだったので、ADは素直に引いた。


「あら!躊破きゅん来てくれたのね!」

「あ!おばさん!」


 次に男か女かわからない人は躊破に声をかけた。真は目の前の人がD:ディレクターだと思い出す。名物ディレクターである濃井(こい)華央(かお)が躊破と仲良くしていて安心する。


「いやー、(ぽいずん)かめむしの秘蔵っ子がこんなに出来る子とは思わなかったわよ」


 真は感心する。ディレクターは牽制する為に声をかけたのだ。毒かめむしというテレビ業界の大物が躊破のバックについているのだとこの場にいる皆に分からせる為にわざと大きな声で話かけてきたのだ。


「本当?えへへ、嬉しいな」


 躊破は、はにかんだ笑顔を濃井に向けた。真は内心で感謝をする。躊破サマの笑顔を引き出してくれたことに。

 

「じゃあ、他の子にも挨拶に行ってこようかなー」


 ディレクターは笑顔で他にも挨拶してくるからとこの場を去っていく。その先には一人の同年代らしき少女がいた。その少女は栗色のショートで程よくウェーブがかかっており、目鼻立ちがすっきりとしている。姿勢よく佇み、その姿からは育ちの良さが伺える。話す時の所作は優雅だ。そして、ばちばちに目が合っている。


「皆様揃われましたので、会の進行を始めていきたいと思います」


 司会が開始を告げる。


 ◆


「いいか、お前は天才なんだ」


 これは、お母様が死んだ時にお父様が私に対して呟いた言葉です。


「私は助演男優賞しか取ったことがないが、母さんは日本アカデミー優秀主演女優賞を取ったことがあるんだぞ」


 おとー様は遠い一点を見て言いました。過去を回想しているようなそんな感じでした。


「なんたって母さんの血をひいているお前なんだから」


 おとー様は悲しそうな顔をしました。

 私はおとー様の血をひいていることも誇りなのに。助演男優賞を幾度となく獲っているおとー様は凄いのに。おとー様はどこか自分を卑下しています。


「一位になってくれ」


 文脈にはそぐわない言葉。それでも、おとー様が言いたいことは強く伝わります。しかし返事を返そうにも過去の話ですから。その時、自分が言葉を返せなかったことは今も悔やんでいる一つです。

 

 今更ながらに私の根となる話がフラッシュバックしたのは、目の前の男の子が原因でしょう。


 

 今回のドラマは誰が主人公という訳でもなく、一家全体が主人公です。皆にスポットライトが当たる流れ。つまり、私と弟役の人は対等なのです。弟役には今人気沸騰中の実力派子役「鎌瀬(かませ)(けん)」が来るのかなと思っていたのですが、実際には無名も無名である「龍凰院(りゅうおういん)躊破(ちゅっぱ)」という人が大抜擢されていました。

 一番嫌いなタイプです。ポッと出の人が実力あるわけないでしょう。エキストラから死に物狂い下積みしてようやく辿り着く極致なのです。誰かの恩恵でなっていいものではないと考えます。


 今も躊破さんは濃井ディレクターに取り入っているのでしょう。その証拠に、


「毒かめむしの秘蔵っ子」


 という単語が聞こえてきました。なるほど、テレビ業界の大物に好かれているのであればこの大抜擢にも納得です。濃井ディレクターはそのまま私の所に歩いてきました。


「久しぶりだね!犬牛(わんもー)雛猫(ぴよにゃ)っち!」

「濃井ディレクターは変わりませんね……」


 濃井ディレクターを見ずに応えました。なぜなら、例の躊破さんと目がずっと合っているからです。何故か目線を外したら負けのような気がして、離すタイミングを失ってしまっています。

 エラが張りすぎない輪郭に大きい目、髪はストレートの黒髪で男子の癖に艶があります。────顔がいいことだけは認めましょう。が、それだけです。


「ん?なんだい?躊破きゅんが気になるのかい?」

「ところで、彼を何で選んだんだい?」


 おとー様が間に割って入り、濃井ディレクターに問います。確かに気にはなっていました。濃井ディレクターは今時珍しい権力には屈しない実力至上主義のディレクターだったはずなのです。

 濃意ディレクターは邪魔者が入ってうんざりという顔をしながらこう答えました。


「あの子はいずれテッペンとれる逸材だよ」


 ということはつまり……。


「皆様揃われましたので、会の進行を始めていきたいと思います」


 司会の人が会の幕開けを宣言しました。

 そしてそのまま、流れで俳優陣がスタッフ陣に向かって挨拶することになりました。

 躊破さんは隣でちょっと緊張気味にしてました。どこに一位になれる要素があるのか、じっくり観察しましたがみつかりません。同級生の男子と違うところなんてありません。

早紀(さき)役を努めます犬牛雛猫と申します!ふつつか者ですがよろしくお願いします!」


 躊破さんに当てつけとしてふふんと胸を張ります。

 躊破さんの番になりました。彼は動悸が治まらない中で言いました。


「こんにちは!よろしくお願いします!スゥ、赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ!」


 ……やるではないですか。

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