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シュタイナー伯爵 幕引きの後に残るもの 7

 

 ダドリー夫妻は、元はクリサンス子爵家の執事と侍女で、遠からず家令と召使頭になるだろうと目されていた。

 下級貴族の三男と次女だった二人は、婚姻後貴族籍から離れ、夫婦で子爵家に仕えてきた。そろそろ使用人の代替わりの時期に差し掛かった頃、新当主、つまりシアーシャの兄の散財と投資の失敗により、妹の嫁ぎ先に爵位と領地を負債ともども移譲して、何とか家名の継続だけは維持した。

 ちょうどその頃、シュタイナー伯爵家の家令と侍女長が同時期に職を退くことになったため、ダドリー夫妻をその後釜として迎え入れたのだ。夫妻にとってのシアーシャは、雇用主の妻というより、幼い頃から仕えてきたお嬢様で、自分たちに就職先を紹介してくれた恩人でもあった。

 子爵家とは言え、高位貴族だった祖母が家内を采配し、使用人の教育にも携わったため、一年の引継ぎ期間を経て、夫妻はさほどの混乱もなくシュタイナー家の家令と侍女長に納まった。 

 それから約二十年。本来主家に忠実であるべき彼等が、実は伯爵夫人個人を優先していることが、今回の件ではっきりした。


 伯爵本人が、自分の意向を直接使用人に伝えることは無い。本来、それは夫人、或いは家令や召使頭、侍女長など上級使用人の役目なのだ。そして、シュタイナー家では侍女や従僕、下男下女などの下働きの意見、苦情などは直属の上司を介し必要と判断されれば、稀に当主まで上がってくることもある。

 アマンダとセルマン、ヴィアンカのことは、慎重を期するために夫人とダドリー夫妻までしか話を通していなかったが、何か事情が変わるようなことがあれば、必ず報告するように言い渡してあった。ところが、蓋を開けてみれば、この有様だ。

 その原因は、シュタイナー伯爵夫人は当主である夫より己の意志を優先し、家令と侍女長は、当主の命令を無視して自分たちの大切なお嬢さまに従った、ということに他ならない。


「解雇である以上、紹介状も退職金も、()()()()()()()()()()出すことはできない」

「・・・・・・そうですね」

 しかし、シアーシャは、夫の言いたいことを正確に理解した。

 シュタイナー家から()出せない。確かに紹介状は、家名を使わずに出すことはできない。だけど、現金や換金可能な宝飾類となると、話は違ってくる。

 夫は、シアーシャの持参金を運用して結構な利益を上げていた。それをほとんど彼女の個人財産として、管理を本人に任せている。

 伯爵家の予算から支出する退職金という名目では無理だが、今までの労いとしてシアーシャ個人が、自分の財産から出す分には何の問題もない、そう言っているのだ。

 本当に配慮の行き届いた、文句のつけようがない完璧な夫だ。だけど――――。

 

「私たち、離婚しましょう」


 シュタイナー伯爵夫人シアーシャは、誰もが羨むはずの完璧な夫に向かって、静かにそう告げた。


 

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