シュタイナー伯爵 幕引きの後に残るもの 11
「君の言うとおりだ」
アーネストは、妻の言葉に短く同意した。
アマンダが傷を負ったことについて、伯爵邸の使用人たちは、ほぼ全容を知っている。ヴィアンカのためにセルマンが戻り、一人残されたアマンダが事件に巻き込まれた。二人は理想的な婚約関係にあったが、もう何年も前からセルマンは、ヴィアンカの発作に付き添う方を優先していた。今回の、家令と家政婦長であるその妻の解雇は、一連の責任を問われたためであること。だが、使用人にすぎない夫妻は、ただ、夫人の意向に従ったに過ぎない。本来、責任を取るべきなのは、誰なのか。
シュタイナー家の使用人は、優秀である分、主人を見る目もシビアだ。使用人に全ての責を負わせて解雇などしたら、主家に忠実に仕える者は、遠からず自ら去っていくこと必至だ。だから、アーネストは妻に対して、厳しい態度で臨まなければならない。それこそ、生涯領地に蟄居か、いっそ離婚でもおかしくないくらいなのだ。
「だが、僕はアマンダに要求されていることがある。あの事件の半年前に、アマンダから婚約者を代えてほしいと言われたんだ」
「何度かロンサール侯爵と交渉していたが・・・・・・。侯爵は事業の拡大を望んでいたし、何より、カーライル卿が納得しなかった」
「・・・・・・半年前?」
「そう。度々急かされたが、なかなか話が進まなくてね。待ちくたびれたアマンダが、業を煮やしたというのがあの事件の発端だ――――だから、君に全ての責任があるわけじゃない」
「それでも―――甘い処遇は、使用人たちの不満に繋がるでしょう」
「ダドリー夫妻が君を一番に考えていることは、皆が知っている。これまでは大きな問題にならなかったから、皆黙っていたに過ぎない。何より彼らは、そろそろ引退してもいい年齢だ。王都の治安のいい場所に、父が住んでいた一軒家があるから、無償で提供すると提案した。それ以上、僕にできることは無いと思うが」
「・・・・そう、ね」
ダドリー夫妻の子供は、当然のことながら既に独立している。先代伯爵は引退後、しばらく夫婦で王都に住んでいた。治安が良く、生活環境が整っている地域にある、小さくとも洒落た屋敷だ。あそこを無償で提供されたのならば、確かに紹介状も退職金もなくても十分だろう。しかも、シアーシャが個人的に援助するのも構わない、と暗に言っているのだ。
一見冷徹に見える判断と、冷淡な態度に隠れてなかなか気づかないが、いつでも細心の注意を払って話をするし、相手にできる限りの配慮をしている。夫がそういう人間だと知っているけれど、今回ばかりは、それを受け入れたくはない。なぜなら、彼がどう言おうとシアーシャは、自分の行動とその結果を理解している。
夫は、ずっと彼女に愛を告げてきたし、彼女も彼を愛している。それでも、自分のしたこととその結果を目にする度、自分が夫を信じなかったこと、勝手な思い込みで彼の意見を無視した挙句、どうなったかを思い知らされる。自分は、ここにいるべき人間ではない―――――その思いが払拭されることは、決して無いと断言できた。




