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感情が動く時 1

「誤解があるようですが、あくまで一般的論として、です」

「まあ。一般論として自論を語る方も珍しくはありませんものね」

「誤解ですよ。僕が言いたかったのは、その前の話です」

「悲しむ人がいる?」

「そう。気に掛けてる女性(ひと)の悪評を聞くのは、とても腹立たしいものなのですよ」

 それが、事実でないなら余計に。そう小さく呟いて、困ったように微笑みかける。まるでそれは、貴女にはご迷惑かもしれませんが、と言っているように見えた。

「ご心配なく。父は、この程度の悪評など歯牙にもかけませんわ」 


 相手の言いたいことがはっきりしない場合、事実に基づいた結論のみ述べる。ビジネスの鉄則だ。実際父親であるシュタイナー伯爵からは、ため息交じりに❝ほどほどに❞と言われる程度だ。ビジネス界で一番と言っていい成果を上げるアマンダが、格下の有象無象からの悪評を気に病む必要などない。まあ、悪評などない方がいいには違いないが。❝彼女を気に掛ける者たち❞の意識は、概ねそれで一致していた。

 アドラム男爵は有象無象ではないが、だからと言って、真意不明な言葉に踊らされるなど愚の骨頂。この辺りのアマンダのシビアさは完全に男性よりで、それがまた悪評に輪をかけている。


「確かに。余計な事でしたね」

 拒絶に対する応えも完璧だ。

「ですが今回の成功で、貴女のまわりはますます騒がしくなる。更なる協力者が必要では?」

「アドラム卿が名乗りを上げてくださるのですか?」

「僕の実家は、製鉄所を更新する時期です。何かと使い勝手がいいと思いませんか」

 なるほど。鉄道事業で使う鋼鉄は、従来の製鉄法では錬成できない。かといって、新たな炉を建造するには、莫大な資金が必要だ。これから大量の鋼鉄が必要になるのに当たり、アシュフォード家はすぐに対応できるというアピールに近づいてきた、というところか。目の付け所は悪くないが。

「そういうお話でしたら、父に伝えておきますわ」

 アマンダが表に立ってはいるが、最終権限はあくまでも当主にある。確かにアマンダは、大きな権限を持っているが、鉄道軌道の計画や高速炉の建設などの土台は、主に伯爵が立案し、内内に内容を詰めて重役会議で決定するという流れだ。アマンダより伯爵に伝えるべき案件なのだ。

「伯爵には、実家から直接話がいっています。僕は、アマンダ嬢に、僕の有用性を知ってほしかったんですよ」


 眩い金髪に碧眼というキラキラしい容貌を持つ青年は、清々しいくらい直接的に、好意を伝えてきた。反射的に、正反対の硬質な美貌を持つ元婚約者の姿が浮かぶ。

 対照的な容姿を持つ二人は、その家柄、能力からよく比較され、尚且つ❝似ている❞と評判だった。今ではその頃の話をする者はいないが、アマンダと関わりが出来たとしたら。彼女が、完璧な貴公子と言われた元婚約者を忘れられず、よく似た男性と交際を始めた――――そんな噂が飛び交うこと間違いなしだ。



 その様子を想像してみる。以前の自分は、耐えがたい屈辱を感じて彼を遠ざけたが、今ならどうだろう――――?

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