感情が動く時 2
「それとも、既にどなたかと約束が?」
遠慮がちに見せかけて、実は半ば確信するような口調で、尚且つ探りを入れるのがわかるという、絶妙なテクニックで問いかけてくる。
「いいえ。今のところは」
だから、きっぱりと言い切った。実のところ、彼の言わんとするのは、オスカーとの関係を示唆している。
本人たちは、完全にビジネスパートナーとしての意識しかない。艶めいた話も、仄めかしもあったためしはないが、周りはそうは見ない。何と言っても年頃の男女、それも5年もの間、他の人間との噂もないのだ。勘繰るな、という方が無理がある。
それでも、噂こそすれ、具体的な話にならなかったのは、二人で公の場に出ることはあっても、ダンスを踊ることすら稀、問われればはっきりと否定してきたからだ。そのスタンスを崩すわけにはいかない。
そろそろ事情が違ってきたとしても、❝彼❞には、相手がいるのだから。
そこまで考えて、ふと、思った。❝彼❞とは誰のこと――――?
「それでは、僕が立候補しても?」
「口さがない方々が、なんと噂するでしょう」
「周りの声に惑わされるような女とは思っていませんよ」
確信めいた言い方に、おや、と意外に思う。
長い間、❝完璧な令嬢❞は、アマンダの代名詞だった。完璧とは、無用な噂を立てさせないこと、自らの価値を落とさない、プライドの高さも含まれる。その意味では、元婚約者によく似た相手を選ぶというのは、決していい方法ではないと言うより、避けるべきだ。余計な憶測を生むし、それは、元婚約者に未練がある、即ち5年たっても未練がましい女となりかねない。
それなのに、この断定的な言い方。どうやら、案外こちらの本質を見抜いているらしい。そう思った。と、同時に興味がわいてきた。
アマンダは、案外自分は、あまりよくない性質の人間ではないか、と常々思っていた。それは、父が妹の妊娠を告げてきたとき、衝撃と共に、より確定的になったともいえる。
まあ聖人君子ではないのだし、ビジネスに携わっていれば、誰もが五十歩百歩の腹黒さはもちあわせている、程度の認識はある。それでも恋愛が絡めば、それはまた違った側面が出てくるものではないのだろうか。
「今は、貴女が僕を見てなくても構いません。問題は、この先のことですから」
そう思いませんか?言外にそんな言葉が聞こえてくる。
アマンダは、しばし考える。これは、諸刃の刃だ。うまくいけば彼の言う通り、自分たちには明るい未来となりうる。周囲の評価はさておき、と付くが。失敗すれば、笑いものになった挙句、お互いに傷つけあうことになる。
しかも、自分の場合は相手を傷つけたことによるつく傷になる。最悪だ。
「どんな結果になっても、貴女が気に病む必要はありません」
「・・・・・・どんな結果でも?」
「何もしないよりは、はるかにましというものです」
「では、ビジネスパートナーから始めましょう」
「いずれ、発展するかもしれないパートナー、ということで」
「とても的確ですわ」
そろそろ、閉会の時間だ。そろそろ中に戻らなければならない。エスコートのために差し出された手を取ると、甲に口づけが落とされる。
洗練された自然な仕草に、そんなところも彼に似ている、と思う。いつか、彼が似ていた、そう思う日が来るのだろうか――――――。
そんな思いを胸に、供に会場へと戻っていった。




