シュタイナー伯爵 幕引きの後に残るもの 8
誤字脱字報告、ありがとうございます!
早速適用させていただきました。
どんなに気を付けていても、自分ではなかなか気づかないので、本当に感謝しています。
秋の残照が最後の名残を差す部屋に、何とも言い難い沈黙が落ちる。
ややあって、彼女の夫は慎重問いかけた。
「それは、君が言う❝信頼❞と関係があるのか」
「・・・・・・」
シアーシャは、少しばかり逡巡する。どう答えるべきか。
彼女の夫は、平凡とはほど遠いところにいる男だ。周到に用意した嘘でも、言葉を交わすうちに見抜かれることが多々ある。ましてや今回の話は、長女の怪我に婚約者の交代、家令夫妻の解雇に自分たちの離婚と盛りだくさんな上、内容が重すぎる。追及されたら、誤魔化せる自信が全くない。
多分、潮時なのだろう。当初から不穏な空気を纏った婚姻だった。違和感を感じた時に問い質していれば、もう少し違った結果になったのだろうか。
そんなことを考えながら、シアーシャは重い口を開いた。
「貴方は、私に隠してきたことがあるでしょう」
薄暗くなってきた部屋に、ランプをつけるべく、立ち上がる。本来はメイドの役割なのに、人払いをしたのか、現れる様子がなかった。本当に、用意周到なことだ。だから、シアーシャも遠慮はしないと決めた。
「社交界のご婦人方は、言うなと言われたことを迂闊に口にしたりはしない。だけど、決して黙っているわけではないわ」
そう、彼女たちは、今を時めくシュタイナー伯爵家の婚姻に水を差すようなことは、決してしなかった。もし気づかれたなら、自分たちの家が多大な被害を被る可能性があるから。
だから、お似合いだと、素晴らしい縁組だと褒めそやしながら、こう言った。
その教養の高さが、アーネスト様の眼に止まったのでしょう。
それは、まるで合言葉のように、異曲同工に手を替え品を替え、シアーシャを褒める時には必ずと言っていいほど、皆が口にした。だから、気がついた。自分たちの結婚には何か裏があり、誰かが口止めをしたのだと。
もともと夫とは、以前の婚約者との繋がりで知り合い、プロポーズをしたことを隠していなかったから、そちらの関係でないことは確か。そうすると、教養という言葉が出てくる以上、祖母に関することである可能性が高い。祖母の実家とは別に疎遠というわけではないが、既に四十年も前の醜聞を今更掘り返すのは気が引け、しばらくそのままにしておいたのだ。
「なるほど、義兄どのか」
それでも夫は、即座に誰から聞いたか答えを弾き出して、
「君の祖母君が、まさか身内に漏らすとは思わなかった。盲点だったな」
どうやら自分の不手際と感じているらしく、ため息を吐いた。
由緒はあるが力はない侯爵家の三女であるシアーシャの祖母は、そこそこの商会を持つ伯爵家の嫡男と婚約していた。どうかすると相手の家の方が力はあるが、更に上を目指す伯爵家の当主は、エメライン侯爵が持つ人脈を期待して婚約を申し入れたのだ。
ところが、肝心の嫡男が他の令嬢と恋仲になり、政略結婚を厭うようになった。普通ならそこで破談になるところ、事業の頓挫と慰謝料の発生を懸念した彼は、婚約者に懸想する、侯爵家の従者に目をつけた。
曲がりなりにも侯爵家の従者である以上、貴族籍は持っている。自分は恋人と、婚約者は彼女を愛する従者と一緒になれば、円満に解決できる。そう考え、従者にあることないこと吹き込んで嗾けた結果、思惑通り自分は恋人とうまく結婚できたが、婚約者の名誉は地に堕ち、王都で結婚相手を見つけられなかった彼女は、やがて地方の子爵家へと嫁いでいった。
このとんでもなく浅薄な伯爵家嫡男が、先々代のシュタイナー伯爵なのだ。
「貴方は、私を愛していたんじゃなくて、私がお祖母さまの孫娘だから結婚したのでしょう?」
だから、事業には一切関わらせなかった。事業家同士の噂は商人たちの噂に通じ、どこまで掘り返されるか予想がつかないから。社交界では、すべての悪意ある噂から遠ざけるその様子が、どれほど愛情に満ちているか囁かれ、羨望の的になった。
だけど、その事実を知った時、シアーシャが抱いていた違和感は疑問に変化した。それは、本当に愛と言えるのか―――――?
シュタイナー伯爵夫妻の根深い問題点が、だんだん明らかになってきています。
デキの悪い息子とデキの悪い尊属は、同じくらいタチが悪いですよね!
少しは周りの迷惑を考えてほしいものです。
伯爵夫妻のお話、あと二、三話くらいで結果が出る予定です。それでシュタイナー伯爵の章は完結です。
その後、後日談でアマンダのその後で完全終了。やっぱり、ヒロインのその後は気になりますよね~
短編予定が結構な長編になってしまいましたが、もう少しで完走です。
お付き合いいただいている皆様、よろしくお願いします <m(__)m>




