シュタイナー伯爵 幕引きの後に残るもの 12
「彼らは、明後日にはこの屋敷を引き払う予定だ。君は、どうしたい?」
「・・・・・・私に決定権があるのかしら」
貴族社会に於いて、不始末を起こした家族の処遇を決定するのは、当主の権限だ。身分が高ければ高いほど、他者の意見が受け入れられることは無い。それは、シアーシャも理解していた。
離婚を口にしたのは、単に自分の希望を伝えたに過ぎない。というより、そのほかの選択肢など考えられない。よもや反対するとは、微塵も思っていなかった。ダドリー夫妻にしてもそうだ。なぜこれほど寛大なのか。
「僕が提案して、君が選択すればいい」
「・・・・・・どんな提案なのかしら」
おそらく、アマンダの要求が反映されているのだろう。それがアマンダの願いなら、何としても受け入れなければ。そう決意しながら、問う。
夫の提示した選択肢は三つ。
一番目は、シアーシャの希望通り離婚。条件として、婚姻時の持参金に、今まで投資で得た利益を上乗せして返還する。今後、娘二人との交流は、伯爵家に影響がない限り、自由にしてよい。
二番目は、離婚はしないが、王都から離れ、旧クリサンス子爵家の領地に移る。期間は数年を予定。アーネストの母が伯爵領にいるが、希望があれば伯爵領でも構わない。この場合、娘たちと会うのは、領地に限られる。
三番目は、離婚はせず、このまま生活する。この場合、現在と同じく体調不良を理由に、数年は社交の場に出ず、家庭での権限も停止となる。また、侍女は商会から、高位貴族の接客要員を二名派遣するので、彼女たちの教育を担当する。侍女はシアーシャ専属となるが、ほぼ一年で入れ替わる。いずれを選択しても娘たちが希望すれば、交流は自由。
「三番目の提案は、必要と思えないけれど」
「誰もが納得するためには、必要だ」
「それが、アマンダの希望なのね」
「そうだ」
「でも、それだけでは、応えられないわ」
秋の夕暮れは、夜の帳が降りるのが早い。さほど大きくないランプの光は、ごく限られた空間にしか届かない。薄灯りの中、はっきりしない表情は、却って都合がいい―――――そんなことを考えながら、問いかける。
「アーネスト。貴方は、また私に隠し事をするのね――――――」




