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ダメ押しとばかりににっこり笑ったアマンダを見て、オスカーは、頬を引き攣らせた。おおかた、妹の死を笑顔で語るか、というところだろう。
だけど、仕方がない。アマンダにとって妹の死は、常に身近な問題だった。
最も、ここ数年は、彼女にはひた隠しに隠されていたから、彼女が妹の発作を見ることはほとんどなかった。おそらく、アマンダはヴィアンカが健康になったと思い込んでいる、と周りは信じているはずだ。大丈夫、バレていない、と。
本当のことを知っているのは、エレナと、目の前の彼だけ―――ということにしておこう。今のところはそれでいい。
彼は、遠からず、全ての真実に気付く。その時、私たちは、どうするのだろう――――アマンダは、そう思った。
考えていたら、オスカーと目が合った。胡乱そうに彼女を見ている。思わず、頬が緩みそうになって、アマンダは、気を引き締めた。
彼には、知る権利があるし、告白するのは吝かではない―――アマンダは、慎重に口を開く。余計なことを言わないように、頭をフル回転させながら。
あの日は、私の誕生日だったのよ。だから、二人で街に出ましょうってお願いしたの。初めての二人だけのデートね。
ランチ、お芝居見物、街歩き・・・ロンサール様は、素敵なレストランを予約してくれたけど――――――。
ランチ後のティータイムに、ロンサール様に手紙が届いて。急用だって言って、慌てて出て行ってしまった。お使いの従僕を、護衛代わりにって私に付けて。
うちの従僕だったのよ。新しく雇ったから、わからないと思ったみたいだけど、使用人を把握するのも、女主人の役目だって言われていたから、私は知っていた。
あの日は、私にとって、最後の賭けだった。無事にデートができれば、あのまま婚約を続けて結婚する。ダメだったら、どんな手段を使ってでも、必ず婚約を解消する。
だから、絶対に妹には知られないように出かけたのに、無駄だった。
私の婚約者は、私より妹を優先したのよ。
そうね、誰かがあの子に知らせたのかもしれないけれど・・・それは、あんまり関係ないわ。だって、あの日私が賭けたのは私たち三人の運命。少なくとも、私はそのつもりだった。
ロンサール様と、私たち二人。どちらが運命の相手なのか、間が悪いのは、誰なのか。見事に負けてしまったから、潔く引くしかなかった。
ロンサール様は、婚約解消なんて考えられない、結婚するのは私しかいないってお父様に言ったみたいだけど。
だけど、ね、例えば、よ。私が大けがをして生死をさまよった時、ヴィアンカが発作を起こしたら―――ああ、出産のときでもいいわね―――ロンサール様は、どっちに付き添うと思う?
私を優先して、あの子が死んでしまったら――――――?
逆にあの子を優先するなら、あの子には両親とロンサール様がいるけど、誰が私と一緒にいてくれるの?それが最期の時だったら、私は、何を思うのかしら。
そんな偶然、あるわけないって皆言うだろうけど、もしそうなったら、だれが責任を取ってくれるの?どうやって?
強い眼で見つめられたオスカーは、何も返すことができない。こんな問いに、答えられる奴がいるのか、そう持った時、ふいに閃いた。
アマンダは、どんな手段を使ってでも、必ず婚約を解消する、そう言った。
なら、彼女は、どんな手段を使ったのか。
そう思ったら、我ながら剣呑な声が出た。
「その頬の傷は、誰がやったんだ」
気づいたら、そう問い詰めていた。