強運か悪運か 4
「パウエル侯爵家は、長女が後を継ぐんですって」
「・・・・・・。それが?」
「領地が近いから、知っているかと」
「近くてもあっちは侯爵家、うちはしがない子爵家だ」
ふん、と軽く鼻を鳴らす。無関心を装っているけれど、はっきり知らないとは言わないところが、この男の限界だ。決して嘘はつかないが、軽妙な言葉で煙に巻く。中途半端な言動は、彼が吐いた煙幕の効果と相まって、軽い不信感と、後からなぜか信頼感を呼び起こす。
だから、腹黒狐に目をつけられるのだ。
アマンダは、昼下がりの会議室を、妹の言葉を、思い浮かべながらさりげなく爆弾を投下する。
「だって、昔は仲が良かったでしょう」
ほんの半舜。一瞬にも満たない間時が止まる。思った通り、会心の一撃だ。
食えない男との交渉は、まずは先手必勝。何しろ相手は海千山千、どんなワケアリ令嬢でも、厄介な執着系失恋女性とでも言い寄られればつきあい、キレイに別れると言う手腕の持ち主。対して此方は長年の恋を引きずってきたのがバレている。
それでも、私は❝運が良い❞――――――父がそう評し、自分ではも概ねそう思う。だから、この勝負は負けられない。
何と言っても私の望みは、それほど高くはないのだから。そう、贅沢は言わない。最低限の目的さえ叶えばそれでいい――――――。
食えない男は、分が悪いと沈黙を守る。まるで、相手にする価値さえないとでも言うように。だけど、此方だっていつまでも失恋に泣いてるわけじゃない。
「政略結婚って、合理的なロマンスだと思わない?」
「・・・・・・・」
「情熱だけがロマンスじゃない、条件と信頼と好意で始まってもおかしくないでしょう」
話の方向がまるで見えないオスカーは、目を眇めてアマンダを見つめる。そのどこか胡乱気な眼は、情熱だけで成り立つロマンスをいつまでも忘れていない癖に。ナニヲイッテルンダ、コノオンナ。とでも言いたげだったが、口に出してはこう言った。
「アンタの結婚の話か。俺みたいな素行の男が側にいるのは心配か?」
多分、アマンダはオスカーの結婚の話をするつもりだ。パウエル侯爵家の話が出たのは、そう言うことだ。全く、嫌になるくらいの情報通だが、まるでそんな気はないオスカーは、さりげなくアマンダに話をすり替える。
「アンタの周りには、適任な色男がいるからな。そろそろ醜聞を気にしてもいい頃だ」
アドラム男爵。アマンダが愛してやまない元婚約者と張り合える、今の社交界では、おそらく唯一の独身男。金髪碧眼と華やかな容姿は、二人が似ていると人々に気付かれないためには、格好の目眩ましになる。
愛情深いアマンダは、自分から捨てた愛する男を忘れられず、無意識のうちに似た男を選ぶ。いずれはそうなるなら、そろそろ潮時だ。
「ちょうど伯爵との契約も終わる。脇役は退場する頃合いだ」




