強運か悪運か 1
「話を聞いてるのか?」
自分の思考に耽っていたアマンダは、若干苛ついた言葉に、はっとする。いけない、今は、大切な話の最中だった。
「ああ、ごめんなさい。ちょっと休憩にしましょうか」
極めて個人的な問題に囚われていたアマンダは、少しばかり気まずげに、やや早いお茶の時間を提案した。
「らしくもないな。アドラム男爵のことでも考えていたのか」
目の前の男は、何気に鋭い追及をしてくる。
「もう噂になっているの」
「主に社交界が大喜びだ。経済界の大物令嬢、とうとう結婚か。相手は、気鋭の実業家ながら由緒ある侯爵家の三男。婿入り決定で、独自路線を歩んできた伯爵家は侯爵家の傘下となるのか、妹の嫁ぎ先との関係に立ち込める暗雲、と言ったところだ。どうする気だ?」
「あら。大物の跡取り娘、じゃないのね」
「気にするには、そこなのか」
「認められるのは、気分がいいでしょう」
「そりゃ重畳。もう少し仕事に気合いを入れてくれれば、なお結構」
「えぇ・・・・・。これ以上働いたら過労死しそう」
行儀悪く菓子を口に放り込みながら、ぐったりとテーブルに半身を投げ出す様子は、とても❝完璧な令嬢❞とは言えないだろう。最も、本人に言おうなら、令嬢なんて年齢じゃないと、鼻で嗤われて終わりだ。
「新しい製鉄所の生産力が足りない。アンタが自前でやるのを反対したんだろ」
「製鉄だけじゃなくて鉄工所もなんて、そんな効率が悪いこと。うちは素材の発掘、材料の生産は他でやった方がいい。複数個所に希望価格を出させて、何か所かと契約すればリスク分散にもなって一石二鳥。まだそこまで生産力の高い工場は無いんだから、ちょうどいいでしょう」
「初めからそのつもりか」
「アドラム卿は知らないけど、本家のアシュフォード家は結構強引なの。たまには、足元を見られる気持ちを味わってみるといい」
ふふん、と胸を張る姿からは、表向きの優雅な貴族令嬢の面影は微塵も感じられない。それは結構なことだ、とオスカーは思う。思うのだが。
「アンタが俺に仕事を投げるから、こっちは煩くてかなわないんだが」
「男性が矢面に立った方が、何かと都合がいいのよ」
一緒に事業を始めてわかったことだが、アマンダは、発想が独特なうえ、案外思い切りがいい。おまけに合理的で部下に任せることを躊躇わない。面倒くさがりな癖に行動力があるので、結構甘く見られた配下にごまかされることも多いのだが、大抵大ごとになる前に刈り取ることが出来ている。要するに能力に恵まれて、カンが良くて運もいいと言うことなのだろう。シュタイナー伯爵の❝あの娘は強運を乗り切れる❞という言葉も納得だ。ただし振り回されるこちらは―――――
そこまで考えた時、思いがけない一言が聞こえてきた。
「それに、もういい年なんだから、少しは落ち付いたら」




