シュタイナー伯爵 幕引きの後に残るもの 13
妻の呟くような、それでも断言する言葉に、伯爵家の当主たるアーネストは、確固たる自信をもって応える。
「君にとって何より優先するのは、アマンダの要望だろう。❝誰もが納得できる結果❞なら、今までの話の中で充分結論が出るはずだ」
また、隠し事をする。仮令それが不協和音の原因であったとしても、離婚を希望した妻に、家族円満という枷を告げるのは憚られた。
アーネストは、一度しくじった。だが、何度やり直しても同じ行動をとる自信がある。そうしなければ、彼女との結婚は実現しなかった。だから、彼女の祖母の条件をこれ幸いと、何も知らせず囲い込んだ。こうなった今でも、後悔していない。後悔するとしたら、それは、約束通り、馬鹿正直に黙っていたことだ。
シアーシャは、離婚を望み、自分は拒否した。選択肢には入れたが、話の流れから、強硬に主張する可能性は低い。婚姻関係さえ持続できれば、時間をかけて、ある程度の関係修復は望めるだろう。❝家庭円満❞は、彼女が選択した後に告げても十分間に合うはずだ。少なくとも、初めから囲い込むようなことはしない。同じことを繰り返さないためにも。
「それは、離婚を選択しても構わない、と言っているの」
「――――それが君の選択なら」
冷静な答えに、図らずも心臓が大きく跳ねる。さっきまで味方だった薄闇が、急に真実を覆い隠す暗闇に思えてくる。自分で言い出したことなのに、夫が何の動揺も見せずに肯定した、その事実が重くのしかかる。今、彼がどんな表情をしているのか知りたいと、切実に思った。
現実的に考えれば、離婚は最適解ではない。今話し合っているのは、娘たちの婚約とは別に、家族内のこととして片が付く問題だ。なのにこのタイミングで離婚すれば、婚約解消と結びつけて噂が広がる。ダドリー夫妻の解雇と共に尾ひれがついて、格好のスキャンダルになりかねない。それはわかっているけれど―――――。
「私たちは、もっと前に話し合うべきだったわ」
今さらどうしようもないのに、思わず、本音が零れ出た。
つまらないプライドが邪魔をして、不信感を抱えたままにした。自分の苦しさを娘に投影して、確認もせずに、不幸になると決めつけた。行動する前に事実を見極めるべきだったのに。
「アーネスト。私、この部屋にはいられないわ」
はっきりとそう告げる。テーブルの向こうから、ほんの僅かに驚いた雰囲気が伝わってくる。いつも冷静な夫を動揺させたことに、かすかな満足感を覚えると共に、離婚には動揺しなかったくせに、と理不尽な思いが湧き上る。
ああ、本当に、この人の側にいると、自分の身勝手さを思い知らされる。だけど、完全に離れることも難しい―――――だから。
「体調が思わしくないから、西棟で静養する―――それで、どうかしら」




