強運か悪運か 5
「期間限定とは聞いてないけれど」
「もともと、鉄道事業が軌道に乗るまでの話だった。その先は決めてない」
「これからが大きな利益に結び付くのに?」
「うちの鉱山はこれからも提携するし、これ以上は、俺よりもっといい相手がいるだろう」
例えば、どこかの侯爵家の三男坊とか。
今は男爵を名乗っているが、いずれその爵位は実家に返上するはず。いくら余っているとはいえ、どこの貴族家でも、自分の代で保有する爵位を減らそうとは考えない。だいぶ前から功績による叙爵は困難な時代となっていて、おそらく、今後は一代限りの称号以外認められることは無いと思われるからだ。
そうなれば、自分等よりよほどアマンダには相応しい相手だ。
「だから、アンタの親父さんも、釣書きを山ほど送ってきたんだろ。引き際は心得ているから、余計なおせっかいは勘弁してくれ」
オスカーが去った執務室で、アマンダは否が応でも、自分の失敗を認めないわけにはいかなかった。
あの後渋るオスカーを何とか宥め、これからの路線計画とラドクリフ家の利益を説き、なんとか今後の協力を取り付けた。
それにしても、と思う。彼にとっては結婚やそれに伴う恋愛沙汰は、よほど煩わしいことらしい。
ヴィアンカは、ラドクリフ家とパウエル家が過去親しくしており、その関係で両家の子供たちの間は親密な関係だったと教えてくれた。そのため、婚約の話でも出た頃かとカマをかけたのだが、どうもそうではないらしい。
急いては、事を仕損じる。今回は黒星だったが、オスカーがパウエル家に全く感情を持っていないことが確認できたのは、僥倖だ。アマンダにとっては、決して不利なことではない。何より、まだ結果が出たわけではないのだから、焦る必要も無いだろう。―――――とはいえ、実のところ、さほど時間があるわけでもないのだが。
どうもオスカーは、アドラム男爵との交際について、思うところがあるらしい。
硬質な美貌とは対照的な、明るく華やかな名門侯爵家の三男坊。彼と話をするたびに、いつも抱く感想―――――やっぱり、よく似ている――――それが、容姿についてだったら、こんなに困惑しないで済むのに、ままならないものだ。
アマンダは、そっと息を吐きだした。
近々、父に会って確認しなければならない。わざわざオスカーを側に付けたのは、それなりの理由があるはずなのに、なぜ、軌道に乗るまでなんて半端なことを言ったのか。
運がいい――――アマンダは、いつも周囲に言われる言葉を思い出す。
名門伯爵家に生まれ、辣腕家の父がいて、将来安泰。自分も傷はついたが、才能に恵まれてそれを生かすことが出来ている。環境もよく、何より必要な情報が、必要なタイミングで手に入ってくる。確かに運がいいのだろう。だけど、いくら運があっても、それを生かすことが出来なければ、幸運には結び付かない。
アマンダは、自分が運がいいのだとは思っていない。悪運は、考えようによってはチャンスに変わり、それを乗り越えれば強運となる。そうして様々な問題を解決してきた。
「今度も、必ず望みを叶えるわ」
ここで失敗しても――――――まあ、大したことではないけれど。
あまり物事を深刻にとらえないアマンダは、意気込みとは裏腹に、最後にそう呟いたのだった。




