強運か悪運か 2
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
二人は、暫し無言で見つめ合う。
今までアマンダは、仕事に差し支えさえしなければ、オスカーの私生活に一切口出ししてこなかった。それこそ、朝帰りしようが、商談直前まで行方が分からなかろうが、どこにいたのか、誰といたのか、何をしていたのか尋ねることさえなかった。
なのに、今更、突然そんな質問を?
身綺麗にしろ、というのならそれはお門違いというものだ。アマンダとオスカーは、事業以外のことで、あらゆる意味で付き合ったことは無い、どころか一瞬たりとも、ただの一かけらさえ甘い雰囲気になったことが無い。そしてアマンダは、無駄に人のことに口出しするタイプでもなかった。
つまり、今の言葉には、大きな意味がある。まさか、政略結婚でも斡旋する気なのか。まあ、あり得ない話でもなかった。
「俺の雇用主がそんなことに興味があるとは。うかつにも気付かなかったけど、それは些か越権行為じゃないか?」
そこでオスカーは席を立つと、アマンダのすぐ側まで近づいた。結構無礼な距離感だ。
「この態度の方が問題では?」
「アンタの質問は、ちょっとばかり誤解を呼ぶ」
「 ――――――だから、このくらいいいだろう?」
そう言って、更に顔を近づけてきたが、アマンダの片手がそれ以上の接近を阻止する。無造作に追いやられたオスカーは、想定内だ、というような口調で抗議した。
「この雑な扱いは、何とかならないのかね」
「答えもしないのに、丁寧に扱えと?」
「質問は具体的に。交渉の基礎だろう」
「足元を見られるかもしれないのに?」
「この類の交渉で、俺相手に駆け引きを?」
「心の準備が必要かと思ったのよ」
アマンダは、にっこりと微笑んだ。
25歳という年齢は、貴族女性としては決して若くない。令嬢として一番美しいと言われる年齢をいくつも過ぎて、なお独身のアマンダは、売れ残り、嫁き遅れなど、陰でさまざまに言われていて、本人もそれを承知していた。
若い頃は完璧な令嬢、理想の貴族令嬢と言われたアマンダは、美しいと言う賛辞とはほぼ無縁だった。わかっているから、完璧なマナー、気品あふれる振る舞いを心掛けていたのだろうが、今の彼女はそれほど貴婦人としての在り方に拘ってはいなかった。
それでも。今見せたような、何の気どりもなければ、腹に一物あるのを隠しもしないのに、いっそ清々しさを感じさせるほどの微笑みの方が、よほど魅力的だ―――――。
この笑顔は、要注意だ。いつもこの後無理難題をふっかけられる。無茶な期限の書類仕事とか、ぎりぎりの交渉とか。大抵、この笑顔の後に言われるのだ。
「貴方なら、大丈夫よね」
そして、いつもオスカーは逆らえず、彼女の満足のいく結果を出してきた。だが、前振り段階でこの表情を見せたことは無い。
厄介ごとの予感に、オスカーはこっそりと気を引き締め、そんな様子を窺いながらアマンダは、数か月前のヴィアンカとの会話を頭の中で反芻していた。




